柳ノ一刀


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作:シュシュら
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五振り目


 

「あの坊や、あそこまで強かったんだねぇ……」

 

 店の前で行われた凄惨な出来事を窓越しに、店の中から目撃した女主人は呟く。

 厄介者のシユウ・ファミリアの団員達。下部組織のようにチンピラたちを接収して、その規模を徐々に拡張していく様は、正にここ華湾(カワン)におけるガンのようなものだった。

 だからこそ、今まさにその構成員の一人を一太刀で切り伏せた少年の背には、期待せざるを得ない。

 

「お嬢ちゃん達は、どこかのファミリアに所属してたのかい?」

「い、いえ!私も天元様も神の恩恵は受けておりません!」

「それはそれで驚きだねぇ…………」

 

 大きな港街の雑貨屋として、神の恩恵を受けた冒険者の相手もする女店主からすれば一般人を遥かにしのぐ身体能力などを持っている者は珍しくない。

 だからこそ、驚く。

 一般人であり、且つ大人よりも腕力に劣るであろう少年が一振りで人一人を惨殺したその姿に。

 

 更に慌ただしくなる外。ただ、その戦況は明らかに少年(ヤギュウ・天元)有利の状態であるのは火を見るよりも明らかだ。

 一番最初に相手の主力級を潰した。それも一太刀で終わったという事は、下手に接近すれば自分達も同じ目に遭うのは想像に難くない。

 如何に金を貰っていようとも、チンピラたちも生きた人間。命あっての物種という奴である。殺されると分かっていて死地に突っ込む覚悟は無い。

 人が動けば音が出る。それが大人数となれば猶の事。

 そして、音が鳴れば注目が集まる。注目が集まれば、他の場所はおざなりとなる。

 

「「ッ!?」」

 

 突如として、店内が闇に包まれた。文字通りの漆黒。

 窓にはカーテンなどは無く、扉の隙間から光が漏れて一切の暗闇などあり得ない筈の空間での漆黒の闇。

 咄嗟に、女主人は記憶を頼りに近くにあるであろう店の出入り口へと手を伸ばし、

 

「――――動かないでほしいで御座る」

 

 首元に触れた冷たい感触に体を硬直させた。

 

「拙者の仕事は、そこな狐人を主の元へと連れてゆく事。故に、何もせぬというのなら貴公に拙者は何もいたしませぬぞ」

「ッ、信じられると思うのかい。アンタ、噂になってるよ。夜な夜な、シユウ・ファミリアに対して何かしらの行動を起こそうとしていた頭目が殺されてるって、ね」

「それは拙者の与り知らぬところ故。仕事を熟すだけに御座る」

「狂人かい……!」

「何とでも。時を稼ぐのは結構に御座るが、致命的状況を忘れているのでは御座らんか?」

 

 プツッ、と僅かに凶刃が薄皮を破り一筋の血が流れる。

 

「や、止めてください!!!」

 

 叫んだのは、春姫。

 

「私が目的なんですよね!?でしたら、ついて行きます!行きますから、その人には手を出さないでください!!!」

 

 その声は震えていた。だが、それでも彼女は咆えた。

 恐ろしくとも、それでも自分の為に誰かが傷つく方が恐ろしかったから。

 

「ふむ、良い啖呵に御座るな」

 

 声の主はそう言うと、女主人の首に突きつけられていた冷たさが消えた。

 同時に、店内の闇が晴れて残るのは、薄く血の流れる首元を押さえてへたり込んだ女主人だけ。

 入れ替わる様にして、出入り口の扉が開いた。

 

「まあまあ、楽しかったな…………あ?」

 

 入ってきたのは、鈍ら刀を腰に差した天元であった。その体には傷一つ見受けられないが、濃い血のニオイがした。

 店内を見回して首を傾げる。

 

「アイツは何処に行ったんだ?」

「……攫われちまったよ」

 

 首元を押さえて、女主人が立ち上がる。

 

「攫われた?」

「ああ。シユウ・ファミリアの隠密さ。悪いね、私じゃ止めきれなくてさ」

「ん……まあ、仕方ねぇだろ」

 

 荒事に慣れている者を一般人が止める事などまず出来ない。

 戦闘になれば相手が誰であろうと嬉々として斬りかかっていく天元は、己が少数派の異常者であると理解していた。

 顎を撫でて、天井を眺める。

 

「なあ、そのシユウ・ファミリアの本拠地ってのは何処にあるんだ?」

「…………まさか、乗り込む気かい?あの子には悪いけど、ソレは止めときな。坊やが強いのは分かったけど、あそこに居るのは化物だよ」

「化物、ねぇ……」

 

 苦い顔をする女主人だが、天元は違う。

 春姫の救出に行かなければならないことは確かだ。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「で?その本拠地は何処だ?」

 

 戦闘狂は、揺らがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、シユウ・ファミリアの本拠地“泰山宝前”。

 

「拙者はこれにて」

 

 全身黒づくめの男は消え、代わりに部屋に残るのは後ろ手に縛られた春姫とそれから大柄な男。

 2Mの身長に加えて、その肉体にみっちりと搭載された筋肉。強面も相まって、その場にただ立っているだけでも威圧感があった。

 “牙獣”バイツ・レッドハウンド。オラリオの外では早々お目に掛かれない、化物(Lv4)である。

 バイツは無言で春姫の前にまでくると、憮然と見降ろした。

 その視線だけでも、彼女は卒倒しそうになったのだが必死に耐える。

 彼女も彼女で、一週間ほどの船旅を遊んで過ごしたわけではない。寧ろ、嬉々として乗り込んでくるモンスターを狩りに行く天元の後ろをついて回っていた事により変な度胸がついていた。

 

「ッ、私を、お求めという話でしたが……ど、どういったご用件でしょうか?」

「………フッ、そう固くなるな。お前はこれからうちのファミリアに入るんだからな」

「…………はい?」

 

 思わぬ言葉だった。春姫の目が点になる。

 少女の反応は予想の範疇であったのか、バイツは気に留めた様子もない。

 

「オレ達は、戦力を求めている」

「ッ…わ、私は武芸に秀でている訳では…………」

「だろうな。見れば分かる。典型的な箱入りだ。オレが言ってるのは、お前の種族だ」

 

 太い指を突きつけるバイツ。

 

「神の恩恵を受ける人間の内、特殊な種族や境遇を持つ奴は特別なスキルや魔法を最初から獲得している場合がある」

 

 絶対じゃないがな、と続く言葉。

 春姫は、眉をひそめた。

 

「……それが確実と言えないのなら、無駄なのでは?」

「確かに、博打みたいなもんだ。だが、得られた時のアドバンテージと、それが他所に齎される可能性を考慮すれば悪いもんじゃねぇ。何より、恩恵さえ与えちまえば後はどうとでもなるからな」

 

 神の恩恵を得た人間は、文字通り生物としての格が上がる。レベルアップは、この格をより高める事だった。

 何より、戦闘員だけでファミリアは運営できない。それこそ、見目麗しい者ならば男女問わず()()()()()に使われ金を稼いだり、他団員の慰安を任されたりするだろう。

 春姫の顔から血の気が引いた。

 世間知らずであろうとも、彼女自身この世界が清廉潔白の綺麗なものであるとは思っていない。しかし、改めて自分がそんな世界の汚さを受ける立場に立たされると思う所はある。

 だからといって、何が出来るという訳ではない。

 自己申告通り、春姫に自衛手段はない。武芸に通じている訳でもなく、護身術が出来る訳でも防犯グッズがあるという訳でもない。捕まった時点で、籠の鳥がほぼほぼ確定してしまっている貧弱さである。

 

 唯一の希望は、己が無理を言ってついてきた剣客の少年。

 助けてくれるかは、微妙な所。深い仲という訳でもなく、そもそも彼が春姫を助ける理由がそもそも無いのだから。

 

 だが、

 

「主、ご報告に御座る」

「なんだ」

 

 先程消えた黒づくめの男が、いつの間にか部屋の隅に現れて膝をついていた。

 

「襲撃者に御座る」

「襲撃者だと?」

「然様。数は、一。真正面から小細工無しの正面突破に御座る」

「さっさと制圧しろ。こっちは何人の恩恵持ちが――――」

「既に、グルレデネネの兄妹が負けているで御座るよ」

「…………おい、襲撃者ってのは……」

「主の考え通り、件の少年で御座るな」

 

 凄まじい強さに御座る、と男は続けた。

 

 泰山に、屍山血河が築かれんとしていた。

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