『モンスターハンターワイルズ』遂に狩猟解禁
フルフル……フルフルはどこだ!?
決めた。
俺は、この洞窟の奥へと進む。
長考の末に出した結論だ。
強くなるには、それしかない。
上質な血。上質な肉。
そして、生半可な戦い方では勝つことすらできない強敵──
それらが、俺のさらなる成長に必要な『糧』になると、そう思ったから。
だが──
ここを去る前に、最後に一つ、確かめておきたいことがあった。
通路の奥にある
ここは俺にとって、単なる狩場ではない。
水場であり、食料の調達地であり、そして何より、この洞窟の生態を知るための重要な観察拠点だった。
だからこそ、去る前に最後の確認をしておきたかった。
いや、それだけではない。
清廉な水、甘美な果実、そして新鮮な血肉。
ここにいるうちに、もう一度まともな食事をしておきたい。
そう思いながら、俺は休憩所へと続く通路を這い進む。
途中、出くわした獲物は、これまで通り放電と吸血で仕留めた。
もはや手慣れたもの。
無駄な動きを減らし、最小の労力で相手を狩る。
流れるように動きを止め、喉元に牙を突き立て、熱を帯びた血を喉へと流し込む。
──しかし。
違和感があった。
(……妙に、静かだ)
これまでなら、この通路を進めば必ず数匹のモンスターと遭遇していた。
奥へ進めば進むほど、生命の気配が密集していた。
ここはヤツらの休憩所へと続く道。
入れ替わるように獣たちが行き来し、低いうなり声や小競り合いの音が響いていたはずだ。
──だが、今日は違う。
敵の数が、圧倒的に少ない。
ただ『いない』のではなく、『何か』に吸い寄せられるように、どこかへ向かっているような……そんな異様な静けさ。
微かな不穏さが、背筋を這い上がる。
(……嫌な予感がする)
そして、その予感は──
大抵の場合、当たる。
俺が休憩所へと続く最後の通路に辿り着いた時、
異様な光景が目の前には広がっていた。
「──ガアアアアァァッッ!!!」
「──グルルゥゥラアァァァッ!!」
「──ゴッガアアァァァッッッ!!!」
暴走したモンスターたちが、雪崩のように押し寄せていたのだ。
いつもは静かで、生命の営みが感じられた空間。
だが、今は見る影もない。
湧水は泥と血にまみれ、濁りきっている。
果実が実る木々は無残に踏み倒され、
あちこちに獣の毛や肉片が散乱し、異臭が充満していた。
そして、何より異様だったのは──
モンスターたちが、敵味方の区別なく、互いに襲い掛かっていることだ。
本能のままに噛み付き、殴り、引き裂く。
理性など欠片もない。
まるで、狂気に取り憑かれたかのように。
(……何が起こってる?)
思わず硬直する俺を嘲笑うかのように、
背後から、さらに複数の足音が響いた。
(……これは、5匹……いや、10匹以上!?)
振動を察知すれば、足音の密度がとにかく異常だ。
重なり合い、どこからともなく押し寄せてくる。
併せて、30体。
(冗談だろ……!?)
今まで俺が同時に相手したのは、多くて5~6匹。
だが、今回の数はその6倍以上。
これまでとは、次元が違う。
これは戦いではない、蹂躙の領域だ。
(……だが、まぁ……逃げる理由にはならないか)
そうだ。
逃げる理由は、ない。
最後の見納めに来ただけだったが、これは好都合。
全てを喰らい、己の糧とする。
奥へ進むと決めたのなら、この程度の困難、超えずしてなんだ。
それに、目の前にいるのは散々狩り倒してきた連中ばかり。
今さら怯む理由など、どこにもない。
ならば──
俺は、これまで通り、仕留めるだけだ。
たとえ、その数が多くとも、それは変わらない。
(……行くか!)
瞬時に意識を切り替える。
嗅覚と振動を頼りに、高速で這い回り、敵の足元へと滑り込む。
混乱の最中、同族同士で争い合うコボルト。
俺の存在など眼中にない。
──なら、遠慮なく狩らせてもらおう。
俺は、片方の獲物の死角に回り込み、首元に鋭く噛み付いた。
そしてすぐさま、放電。
電流を流し込むと、コボルトの体が痙攣する。
その瞬間、さらに牙を深く食い込ませ、血を吸い上げる。
「──ギッッ……ギィィェッッ……!?」
コボルトは白目を剥き、口から泡を吹きながら、その場に崩れ落ちた。
俺は体内に流れ込む血の熱を感じながら、素早く次の獲物へと向かう。
一匹、また一匹と仕留めるたび、俺の動きは研ぎ澄まされ、加速していく。
しかし、その中で──
奇妙な異変に気が付いた。
(……倒したはずの獲物が、消えている?)
そうなのだ。
さっきまで転がっていたコボルトの死骸が、まるで霧散するように跡形もなくなっている。
地面に広がる血の跡だけが、その痕跡を示してはいるが……一体、どういうことだ?
違和感が、じわりと背筋を這い上がる。
本来なら、俺は死骸を障害物として利用しながら、戦場を有利に立ち回る。
しかし、それができない。
(何が起きてる……?)
異様な静寂が、喧騒の中に紛れ込んでいる。
何かがいる。何かが、『狩り』とは別の目的で死体を回収している……?
不安をかき消すように、俺は周囲の気配を探る。
暴れ狂うコボルト。
鋭い爪で応戦するゴブリン。
泥水の中から鋭く舌を伸ばす蛙型の生物。
一見、ただの乱戦。
何もおかしくはないように見えるが……いや、違う。
この中に、一匹だけ。
一体だけ、明らかに異常な動きをしているゴブリンがいた。
他のモンスターが本能のまま暴れ、牙を剥き出している中で、そいつだけは異様に冷静だった。
『目的』を持って動いていた。
(……何をしてる?)
そいつは、先程俺が倒したコボルトの死骸へと手を伸ばす。
胸元に、ズブリと指を突き立て、肉を掻き分け、そしてーー『何か』を引き抜いた。
それは、
『紫紺色の結晶』。
(……あれは)
俺も、今まで何度か目にしていた。
だが、それが何なのか分からず、ただの硬い異物だと決め込み、気にも留めていなかったモノ。
しかし。
そのゴブリンはそれを掴み、じっと見つめ、
──そして、迷いなく噛み砕いた。
瞬間。
ゴブリンの体が一瞬、膨張する。
(な、んだ……?)
明らかに異常だった。
筋肉が膨れ上がり、皮膚が弾けそうに張り詰める。
血管が浮かび、呼吸が荒くなる。
そして 次の瞬間──
紫紺の結晶を抜かれた死骸が、灰と化した。
(……何だよ、これは)
目の前で起こる現象に、理解が追いつかない。
俺はただの狩りをしていたはずだ。
だが、これは──まるで 『異質な法則』 に基づく儀式のような光景だった。
だが、思考を巡らせる暇はない。
戦いは、まだ終わっていないのだから。
(くそっ……!!)
頭の中で渦巻く混乱を無理やり抑え込み、目の前の敵を、ひたすらに狩る。
狩って、狩って、狩り尽くす。
血の匂いが充満する戦場で、俺はひとり、生存のために牙を振るった。
そして──
30を超えるモンスターが、全て沈黙した時。
──ただ一匹、ゴブリンだけが、そこには残っていた。
そいつは、俺をじっと見つめていた。
右目が無く、残った左目だけを異常なほどに釣り上げて。
俺も、そいつを見つめていた。
嗅覚によって、目の前の敵が『強烈な意志』を持っていることを理解して。
互いに、相手を認識する。
その瞳には、理性が宿っていた。
いや──
むしろ、それは怯えでもなく、敵意でもなく。
何か別の──もっと根深い強烈な感情だけが、そこにはあった。
単なる獣の殺意ではなく、理性すら滲む明確な『執念』。
(……コイツ、今までのゴブリンとは違う)
確信した。
俺はこのゴブリンと、戦うことになる。
──そして、ここからが本当の『
=====
『彼』は、ずっと
腐肉を漁る姿。
コケをこしとり、ちびちびと飲み込む姿。
狩りの時の動き、戦い方、そして狙う相手。
すべてを見ていた。
──一度倒されたからこそ、対策を。
ヤツはどの程度、戦えるのか。
ヤツは何を隠し持っているのか。
ヤツは何をして、何をしたいのか。
それを知りたかった。
それを把握するために、『彼』はおとりを使った。
例えば、カエル。
わざと傷つけ、逃がし、ヤツの方へと追い込んだ。
それに気付いたヤツは、躊躇う様子を見せながらもやがて飛び込み。
そして、苦戦しつつも結果的に勝利を収めた。
その中で、ヤツは噛みつきや吸血以外にも『何らかの攻撃』を使った。
それは、見たことのない攻撃だった。
産まれて初めて目が眩んだ。
無い筈の右目が痛みを覚える程に。
ヤツの体が青白く光り始めたかと思えば、カエルごとその全身を包み込み、周囲を明るく照らした。
そしてカエルは痙攣し、焼け焦げた。
意味が分からない。
意味が分からないうえ……とても、恐ろしい。
だが、『彼』はそこで止まらない。
そこで、諦める事などあり得ない。
故に、恐怖をも塗り替える『怒り』が『彼』の頭を回し続ける。
『アレ』に対処するには、どうすればいい?
『彼』は考え始めた。
その後、ヤツは勢いづいたのか。
それとも、吹っ切れたのか。
逃げ惑うだけだった生活が一変し、積極的に狩りを開始した。
その中で、『彼』は『何らかの攻撃』に対する 対策を探し始める。
そして。
観察を続けるうちに、ある事に気が付いた。
ヤツが触れなければ、その攻撃は意味を成さない。
ヤツが触れていなければ、その攻撃は届かない──と。
ならば、ヤツに触れずに攻撃し、勝てばいい。
その考えに至ると、『彼』はすぐに行動した。
物を投げつける手段を模索する。
つまりは、投擲。
そこらに落ちている岩壁の欠片。
果樹を圧し折った際に得られる木片。
そして、同族を殺した後に落ちる牙や爪。
『同族殺し』はやめなかった。
それが──
『彼』自身を強化すると知ってしまったから。
肉体は大きくなり、牙や爪は鋭くなり、筋力も増していく。
故に、『彼』は同族の内側に眠る紫紺色の結晶を喰らった。
何度も、何度も、
何度も何度も何度も、
喰らいは喰らい、喰らって喰らう。
その中でも、『彼』はヤツを追い詰める方法を考え続けた。
狩りを始めてからのヤツの成長は、飛躍的だった。
移動速度は速くなり、岩壁や同族の死骸の陰に隠れ、隙を見て齧り付き、そして『何らかの攻撃』で即死させる。
強い、強くなっている。
打ち勝てるかどうか、不安になる程に。
だが──
ヤツは 同族の数が多くなると、手間取っているように見えた。
その時、理解した。
ヤツを数多の同族で囲い込み、疲労させた上で臨めば勝てるのではないか──と。
そのことを理解してからは、早かった。
同族が何をすれば逃げ、何をすれば暴れるのか。
幸い、『彼』は この時点で恐れられる存在になっていた。
故に、
少し体を切り裂き、威嚇してやれば、狙った場所に逃げ込んだ。
その事に満足しながらも、
その同族の首を捻じ切り、いつもの如く、結晶を噛み砕く。
──いくつかの日が流れ。
そして、『その時』が来た。
ヤツはどうやら 『食糧庫』へ向かうつもりらしい。
ならば、と。
『彼』は先回りし、『先客』共を切り裂いた。
それだけで場は混乱し、『彼』は 即座にその場から撤退した。
そして、『母』の中を駆け巡り、
『食糧庫』へ向かうヤツを追い立てるように、同族を暴れさせた。
──予想通り。
ヤツは 『食糧庫』の前で、面食らっていた。
練り上げた策が、上手くいったことに思わず高揚する。
だが、
油断はしない。
なぜなら、
一度負けているから。
だからこそ──
ヤツが倒していく同族の肉塊から、結晶を引き抜き、噛み砕く。
ヤツに大量の同族をぶつける狙いは、疲労させる以外にも、これがあった。
ヤツは疲労し、消耗していく。
しかし──
『彼』は、
疲労するどころか、逆に強化されていく。
噛み砕く最中、
戦闘中のヤツと、目が合ったような気がした。
ヤツに目なんてないのに。
だが、そう思った。
だから──
見せつけるように、結晶を噛み砕いた。
そして、更に高揚する。
ヤツは30を超える同族を見事に打ち倒してみせた。
敵ながら、凄まじい。
だが──
現在の状況を見れば、勝つのはどちらか、明白だ。
疲労困憊の『獲物』と、疲労など微塵も感じていない『狩人』。
故に。
『彼』は、手に握っていた『
『
開戦の火蓋が今、切られた。