『転生したらフルフルベビーでした』in ダンジョン


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第3話 : 初めての食事


 現在時刻 2025/2/27/23:00

 あと1時間後には新天地か……

 

 みんな丸太は持ったな!! 

 行くぞォ!! 

 

 

 


 

 

 

 焦げ臭い匂いが鼻を突く。

 

 地面には、俺が仕留めたばかりの蛙型生物の残骸が転がっていた。

 焼け焦げた皮膚は裂け、体液がまだじんわりと染み出している。

 時折、ぴくりと痙攣するその姿は、死の直前までしがみついている証だ。

 非常に痛ましい。

 思わず目を背けたくなるような獲物の姿が、そこにある。

 

 だが、それを眺めながら俺は考えた。

 

(……こいつ、食えるのか?)

 

 今まで俺が口にしたのは、洞窟内に落ちていた腐肉やコケぐらい。

 それすら、食べるというより『生きるために口にした』という表現のほうが正しい。

 けれど今、目の前にあるのは違う。

 

 俺が『狩った』獲物だ。

 

 初めて、自分の力で仕留めた食料。

 これは、俺にとっての大きな変化だ。

 

 思わず鼻をひくつかせる。

 

(……腐敗臭はない。むしろ、瑞々しい肉の匂いがする)

 

 今までの死肉とは明らかに違う。

 これは『食べ物』だ。

 そして、それ以上に──

 

(……体が、欲しがってる)

 

 空腹だから、という単純な話ではない。

 俺の『体』が、この肉を『糧』として求めている。

 成長のために、進化のために、これを喰らえと──本能が告げていた。

 

 だが──

 

(本当に食って大丈夫か?)

 

 警戒心が、頭をよぎる。

 

 こいつの粘液は不味かった。毒を持っている可能性もある。

 食った瞬間、体内で何かヤバいことが起こるかもしれない。

 

 ……いや、それ以前に。

 

(そもそも、俺は……どうやって食えばいい?)

 

 俺には牙はあるが、咀嚼の機能は人間ほど発達していない。

 ゴブリンの血を吸ったときのように、液体を啜るだけなら簡単だ。

 だが、今回は違う。

 

『生きた肉』を食らう──

 

 この世界に来てから、俺の食事は常に『死んでいたもの』だった。

 既に事切れた獲物を啜る。

 それは、生存のために仕方なくやっていたことだ。

 

 だが、今目の前にあるのは、俺が仕留めたばかりの獲物。

 そして──まだ、息がある。

 

 わずかに上下する腹。

 かすかに震える手足。

 死の間際で、必死に命をつなごうとしている。

 

 その事実に心のどこかがざわつく。

 

(……これを喰らえば、俺は完全に『そちら側』だ)

 

 食物連鎖。

 狩るものとして生きるのか、狩られるものとして死ぬのか。

 これは、その境界線を越える瞬間だった。

 

 攻撃しておいて、何をいまさらと思うかもしれないが──

 やはり、コイツがまだ息をしているという事実が、俺の決断を鈍らせる。

 

 今、喰らえば、確実に息の根を止めることになる。

 

 殺しの実感。

 命を奪うという行為の重み。

 

 だが──

 

(……躊躇ってる場合じゃないことも……理解してる)

 

 分かってる。

 生きるためには食わなきゃいけない。

 生きるためには狩らなきゃいけない。

 

 生きるためには……殺さなきゃならない。

 

 それが、この世界のルールだ。

 それを受け入れなければ、俺はただの『餌』になるだけ。

 

 だけど。

 

(……どうしても、震えが止まらない)

 

 目の前の獲物──蛙型のモンスターが、俺を睨んでいる。

 息絶える寸前の瞳に、怯えも後悔もない。

 あるのはただ、『捕食者』としての最後の矜持。

 

 それが、俺の中に巣食う迷いを浮き彫りにする。

 

『俺』は、何者なのか? 

『俺』は、このまま、俺じゃなくなっていくのか? 

 

 一歩踏み出せば、もう戻れない気がした。

 今までの俺が、『何か』に変わってしまいそうな気がした。

 

 でも──

 

(それでも……俺は、生きたいんだろう?)

 

 なら、『俺』のままで。

『俺』の意志で、生きるしかない。

 

 迷うな。

 ここで決めなければならない。

 

『俺』が、『俺』として、この世界を生き抜くと。

 

 だったら──やるしかない。

 誰かに強制されるわけでもなく。

 ただ、自分の意思で。

 

 覚悟を決めろ。

 躊躇をするな。

 やるなら──思い切りだ。

 

 俺は決意し、蛙型モンスターの前へと身体を這わせた。

 体の震えを押さえ込みながら、静かに牙を剥く。

 

 そして、獲物の生温い体へと、迷いを振り払うように──

 

 牙を突き立てた。

 

「──ーギッ…………っ………………」

 

 粘つく肉の感触。

 生温かい体液が口内に広がる。

 喉を通り抜ける鉄の味。

 

 獲物が一瞬、びくりと震えた。

 

 そして──

 

 次の瞬間、全身の力が抜けたように、ぴたりと動きを止める。

 

 命の灯火が、静かに消えた。

 

 今、確かに。

 他の誰でもない、俺の手で。

 

 一つの命を終わらせた。

 

(………………………………)

 

 一線を越えた。

 

 ……けれど。

 

 その向こう側に広がる景色は、何一つ変わらない。

 俺の体も、洞窟の闇も、湿った空気も。

 何も変わらず、ただそこにあるだけだった。

 

 終わってしまえば、案外あっけないものだ。

 

 いや──

 

 もしかすると、最初から俺は、

 

化物(そちらがわ)』だったのかもしれないが。

 

 ……まぁ、今さら考えたところで、何の意味もない。

 

 それより、折角の食事だ。

 今まで腐肉ばかり食っていた分、新鮮な肉の味をじっくり堪能するべきだろう。

 

(さてさて、新鮮な蛙肉ってのはどんなもんだ?)

 

 そう思い、期待を膨らませつつ、味覚と触覚を敏感にさせた瞬間──

 

(……ぬるっとしてる)

 

 脳内に浮かぶ、ただひとつの感想。

 

 噛みちぎった肉は妙に弾力があり、歯のない口腔内に絡みつくような粘り気を帯びている。

 噛めば噛むほど、ぬめぬめとした食感が口内にまとわりつき──

 

(……くっそ、食感最悪だな!!)

 

 焼け焦げた皮の部分は若干カリッとしている。

 だが、それを噛み破ると中から現れるのは、まるでスライムのようなぬめりとした肉質。

 

 味自体は、そこまで悪くはない。

 強いて言うなら、クセの強い白身魚のような風味。

 

(……うん、不味くはない。むしろ、食えなくはない)

 

 腐肉よりは遥かにマシ。

 しかし、それはそれとして、食感が絶望的にダメだ。

 

(噛みちぎるたびにネバつくのがキツイ……)

 

 歯のない口腔に張り付くような感覚が拭えず、嚥下するたびに喉が引っかかる。

 正直、味がどうこう以前に、これを美味いと言えるヤツとは友達になれない自信がある。

 

 だが、ひと口、ふた口と飲み込むうちに──

 

(……ん?)

 

 体の奥から、じんわりと温かさが広がっていくのを感じた。

 

(……お? なんか、体がポカポカしてきたぞ)

 

 これは、今までの食事では感じたことのない感覚だ。

 腐肉を食べたときには、こんな風に体温が上がることなんてなかった。

 

(まさか、これ……吸血とは違う形での『栄養』の取り込みか?)

 

 吸血したときも、体の内側から熱が広がる感覚はあった。

 だが、今回のこれは、それとは違う。もっとじわじわとした、持続的な変化だ。

 

(……こいつの肉には、俺にとって特別な栄養がある?)

 

 この新たな感覚に、俺は本能的な確信を抱く。

 これは今までの食事とは明らかに違う。

 

 そう思った瞬間、俺はさらにひと口、ふた口と、貪るように食らいついた。

 

 ──そして。

 

 その時だった。

 

(……またか!?)

 

 体の内側に、微かな電気の奔流を感じる。

 まるで静電気が弾けるような、チリチリとした微弱な刺激が、神経を駆け巡る。

 

 戦闘のときのような暴走ではない。

 だが、確かに何かが変化しようとしている。

 

 ……しかし、今の俺の状態は最悪だ。

 

 電流が走るたびに、全身の神経が軋むように悲鳴を上げる。

 疲労でまともに動かない筋肉に、無理やり電気信号を流しているような感覚。

 

(くっ……これ、めちゃくちゃキツイ!!)

 

 ただの筋肉痛どころの話じゃない。

 これは、限界を超えて動かされる苦痛×10倍の強制トレーニング状態だ。

 

(くっ……! こんな時にまで電気流さなくていいから!! 俺、もう動けねぇんだって!!)

 

 体がギチギチと軋み、微細な痙攣を繰り返す。

 まるで、自分の意志とは関係なく、筋肉が勝手に収縮しているような気持ち悪さ。

 

 贅沢を言える状況ではないが、この食事による副作用は明らかに拷問級だった。

 

 だが、それよりも──

 

(……この肉の栄養、俺の電気能力に影響してる?)

 

 これまでの俺の成長は、腐肉と水、それにたった一度の吸血した血液によるものだった。

 しかし、今感じているこの変化は、それとは違う。

 

 まるで、新たな力の源を得たかのような……そんな感覚。

 

(……ってことは、吸血だけが成長手段じゃないのか?)

 

 今までの食事は、ただ生き延びるための行為だった。

 食わなければ飢えて死ぬ。ただそれだけの、受動的な選択肢。

 

 だが──これは違う。

 

 狩ることは、生存手段であり、成長の手段でもある。

 

 俺が自らの意志で獲物を仕留め、喰らい、力に変える。

 それこそが、この世界に適応し、『生きる』ということなのだ。

 

 気づいた瞬間、俺は迷いなく、もう一度肉に噛みついた。

 

 ──不味い。

 

 ぬめりの強い肉質、独特の生臭さ。

 決して美味とは言えないが、それでも──

 

(これは……『力』の味だ)

 

 噛み締めるたびに、確かに俺の体はそれを吸収していく。

 全身を巡るじんわりとした熱。

 筋肉の奥深くに溶け込んでいく感覚。

 

 強くなれる。もっと適応できる。

 もっと──生き延びられる。

 

 ただの獲物ではなく、狩る者へ。

 

 俺の生き方が今、確実に変わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 =====

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 湿った岩の洞窟。

 ひんやりとした空気が漂う通路の一角に、『何か』の死骸があった痕跡が残る。

 まだわずかに漂う鉄の匂い。血の名残。

 

 その場で、俺は静かに地面に身を預けていた。

 

 全身が、悲鳴を上げている。

 

 戦闘の興奮が冷めると同時に、疲労が一気に押し寄せる。

 食事による満腹感すら、戦いのダメージを和らげるものではなかった。

 

 加えて、体の奥でまだ微かに電流が燻っている感覚がある。

 今はもう暴走することはないが、完全に制御できているとも言い難い。

 

 それでも──

 

 今回、初めて『充実した食事』をとることができた。

 

 誰にも邪魔されず、空腹を満たし、栄養を摂取する。

 そんな、かつては当たり前だったはずの行為が、今の俺にとっては限りなく贅沢な時間だ。

 

(……『体』の方も、さぞご満悦ってところか)

 

 じわじわと体内を巡る熱。

 静かに広がる、微細な変化。

 

 狩った獲物を喰らう。

 単純だが、それが俺にとっての成長の鍵になるのかもしれない。

 

(……戦えたはした。だが、あれは事故みたいなものだったよな)

 

 戦いを振り返り、俺は僅かに苦く笑う。

 

 先の戦い。

 

 ひいては、蛙型の生物に勝てた理由──

 

 第一に、電流が偶然強く流れたこと。

 第二に、相手がバランスを崩して自滅したこと。

 そして最後に、相手が元々傷付いていた(・・・・・・)こと。

 

 ……どう考えても、これは俺の実力じゃない。

 ただただ、運が良かっただけだ。

 

 もし、万全な状態の相手だったら? 

 もし、電流が暴走しなかったら? 

 もし、奴がバランスを崩さず、転倒しなかったら? 

 

 ──間違いなく、俺が負けていた。

 

 そう考えると、不安しかない。

 

 事実、俺はまだまだ弱い。

 勝利に浮かれるどころか、次に遭遇する敵がまともに動ける状態だった場合、自分が生き残れるのかすら怪しい。

 

(……なら、次に備えなきゃな)

 

 思考を切り替え、俺は自分の『武器』を見直す。

 今の俺にできること、そして今後鍛えるべきもの──

 

 何が足りない? 

 何を強化すれば、次は『運』ではなく『実力』で勝てる? 

 

 俺はまだ、成長できる。

 だからこそ、この戦いを無駄にしてはいけない。

 

 今回の戦いで俺が用いた攻撃手段は二つ。

 

 一つ目は、噛み付き。

 牙そのものはそこまで鋭くはないが、しっかり噛み付けば相手を拘束し、行動を制限することができる。

 だが──これには致命的な欠点がある。

 

 それは、体勢を崩しやすいこと。

 今回の戦いでもそうだったし、ゴブリンの時もそうだった。

 噛み付いたまでは良かったが、結局振り回されるだけで終わってしまう。

 俺の体が軽すぎるせいで、簡単に弾き飛ばされる。

 今すぐどうにかできる問題じゃないが、これを放置すれば死に直結するのは目に見えている。

 

 そして、敵によっては噛みつくこと自体が困難なことも問題だ。

 今回のような粘液を持つ敵はそもそも歯が滑ってしまい、まともに食い込まない。

 加えて、硬い装甲を持つ敵に対しては、そもそも歯が通るかどうかすら怪しいだろう。

 今はまだそんな相手には出会っていないが、いずれ確実に遭遇するはず。

 その時、噛み付き以外に手がなければ、俺は何もできないまま死ぬ。

 

 ──つまり、単純な噛み付き頼りじゃ、いつか痛い目を見るってことだ。

 

 攻撃手段として見たときの弱点が、こうして整理してみるとハッキリと浮かび上がる。

 これは根本的に改善しなければならない。

 

 故に──

 この問題に対して、何らかの対策を練る必要がある。

 

 俺は『狩る側』に回ると決めた。

 だったら、戦闘力を上げなきゃ話にならない。

 

 そして、噛み付き以外の攻撃で、最も即時的に使える──いや、今すぐにでも習得しなければならないのが、俺の体から発生する『電気』だ。

 

 これこそが、戦闘において決定的な要素になり得るだろう。

 

 しかし──

 

(完っ全に、制御できてないんだよなあ……)

 

 戦闘中、俺は意図的に電流を使ったわけじゃない。

 興奮したり、噛み付いたりした瞬間に、勝手に流れ出ただけ。

 つまり、次の戦いで意識的に電気を使えなかったら? 

 

「電流が発動しない=ただの噛み付きだけのザコ」になる。

 

(……これじゃダメだ。戦えない)

 

 しかし、もし。

 電流を自由に操れるようになれば、戦い方の幅も劇的に広がり、

 この力をモノにできるかどうかで、俺の生存率も大きく変わることだろう。

 いや、生きるか死ぬか、それすらも左右するかもしれない。

 

(じゃあ……どうすれば電流を制御できる?)

 

 俺は自分の体に意識を向けた。

 手足がなく、這うしかないこの体。

 感覚の全ては、皮膚を通して伝わる振動と匂いが頼りだ。

 

 今まで何も考えずに動かしてきたが──

 

(……いや、電流が走るとき、何か感じなかったか?)

 

 戦闘中だけでなく、これまで電流が発生した瞬間の記憶を遡る。

 

 ──噛み付いた瞬間。

 ──肉を噛み締めた瞬間。

 ──体に熱がこもった瞬間。

 

 共通するのは刺激だ。

 

 外部から強い刺激を受けたとき、俺の体は勝手に電気を生み出していた。

 

(……もしかして、俺の体のどこかに電気を発生させる『器官』がある?)

 

 可能性はある。

 というか、ないとおかしい。

 もしそうなら、その器官を意図的に刺激すれば、電流をコントロールできるんじゃないか? 

 

(よし……試してみるか)

 

 俺は慎重に、しかし確実に、自らの体の内部へと意識を向ける。

 ゆっくりと体を丸め、できるだけ集中する。

 

(……電気を、出せ……!)

 

 …………。

 

 …………。

 

 ……何も起きない。

 

 俺の体は、まるで聞く耳を持たないかのように沈黙を貫く。

 意識するだけでは、ダメなのかもしれない。

 

(ならば……!)

 

 今度は、戦闘中に電流が発生したときの感覚を思い出しながら、口を思いっきり食いしばり、全身に力を込める。

 気張って、踏ん張って、歯軋りをして。

 とにかく全力で力を込める。

 

 すると──

 

 ──ジリ……ッ! 

 

(────!!)

 

 今、確かに何かが反応した。

 

 体の奥に、確かな『核』を感じる。

 

 そこから微弱な電流が滲み出し、じんわりと皮膚の内側を這っていく。

 チリチリとした感覚が神経を刺激し、まるで体の内側で稲妻が生まれようとしているような錯覚すら覚える。

 

(……これだ。これが、電気の源……!)

 

 無意識に発生していたものではなく、俺の『中』に確かに存在する力。

 制御できれば、俺の戦闘力は間違いなく跳ね上がるはずだ。

 

(これを……自在に操れるようになれば……!)

 

 期待と興奮が、胸の奥に湧き上がる。

 だが、それは同時に、不確かな領域への足がかりでもあった。

 

 今の俺はまだ『電流を発生させる』ことしかできない。

 それも、微弱な。

 だが、それを狙ったタイミングで、狙った場所へ流せるようになれば──

 

 俺は、確実に『狩る側』へと進化できる。

 

 静かに、深く息を吸う。

 洞窟の湿った空気が体の奥へと流れ込み、ゆっくりと冷静さを取り戻していく。

 

 今は、準備を整える。

 

 次なる戦いに向けて、俺は這いながら、静かに歩みを進め始めた。

 

 

 

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