ばくわな実戦ファイル
file06 ワインドアップ作戦(一) Mission Wind-up
■ むめひ氏の動画に学ぶリスク管理
「作って仕掛けてネコを捕まえるまでなら小学生でもできる」というのが、ばくわなの売りのひとつである。
だからといって、もしその必要があったとしても小学生などが実際にこの捕獲法を実行することはまったくおすすめしていない。
それは別に教育上とかそういうことではなく、ばくわなによる捕獲後、捕まえたネコを完全に人のコントロール下に置くべく確保作業というのが必要になるのだが、そこに少なからぬリスクがあるからである。
それは端的に言うと『ネコに直接対峙するリスク』というものだが、それに関してひとつ思い出されることがある。
今から一年ほど前の話になるが、2023年の2月から3月にかけて、狩猟したノネコを食すという、むめひ氏のYouTube動画がけっこうな話題になったことがあった。
私も見たが、長めの動画で、後半のネコを解体して食べるくだりはほとんど飛ばし見したので、合わせても見たのは一分程度だろうか。
私が興味深く見たのは前半の、くくり罠にかかったノネコを拘束してバールで昏倒させてその後とどめ刺しするあたりまでである。
中でも感心したのは、ネコに縄を掛けて拘束する場面。バールの一撃で確実にネコを昏倒させる必要があるので、目標をしっかり固定するためにやっている地味な場面だが、非常に慎重にやっていたのが印象的だった。
ネコがいくら暴れても大丈夫なように十分な距離を取った上で、棒を使ってゆっくり縄をかけて少しずつ作業を進めていく様子を見ながら、「やはりそういうものだよな」と納得したものである。
これは日頃野生の動物と相対する機会の多い人ほどこのような作業に内在するリスクがよくわかっているということなんですよね。動物の予期しない動きなどにも十分対処できるよう、万一の事故でけがを負うような可能性を極力排除した上で冷静に作業を進めているのがわかります。
専門家の猟師でさえ慎重にやるようなことなら、一般人であればなおさら、というものです。
いかにしてネコの確保作業を安全に遂行するか、ネコと対峙した時のリスクをどうしたら減らしていけるか、は ばくわなによる捕獲後の非常に重要な課題なのです。
これが今回のテーマです。
重要ではあるが難題でもあるがゆえに今まであまり触れて来なかった部分だが、今回はそこに少し切り込んでみようかというわけです。
■ ばくわな捕獲後の危険領域
まずは実際の確保作業について、具体的にどのようなリスクがあるかを確認しておこう。
以下の画像は前回file05のグレ太の捕獲後のものである。
紐付きの首輪につながれてるのと同じ状態で、見てわかる通りずいぶん広い可動範囲がある。
その可動範囲に壊されたくないものなどは置けないので、仕掛ける際は市販の箱型捕獲機に比べて大きな余裕スペースを見ておく必要がある。
ばくわなのデメリットのひとつですね。
そしてもうひとつのデメリットが今回の主題、確保作業の問題。
通常私の場合はショコ棒でこの状態のネコを取り押さえることにしてるわけですが、他にはタモみたいなものを使ってネコの上に網をかぶせて取り押さえてるような人もいるでしょうか。
いずれにしろ、取り押さえるにはある程度ネコに近づく必要があるわけです。
ここで、上の画像などを参考にネコの可動範囲をわかりやすく円に描いてみる。
おおよそこんな感じだろうか。
オレンジ色の円の中はネコの頭が届く範囲で、つまりそこに入るということはネコに噛まれる恐れがあるという非常な危険地帯。
その外側の黄色い円は前足が届く範囲で、そこに入るということはネコに引っ掛かれる恐れがある準危険地帯、ということになる。
■ 窮猫人を噛む
ネコをショコ棒で確保するためには、上の円領域の中にいるネコに近づかないといけません。
しかし人間が近づけば当然たいていのネコは逃げようと円の向こう端の方に遠ざかっていきます。
それをショコ棒で捕らえようとして単純に追いかければ、自らオレンジの円の中に入って行かなければならないわけですが、もちろんそんなことは絶対にやってはいけません。
『窮鼠猫を噛む(キュウソネコヲカム)』というのはネズミの話ですが、ネコも同じです。
もう逃げられないと追い詰められたネコも一転こちらに突撃してきます。子猫ならそんなことはあまりないですが、成猫の場合はむしろそれが普通の反応だと思った方が良いです。
ネコの本気のダッシュスピードに人間は対応できません。
こんな感じで反対側を向いていたネコに急に飛び掛かられて万一噛みつかれたりしたらどうなるか、想像してみてください。
そうならないためにはオレンジの円の中に入らず捕らえる必要があります。
反対側に回り込んでもネコがまた反対の方に逃げて行ってしまうのでそういったことを何回か繰り返してちょっとしたスキを見つけて捕らえるとか、長い棒を使ってネコを奥の方から追い立ててなんとか円のこちらの方におびき寄せてから捕らえるなどしないといけないのです。
そんな感じでやって、幸い私は今までネコに噛みつかれたり引っ掛かれたりしたこともないですが、それなりに慎重にやってるのと、あとはホント運もあるでしょうね。
さきのむめひ氏の慎重さとくらべれば3倍くらいあまいやり方ですからね。
■ ヒューマンエラーという絶対リスク
むめひ氏に限らず猟師の人というのは山に入っていく段階でネコなどよりもっと恐ろしい野生動物に遭遇する危険も想定した上で十分な装備と心構えをもって臨んでいるわけですから、はなから比べ物にはなりませんが…。
猟師でもない普通の一般人が庭などでこのようにネコの確保作業をする場合、装備の差以上に心構えみたいな部分に大きな差があるなというのは感じるところです。
一般人の場合は猟師と違ってたいていは日常生活のひとコマとしてやってることなので、そこの違いが意外に大きいのです。
日常生活には時空間の制約というものが明確にあって、意識に強い影響を与えているんですよね。
たとえば、時には夜遅く寝ようとした時にネコが捕まってああ明日仕事があるのに面倒だなと思ったり、時には朝早くに捕まってまだ眠いのに面倒だなと思ったり、あるいはやけに寒い日に捕まってこんな寒い日にあまり外に出たくないな面倒だなと思ったり、そういうことは良くあることで、そうすると手っ取り早く作業を済ましてしまおうと考える、そこに大きなスキが生まれるわけです。
ここで、むめひ氏の冷静な仕事ぶりを思い出すと良いのです。ネコを見てこの程度のネコなら大丈夫だろうと侮ったりするのは個人のそのときの気分や感情に大きく左右される危ういことであって、そのような感情を廃して地道に決められたルーティーンを手順通り遂行していくというのは、実は難しいことだとあらためて思うのです。
私自身振り返ってみても、だいたい9割方安全という感じでやってるつもりではいても、実際にはオレンジの危険領域に一歩二歩足を踏み入れることくらいは普通にあることで(人には絶対ダメだとさとしていてもいざ現場に臨むとついついやってしまうものなのです)、あとから考えるとさっきの踏み込みは少々危険ではなかったか(汗)と反省することもしばしばです。
その場では9割安全のつもりでいても日常生活の雑事・雑念が知らぬ間に入り込んでいて、実際の安全性は6割、5割に落ちているなんてこともめずらしいことではないのです。
これらはよくヒューマンエラーとも呼ばれているもので、一般に事故防止上の難題とされているものでもある。
わりと手なれた人間でもそのような事故の危険があるとすれば、はじめてそんな場面に出くわすような人はどれほどか…。
「ネコチャンニナンテコトスルノ!」といつも私に言って来るような、ふだんからネコにあまい考えの人なんかがもしそんな所へのこのこ出て行くようなことがあったら、危ないことこの上なしである。
「ばくわななら誰にでも作れるが誰にでもおすすめするわけではない」
と私が言うのは、このあたりのことが最大のネックになっているからなのです。
■ ワインドアップ作戦 ────“ネコヲ安全ニ確保セヨ”
しかし、私の本来の理想は、
「ばくわなを自分で作れるくらいの人であれば誰にでもおすすめしたい」
なのは言うまでもない。
その理想を実現するすべというものは果たしてないものだろうか?との思いからひねり出した新たな秘策、
それが「ワインドアップ作戦」である。
wind up とは「巻き取る」の意。平たく言えば「巻き取り作戦」である。
つまり紐を巻き取ってネコの可動範囲を小さくしてしまえば、オレンジ色で示した危険領域も雲散霧消する。確保作業を格段に簡単かつ安全なものにできるというわけだ。
具体策がこちら。
ばくわな前方の両脇に園芸用のポールを突き立ててみた。
以前、紐罠を仕掛けてた時だったと思うが、罠にかかったネコが近づいた私から逃げようとして、そばに生えていた細い木の回りを回り出して止まらなくなったということがあった。その間、紐がどんどん木にからまっていき最後にはネコ自身身動きが取れなくなって結果、異常に簡単に確保できてしまったのである。
その時は「ああ、楽に済んで良かった」と思っただけだったが、ずいぶん後になってからその時のことを思い出して、「あれは作戦として使えるんじゃないか」と思い立ち、今回こんな形にしてみたわけである。
・ばくわなに捕まったネコは紐につながれた状態であたりをあちこちうろつく。
・そのうち自然に紐がポールに掛かるが、ネコはそれにかまわず前を向いて歩き続けるので、必然ネコはぐるりとポールを中心にして回り始める。
・ネコはさらに逃げようとして前に進み続ける。ネコは前に進んでいるということは逃げられるということだと思い込むというか、逃げようと前に進める限りは前進し続けるという習性があるようで、結果ポールの回りをぐるぐると回り続ける。
・やがて紐が全部ポールに巻き取られてネコは身動きが取れなくなる。
・そこを確保!
という算段である。
巻き取り作戦とは言うものの、実際にはネコの習性を利用してネコ自身に紐を巻き取らせる。それによって極めてシンプルな仕掛けにできている点が私好みのポイントである。
■ マニュアル改訂が必要に
結果の動画がこちらであるが、ここで本題のワインドアップ作戦成否の話に移る前にひとつ。
今回の動画、捕獲失敗映像から始まるが、これは今回の作戦とは関係ない単なる捕獲の失敗だったので本来は入れる必要はなかったのだが、ちょっと注目すべき失敗だったので特別に入れてある。
これ最初はなんで失敗したのかよくわからなかったので、さして気にもしてなかったのだが、よくよく見ると右の爆弾ユニット、つまりマグネットでついているおもり乾電池がネコの首に落ちた瞬間に勢いがつき過ぎていて、すぐ外れているんですね。だから右の輪っかが下にまったく引かれなかった。
これはたまにある失敗かな…とは思っていたのだが、あまり明確ではなかったのでそのままにしていたのだが、ようやくここでしっかり確認できたのでした。
これ以降、私は右のおもりにマグネットを使うのはやめて、右の爆弾ユニットにも左のと同じテープ固定のものを使うようになった。
ナイロン紐を小さな目玉クリップではさんでいる力というのは大したものではないので、それでもネコの首元についた右の爆弾ユニットはすぐ外れるのです。
結局マグネットの力では弱すぎで、小さな目玉クリップのグリップ力ぐらいがちょうど良かったということですね。
爆弾ユニットを左右同じものにして作り方を簡略化できる上に、捕獲成功率も上げられるという、そんな気づきをあたえてくれた良い失敗でした。
これは将来、ばくわなのマニュアルページを改訂する際にはまっ先に入れるべき事項ということになる。
他にあのマニュアルで改訂すべき箇所としては、file01で指摘してたことだが、マニュアル作成時点ではトリガー板を浅めに設定するように推奨していたが、あれはやはり深めに設定した方が良いという結論に変わったという点。
現時点ではその二点か。
マニュアル動画の方の改訂は少々面倒なのだが、それもいずれはやりたいことである。
とりあえずここにこうしてメモしておくので、これからばくわなを作ってネコを捕まえようという人は、そのあたり留意した上でマニュアルを見てください。
以上実務的注意事項でした。
■ ワインドアップ作戦はつづく
で肝心のワインドアップ作戦の方ですが、こちらも見事に失敗でした。
ネコの力なめてましたねw
一瞬うまくいくかと思ったものの、あっさり倒されて終わりでした。
しかしこれも作戦としては失敗でしたが、実験として考えれば得るものの多い良い失敗だったかもしれません。
この失敗を次に生かすべく、ワインドアップ作戦はつづきます。
2024年2月22日
by 皆ショ計画