柳ノ一刀


メニュー

お気に入り

しおり
作:シュシュら
▼ページ最下部へ


4/9 

四振り目


 朝の港は活気の渦。商人だけでなく、豊富な海産物を狙った漁師たちが朝の漁を終えて戻ってくる時間であるからだ。

 

「人がいっぱいですね!天元様!」

「そーだな」

 

 ワクワクと嬉しさを隠せない春姫に対して、天元は適当な返事を返す。

 

 昨日は、食事をとった店主の厚意に甘える形で彼の店舗兼住居の空き部屋を一室借りる事で二人は夜を明かした。

 そして今日。朝早くから春姫は活気ある声を聞き取り、天元を起こしてこうして朝早くから港の方へとやって来ていた。

 

「天元様、何を買いましょうか?」

「……とりあえず、雑貨屋だな」

「港ではなく?」

「魚買ってどうするんだ」

 

 テンションの高い春姫に呆れながら、天元は彼女を連れて賑わう大通りの一角にある雑貨屋へと足を向けた。

 ドアベルが鳴り、静謐を保っていた店内に人の気配が入り込む。

 

「うん?あら、いらっしゃい。カワイイ子たちね」

 

 ベルの音に反応したのか、店の奥からやって来たのは恰幅の良い女性だった。

 

「これから、旅に出るんだ。頑丈な背嚢を……二つと、それから幾つか道具を見繕いたい」

「はいはい、大丈夫よ」

 

 天元の注文に、女性は慣れたようにカウンター裏に引っ込むと武骨な背嚢を二つ取り出した。

 ただ、取り出された二つはそれぞれに微妙に大きさが違う。

 

「こっちが大きめ。坊やが背負いな。こっちがお嬢ちゃんね」

「あ、はい!」

 

 女性からそれぞれ背嚢を受け取る二人。

 だが、春姫はここからどうすれば良いか分からない。対して、天元は背嚢の中を調べたり、軽く引っ張って生地の強度を見たり、軽く背負って色々と確かめている。

 旅をするのなら予め準備しておく物にも思えるが、コレはどちらかというと春姫の為の準備だ。

 天元一人ならば、そこら辺の野原で一晩明かしても何ら問題ない。食べ物などもそこらの虫や草で済む。水にしたって生水だろうが雨水だろうが泥水だろうが腹を下す事も無い。

 しかし、春姫は違う。箱入り娘に野生児の生活に急に順応しろと言われても、難しいだろう。

 だからこそ、旅支度が要る。それは何も食料や水などといった口に入れるものだけの話ではない。

 

「良いもんだな。後は木製の食器類や、金属の串が数本あれば良いんだが」

「ふっ、若いのにしっかりしてるじゃないか。ちょっと待ってなよ」

 

 再び奥へと引っ込んだ女性を見送り、天元は背嚢をカウンターへと置く。

 すると、春姫がおずおずと問いかけてきた。

 

「あの、天元様。先ほどの注文は何に使われるのですか?」

「あ?だって、オメー手づかみで物食うのは嫌だろ?俺は気にしねぇけど」

 

 アッサリと言う天元。先の通り、彼一人ならばここまでの事はしない。

 成り行きとはいえ、連れて行くと決めたのならば義理を果たす。ヤギュウ・天元という男は、そういう人物であった。

 戦闘狂だが義理は果たす。善人とは言えないが、極悪人でもない。

 思わぬ心遣いに、春姫はパチクリとその目を瞬かせて、それからフクフクと頬を赤らめながら瞳を輝かせた。

 

「~~~~ッ!天元様!」

「うっせ………耳元で叫ぶな」

 

 ぶんぶんと尻尾を振る狐人の迫ってくる顔を押し返しながら、天元は眉間に皺を寄せる。

 そんなやり取りをしていれば、奥から店主が帰ってきた。

 

「なかなかお熱いじゃないかお二人さん。ほら、お望みの品だよ」

「おう………良い品だな」

「当たり前じゃないか。ここは、余所者もよく利用するからね。旅人の繋がりってのは馬鹿に出来ないんだよ。まあ、ここ最近じゃ……ねぇ?」

「暴れてるファミリアが居るって話だったな」

「何だ、もう聞いてたのかい。なら、悪い事は言わないから早く離れな。全く、態々オラリオからこんな東の端にまで流れてくるなんて……迷惑な話さ」

「ツエーのか?」

「強いなんてもんじゃないよ。治安組織も役に立たない上に、今じゃ賄賂で住民の首を一緒になって締め上げようとしてるって話さ」

「ほー……世も末だな」

「“学区”が寄港してくれれば少しはマシなんだろうけどね。まあ、兎に角坊やたちも気を付けるんだよ。特に、そっちのお嬢ちゃんは人の目を集めるからね」

 

 チラリと女性が春姫を見やる。

 金の狐人は、街を行くだけでも人目を惹く。まだまだ幼くとも、そのポテンシャルは既に漏れ出ている。

 何より、

 

「…………もう遅そうだけどな」

 

 天元は店の出入り口を見やる。

 扉脇の窓の向こう。何人かが慌ただしく駆け回っているのが確認できた。

 不穏な気配とウンザリとした口調。

 

 その一方で、少年の顔には凶悪な笑みが張り付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シユウ・ファミリアは、団長をトップに据えた合計で八十一人の団員たちで構成されている。

 大手ファミリアには劣る規模だが、それはあくまでも抑止が可能なオラリオ内での話。

 神の恩恵を持った者達を止める術に欠けた外の世界では、そのまま暴力を行使できる数字となる。

 例えそれがLv1であったとしても、常人と比べれば高い能力を有しているのだから、それこそ生半可な国の軍隊よりも強い。

 そんな力を持った暴力装置が、街一つを掌握しようと思うのなら決して難しい事ではないのだ。

 

 港近くにある雑貨屋。ここを、シユウ・ファミリアの構成員三名と彼らに雇われたチンピラや野盗が取り囲もうとしていた。

 彼らの目的は、この店に居る金の狐人族の少女。その手段は、多少荒っぽくなろうとも()()()()()

 

 だが、彼らには強者故の慢心があった。

 

 事実として、神の恩恵を得た団員たちは強い。しかし、それはそれとしてこの世には()()()()()()()()()()()()

 今まさに店内へと乗り込もうとした彼らの機先を制するようにして、扉が開かれ一人の少年が現れたのだ。

 

「よぉ…朝から随分と騒がしいんじゃねぇか?」

 

 問うてくる少年に、しかし団員は何も言えなかった。

 何故か、恐ろしかった。ザリザリとした舌でうなじを舐められたかのような言い様の無い悪寒。不安感。

 それが目の前の少年から発せられている。その事実を前にして、団員は一歩前に出た。

 

「ッ、手間が省けたぜ、ガキぃ。大人しくお前の連れを、渡しな。ボスがお求めなんだよ」

「そこでそれを、はいそうですかって頷くと思ってんのか?」

 

 ハッ、と鼻で嗤う少年に一際血の気が多い団員の蟀谷に井桁が浮かんだ。

 得物である片手斧を抜き放つと、その先端に付けられた穂先を少年へと突きつけるように向けた。

 

「あんまり舐めた事言ってんじゃねぇぞ、クソガキがァ!!テメェに選択肢はねぇんだよ!!痛い目見たくなけりゃあ、さっさと渡しやがれ!!」

「落ち着け、レデ。ボスは、出来る限り荒立てるなと言っていただろう?」

「ウルセェ!!!かまととぶってんじゃねぇよ、グル!!!ボスは、事が粗ぶった程度の事気にする訳ねぇだろうが!!!」

「……ネネ、止めてくれ。私では止まらん」

「ん」

 

 赤い首巻を付けたツインテールの少女が、レデと呼ばれた片手斧を持つ短髪の男の肩に手を置く。

 彼らを見やり、リーダー格であろう男、グルが一歩進み出た。

 

「レデの言葉に同調する訳じゃないが、こちらは問答をする気は無い。痛い目を見たくないのなら、分かるだろう?」

()()()()()()

 

 鈍ら刀を鞘ごと抜き放ち、右肩に乗せ乍らヤギュウ・天元は相対する者たちを見やる。

 

「お前らがどこの誰で、暴力を生業にしてるからってこっちが簡単に引き下がると思われてるのは気に入らねぇ」

「後悔するぞ?」

「御託は要らねぇよ。かかって来るなら、向かって来い」

「咆えたな、クソガキィ!!!!」

 

 挑発と見たのか、激昂と共にレデが片手斧を振り上げ飛び掛かる。

 この男、粗野で短気だがLv2へと至った存在。それも魔法を使えない近接職であり、特殊なスキル持ち。

 その一振りは、大岩だろうと割り砕く。そしてその一振りに対応するために、レデの片手斧は相応の強度を持ち合わせていた。

 

 尤もそれは、()()()()()()

 

 いったいこの場の何人がその動きを追えただろうか。

 中身を失った鞘が軽い音を立てて石畳へと落ちる。

 

「なん……だと………」

 

 一瞬の交差の末、刀を振り切った姿勢の天元。

 

 そして、斜め一閃。真っ二つとなって事切れたレデの姿が少年の背後に転がった。

 

(馬鹿な……!レデはLv2だぞ!?この少年は、Lv3以上の猛者だとでもいうのか!?いや、そもそも、あんな鈍ら刀で人を両断できるというのか!?)

 

 グルの頭の中は混乱の中にある。

 対して、

 

「ッ!」

 

 ネネと呼ばれた少女は両手に短刀を逆手に構えて、姿勢低く天元へと襲い掛かっていた。

 しかし、悲しいかな。彼女はLv1。ステイタスこそあれども、それでもついさっき両断されたレデとは雲泥の差があった。

 

「――――ッ!」

 

 圧縮された時間の中で、ネネは振り下ろされる鈍ら刀を見た。

 上から下。唐竹の軌道で振り下ろされるそれは、彼女の迎撃が間に合わないであろう速度で迫る。

 だが、その寸前ネネの胴体に何かが巻き付き、彼女の体は勢いよく後方へと引っ張られる事になった。

 間髪入れずに白刃が、少女の頭蓋が先程まであった場所を通過し、その切っ先が僅かに彼女の額を縦に切り裂いていく。

 ネネの命を救ったのは、グルが振るった黒い革の鞭だった。

 本来、彼ら三人の戦闘スタイルはレデが突っ込み、ネネが攪乱。グルが中距離からの援護を持って行われるもの。

 それが壊れた今、どうにもならない。

 

「くっ……!何をしてる、お前たち!この子供を殺せ!!」

 

 グルの命令が飛ぶ。

 もっとも、所詮は金で雇われたチンピラ。況してや、初手で恐怖の対象の一つであるレデが一方的に惨殺されたともなれば二の足を踏むどころか、尻尾巻いて逃げ出す者も居る。

 そんな彼らを尻目に、天元はつまらなそうに笑みを収めた。

 

「逃げたきゃ好きにしやがれ。俺は、ツエー奴と戦えりゃ、それで良い」

 

 既にこの場の力関係は逆転していた。

4/9 



メニュー

お気に入り

しおり

▲ページ最上部へ
Xで読了報告
この作品に感想を書く
この作品を評価する