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サラとリュートの冒険譚  作者: 水曜日のビタミン
第1章 イーノ村の秘密
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第1話 サラ



 目つきの悪いウミネコがニャーニャーと騒がしく海上を飛び交い、空からは若葉の季節には似合わないジリジリとした日差しが降り注ぐ。

 その日差しを浴びながら、海沿いの小都市ナ・パリを目指して進む一人の剣士がいた。サラ・ヘンドリクス。彼女は、冒険者だ。


 流れるような金髪に、空を切り取ったような淡く澄んだキトンブルーの瞳。少し日に焼けた肌と豊かな胸を白磁のようなビキニアーマーが包み込む。

 絵画のように美しい容姿とは対照的に、彼女の背には殺意の塊のような大剣が揺れ、胸元には手刀で貫かれたかのような傷跡が刻まれている。


 そんな生と死が混在する危うい魅力が彼女にはあった。


 彼女は、ダチョウに似た愛鳥パトリシアの手綱を引きながら、冒険者ギルドへ足を進めている。

 ギルドでのサラのランクは、上から三番目のB級。熟練者とみなされても不思議ではないが、幼さを残す顔立ちのせいで、冒険者見習いやルーキー扱いされることも少なくなかった。

 もっとも彼女の特徴的な容姿に気づいた者は、苛烈な二つ名を思い出し、息を呑み、後ずさるのだが……。



 港からコツコツと音を響かせる硬い石畳の坂道を登り、商店街が立ち並ぶ大通りから1本外れた通りを歩く。そこは、酒の香りや焼き魚の匂いが漂う歓楽街の一角であり、その中に目当ての冒険者ギルドは建っていた。

 建物は黒い焼き杉板が張られた木造の3階建。1階部分の天井が高いため、隣接する4階建ての宿屋と屋根の高さはほぼ同じにみえる。

 サラは、愛鳥パトリシアを馬舎――いや、鳥舎に預けると、「さて、今度はどんな魔物に出会えるか」と独りごち、重厚な観音扉に手をかけた。

 

 「ごッ!」という音と共に扉がゆっくりと開き、中へと足を踏み入れると、賑わっていた冒険者たちの会話が止まり、視線が一斉に集まる。

 直後、慇懃な視線と共に壁にもたれたリザードマンが長い舌をぺろりと出し、



「おう、ねぇちゃんいくらだい?」



 サラは一瞥をくれることもなく、ホールの中央を進み受付へと向かうと背後から、


 「おい、あのビキニアーマーと大剣……」、「あのトカゲ死んだな……」とざわつく声が漏れた。


 サラには『鮮血の河馬』という二つ名がつけられている。もちろん本人が望んだものではない。

 それは、身の丈ほどの大剣を振るい、魔物も人も区別なく真っ二つにし、降りかかる返り血を拭うこともなく戦い続ける。そんな苛烈な戦い方からついた二つ名である。


 サラは、背後の雑音を黙らせる様に、ごきっと首を鳴らすと、【討伐・採取】、【捜 索】、【傭 兵】の三つに組み分けされた依頼板に目を向けた。



【討伐・採取】

 ●C級 レッドスネーク…銀貨1枚

 ●D級 エルダートレントの茎頂花…銅貨5枚

 ……


【捜 索】

 ●C級 大鍾乳洞地下5階で行方不明になった剣士 生死問わず…銅貨8枚

(有力情報には銅貨1枚)


 ●F級 港周辺で行方不明になった三毛猫(ちーちゃん)…鉄銭2枚

 ……


【傭 兵】

 ●D級 材木問屋 マンダリン商船の護衛(エストレヤ王都まで)……鉄銭3枚/日(飯2食付)


 依頼に目を通すと、レッドスネーク討伐の札を手に取った。


 それはC級ランクの蛇の魔物を討伐する依頼だ。レッドスネークの毒は厄介だが、群れる性質がないため、相性は悪くないと判断。この依頼を受けることに。そのまま近くの宿に泊まり、この日は静かに就寝した。




 翌朝、「セーリャ、ソーリャ」という勇壮な掛け声を聞きながら地引網を見守っていると、山裾から体長10メートルほどの赤い蛇が出現。

 怯む漁師たちを背に、サラはすらりと大剣を引き抜く。蛇が鎌首をもたげた直後、一撃で頭部を真っ二つに裂き、頭を失ってもウネウネと動き続ける胴体も細切れに変え、あっさりと決着。


 ガタイのいい漁師達に朝から祝勝会を打診されたが、「それなら、奥さんも一緒にどうだ?」と返したら、「いや、それは……ほら、な……」と、目が泳いだので、酒だけ受け取りやんわりと辞退した。



 ギルドへ戻り、レッドスネーク討伐の報告を終えたサラは、3階の食堂でご褒美のリンゴタルトを注文。


 食べ終えたタイミングを見計らって、豆柴のような耳と尻尾をした犬系獣族の受付嬢(名前はたしかエマ)が膝を折り、目線を下げて話しかけてきた。


「――失礼します。サラさんに受けていただきたい依頼があるのですが、お話を聞いていただけないでしょうか?」

「……どんな依頼だ?」


 サラは、シロップの付いた口元を布巾で拭きつつ、横目でチラリとエマの目をみる。


「魔物の調査です」


 エマは、サラの目を真っすぐに見つめ、しかし、淡々と依頼内容を伝えてきた。

  サラは手にしていた布巾を置き、面白くなさそうに紅茶を手に取り、


「調査? 討伐依頼なら受けるが、『調査』は私には向いていない。ギルドの職員なら私の二つ名を知っているだろう?」

「はい。……なかなか苛烈なお二つなと聞き知っております」


 エマは申し訳なさそうに、うつ向きながら答えるも言葉を続ける。


「……ですが情報が本当だった場合、A級冒険者のいないこのギルドでは、サラさん以外に頼める人がいないのです」

「つまりA級以上の依頼ということか……分かった。詳しく教えてくれ」


 サラは、紅茶を受け皿に戻して、エマと目を合わせた。


 ――上位の依頼なら話は別だ。


 サラは隣の椅子を引き、着席を促す。


 エマは軽く会釈をし、「失礼いたします」と一言添えた後、サラの向かいの椅子に静かに腰を下ろすと、ゆっくりと息を整え、落ち着いた声で話し始めた。



「西のサーレイ山脈の麓にあるイーノ村で、巨大な熊の魔物の目撃情報が寄せられました。戦闘した冒険者によると、氷魔法が効かなかったそうです。

 ……となると信じがたいですが、A級ランクの魔物ポーラーベアか混血のハイブリッドベアの可能性が考えられます。

 それに……他にも明らかに生息域の違う魔物と遭遇した、との情報があります」

「……見間違いということもあるぞ。冒険者が自身の体験を誇張することはよくあることだ。

 ーー情報源は誰だ?」

「……B級冒険者パーティーの『クロスロード』のユーゴです」


 訝しがるサラが見据えた視線の先、エマの瞳には、涙が溜まっていた。


「クロスロードは、タンカーのユーゴ1人を残して全滅しました。

 生き残ったユーゴもその時の怪我が原因で、先日、息を引き取りました……」


 その反応からサラは察した。冒険者の死に慣れたギルド職員が感情を表に出すという事は、この獣族の娘は、ユーゴの親しい知人か身内だろう。



「――報酬は?」



「金貨1枚に加えて特別討伐報酬として銀貨5枚を差し上げます」


 提示された報酬額は破格だった。S級依頼の報酬と比べても遜色ない額だ。

 それに、特別報酬が設定されているということは、やはり……


「ユーゴは……私の兄です サラさんお願いです。兄の仇をとってください」


 エマは、震えた手で首から下げた丸い青い石を握りしめていた。


 サラは、ユーゴを知っている。


 駆け出しの頃、一緒に依頼を受け、命を助けられたことがある。もっとも若気の至りから上手く連携できず、それきりになってしまったが。


「……報告書だが、私に委細な文書は、期待するなよ」


「はい。 それでは、受けていただけますか?」

「受けよう! さっそく立つ!」


 こうしてサラはイーノ村へと向かった。


ご拝読いただき、ありがとうございます!

水曜日のビタミンと申します。

どうぞよろしくお願いします。


○設定解説 通貨


この世界の通貨は各国共通で日本円に直すと次の価値があります。


金貨1枚:200万円(人一人が1年間食べていける程度)

銀貨1枚:20万円

銅貨1枚: 2万円

鉄銭1枚:2千円

それぞれに5枚分の価値がある大金貨、大銀貨、大銅貨、大鉄銭

半分の価値がある小金貨、小銀貨、小銅貨、小鉄銭があります。

鉄銭より下は、石銭や屑鉄銭で最も小さい端数は無いので、焼き菓子や豆菓子が渡されます。

石銭は地域によって屑水晶等も使われています。


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