デバフネイチャはキラキラが欲しい   作:ジェームズ・リッチマン

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蠱惑の一匹狼

 

 皐月賞に出るため、私は俄然トレーニングに励んだ。

 いや、トレーニングというのは正確じゃないか。正しくはレースに励んでいる。

 

 とにかくレースだ。実戦を積まなきゃいけない。実戦で走り、戦略眼と一緒に身体も鍛えるつもりでいく。

 誰かに頼まなくても他人が本気を出して実戦形式で追い切りしてくれるのだ。これ以上のトレーニングは無いだろう。

 

 もちろん、私もただの練習のつもりで挑んでいるわけではない。毎回勝つつもりで挑んでいる。

 どんなレースでも最後まで絶対に手は抜かないし、諦めない。いや、頭で“こりゃもう無理だわ”って悟っちゃうようなレースはあるけども。

 

 おかげで勝負勘は鍛えられている。実戦を積んだおかげで戦績もいい感じだ。注目度が上がれば私の作戦も立てやすい。

 

「ほらっ、急がなくていいのっ……?」

「うる、さいっ……!」

「皆先にいっちゃってるのにっ……」

「……ッ!」

 

 ムキになって走る子の後ろ姿を見てほくそ笑む。

 

 私の戦術は、今や誰もが知っているだろう。悪目立ちはしているからね。

 だけどわかっているからといって、実際のレースで自分の心を制御しきれるかと言えばそうではない。

 興奮状態で100%自分の心を制御できるような精神力の強いウマ娘ばかりではないし、仮にささやきが通じなかったとしても、コースを塞ぐという直接的なブロックを続ければ否応なく相手の取れる手段は限られてくる。

 近頃はレース前に“私は絶対に心動かされたりはしない”とでも言いたげな顔をして私を見てくるウマ娘も増えたけど、引っ掛けやすさで言えば、まあ、うん。あまり変わらないのが現実だ。

 

『ナイスネイチャ、一着でゴールッ!』

 

 それに。

 

 仮に一度私と対戦したことがある子が相手だったとしても、負ける気はしない。

 私は何度もレースに挑み、新しい戦法を幾つも身に付け、吸収している。

 

 手を変え品を変えは私の得意とするところだ。

 二度目三度目の対戦があったとして、私は何度だってその子を騙してやる。

 

「いぇーい! 今日はギリギリ一着ぅー!」

 

 笑顔で手を振りながら駆ける私に降り注ぐのは、歓声と、ちょっぴり多めのブーイング。

 だけどこれでいい。嫌われ者になろうと私は一向に構わない。

 キラキラが。一着が取れるのなら。他人の声なんて、些細なもんだよ。

 

 

 

「とはいえ」

 

 ブーイング上等。そのスタンスに嘘はないんだけども。

 

「トレセン学園くらいでは普通に青春してたいよねー……」

 

 別に私は根っからのヒールってわけでもないし、一人が好きなわけでもない。

 人とお喋りするのは大好きだし、遊ぶのだってそうだ。

 最近のレース中は一匹狼を気取って走ることも多いけど、交友関係を全部積極的に打ち捨てたいとまで思ってるわけじゃないのよ。こんな私でもね。

 

「これを、こうして……よし、いい感じじゃん」

 

 だから行事とかは今まで通り、ちゃんとこなす。

 イベントがある時はしっかりイベントに乗っかって、みんなと同じ時間を共有して、ワイワイ過ごすんだ。

 

 明日のバレンタインデーもその一環。

 三角コーン型の人参チョコを、オレンジとグリーンのフィルムで先端から包む。

 すると、ちょうどオレンジとグリーンの色の境目あたりをリボンで結ぶことで……人参っぽい包装がされたチョコの完成だ。ちっちゃい人参みたいで結構かわいい。

 リボンの色も赤と緑で私っぽいカラーにしてるのがちょっとしたこだわりである。

 

「美味しく作れたし、受け取ってくれるといいな」

 

 そう!

 仲良くするならお菓子をプレゼント! これぞ王道!

 

 物で釣るのは基本よ基本! 友チョコ万歳! 企業戦略? その誘い乗った!

 これでちょっと疎遠気味な友達もある程度戻ってくるかもしれないし……うん!

 

「あとは明日のお楽しみね……マーベラス、明日の朝ちゃんと起こしてよね」

「うーん……もう食べられないよぉ……」

「おやすみっ」

 

 私は期待と不安を半々に抱きつつ、ぐっすりと眠りこけたのだった。

 

 

 

 バレンタインデー。

 一応トレセン学園には男性職員やトレーナーもいるから、まぁそういう人に気があるなら渡しても良いんじゃないっていう日ではあるんだけど。

 基本的にウマ娘しかいない学園なので、この日は実質友チョコ交換会の日だ。

 私も例年は親しい友だちからいくつか貰っている。でも今年は……どうだろうか。

 数が露骨に減っていたらちょっと凹むかもだけど……今日はむしろ、こっちが沢山チョコを用意したからね。先手を打って仲良しこよし大作戦にしてやるんだから。ふふふ……。

 

「あ……ナイスネイチャ」

「おー、おはようおはよう。ちょうどいいところに。実はねぇ……」

「あの……ほら、これ」

「え?」

 

 差し出されたのはラッピングされたチョコレート。まさかの先手を打たれた形だ。

 

「あげる……」

「え……ほんとに? いいの?」

「駄目ならあげないし」

「ありがとう! やー、嬉しいわぁ……じゃあ私も、これ。はい!」

「えっ、くれるの……?」

「もちろん! 人参のフレーバーがちゃんと出るように作ったんだから、味わって食べてくださいなー」

「……うん、ありがとう!」

 

 友チョコ交換した子はこころなしか嬉しそうな足取りで去っていった。

 ……いや、よかったぁ。案外私も嫌われてるわけじゃないのかな……?

 

「えっと、ネイチャ。今平気?」

「え?」

「ナイスネイチャ、ちょっと。これ……あげるから」

「え、ああうん」

「ナイスネイチャ! チョコあげる! 受け取って……ください!」

「あ、ありがとう……」

「ほらっ、これあげるからっ。中にID入ってるから、後で味の感想聞かせてよね」

「え? ぁあうん、はい……」

 

 ……???

 なんか多い。いやなんかかなり多いんですけど?

 

 おかしいな。人参ネイチャチョコを配るから結構大きめの袋を用意してきたのに、皆からもらうチョコで袋が溢れそうなんだけど。大丈夫これ。いや大丈夫じゃないわ。こんなの食べきれないって。

 

「ど、どういうことなの……?」

 

 もしかして……。

 最近沢山レースに出て勝ってるから、それで注目されてる……のかな?

 

 ……そっか。私も結構、話題のウマ娘になってきたってことか。

 

「皐月賞……ますます負けてられないね……!」

 

 テイオーへのリベンジ、果たさなくちゃ。

 

 

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