デバフネイチャはキラキラが欲しい   作:ジェームズ・リッチマン

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簒奪者の対抗意識

 打倒テイオーに向けて、私達のトレーニングも本格化……すると思いきや、元々私とイクノの方針は定まっていたので特に日々に代わり映えはしない。

 それでもチームにツインターボが加わってくれたことにより、いつも以上にやりがいのある走りができるようにはなった。

 

「ターボに続けぇえええ!」

「無理だっつーの!」

 

 いやでもやっぱかなり極端だわ。

 ターボ最初から全開で走るんだもん。私が牽制するまでもなく最初からフルスロットルなんだもん。駆け引きの練習には全くならないわコレ。

 

 けど、スタートは良い。それは認める。

 ペース配分はちょっとアレすぎてコメントを差し控えたいレベルなんだけど、出だしの加速に限って言えば私でも舌を巻くほどの上手さだ。

 

 私もスタートは集中してるし出遅れなんてほぼしない。だから最序盤はほぼ先頭に立てるんだけど……ツインターボと走る時は、それが結構怪しくなる。

 

「う、おおおおっ!」

 

 だからスタート時点は結構ムキになってしまう。対抗意識が芽生えると言うかなんというか。

 ある意味、これは逃げ馬を徹底的にマークするトレーニングにもなっているのかもしれない。そう考えると悪くない。

 

 が。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ターボに……続けぇ……」

「スタートだけなんだよねぇ……」

 

 1000メートルを越えた辺りですぐにこうなってしまうのはどうにかならないもんですかねぇ……。

 まあ、私は面白い練習になってるからこれもアリではあるんだけどさ。

 

 

 

 チームとしての練習はそんな感じだ。

 チームの外、つまりトレセン学園の他の場所では……またちょっと別の変化があった。

 

「あ、ナイスネイチャ……おはよ」

「おーっす、おはよーっす」

 

 それは主に、私に対するクラスメイトとか……他の友だちからの視線とか、そういうやつだ。

 脚を引っ張る戦法をメインに据えて走り始め、色々と結果を出し始めた私。それ以前は結構空気っていうか、レースについてはあまり聞かれないし意識されないウマ娘だったんだけどね。近頃は周りもそうはいかなくなったのか、色々と変化が生まれている。

 

 全体的には、まぁそうね。友達の一部がちょっと疎遠……になったかな。多分だけど。

 別に大っぴらに嫌われているわけではない。どこかよそよそしくなったような子が増えたっていうだけ。イジメとかもないしね。

 

 多分、雑誌とかWEBニュースとかでの私の評判を見てそうなってるんだと思う。

 メディアだけで私を見ると、今の所は結構ヒール扱いされてるからねぇ。

 

「ネイチャおはよー!」

「おー、テイオー。おっはー」

 

 それでもあまり面と向かって批判されたりしないのは、こうしてトウカイテイオーのようなキラキラウマ娘と普通に友達関係を続けられているから……なんてことも、要因としてはあるのかもしれない。

 

 若駒ステークスが終わった後、私とテイオーの関係はほとんど変わることはなかった。

 正直テイオーから嫌われてもいいやってくらいの気持ちで色々な小細工を弄したんだけど、レースが終わった後もテイオーはよそよそしくなることもなく、友達のままだった。

 むしろ一緒のレースを走ったことで、以前よりも親密になったかもしれない。それまではレースを介した付き合いをすることがなかったからね。

 

「ネイチャさー、今日この後みんなでカラオケ行くんだけど。ネイチャ予定入ってる? ちょ、ちょっとボイトレみたいなこともやる予定があってさー」

「あーごめんテイオー。私今日は副会長さんにトレーニング見てもらうことになってるから無理だわ」

「ゲッ、そりゃ無理だね……」

「また今度誘ってよ。レースも多いし都合が合うかわからないけど、前もって言ってくれれば空けとくからさ」

「う、うん」

 

 仲は良い……はず。なんだけどたまーにちょっとテイオーがキョドるのはなんなんだろう。

 そこらへんは私の目を以てしても見通せないですわ。

 向こうからも結構話しかけてくれるし、嫌われてる感じではないんだろうけど。

 

「そういやテイオー、今度の若葉ステークス出るんだって?」

「あ、知ってたんだ? うん、そーだよ。ボクにとっては皐月賞の前哨戦だね! もちろん油断はしてないけど!」

「テイオーそう言って結構油断するからなぁ……」

「しない!」

 

 してるって。や、油断してなくても引っかかりやすい性格してるのかもしれないけどさ。

 

「まあでも応援してるよ。距離も得意だろうし9割方いけるっしょ」

「本当に? へへへ、ありがとー! でもボクは10割方勝つもんね!」

「こらこら、油断油断」

「これはヨユーというものだ!」

「くそぉ、実力に裏打ちされたビッグマウスだなぁ……羨ましい……」

「へへへ」

 

 テイオーはあまりレースに出走しない。とにかくトレーニングを積んで、ここぞというレースに出走するタイプのウマ娘だ。

 まあ私とイクノディクタスがレースに出過ぎてるところはあるんだけどね。こっちと比べちゃいけないか。

 

「……ねえ。ネイチャも皐月賞に出るの?」

「ん。そのつもりではいるんだけどねぇ……まだちょっと厳しいかなぁ」

「怪我、はしてないよね」

「いや全然。単にまだ決めかねてるだけ。大きいのだとG3辺りで小倉記念はもう出るつもりでいるんだけどね」

 

 私も結構無謀なプランは組むんだけど、それでもまだオープン戦にすら勝てていないのだ。

 なのにいきなりG1レースに飛び込むのもどうなんだっていう気持ちが大きくて、出走するかーという気持ちにまで至ってない。

 今までもかなり段階を細かく刻んで上のステージに挑んでいるからね。

 

「……走ればいいのに。皐月賞」

「え?」

「ネイチャなら走れるじゃん」

 

 テイオーは冗談めかして言ってなかった。目が本気だ。

 

「あー……そう? かなぁー……」

「ボクは待ってるよ。またネイチャと走れるのをねっ!」

 

 ……主人公だなぁ。

 

「今度は騙されないし、最後までずっと突き放して勝ってみせるから」

 

 真っ直ぐで、いつでもキラキラしてて。

 一度勝った悪役相手にも手を差し伸べる。そんなのもう主人公じゃん。

 

「……言ってくれるねぇー?」

「! わ、ひゃ」

 

 私はなんとなくそんなキラキラウマ娘のオーラに負けたくなくて、テイオーのすぐそばに顔を寄せた。

 そんな真正面から“挑戦状を拾え”って言われたんじゃ、こっちだって黙ってるわけにはいかないでしょ。

 

「だったらテイオーが取る予定の無敗の三冠……ぜーんぶ私が奪っちゃうから」

「……!」

 

 テイオーにだけ聞こえるように宣戦布告をささやく。

 ほんとは周りに聞かれても良い。けど、テイオーにさえ届けばそれで十分だ。

 

「じゃあね。トレーニング行かなくちゃ」

「う、うん」

 

 よし。久々に燃えてきた。

 今日の副会長さんとのトレーニングは極限まで自分を追い込めそうな気がする。

 

 ああ、やっぱり目標は大きい方が良い。

 打倒トウカイテイオー。目指せクラシック三冠。

 

 それがどれだけ果てしない目標だとしても、考えるだけで心が震えてくるよ。

 

 

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