デバフネイチャはキラキラが欲しい 作:ジェームズ・リッチマン
皐月賞は目前だ。
数多のレースを走って技に磨きはかけたし、ライバルたちのレースや動向は逐一チェックしている。
それでも私が勝つにはもうあと一押しでも二押しでもしておきたい。
「ここが近所でも最大の蹄鉄売り場ですね」
「おおー……」
そういうわけで、私は決戦のための蹄鉄選びに乗り出した。
GⅠレースは勝負服を着なきゃいけないのでいつもと走りの感覚が変わるのは当然だけど、それならいっそ蹄鉄も変えてしまおうという結論に至ったのだ。
「やー、イクノさんがいると助かりますなぁ」
「蹄鉄選びに関してはお任せを。怪我を防ぎレースで最大のパフォーマンスを発揮できるものを見つけ出しましょう」
イクノは蹄鉄にも結構こだわるタイプなのでありがたい。
私は服もこういうのも適当なの使っちゃうから、全然詳しくないんだよね。
ちなみにツインターボは店の入り口あたりのワゴンに積まれた膝サポーターをみょんみょん伸ばして遊んでいた。
楽しいかいターボさんや。ターボさんが楽しいなら私はいいと思うよ。
「なるほど、ネイチャさんは鉄製でしたか……アルミではなかったのですね」
「うん。長持ちするからこれでいいかーって……はは、適当に決めてました」
シューズに装蹄する蹄鉄は色々な種類がある。
街中を軽くランニングするなら軽くて柔らかいものが人気だけど、私たちのようなレースをするウマ娘にとってはかなり本格仕様の蹄鉄が必要……らしい。
一番重要なのはなによりもサイズと形。シューズや足の形に合っていないと怪我の原因になるそうな。
次に重要なのが、材質だ。
「レース向きなもので言えば、まず間違いなくアルミ製ですね。摩耗が早くパワーが出ないと言われることもありますが、こまめに取り替えれば劣化の問題はクリアできます」
「あくまで消耗品と割り切るってことかー」
「そうですね。とはいえ、鉄製のものと比べて芝への食い付きが弱いという指摘もあながち的外れでもありません」
「イクノはどっち使ってるの?」
「私の場合はアルミですね。やはり足に直接かかる重量は無視できませんから。ネイチャさんもアルミにすれば、多少は足の回転が上がるかもしれません」
悲報、私わざわざ重い蹄鉄で走っていた模様。
まぁその差も大きなものではないんだろうけど……スピードが私の課題である以上、ここは貪欲に速さを求めていかないとね。
「じゃあ軽めのアルミのやつに……」
「ですが、鉄製でも例外はあります」
「うぁん。なになに、何があるの?」
「肉抜きした薄型のものであれば、鉄製であっても軽さとパワーを両立できるのです」
イクノが手に取ったのは、普段私が使っているものよりも少しスマートで、穴や窪みの多い蹄鉄だった。
「おっ? これは軽い……」
比べてみると、なるほど。アルミの蹄鉄とほとんど変わらない重さのように思える。
アルミが強度を持たせるために塊にならざるを得ないのに対し、鉄だとこういう細工ができるってわけね。
「ただし、この軽量蹄鉄は劣化が早くメンテナンスに手間がかかるというデメリットがあります。値段も安くはありません」
「……あー、みたいだねえ。そっか、軽くした分脆くなるし、錆もつきやすいのか。泥とかも細かいとこに入りそうだし……」
特に洗うのが面倒臭そうだ。錆も目立ってきたら強度の不安もあって使いたくなくなりそう。製品としての寿命は短いだろうなぁ。
「これにするよ」
けど即決だ。短期間でもパフォーマンスを出してくれるならそれが良い。
「よろしいので?」
「うん。皐月賞は短めだからね。足回りは本気で整えないと、絶対に勝てなさそうだから」
「……ええ。相手はトウカイテイオー。ベストな条件で挑むべきでしょう」
中山レース場はラストの直線こそ短めだけど、下り坂が緩やかなせいで私の強みが活かせなくなる。向こう正面では平坦な直線がネックになるだろう。そんな不利を埋めるためにも、蹄鉄だけでもこだわらなくちゃ。
「そう高いものではないので、ついでにアルミの厚いものと薄いものも買っておきましょうか。実際につけて走ってみて、感触を確かめてみるべきです」
「うん、そうするよ!」
「あ、お店のカードはこちらを使ってください」
「了解っすー……えーと合計で……あ、今回の買い物にあと千円プラスでスタンプ全部埋まるっぽいよ?」
「なっ……ど、どうしましょうか。他に買うものは……」
いやいや、そんなテンパらなくても。買うものがないなら無理に買う必要はないとネイチャさんは思いますけどね。
「ねーねー二人とも、これ見て! ターボこれ買う! このサポーター買うー!」
イクノが悩んでいる間に、ターボがワゴンのサポーターを三つ掴んでやってきた。
どうやらセットでお買い得になるらしい。
膝のサポーターなんてどこで使うんだろって思うけど……。
「今回はナイスターボ!」
「……ツインネイチャ?」
いやそういう言葉遊びのつもりではなかったんだけどね。