猫捕獲に関するあれこれ

猫を捕獲するにあたって必要なあれこれの話



ばくわな実戦ファイル


file02 敵ヲ知リ己ヲ知レバ────強敵猫モ速ヤカニ捕ラエルベシ


不可解な失敗
人間ふとした思い込みから失敗する。
今回はそんな話です。



file01に続き今回も失敗映像から入ってみました。
最初にこの失敗映像を見た時は「あれ?捕まってもおかしくない感じだったように思うが、その割りにはやけにあっさり逃げられた??」という妙な感じがした。

この猫は私もこの時が初見で、猫の方も当然この罠には初遭遇だったわけです。
トリガーのマット板の位置も普通だったし、作動タイミングも悪くなかったはず。それでも逃げられたということはよほど猫の運動能力が優秀だったのでしょうか?

ばくわなにとって手強い猫とは?

あらためて今回の猫の体格を見てみると比較的小柄です。私は猫の体格から年齢を推定するようなことはできませんが、反応速度などを見ても瞬発力のある若い猫なのは間違いないと思います。
一方、このばくわな開口部の円周は45cmなので直径にすると45÷3.14=14.3で14cm程度はあります。これは大きな猫でも楽に首を入れやすいようにと元々大きめに設定してあります。
なので罠が発動してから紐が首の大きさにしまるまでのタイムラグは当然小さな猫ほど大きくなるので、小さい猫の方が逃げるには有利なわけです。
逆に体が大きな成猫などは猫同士の喧嘩なら負けない強い力があっても動きが鈍重なのでこのような罠に対しては無力。首、および頭の大きさも不利に働くので、一番捕まえやすい恰好のターゲットと言えます。
つまり、今回の動画の猫は、
① 小柄だった分逃げるチャンスがあった
② 若くて俊敏な動きで紐をかわした
③ file01の猫と同じく開口部に対して横位置から斜めに首を入れていたので、すばやく左耳を外して逃げられた
このような分析が一応はできます。
ばくわなにとっては、なまじ力の強い成猫などよりも小柄な若い猫の方が手強い敵なのだと。

ですがそうして失敗画面を眺めていてそのある一部分に目がとまった時、それまでなんとなく感じていた違和感の正体がわかった気がしました。
結論から言うと今回の失敗の原因は猫にもなかったのです。

引かれなかった紐の謎

画像の赤丸の部分に注目です。右は前回file01の画像です。
輪の大きさが全然違いますね。
失敗の場合でも、紐は猫の頭に引っ掛かりながらおもりによっても引かれ続けるので最後は右の画像のように輪が非常に小さくなって地面に落ちるのが普通なのです。
今回の左の画像では、紐が猫の首に落ちてから紐があまり引かれていないのがわかります。 猫の頭に引っ掛かって多少引かれただけでおもりによってはほとんど引かれてない感じと言うか、 輪が引きしぼられることなくそのままボトッと落ちたという感じです。

では、なぜ今回に限ってこんなことが起きたのか?
左右の画像をさらにじっくりと見比べてみます。紐以外の大きな違いとして今回はブロックでしっかり雨除けをつくってありました。それも半分濡れていることから雨上がりだということがよくわかると思います。
ということは、ひょっとすると雨が関係している??

そこに考えが至った時、自分は今までなんというか大きな勘違いをしていたかも知れないと気が付いたのです。
記憶をさかのぼると、それは私のささいな一つの思い込みに起因したものではないかと‥‥。
話は、ばくわなの作り方でナイロン紐を用意する場面にまでさかのぼります。

ナイロン紐の切り口はバラけやすいのでライターの火であぶって溶かしてやるとうまくまとまる、というのがありました。
これは事実で間違いないのですが、その性質を見て私はこのナイロン紐というのはプラスチックのようなものなのだろうな、と勝手に思い込んだわけですね。
であれば水などは完全にはじくだろうから関係ないはず。雨の影響など考える必要もなかろうと。
以来ずっとその考えで来てたわけです。
それでなんら問題が起こることもなかったので潜在的な考えとしてあったというだけですが、それがここに来て急に、雨が失敗の原因かも?、水が紐に影響しているかも?となって「え、そんなことある??」と大いに戸惑うこととなったのは言うまでもなく、この時点ではまだ疑問だらけでした。

ナイロン紐×雨=重
ともかくナイロン紐、特にその水との関係について調べ直してみる必要があります。

この表はロープ製品製造のユタカメイクのページにある 『◆ ロープの主要素材 素材別特性』 から一部を抜粋したものです。

>ナイロン…吸湿力5%とやや水を吸う性質があります。

とはっきり書いてありますね。吸湿力5%というのは綿ロープなどに比べればずっと少ないものの、他の合成繊維と比べればかなり高めの数字ということになるようです。
それではと実際にナイロン紐を水にさらしてみてその感触の違いを自分でも確かめてみましたが、確かに水を含んで重さを感じました。また紐表面のすべり具合も乾燥していた時よりも悪くなっていてこれだと少し引っ掛かりが出るかな、という感じがしました。

ナイロン紐×雨×乾=硬
ならばこれで納得‥‥でしょうか?‥‥‥いや、どうも釈然としないところが。
吸水率5%というのはそれほど高い数字ではありません。
その程度の、多少重くなってすべりも悪くなったくらいのことで果たして紐があそこまで引かれないなんてことがあるのか?
疑問なのです。
そんなすっきりしない気分で上の表を見ていた私ですが、そこにもう一つ気になる記述がありました。
それはナイロン紐の項目ではなくてビニロン紐の項目にです。

>ビニロン…水に濡れ、乾くとやや硬くなる性質があります。

これです。
実はこれに少し心当たりがあったのです。

今回の動画の猫は久しぶりにウチの庭に来た猫でした。前回の捕獲から確実に一か月以上あいていました。
その間紐はずっと不動の状態のまま雨に濡れて乾いてを何回も繰り返していました。
餌のカリカリは雨にあたって溶けたりというか蟻や虫がたかってたりで何回かなくなってたのでその都度補充していました。
そういう餌を補充して置く時でも紐は動かさずにいたのですが、少し触れた感じでなんとなく紐が固くなっているんじゃないかと思ったことが確かにあったのです。
ただそんな短期間でナイロン紐が劣化することなどあるわけもなし、そういう紐に関する懸念などはたいてい「気のせい」ですませていたんですね。
それが「気のせい」じゃなかったのかもしれないと。

ではこの『水に濡れ、乾くとやや硬くなる性質』とはなんなのか?ナイロン紐にもあるものなのか?
当然の疑問がわいてきます。

これは、ロープ屋本舗というロープ販売店の 『繊維ロープの材質別の特徴』 というページにある表です。

>ナイロンロープ…吸水性があり、徐々に固くなる。

やはりナイロン紐にも共通の性質のようです。一方、

>ポリエステルロープ…水に濡れても吸収力がないので、硬くなりにくい。

という記述もあります。
つまりこの表を見ると、硬くなるorならない、というのは吸水性によって左右される現象なんだなとわかります。
さらにいろいろ見てたら、どうやらこれは繊維物質全般に見られる現象のことらしいというのがわかってきました。
それも私たちが日常的に経験する範囲内でよく出くわしてることだったのです。

雑巾にまつわる不思議
たとえば、洗濯物を太陽にさらしてよく乾燥させてから取り込んだ時、服やタオルがパリパリになってたという経験をしたことはないでしょうか?
もっと顕著な例でいうと、雑巾です。
拭き掃除をしたあと雑巾などはバケツのふちに適当に掛けておきますよね。そのまま数か月ほど放置してひさしぶりに使おうと取り出したらゴワゴワの状態の雑巾になってバケツに引っ掛かっていた、などは普通によく経験することだと思います。
この現象です。
そんなゴワゴワの雑巾も水に浸してほぐしてやればまた普通に雑巾として使えるようになるので、この現象を特に気にしている人はいないと思います。
私もそうでしたが、雑巾というのはただそういうもんだと思ってるだけじゃないでしょうか。
でなくても、もともとがボロい布なのでいろいろ拭いてたらそうなるのだろうとか、汚れとかがついた後乾いたからそうなってるんだろうなとかで適当に納得してる人が多いんじゃないかと思います。
ですが実際には新品のふわふわの布の状態の雑巾を買ってきても、水につけて軽く絞って放置しておくだけで乾燥するとゴワゴワの硬い状態になってしまうのです。何もしなければふわふわのままなのに。
水を含ませて蒸発させただけでそのような物質の変性が起こるというのは、考えてみると不思議なことに思えます。

水素結合というありふれた魔物
下の図は「紙への道」というホームページの 『コラム(81) 〈資料〉 水素結合について』 のページから拝借してきたものです。 紙製造の過程を説明している図ですが、雑巾が乾く過程でも原理的にはこれとほぼ同様のことが起こっていると考えられるのです。

タオルや雑巾などの繊維はセルロースという長くつながった大きな分子(高分子)から成っています。セルロース間にはそれなりのすき間があるので繊維物質は柔軟な性質を持っているわけですが、そこに水(H2O分子)が侵入してくると一番上の図のようになります。このときH2O水分子はセルロース分子と水素結合します。この水素結合というのは水分子同士を結びつけている力でもあり、ここではお互いにゆるやかな結合状態にあるということです。
そこから水分子が蒸発によってなくなっていくとセルロース間の距離が縮まっていきます。
そして水分子がすっかりなくなってしまうと今度は接近したセルロース同士が水素結合します。この状態が一番下の図です。
水素結合というのは水分子同士をつなげている力ということからもわかる通りそれほど大きな力ではありませんが、セルロースという大きな分子のいたるところで水素結合がおこなわれることになるので、結果セルロース同士が強い力で固まって硬い繊維物質になってしまうわけです。

このような硬化現象が今回のナイロン紐にも起こっていたと。 紐がまったく動かされないまま一か月程度濡れて乾いてを繰り返し、水素結合による硬化がどんどん進行していたと考えられます。
いわば乾ききった雑巾のような硬い状態になっていたんだなと頭に思い浮かべれば、紐が引かれなかったのも合点がいくというものです。
失敗時はまた紐が雨に濡れて重くもなっていて最悪の状態だったかもしれません。

謎が解ければ猫おのずと捕まる
一週間後、二度目の捕獲チャンスが来ました。

紐は一度罠から取り外してしっかりほぐしてから掛け直し。
放置が続いて紐が固まっているなと思ったら、一度紐を罠から外して軽くほぐしてやりましょう。それで捕獲には十分な柔軟性を回復させることができます。
初見で素早い反応を見せた猫なのも確かですし、一度失敗しているので警戒される可能性も考慮して、トリガーのマット板はほぼ最奥ともいえる深さにしておきました。
こうして暗視カメラを通して見てもかなり奥にあるのがわかりますね。

たまにしか来ない猫だし、次逃したら三度目はいつになるかわかりません。あっても失敗が続くと素直には首を入れてくれなくなるケースもあるので、ここは「次で絶対捕まえる!」という強い構えで臨みました。
結果、見事捕獲に成功!

今回の失敗、直接の原因はナイロン紐を過信したことによるメンテ不足にあったと言えます。
ささいな思い込みに端を発した私の認識ミスが招いた失敗でした。



2022年8月22日
by 皆ショ計画






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