『転生したらフルフルベビーでした』in ダンジョン


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第9話 : 這い寄る影と跳躍する脅威


 ダンまち豊穣の女神篇も明日で終わりか……

 

 

 


 

 

 

 洞窟の奥へと、『下』へと進む。

 

 濃密な闇が広がる通路。

 剥き出しの岩壁には、しっとりとした苔が張り付き、淡く青白い光を放っている。

 その光は頼りなく、遠くへ進むにつれ、ぼやけ、霞み、やがて闇に呑まれていく。

 

 いつもの光景。

 けれど、この先は俺の知らない空間。

 この足で踏みしめたことのない、未知の領域だ。

 

 湿った地面を這うたび、鼻腔を満たすのは新たな気配。

 これまで嗅ぎ慣れたゴブリンやコボルトの匂いとは異なる、異質な臭い。

 生ぬるく、鉄臭さを帯び、わずかに泥と苔の香りが混じる。

 

(……ここから先は、今まで以上に慎重にならないとな)

 

 慎重に。

 けれど、怯えはない。

 俺は這う速度を落とし、嗅覚を研ぎ澄ませる。

 周囲の気配を探りながら、一歩、また一歩と確実に前へと進む。

 

 そして、空気が変わる。

 湿度がさらに増し、肌にまとわりつくような粘り気を感じる。

 嗅覚は薄靄がかかったようにぼやけ、岩壁の輪郭すら曖昧になるほどだ。

 

 その時、ふと気づいた。

 

 音がしない。

 

 水滴が落ちる音、微かな風の流れ、岩が崩れる小さな音──

 それらが、まるで掻き消えたかのように消失していた。

 

(……何かいる)

 

 経験則が警鐘を鳴らす。

 いや、本能が悲鳴を上げている。

 

 ピクリと、天井の気配が揺れた。

 

 そして──

 

『それ』は、俺の上から降ってきた。

 

(────ッ!?)

 

 反射的に身を捻る。

 瞬間、俺がいた場所に『何か』が勢いよく叩きつけられた。

 

「──シュアアアアァアッッッ!!!」

 

 鋭い威嚇音と共に、岩肌をえぐるような鈍い着地音が響く。

 そこに現れたのは──ざらついた茶色の皮膚を持つ、ヤモリのような爬虫類(モンスター)

 

 だが、ただのヤモリではない。

 

 そのサイズはトカゲのような形状でありながら、大型犬よりも一回り大きい。

 更に四肢の先には吸盤状の器官が備わり、それを器用に使いながら壁や天井を這いずり回っているのだ。

 

(──なるほど、そういうことか)

 

 普通の敵なら、俺の嗅覚や振動探知で気配を捉えられる。

 だが、こいつは音をほぼ立てず、天井や壁を自在に這い回ることができるのだろう。

 つまり、俺が気配を察知するよりも前に、奇襲を仕掛けることが可能な存在、というわけだ。

 

 予想外の方向からの攻撃。

 そして、無音の狩人──。

 

(……厄介だな……!)

 

「──シェアアアァァッッ!!」

 

 ヤモリ型の生物は、鋭く『何か』を突き出す。

 それは──裂けた『舌』。

 二股に分かれたそれは、まるでしなる鞭のように空間を薙ぎ、獲物を絡め取るかのように素早くうねる。

 

(クソッ、避けるしか──!)

 

 俺は瞬時に跳ねる。

 直後、舌が地面を打ち、岩肌が抉れた。

 

(────こわっ!?)

 

 今の攻撃を喰らっていれば即死とまではいかなくとも、深手は避けられなかっただろう。

 

 ならば、先手を打つしかない。

 

 俺は一瞬の間に思考を巡らせ、決断する。

 こいつが天井や壁を自在に這い回るのなら、こっちの攻撃範囲に収めるのは難しい。

 ならば──

 

(……まずは、試す!)

 

 瞬時に帯電し、全身に電流を巡らせる。

 青白い光が弾け、細かい火花が皮膚を走る。

 次の瞬間、長く鋭く伸びた尾を地面へと突き立てた。

 

 尾の先にある吸盤状の器官が、湿った岩肌にしっかりと張り付く。

 それと同時に、俺の中で荒れ狂っていた電流が大地へと流れ込んでいく──。

 これは言わば、『アース』だ。

『器官』から発生する電気を、大地に逃す為の安全装置。

 

 だが勿論、ただ流すだけでは意味がない。

 

 俺は喉の奥からせり上がる雷の奔流を感じながら、全身の力を込める。

 そして体内に溜まった圧縮電流を制御し、口から一気に解き放った。 

 

 ──閃光。

 

 電流は地面を伝い、一直線に這い進む。

 いや、正確には『這わせるように放った』のだ。

 

(雷撃を地を伝わせれば……!)

 

 狙いは、地面と壁を這い回る、あのヤモリ型生物。

 相手がどれだけ音もなく移動しようとも、地面に触れている限り、逃げ場はない──! 

 

 これは、隻眼ゴブリン戦以前から考えていたことだ。

 

 どうすれば、俺も遠距離攻撃を手に入れられるか。

 どうすれば、直接相手に触れずに安全圏から攻撃できるか。

 

 その答えが、これだ。

 

 地を走る電流──雷の力を帯びた息吹(ブレス)

 

 俺には、電撃を空間に直接放つ能力はない。

 だが、相手が触れている地面がある限り、それを媒介にして雷を走らせることは可能だ。

 いや、可能にさせた。

 

 だが、当然リスクもある。

 

 地面を伝わせる以上、放った瞬間に電撃の力は弱まる。

 帯電したまま体当たりするよりも威力が落ちるのは必然。

 さらに、電流は地面に吸われていくため、射程は限られる。

 

 せいぜい、俺の嗅覚が届く範囲──約6~7メートルが限界だ。

 

 しかし、それで十分。

 

 痺れさせ、相手の動きを止めれば──いくらでもやりようがある。

 

(届け……!!)

 

 電撃が地を這い、一直線に走る。

 だが、ヤモリ型の生物は驚愕に身を震わせつつも、壁を蹴るようにして素早く回避した。

 

(……速い!)

 

 四肢の吸盤を駆使し、天井や壁を縦横無尽に駆け回る。

 その動きはまるで、獲物を弄ぶ狩人。

 雷撃を回避したことで、さらにその自信を深めたのか、蛇のように舌をチロチロと動かし、俺を見据えていた。

 

 だが──

 

(なら、逃げ道を……潰す!)

 

 俺も素早く、洞窟の地形を利用する。

 ただ闇雲に放電するのではなく、ヤモリ型生物の動きを先読みし、行き先に電撃を這わせる。

 

 俺自身も移動しながら、尾を地や壁に貼り付け、機敏に放電。

 相手が逃げる方向を読み、そこへ先回りするように雷撃を走らせるのだ。

 

 ただの力押しでは通用しない相手なら、こちらも知恵を絞るまで──! 

 

 天井に向けて、放電。 

 壁面に向けて、放電。 

 

 蒼白い稲妻が通路全体を駆け巡り、洞窟の暗がりを瞬間的に切り裂いていく。

 

 だが、ヤモリ型の生物はまるで嘲笑うかのように、吸盤のついた四肢を活かし、壁や天井を縦横無尽に駆けまわる。

 俺の電撃がどれほど閃こうとも、その機敏な動きに追いすがることは叶わない。

 

 それどころか──

 

 ヤモリ型生物の口元が、不敵に歪む。

 

 自らの敏捷性に、確信を持ったかのような表情。

 まるで「貴様の攻撃など、決して届かない」とでも言わんばかりに。

 

 だが──

 

(油断したな、お前)

 

 ほんの一瞬でも、俺から目を逸らしたのが、お前の致命的なミスだ。

 

「────シェッッッ!!?」

 

 ヤモリ型の生物が俺のいた場所を捉えた、その瞬間──。

 そこに、俺の姿はなかった。

 代わりに俺は、天井に張り付いていた(・・・・・・・)

 

 四方に伸びた棘──それは、俺にとっての四肢。

 意のままに操ることができる、まるで獣の爪のような器官。

 

 天井の岩壁に生えた僅かな突起へと、棘を絡めるように固定することで、俺はまるで獲物を待ち構える『天井の狩人』へと化していた。

 

 もちろん、これは偶然でも奇策でもない。

 

 俺が先ほどまで、 無駄に電撃を放ちまくっていたのは、俺の動きを悟らせないためだ。

 獲物の目を電光の乱舞で攪乱し、俺の動きを見失わせる──

 それが、ここまでの布石。

 

 そして、今。

 俺の位置は、ヤモリ型の生物の真上。

 

 俺が『上』に、獲物は『下』に。

 

(──今度は逆になったな、おい!)

 

 俺は、一気に天井を蹴る。

 否──天井から落下する。

 

 全身に帯電。

 電流が肌を這い、肉体の奥底で雷の力が蠢く。

 

 この状態で落下し、ぶつかるということは、つまり──

 

(──名付けて、『帯電タックル』だ、おらぁ!!)

 

 直撃。

 

「────ジェアアアアアアァァッッッッ!!!??」

 

 洞窟内に、絶叫が木霊する。

 俺の全身に纏わりつく雷撃が、獲物の体表を貫き、皮膚を焼き焦がし、肉を炭化させる。

 四肢の吸盤が引き剥がされ、その場から逃走しようとしていたヤモリ型生物は、その手段を失った。

 そして、全身から黒煙が噴き上がる。

 

 ──だが、それだけでは終わらせない。

 

 痙攣しながらも蠢く相手の首筋に、俺は喰らいついた。

 

 電流の余波で動きを奪われたヤモリ型生物の首筋を穿ち、牙を突き立てる。

 粘性のある液体が喉を伝い、体内へと流れ込んでくる。

 それは、血。

 力を、活力を、そして急速な回復を、俺に与えるもの。

 

「──ジュァ……ジュ……ァ………………」

 

 やがて、獲物の断末魔は掠れた息へと変わり、完全に沈黙した。

 

 その瞬間、俺の体は戦いの興奮に震えた。

 新たな敵を屠った。

 この洞窟の、未知なる領域へと踏み込み、俺はまた一歩強くなったのだと。

 

 だが──安堵は、刹那。

 

 ズダンッ!! 

 

(────ッ!?)

 

 突如、別方向から衝撃が走る。

 

 振動が遅れて伝わる。

『何か』が凄まじい勢いで迫ってくるのを、俺の触覚が捉えた。

 

 咄嗟に身を捩る。

 刹那、ヤモリ型生物の喉元が、勢いよく抉られた。

 

(なんつー貫通力だよ!?)

 

 驚愕が脳を駆け巡る。

 俺は反射的にそちらへ口を向けた。

 果たして、そこにいたのは、一本の巨大な角を持つ獣。

 

(……兎?)

 

 否、違う。

 

 シルエットこそ兎のようだが、異質すぎる。

 額には鋭利な一本角がそびえ立ち、血の滴る先端が、たった今、獲物を貫いた証拠を示していた。

 

 それは、俺の疑問など意に介さず──跳んだ。

 

 否、弾け飛んだ。

 

 閃光のような跳躍。

 その動きは、もはや跳躍の域を超えている。

 天井にぶつかりそうなほどの高さまで跳ね上がり、そのまま重力を味方につけ、角を前に突き出しながら急降下──! 

 

(こいつも奇襲タイプか!!)

 

 即座に判断を下す。

 そして、周囲の振動の数から察するに──

 この兎型生物、恐らく『一匹じゃない』。

 

(つまり……こいつの他に!)

 

 その確信と同時に、周囲にさらに影が躍る。

 

 跳躍の気配。

 それは一つではない。

 

 既に、俺は複数の気配に囲まれていた。

 

(……なるほど、群れで行動するヤツらか)

 

 思わず、背筋に緊張が走る。

 今までの敵とは違う。

 ゴブリンやコボルトのような個々の力に依存した存在ではない。

 こいつらは……群れの力で獲物を狩る生物だ。

 

 個体の戦闘能力こそ、そこまで高くはないのだろう。

 だが、その素早さと数の暴力が何よりの脅威。

 囲まれた状態で戦うのは──最悪の展開だ。

 

 跳躍音が絶え間なく響く。

 どこから飛びかかってくるかわからない。

 

 それに対して、俺も這い、跳ね、壁に張り付くことで、迫り来る死の突進をギリギリで回避する。

 

 雷の息吹。

 地を這う電流の弾を放つ。

 だが──

 

 速すぎる。

 

 ヤモリ型生物の比ではない。

 嗅覚で追う間もなく、影が跳ね、狙いを定める隙すら与えない。

 

(……ちょこまかと……!)

 

 これでは、新たに得た遠距離攻撃が意味を成さない。

 いや、それだけではない。

 こちらの攻撃範囲の外にいる。

 

 これが、集団戦の強みか──

 

 だが、俺も以前の俺とは違う。

 

 俺は、ピタリと壁から降り、地に伏す。

 

 完全な静止。

 

 その瞬間、周囲の獣共が、一瞬だけ動きを止めた。

 

 困惑の気配。

 なぜ逃げない? 

 なぜ動かない? 

 だが、それすら一瞬で飲み込まれ、殺意によって上書きされる。

 

 ──獣が、一斉に飛びかかってくる。

 

 狙い通りだ。

 

(──かかったなぁ!!)

 

 瞬間、尾を地面に突き刺し、帯電する。

 体内の雷が、爆ぜる。

 

 そして、俺の体を囲むように覆う円形──

 全方位に電撃を解き放つ。

 

「────ッッ!!?」

 

 息を飲む音が聞こえたが、もう遅い。

 既に跳躍している兎型生物たちの軌道は、俺へと一直線に固定されている。

 

 つまり──

 

 空中にいる限り、避ける術はない。

 

「「「────キュイイィアァァッッ!!!?」」」

 

 青白い閃光が炸裂する。

 

 洞窟内が一瞬、再び蒼く染まった。

 空中にいた獣たちは、電流に捕らわれ、痙攣しながら地面へと叩きつけられる。

 

 それはまるで、降りしきる雷雨のように。

 

 そして──

 獣たちは、二度と跳ねることはなかった。

 

 戦いは、終わった。

 

(……ふぅ)

 

 俺は、ゆっくりと息を吐く。

 焦げた獣の匂いが、鼻腔を満たした。

 

 ヤモリ型の爬虫類(モンスター)、そして一本角の兎の群れ。

 強敵だった。

 

 だが、勝った。

 

 安堵というよりも、ほっとする感覚。

 俺はまだ、生きている。

 

(……やっぱり『アイツ』だけ、異常すぎたよな)

 

 そんな独り言が、胸の奥に染みる。

 

 隻眼のゴブリン。

 ヤツとの戦いは、俺の中で一つの基準になりつつある。

 今回の戦いも厄介ではあったが、比べればまだ『手が届く強さ』だった。

 

 焦げた兎型生物の亡骸を見下ろしながら、俺は口を開く。

 

 そして──喰らう。

 

 生存のために。

 さらなる力を求めて。

 

 肉を喰らいながら、俺は次に進むべき道を静かに眺めていた。

 

 

 


 

 

 

 フルフルの1番強いモーションってなんだと思う? 

 私は『その場で二度刺す放電』。

 それで何度も死にました。

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