「──じゃあ、僕が最後の英雄になる。」
気づけば、そんな言葉を口にしていた。お義母さんは、嘆いているようだった。自分がオラリオに行かなければ――あの
「──だから........お母さんっ」
別れないで。ずっと一緒に、、、そんな感情をうちに込めた僕の言葉に、お母さんは少し笑った。消えてしまいそうな、ほんの少しの微笑。驚いたような、嬉しいような。
「.......生意気な子供め、私の前で英雄などとのたまったからには、覚悟しておけよ?」
にやりと、嬉しさを隠すように言ったその言葉に、僕は頬を綻ばせた。
嬉しかったのだ。他ならない母が、自分の言葉で喜んでくれたことを。
「今夜から訓練をはじめよう。準備はいいか?」
「こんや!?」
「重りをつけて川に沈め、死の感覚を覚えさせるか、龍の谷に落として理不尽を知ることから始めるか、、」
目を瞑り楽しそうに物騒なことを言い出し、冷や汗をかくベルだったが、後悔はしない。取り消しも。どんなに辛い道でも、ベルは諦めない。
─── だから僕は、この日の決意と、母の笑顔は生涯忘れないだろう。理想を追い求めて生まれた、愛している人の笑顔を、
△ △ △ △
黄昏の館、中庭
今も
(お義母さんから教えてもらったこの剣技──本人は、知り合いの猿真似だ、なんて言ってたけど、そのレベルは凄まじい。視線で相手を誘導し、剣で相手の軌道をずらす。今もこの剣技が上手くはまっている───まだまだお義母さんの技量には届かないけど。)
「おらぁ!!」
(下段からの切り上げ──後退でいなして隙を作る。)
相手の行動を読み、静かな、最小限の動きで反撃をする。お義母さんから教わった戦い方。そうやって試合を続けていると、
「───これを避けるか。」
本当に、ただただ相手を感心したかのような、戦場では不釣り合いな酷く余裕のある声が響いた。続いて聞こえるのは
視線を飛ばすとそこには、最初に話した
──気づけば、この中庭で立っているのは、あの男性と僕だけになっていた。
「てめぇも善戦したみたいだが、諦めな。」
冷徹な──いや、こちらを見下した笑みを浮かべながら顎を上にあげ、僕を見ている。ここが───ここが分水嶺だと。そう感じた。
「俺はレベル2、都市外でレベルを上げた──まだ冒険者じゃねえが、上級冒険者の括りに入る実力者だ。恩恵の持たないてめぇじゃ相手にならねえよ」
相手の言葉を聞き流しながら見極める。構えは最悪。身のこなしも恐らく、圧倒的な力に身を任せたタイプ。だがそれでも──恐らく
「てめぇには万に1つも勝ち目はねえんだよ。恩恵も持たねえ雑魚じゃあな。」
そのセリフを言い終わり、一瞬の瞬きと、こちらへの視線が飛んだその瞬間、僕は懐に隠した予備のナイフを相手の
「──はぁ?」
こちらの意図を掴みかねるかのように、男性は声を漏らす。わざわざあからさまに相手の背後に投げナイフをした理由、それは────
「───爆弾だ。」
───ブラフを仕掛ける。あまりこういうのは得意じゃないんだけど冒険者になる上で、こういった心理戦は大切になると、ザルドさんから教えてもらった。なんでも「アルフィアからやれと言われて仕方なく」だそうだ。「俺はパワータイプなんだがな」とも言っていた。ザルドさんからは良く料理も教えて貰ったりしていて、それは僕の得意なことでもある。そんなことはさておいて、今は戦いに集中する。
僕がさっき投げたナイフに爆弾は仕掛けていない。だが、その言葉で隙は稼げる。
「ッッッ!!」
僕の言葉に背後を振り返るその男性の背中に灰色の剣を振り下ろす。男は寸前で気づき、焦って細剣を構え、僕の剣撃を弾き飛ばそうとする。そうしてあの男性が僕の剣に触れる瞬間を狙う、狙う、狙う、、、
「────ここ。」
相手の剣と僕の剣が触れ合うその数瞬前、僕は、自身の持つ
「ごぉっっ」
ここしかないという完璧な場所に蹴りを入れ、相手は背後に倒れる。すかさず相手の首にこちらの剣を当てて、"げーむえんど"だ。
「降参してください。」
こちらに降参を勧める声に
「これ以上はやめておくべきだ。」
知的な声が響いた。翡翠色の眼は、猫人の男性に降り注がれている。
「あんたは、、レベル6―
第1級冒険者に驚く男性は、信じられないように目を痙攣させた。
「ま、待てっ俺はレベル2だぞ?!俺を採用しなければこの派閥にとって大きな損だ!!だから止めんじゃねえっ。俺は早くこの野郎を倒さなきゃならねぇ」
焦ったように弁明し、血走った眼で
「その少年が貴様を害そうとすれば、決着はすぐにつくだろう。これ以上あがくのは見苦しい。残念だが、貴様に合格はあげられない。」
その言葉を聞いて、男性は強引に僕の拘束から抜け出して、こちらを射殺す程の眼力をもって、僕を睨みつけた。
「おぁ!?」
「覚えてろよ。この借りはいずれ返す..!」
拘束から抜け出されて、驚いている僕を横目に、その男性は去っていった。リヴェリアさんはひとしきり逃げた男性の背中を見ていたが、不意にこちらに視線を飛ばし、質問をした。
「さて、そちらの少年、名はなんという?」
「ベル・クラネルです。」
「1次試験は合格だ。素晴らしい戦いぶりだったな。研鑽を積んでいたのだとわかる動きをしていた。」
そういいながら、リヴェリアさんはこちらに微笑を向ける。
「2次試験の内容は面接だ。ついてきてくれ。」
そういうと、黄昏の館の建物の中に歩き出した。
建物の中に入りしばらく歩くと、ある扉の前で立ち止まり、その扉を開ける。なんだか神聖──というわけではないけれど、偉い人が居そうな─主神の部屋だというのが一瞬でわかる部屋に入った。
「ロキ、入団希望者を連れてきた。」
部屋の中に入ると、部屋には先程中庭に居たロキ・ファミリア団長のフィンさんと、ドワーフの老戦士──恐らくロキ・ファミリア幹部、レベル6の
「突然ですまない。最終試験として面接を行なう。1次試験の疲れもあるだろうけど、少し堪忍して欲しい。」
そうして、この部屋に入り、周囲を観察していた僕に告げられるのは、最終試験宣言。こちらを見つめる第一級冒険者達と、都市最大ファミリアの主神に、僕は緊張の汗を流していた。