デバフネイチャはキラキラが欲しい   作:ジェームズ・リッチマン

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サイバー上の徹底マーク

 

「なんだ夢か……」

 

 目が覚めると朝だった。

 向こうのベッドにはマーベラスサンデーがスヤスヤと眠っている。

 

「いやーすごい夢を見ちゃったなぁー……って、夢なわけあるかぁ!」

 

 枕に顔を叩きつける。呻く。うわぁあああああ!

 

「やったなー私……やっちゃったなー私……」 

 

 昨日。私はプールで出会ったトウカイテイオーに目をつけて……ちょっかいをかけてやることにした。

 トウカイテイオーは仕上がりも良いし、日本ダービーでは万全の状態で挑んでくる。だから……今までになく卑怯とわかっていながらも、彼女の精神を強く揺さぶってやろうかと思ったのだ。

 

 けどトウカイテイオーは少し強めに迫ってみるだけで狼狽えるし、訊けば素直に答えるし……私に意地悪されるのが好きとか言っちゃうし。

 私も私で、それを聞いてエスカレートしちゃったところもある。少しのちょっかいどころか、とんでもないちょっかいをかけてしまった。

 ……私、テイオーにMだとかなんとか色々言っちゃったけど、私もね……普通じゃないよね……テイオーがMなら私Sじゃん……いや最近なんとなくわかってはいたけど。

 

 他人にちょっかいかけたり意地悪すぎることが楽しくなっちゃって。

 それに……トウカイテイオーがあんな顔をするものだから、ついエスカレートして。

 本番前の布石にしては少し楽しみすぎちゃったけれど……まぁまぁ、やりすぎるくらいのが良いでしょ……うん……。

 

 私が近くにいるだけで、あるいは少し声をかけるだけで“ゾクリ”とさせる。

 実際にできるかどうかはわからない。わからないけど……1%でも可能性があるなら積み上げなくちゃね。

 

 ……これからの学園生活で、テイオーと顔合わせるのが少し気まずくなったとしても……。

 

「マーベラース!!!」

「うわっはぁ!?」

 

 目覚ましが鳴り、また今日が始まった。

 

 

 

「それでは、チームカノープスの定例作戦会議を開始します」

「よしきたー」

「作戦ならターボにまかせろー!」

「僕も参加なんですね……」

 

 いつもの部室で作戦会議が始まった。既に日本ダービーが明後日に迫っている。

 体を使うのもほどほどに、今はもう作戦会議と天気のご機嫌伺いばかりだ。

 

「といってももう話すこともほとんどないんだけどねー」

 

 テーブルの上には既に出走予定表と、それらに対する作戦がびっしりと書き込まれたプリントがばら撒かれている。

 昨日の時点で出走するウマ娘が確定し、不透明さも消えた。なので昨日のうちにさっさと作戦を練り上げて、あとはどこまで詰めれば良いんだろうって状態でいるわけ。

 

「一番懸念すべきは言うまでもなくトウカイテイオーですね。次点で……リオナタール、シガーブレードといったところでしょうか?」

「ターボが出たらターボが一番すごいよ」

「ミスターシービー先輩とマルゼンスキー先輩も目をかけてるんだよねぇ。しかもテイオーは会長さんと仲良しでいるし。いやー、怖いメンツですわ」

 

 そんな中で走らなきゃいけないっていうのもプレッシャーだけど……。

 

「ナイスネイチャさんはトウカイテイオー以外で気になっているウマ娘はいますか?」

「そりゃ、みんな気にしてはいるけど……うーん、特にリオナタールかな。正確にはリオナタール陣営……チーム・デネボラだったかな。あそこがちょっと怖いなーって思ってる」

「ネイチャに怖いものってあるんだ」

 

 それってどういう意味かね、ターボさんや。

 

「チーム・デネボラですか……あそこは獅子堂トレーナーでしたね。僕も同じトレーナーとしてたまに話すことはあるのですが、あまり愛想の良い方ではないですね。もちろん、悪い方ではないのですが」

「トレーナーさんがそう言うのは珍しい気がしますね」

「いえ、本当に悪い方ではないんですよ。ただ、話している時も常にスマホを見ているので、とても愛想が悪いように見えてしまうだけで。トレーナー歴も十年近くだそうですから、とても博識なんです」

 

 ずっとスマホ片手に喋ってるのかー。変わってるなぁ。

 

「いやー、そのトレーナーさんね。私のウマッターとウマスタグラムのアカウントをフォローしてるから、ちょっと怖いんだよね。プロフィールにチーム・デネボラのトレーナーやってるって書いてあんの。すごいわかりやすい」

「なるほど……目をつけられているわけですか」

「しかも昨日の15時、出走決まった直後あたりに。無言でスッとフォローされてビビりましたわ」

 

 何より私をフォローする前に、最近やった模擬レースで一緒に走った子たちも軒並みフォローしてた。明らかに私周りのデータを取りに来てる感があってすごい怖いのよ。

 

「ターボもそのトレーナーフォローしよっと。なんとなく」

「では私もフォローします」

「何故……」

「うわぁ一瞬でフォロー返ってきた!? やるなデネボラトレーナー!」

「あ、こちらもです。……もしや今もずっとスマホを眺めているのでは」

 

 相手のトレーナーがバックアップに回って、私の対策を講じる。それは結構ドキドキするんだよね。

 走ってる最中のウマ娘とはわけが違う。きっと本番では私の作戦を破る方法や心構えが用意されてあるんだろう。

 

「でも結局、レースはトウカイテイオーを中心に進むんだろうなぁ……」

「……それは間違いないでしょう。皐月賞を取ったトウカイテイオーですから」

 

 ライバルは多い。私よりも強い走りをする相手は何人もいる。

 

 みんなこれまで輝かしい戦績を築いてきたウマ娘たちだ。

 模擬レースや練習中にも、その輝きは少しも陰っていない。

 

 けどそれ以上に、トウカイテイオーのキラキラが強すぎる。

 レース本番は彼女を中心に進んでゆくことだろう。

 

 だからこそ……私はテイオーに楔を打ち込んだ。

 主軸だからこそ、崩れた時の影響は大きくなる。そこから上手く抜け出してゆくのが私の戦法であり、きっと唯一の勝ち筋だ。

 

「あ、デネボラのトレーナーに“ターボと勝負しろ!”って送ったら“予定が合えばな”って返ってきた」

「わっ、獅子堂トレーナーからメールが来ました。……これターボさんの模擬レースの打ち合わせじゃないですか。ターボさん、落ち着いてください。早急に決められては困りますので……」

「ターボは逃げも隠れもしない!」

「せめて日を空けてください……」

 

 本番は5月26日。

 天気予報は快晴だ。

 少なくとも今の時点では、まだ。

 

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