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刑法事例演習教材(第3版)解答例


刑法事例演習教材(第3版)の解答例です。
とりあえず現時点ではサンプル(16問/52問中)として無料公開します。

この教材をやれば、予備試験・司法試験のあらゆる問題に対応できるので、確実に超上位Aが取れますが、独りで学習するには難しすぎる教材のように思います。
解説は付いていますが、そこまで詳しく書いていないのと、答案例も無いので、実際にどう書けば良いんだ?という疑問が湧くと思います。
そこで、メルカリで発売されている解答例や予備校の出している講座を買う方も多いと思いますが、解答例と相性が合わないという方も多いはず。
相性が合わない理由として、論証が異様に長かったり、冗長な論述であることなどが多いようです。

この解答例は、問題文の事実引用ゲームという予備試験・司法試験のゲーム特性を踏まえたものとなっていますので、論証は短めとなっていますし、冗長な論述は避けて濃淡づけした論述を心がけています。
そのため、そういった相性が合わないという問題にも対処できます。
また、点取りゲームの特性を踏まえた学習ができると思いますので、刑法の点数アップに大きく寄与できると思います。

第3版は、全部で52問有りますが、年内に完成させて有料化したいなと思っています。
とりあえず、サンプルということで、16問目まで掲載します。(2023.12.19 18:52)



事例1 ボンネットの上の酔っ払い

1甲がAの顔面を手拳で軽く1回殴打した行為の暴行罪(208条)の成否
(1)上記行為はAの身体に向けられた不法な有形力行使であり「暴行」に当たる。
(2)もっとも、正当防衛(36条1項)が成立し違法性阻却されないか。
 まず、Aが甲の車の窓に手を入れてきて甲の胸倉を掴もうとしており、甲の身体という「自己・・の権利」に対する法益の侵害が間近に押し迫っていることから「急迫不正の侵害」が認められる。
 また、甲は、A及びBから危害を加えられるのではないかと考えており、急迫不正の侵害を認識しこれを避けようとする単純な心理状態にあり防衛の意思が認められるから「防衛するため」と言える。
「やむを得ずにした」行為とは防衛行為が必要最小限度性を有することをいう。
 Aが甲の車の窓から手を入れて来たものの甲はこの手を払い退けることができていることから、この行為に限っては必要最小限度性を有する。
 しかし、車の窓を閉めればAから新たな加害を受けるおそれは無いのに、いきなりAの顔面を手拳で軽く殴打する行為は必要最小限度性を有しない。
 したがって、「やむを得ず」にした行為とは言えず正当防衛は成立しない。
 よって、違法性阻却されず暴行罪が成立する。
(3)なお、過剰防衛として刑の任意的減免となる。(36条2項)
2甲がBの体から約1メートル離れた地点に車を進行させた行為の傷害罪(204条)の成否
(1)まず、甲の上記行為は、Bという「人の身体」に向けられた不法な有形力の行使として「暴行」(208条)にあたるのか、接触の要否が問題となるが、傷害の危険を有する有形力の行使があれば「暴行」に当たると解する。
 本件では、Bの体から約1メートルという至近距離の地点を車で進行させたことから、傷害の危険を有する有形力の行使といえ「暴行」に当たる。 
(2)Bに全治1週間の打撲傷という生理的機能障害を生じさせており「傷害」したと言える。
(3)また、Bの傷害結果は、甲の上記行為との条件関係が認められる上、その行為の危険がBの傷害結果へと現実化したといえ、因果関係も認められる。
(4)なお、傷害罪は暴行罪の結果的加重犯であり、結果的加重犯は基本行為に重い結果を生じさせる高度の危険があるため、加重結果を生じさせることへの過失は不要で、因果関係があれば足りる。
 よって、傷害罪の客観的構成要件に該当する。
⑸ また、甲には故意(38条1項本文)もある。
⑹もっとも、甲の上記行為に正当防衛が成立し、違法性阻却されないか。
「急迫不正の侵害」とは、法益に対する侵害が現に存在しているか又は間近に押し迫っていることをいう。
 甲とAは日が変わる直前に交通トラブルを起こし、甲がAに暴行を加えてその場から逃走した事実を契機として、AはBが運転する車で追いかけて来ている。
 そして、Bの運転する車で甲の車の前方に斜めに覆い被さって車を止めたことから、Aは甲に仕返しする目的で追跡してきたものと言える。
 更にAは、Bの車から降車すると「こいつや、こいつや」などとBに向けて言いながら棒切れ様の物を手にして甲の車に近づいていることから、間も無くAが甲に加害する意思があることは明らかである。
 また、Bも、自車を運転してAを現場に運ぶだけでなく、甲の車を無理やり止めた上にAの呼びかけに応じて降車しAの後ろから甲の車に近づいて行った。そのため、Bも、Aと共に甲に危害を加えようとしていることは明らかである。
 したがって、A・B両者による、甲の身体という「自己・・・の権利」に対する侵害が間近に押し迫っており「急迫不正の侵害」が認められる。
 そして、甲は、A及びBから危害を加えられるのではないかと考えその場から逃げようとしているため、急迫不正の侵害を認識しつつこれを避けようとする単純な心理状態にあり防衛の意思が認められ「防衛するため」といえる。
 さらに、甲は、36歳のAと34歳のBという歳若い二人組から、例えば車の窓ガラスを破壊され車外へと引き摺り出されて相当激しい危害を加えられるなどのおそれが強い状況であるのに、その場所に滞留した上で警察への通報を求めたりすることは困難と言える。
 したがって、上記行為は必要最小限性を有するといえ「やむを得ずにした」行為といえる。
 よって、甲の上記行為に正当防衛が成立し、違法性阻却される。
(6)以上より、上記行為に傷害罪は成立しない。
3甲がAを車のボンネットに乗せたまま車を発進させて振り落とした行為の殺人未遂罪(203条、199条)の成否
(1)まず、「殺」「人」の実行行為とは、自然の死期に先立って人の生命を断絶させる現実的危険性を有する行為をいう。
 本件では、甲は、時速70キロメートルという非常に高速度で車を疾走させているところ、Aが車から落ちた場合、コンクリートに全身を強く打ち死亡する危険性が認められる。
 また、疾走していた場所も京都市内の国道という深夜であるとしてもある程度の車の往来が認められる場所であり、Aが車から落ちた直後に他の車に轢かれることで死亡する危険性もある。
 よって、甲の上記行為は自然の死期に先立って人の生命を断絶させる現実的危険性を有する行為といえるから、「殺」「人」の実行行為といえる。
(2)Aは死亡していないから「殺した」とはいえず、未遂である。
(3)そして、前述のように甲の上記行為は客観的にAの死の危険性の高い行為であり、甲はそのことを認識した上で上記行為に及んでいる以上、甲にはAの死という結果発生についての未必の故意が認められる。
(4)もっとも、甲の上記行為に正当防衛が成立し、違法性が阻却されないか。
まず、Aは棒切れ様の物を手にして甲の車のボンネットの上に飛び乗ってきているから、甲の身体という「自己・・・の権利」に対する「急迫不正の侵害」がある。また、甲には防衛の意思も認められる。
 では、甲の上記行為は「やむを得ずにした」といえるか。
 既にBは転倒地点に取り残され、甲とAは一対一の状況にある上、Aは車のボンネットという不安定な場所にしがみ付いていることから加害行為をすることは困難な状況にある。
 そのため、甲としては、車をより低速に走行させて車道上にAが転落することがないように急ブレーキや蛇行運転を控えた上で、安全な場所に走行して警察に通報を求めるなど、Aの生命身体の安全に配慮した行動が十分可能であったといえる。
 したがって、必要最小限性を有する行為とはいえず「やむを得ずにした」行為とはいえない。
 よって、甲の上記行為に正当防衛は成立せず殺人未遂罪が成立する。
⑸なお、過剰防衛として刑の任意的減免を受ける。
4罪数
 甲は暴行罪及び殺人未遂罪の罪責を負い、両者は併合罪(45条前段)となるが、いずれも任意的減免を受ける。
以上

事例2  D子は見ていた

1 甲が、Aが置き忘れた財布(以下「本件財布」という)を持ち去った行為についての窃盗罪(235条)の成否
(1)まず、本件財布はAという他人の所有する物であるため、「他人の財物」にあたる。
(2)「窃取」とは、他人が占有する財物を占有者の意思に反して自己又は第三者の占有に移すことをいう。
 本件財布は他人Aの所有であるが、Aが置き忘れており、甲が領得した時点で占有が失われているならば「窃取した」とはいえない。
 そこで、占有の有無が問題となる。
ア占有とは財物に対する事実的支配をいい、支配の事実と支配の意思により判断する。
イ本件において、甲が財布を領得した時点は、D子の供述によれば置き忘れから最長2分程度であり、その間に、Aはエスカレーターで本件スーパーマーケットの6階から数階分下っていたはずである。
 そうすると、甲の領得時点で、Aは、戻ってくるのに2分程度かかり、また財布の状況を窺うことができない別の階にいたことになるから、現実的支配を直ちに回復できる状況にあったとはいえない。
 よって、Aの占有の継続は否定される。
 また、置き忘れに気づき注視していたD子は、財布を確保し又は第三者に持ち去られないような措置を講じていたわけではないから、占有を取得していない。
 さらに、スーパーマーケットBの店長に占有が移っていたともいえない。なぜなら、大型スーパーマーケットのように不特定多数が出入りする場所の場合、場所に対する管理だけでは、置き忘れられた物に対する客観的支配として弱いからである。
ウよって、A、D子、B店長いずれの占有も否定されるので、本件財布を「窃取した」とはいえない。
(3)以上より、窃盗罪は成立しない。
2それでは、甲の上記行為に、占有離脱物横領罪(254条)が成立しないか。
(1)まず、上述の通り、本件財布は、Aという他人の所有物であって、誰の占有にも属しないため、「占有を離れた他人の物」にあたる。
(2)次に、甲は、本件財布を拾得しており、これは不法領得の意思を発現する行為といえるため、「横領」にあたる。
(3)甲は、財布が置かれているベンチから3m離れた自販機のところにいたCが持ち主と誤信して、Cに見つからないように財布を領得している。
 甲の認識した事実は、「持ち主がすぐ近くにいる状況で、財布を領得する」というもので、これは、Cの意思に反する占有移転としての窃盗の事実の認識に他ならない。
 そのため、甲は、客観的には占有離脱物横領罪に当たる事実を、主観的には窃盗罪の故意で実現したことになるから、いわゆる抽象的事実の錯誤として、故意犯の成否が問題となる。
ア故意責任の本質は、反規範的人格態度に対する道義的非難であり、規範は構成要件の形で一般人に与えられているから、構成要件に実質的な重なり合いが認められる場合、その重なり合う限度で規範の問題に直面できる。
 そこで、保護法益・行為態様の共通性から、かかる重なり合いが認められる限度で、故意が認められる。
イ窃盗罪も占有離脱物横領罪も共に所有権を保護法益として含んでいる。
 また、行為態様も他人の財物の領得行為である点で共通している。
 そのため、両者は占有離脱物横領罪の限度で実質的な重なり合いが認められる。
ウしたがって、占有離脱物横領罪の限度で故意が認められる。
(4)よって、占有離脱物横領罪が成立する。
3また、甲の上記行為に、Cに対する窃盗未遂罪(243条、235条)が成立しないか。
(1)まず、上記行為に実行行為性が認められるか。
 甲としては、客体が「Cが占有する物」だと思って盗もうとしたところ、実は「誰も占有していない物」であったために、遂げられなかった。そこで、不能犯にならないか、未遂犯と不能犯の区別が問題となる。
アこの点、①行為時に一般人が認識し得た事実および②行為者が特に認識していた事実を基礎に、一般人の感覚で危険性を判断すべきであると解する。
イ本件において、①近くにいたというだけでCが持ち主と即断するのが通常とはいえず、一般人がそうした事実を認識し得たとはいえない。
 また、②甲は本件財布が「Cが占有する物」であると認識しているものの、これは客観的事実に合致しない。そのため、本件財布は「誰も占有していない物」であったという事実が基礎になり、一般人の感覚では窃盗罪の危険性は認められない。
ウしたがって、上記行為は実行行為性を欠く。
(2)よって、窃盗未遂罪は成立しない。
4以上より、甲は、占有離脱物横領罪の罪責を負う。
5 甲が売上伝票に A と署名し、F に交付した行為に有印私文書偽造(159 条 1 項)・同行使罪(161 条 1 項)の成否
⑴売上伝票は、売買契約による代金支払義務の効果を発生させるであり、「権利、義務...に関する文書」にあたる。
「偽造」とは、作成者と名義人の人格の同一性を偽ることをいう。作成者は、文書を表示した意思の主体であり、名義人は文書から観念される作成者である。
 そして、売上伝票への署名は本人確認の一環として行われるから、文書から観念される作成者はAであるため、名義人はAである。他方で、実際の署名をして文書を表示した意思の主体は甲であるため、作成者は甲である。
 よって、作成者と名義人の人格の同一性が偽られているから「偽造」に当たる。 
⑵ 甲は、「他人」Aの「署名を使用」した。
⑶ 甲には、故意(38条1項本文)及び「行使の目的」がある。
⑷よって、有印私文書偽造罪が成立する。
6甲は、売上伝票(「偽造文書」)を真正な文書として、F の認識可能な状態においたから 「行使」したと言え、有印私文書偽造・同行使既遂罪が成立する。
7甲が、A 名義のクレジットカードを F に提示して1万2,000円相当の商品を買った行為の詐欺罪(246 条 1 項)の成否
⑴ Fは店員として財物の交付権限を有しているから「人」である。
⑵「欺」く行為とは、相手方が財物交付の判断の基礎となる重要な事項を偽る行為をいう。
 まず前提として加盟店Bは信販会社から立替払いが受けられるのだから財産的損害が生じないとして「欺」く行為としての実行の着手(43条本文)がないのではないか。
 この点、詐欺罪は個別的財産に対する罪であり財物交付により当該財物が損害として発生するし、クレジットカードは、本来名義人のみの使用が許されており、加盟店が本人確認義務を怠ると信販会社から立替払いを受けら れなくなるリスクがある。
 そのため、財産的損害が生じうるから「欺」く行為にあたり得る。
 そして、加盟店及び店員 F にとって、クレジットカードを使用する者がクレジットカード名義人本人であるかは上記のとおり財物交付の判断の基礎となる重要な事項にあたるところ、甲は、Aであると偽っているのだから、これは「欺」く行為にあたる。
  これにより、店員Fは、甲が A だと錯誤に陥り「財物」である商品を「交付」した。

⑶甲は、故意及び不法領得の意思に欠けるところもない。

⑷よって、詐欺既遂罪が成立する。
8罪数
①占有離脱物横領罪、②詐欺既遂罪、③有印私文書偽造・④同行使既遂罪が成立し、③と④は牽連犯(54 条 1 項後段)、これと②も牽連犯となる。これらと①は併合罪(45 条 1 項前段)となる。
以上

事例3 ヒモ生活の果てに 

第1甲の罪責
1甲がBの頭部を5回殴打した行為について、傷害致死罪(205条)が成立しないか。
(1)甲はBという「人」の頭部(「身体」)」に故意の暴行を加え、硬膜下出血、くも膜下出血などの生理的機能障害という「傷害」を負わせ(204条)、その後Bは「死亡」した。
(2)もっとも、Bが硬膜下血腫の傷害を負ってから死亡するまでに、甲が殺意をもって医療措置を受けさせなかった不作為が介在していることから因果関係(「よって」「死亡させた」)が認められるかが問題となる。
 この点、行為の危険性が結果に現実化したといえる場合には因果関係が認められると解する。
 甲による救命行為を受けさせなかった不作為は、もともと存在した危険性を増幅させるものではないから、行為自体が硬膜下出血の傷害を発生させたものである以上は、行為の危険性が結果に現実化したといえ、因果関係が認められる。
(3)よって、甲の上記行為に傷害致死罪が成立する。
2甲がBを病院に連れて行かずに死亡させた不作為について、殺人罪(199条)が成立しないか。
(1)まず、甲(「人」)は、上記1の行為の時点で硬膜下出血、くも膜下出血などの障害に伴う脳機能障害を負っており、上記2の不作為は、自然の死期に先立って生命断絶する現実的危険性がある「殺」人の実行行為たりうる。
 もっとも、不作為によりなされているので実行行為性が問題となる。
ア不作為の実行行為性を認めるには、明確性原則及び処罰範囲の限定のため作為との構成要件的同価値性が必要である。
 具体的には、①作為義務があること②作為の可能性・容易性がある場合には、作為との構成要件的同価値性が認められ、実行行為性が認められる。
 ①については法令、契約、慣習条理、事務管理、先行行為、社会継続的保護関係などのほか、当該法益が行為者に具体的に依存しているといえる排他的支配の設定関係が認められるかを考慮して客観的に判断する。
 ②については行為者の主観的に判断する。
イ甲はBの同居の親族で継続的な保護関係があることに加えて、自らの故意の暴行という先行行為により上記危険を生じさせていたことなどからすれば、形式的にも救命する義務がある。
 また、住居内という密室の空間には甲の他には乙しか居ないのに、「私に任せておいて。」と言ったことから乙は自室に行ってしまい、甲とBの2人きりになった。そのため、Bの生死は甲に具体的に依存しているといえ排他的支配の設定が認められ、実質的にも救命する義務がある。(①)
 そして、近くに設備の整った総合病院があったのだから、甲は、自ら車でBを運ぶか、救急車を呼ぶだけで、医師による救命行為を受けさせることが可能かつ容易だった(②)
 したがって、作為との構成要件的同価値性が認められ、殺人の実行行為性が認められる。
ウそれにもかかわらず、甲はBを放置する不作為によりかかる義務を怠っているのだから、殺人の実行行為にあたる。
(2)Bは死亡した。
(3)不作為犯の因果関係については、条件関係の内容として結果回避可能性が要求されるところ、Bはすぐに治療を受ければ救命は確実であった以上、結果回避可能性が認められ、条件関係が認められる。
 そして、死因は硬膜下血腫に起因する障害であり、解消されるべき危険が現実化したものといえ、法的因果関係も認められる。
 したがって、因果関係は肯定される。
(4)さらに、甲は、意識を失わせてすぐに危ないと思っており、死亡の危険性があると認識しながらBの死亡を認容しているから、殺人の故意(38条1項本文)も認められる。
(5) よって、甲の上記不作為に殺人罪が成立する。
 なお、下記の通り、乙とは保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯となる。
3以上より、傷害致死罪と殺人罪が成立するが、いずれもBの生命・身体という保護法益を侵害しているが、一連の行為であるため包括一罪として、前者は後者に吸収される。
第2乙の罪責
1乙が、甲がBを繰り返し殴打するのを横目で見ながら放置した不作為について、傷害致死罪の幇助犯(62条1項、205条)が成立しないか。
(1)前提として、本件では、傷害致死罪の共同正犯(60条、205条)は成立しない。
 なぜなら、片面的共同正犯は認められないし、甲の暴行についての黙示の意思連絡は認定できない上、正犯として第1次的な責任を負うべきは直接結果を生じさせ因果経過を支配する作為者であり、背後の不作為者は正犯を通じて間接的な寄与をするにすぎないからである。そのため、原則として幇助犯が成立しうるに過ぎない。
(2)では、上記不作為は傷害致死の幇助といえるか。
アこの点について、第1の2⑵と同じ基準で判断する。
イ本件において、まず、乙はBの親ではないが、乙と甲・Bが同居を始めたのは乙が勧めたことがきっかけであり、親である甲の同棲相手として、監護者に準じる立場にあった。
 また、乙は共同生活の開始後2ヶ月ほどは、Bに夕食を与え、風呂に入れるなど世話をしていることからすれば、Bの継続的保護を引き受けている。
 さらに、他に同居者はおらず甲を止められるのは乙しかいないため、Bの身体の安全は乙に具体的に依存しているといえ、排他的支配が認められる。
 そのため、乙は、甲の暴行を阻止すべき作為義務を負う。
 次に、乙は男性であり甲は女性なのだから身体的能力差から暴行を直接阻止することは可能かつ容易であるし、また、甲は乙に嫌われたくないという両者の関係性を踏まえると乙が甲を口頭注意して暴行を止めさせることも可能かつ容易である。
 よって、作為との構成要件的同価値性が認められ、実行行為性が認められる。
 にもかかわらず、乙は甲の暴行を阻止せずに放置しているから、上記不作為は、傷害致死の実行行為にあたる。
(3)また、作為幇助において正犯を物理的または心理的に助長すれば足りることとの均衡から、期待された作為をすれば実行が困難になったといえれば因果関係も認められる。
 甲は元々乙に嫌われたくないという思いで暴行をしており、これまでにも甲はBに暴行を加えた際に乙から「やり過ぎじゃないか」と注意を受けると暴行を中止していたのだから、乙が期待された上記作為をすれば甲の実行が困難になったといえ因果関係が認められる。
(4)よって、乙の上記不作為に傷害致死罪の幇助犯が成立する。
2次に、乙が甲と合意して、Bを病院に連れて行かなかった不作為について、保護責任者遺棄致死罪(219条、218条前段)の共同正犯(60条)が成立しないか。
(1)まず、Bは重症を負っており「病者」に当たり、甲乙には作為義務が認められることは上記の通りであるので、いずれも「保護する責任のある者」である。
 そして、Bを放置して「遺棄」した。
 その結果、Bは死亡したのだから「前二条の罪を犯し、よって人を死傷させた」といえる。
 また、故意に欠けるところもない。
 よって、保護責任者遺棄致死罪が成立する。
⑵次に、甲の行為も不作為によるものであり、乙の行為も不作為であるのだから、作為正犯を幇助する場合とは結果に対する因果関係の寄与の度合いが異なる。
 そこで、共謀の有無や、結果発生に対する寄与の度合い、作為義務の程度を考慮して共同正犯か幇助犯かを判断する。
 本件では、意識を失ったBを前にして、甲から「私に任せておいて」と言われ、これに黙示的に同意しているから両者において、Bを遺棄することについての共謀がある。
 また、乙が甲を注意して病院搬送を促して救命措置を講じることは容易であったし、居宅内には甲乙2人しか居ないのだから乙が遺棄に同意すればBが死亡することは確実となる。そのため結果発生に対する寄与も大きい。
 さらに、Bの生命への具体的危険がある中で形式的にも実質的にも救命行為をすべきなのだから作為義務の程度も大きい。
 よって、両者は共同正犯にあたる。
⑶しかし、乙は、殺意のあった甲と異なり、Bが死ぬほどの状態ではないと思っており、殺意は認められず保護責任者遺棄の故意である。
 そこで、故意の異なる者の間の合意が「特定の犯罪」の共謀として認められるかが問題となる。
ア共同正犯は構成要件に該当する犯罪行為を共同するものであるから、共謀の対象である「特定の犯罪」は、特定の構成要件に該当する犯罪をいうため、故意の一致が必要である。
 もっとも、故意が異なるときも、行為態様及び被侵害法益の共通性をみて、構成要件の重なり合いがあれば軽い限度の罪の共謀が成立すると解する。
イ殺人も保護責任者遺棄致死罪も行為態様は同じであるし、共に人の生命という点で被侵害法益の共通性がある。
 そのため、重なり合う軽い保護責任者遺棄致死罪の限度で共謀が成立する。
⑷よって、乙の上記不作為に保護責任者遺棄致死罪の共同正犯が成立する。
3なお、傷害致死罪の幇助の方が保護責任者遺棄致死罪よりも重い上に、同一保護法益を連続的に侵害したに過ぎないので、後者は前者に吸収され包括一罪となる。
以上

関連設例〜相当程度の救命可能性しかなかった場合

まず、結果回避の見込みが乏しいときには、意味のないことは義務づけられないという趣旨で、不作為の実行行為性は否定される。
本件では、相当程度の結果回避可能性がある以上、作為の義務づけは可能であるため、作為義務違反としての実行行為性が認められる。
次に、不作為犯における因果関係の判断は、作為との均衡から「合理的な疑いを超える程度に確実」に結果回避できたといえればよい。
本件では、相当程度の救命可能性しかなかったため、期待される保護措置をとっていれば「合理的な疑いを超える程度に確実」に死亡結果が回避できたとはいえない。
そのため、不作為と死亡結果との因果関係(条件関係)が否定される。
よって、殺人未遂罪(203条、199条)が成立するにとどまり、傷害致死罪と併合罪(45条前段)となる。

事例4 黄色点滅信号

1甲が、普通乗用「自動車」を「運転」して左右の見通しが利かない交差点に進入するに当たっては徐行措置をとるべきであって、時速10ないし15キロメートルに減速し前方注視して交差点に入ることが求められているにもかかわらず、時速30ないし40キロメートルの速度で交差点に進入したことによりA車と衝突した行為に過失運転致死罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)が成立しないか。
(1)まず、この行為に「よって」Bという「人」を「死亡」させたことは明らかである。
 次に「必要な注意を怠り」とは、予見可能性及び結果回避可能性を前提とした結果回避義務違反をいう。 そこで、これらを以下検討する。
(2)予見可能性の検討
ア本件事故現場は、甲の車両が進行する幅員約8.7メートルの車道とAの車両が進行する幅員約7.3メートルの車道が交差する交差点であり、各道路には、それぞれ対面信号機が設置されているもの、本件事故当時は甲車の対面信号機は他の交通に注意して進行することができることを意味する黄色の灯火の点滅を表示し、A車の対面信号機は一時停止しなければならないことを意味する赤色点灯の点滅を表示していた。
 また、甲及びAが進行するいずれの道路にも道路標識等による優先道路の指定はなく、それぞれの道路の指定最高速度は時速30キロメートルであり、甲車の進行方向から見て左右の交差点道路の見通しは困難な状況にあった。
 道路交通法42条は「左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとし、又は、交差点内で左右の見とおしがきかない部分を通行しようとするとき」には、車両に対し徐行義務を定めているところ、仮に、甲が、本件交差点手前で時速20キロメートルで走行していた場合については、衝突地点から甲車が停止するのに必要な距離に相当する6.42メートル手前の地点においては衝突地点から28.50メートルの地点にいるはずのA車を直接視認することはできなかった。
 そのため、予見可能性がないとも思える。
イしかし、仮に、甲が、時速10キロメートルで走行していた場合については、衝突地点か甲車が停止するのに必要な距離に相当する2.65メートル手前の時点において衝突地点から22.30メートルの地点にいるはずのA車を直接視認することが可能であったし、仮に、時速15キロメートルで走行していた場合でも、衝突地点から甲車が停車するのに必要な距離に相当する4.40メートル手前の地点において衝突地点から26.24メートルの地点にいるはずのA車を直接視認することが可能であった。
 そうすると、予見可能性があったといいうる。
ウもっとも、本件のAは 酒気を帯び、時速最高速度である時速30キロメートルを大幅に超える時速約70キロメートルで足元に落とした携帯電話を拾うため前方注視せずに走行し、対面信号機が赤色点灯の点滅を表示しているにもかかわらずそのまま交差点に進入してきた。
 このように、甲の対面信号機が 黄色の灯火の点滅を表示している際、交差道路から一時停止も徐行もせず、時速約70キロメートルと言う高速で侵入してくる車両があり得るとは通常想定し難いと言える。しかも当時は夜間であったからたとえ相手方車両を視認したとしても、その速度を一瞬のうちに把握するのは困難であったと考えられることから急制動の措置を講ずるのが遅れる可能性も否定できない。
 そのため、このような異常な状況を踏まえると、予見可能性があったとは言い難い。
エしかし、予見可能性については、結果発生に至った具体的な因果経過の詳細が予見可能である必要はなく、少し抽象化した形で、特定の構成要件的結果発生とそれに至る因果経過の基本的部分を予見できれば足りる。
 そうすると、左側から交差点に進入してくる車両の存在と衝突の可能性のみが予見の対象であり、その意味における予見可能性であれば、本件においては上記⑵イの通り予見可能性が認められる。
⑶結果回避可能性の否定
 それでは本件は結果回避可能性に疑問が残る以上、結果回避可能性を否定できないか。
「疑わしきは被告人の利益に」の原則から、犯罪事実の証明に関して「合理的な疑いを容れない程度の証明」がないときには、被告人にとって有利な事実を仮定してこれを前提としなければならない。
 本件では、上記⑵ウの通りの事情があるため、仮に結果回避義務違反がなかったとしても結果回避可能性に疑問がある。そのため「疑わしきは被告人の利益に」の原則から、犯罪事実のうち結果回避可能性の証明に関して「合理的な疑いを容れない程度の証明」がなされていないといえる。
⑹よって、本件では、甲に、予見可能性が認められたとしても、結果回避可能性が認められないので、結果回避義務違反はない。
2以上より過失運転致死罪は成立しないので、甲は何らの罪責も負わない。
以上

事例5 ピカソ盗取計画 

第1甲の罪責
1甲がA所有の倉庫の敷地内に侵入した行為に、建造物侵入罪(130条前段)が成立しないか。
⑴同敷地は「建造物」に含まれるかが問題となるも、建造物侵入罪の保護法益は建造物管理権の保護にあるところ、建造物と一体である囲繞地についても管理権が及ぶ以上、これを保護すべきである。そのため、囲繞地も「建造物」に含まれると考える。
 そして、倉庫の敷地内は倉庫と一体である囲繞地であるため、「建造物」にあたる。
⑵また、Aが宿直員を置いて「看守」している同敷地に、甲は、管理権者Aの意思に反して立ち入って「侵入」している。
⑶故意(38条1項本文)も認められる。
⑷「正当な理由」が無いことも明らかである。
⑸よって、甲に建造物侵入罪が成立し、後述する通り、乙と共同正犯(60条)となる。
2甲がCに対し、「近づくと撃つぞ」と叫んで、空に向けて拳銃を射撃した行為に強盗致傷罪(240条前段)が成立しないか。
⑴まず、甲の上記行為に事後強盗罪(238条)が成立し、甲は「強盗」にあたらないか。
ア「窃盗」には、窃盗未遂犯も含まれると解するが、甲がA所有の倉庫の入り口のドアの鍵をバールで壊そうとした行為の時点で窃盗未遂罪(243条、235条)が成立し、甲は「窃盗」にあたらないか。実行の着手時期の判断基準が問題となる。
イ「実行に着手」(43条本文)の文言から構成要件該当行為との密接性及び未遂犯の実質的処罰根拠から、構成要件的結果発生の現実的危険性の2点が認められる時点において「実行に着手」したといえる。
 なお、密接性と危険性の判断については、行為者の計画を考慮し、準備的行為と構成要件該当行為との時間的場所的近接性、準備的行為の不可欠性、準備的行為終了後に構成要件該当行為の障害となるような特段の事情の有無を踏まえて判断する。
ウ本件では、甲はA所有の倉庫の鍵を壊して、同倉庫の中に侵入し、ピカソ作の絵画を持ち出すことを計画している。
 本件倉庫は、場所の性質上内部にピカソ作の高価な絵画という財物が保管されており、侵入することに成功すれば、当該財物を発見し、それを窃取することは直ちに行うことができ、侵入行為と窃取行為との間に時間的場所的近接性が認められる。
 また、侵入行為は、窃取行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠である。
 さらに、本件倉庫は夜間の警備が数時間おきに宿直員による見回りがなされているだけであり、あまり警備は厳重では無いことから、午前2時という深夜に倉庫内への侵入に成功すれば、その後の窃取行為という構成要件該当行為の障害となるような特段の事情もない。
 したがって、甲が倉庫の入り口のドアの鍵をバールで壊そうとした時点で、密接性と危険性の2点が認められる。
エそのため、この時点で、窃盗罪の「実行に着手」したといえる。
オ次に、「脅迫」(238条)とは、236条の強盗との均衡(「強盗として論ずる」(238条)の文言)から、客観的に相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の害悪の告知をいう。
 甲はCに追いつかれそうになった際に約10メートルの至近距離で「近づくと撃つぞ」と叫んで拳銃を空に向けて威嚇射撃した。
 深夜に倉庫へ忍び込む窃盗の一人が実弾の入った拳銃という極めて殺傷性の高い凶器で「撃つぞ」と叫んで生命身体への加害を予告して威嚇射撃することは、客観的に相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の害悪の告知といえる。
 よって、「脅迫」にあたる。
カ次に、強盗罪との均衡から処罰範囲を画定するため「脅迫」行為が窃盗の機会性を有する時点で行われたことが求められる。
 本件では、被害者から倉庫内の警備を委ねられたCから倉庫内で発見され、その追跡中という時間的場所的近接性を有し被害者の支配領域を脱しない状況において「脅迫」を行ったから、窃盗の機会性も認められる。
キさらに、甲は「逮捕を免れ」る目的を有していた。
クしたがって、甲の上記行為に事後強盗罪が成立し、甲は「強盗」にあたる。
⑵そして、Cは腕を擦りむいて全治7日間の擦過傷を負っており「負傷」(240条前段)した。
 なお、軽微な障害については「負傷」にあたらないとの見解もあるが、240条前段の文言が傷害結果を限定していないこと及び強盗致傷罪の法定刑の下限が6年に引き下げられたことから、傷害の程度については量刑で考慮すれば足りる。
⑶また、甲の上記脅迫行為そのものによってCは傷害を負ったわけではないため因果関係が問題となる。
アこの点、因果関係の有無は、条件関係を前提に、行為時及び行為後の全事情を基礎にして、行為の危険が結果となって現実化したと言えるならば認められる。
 このとき、行為の危険性、介在事情の結果発生への寄与度、介在事情の異常性を考慮する。
イ条件関係はおよそ認められる。
 次に、行為は実弾の入った拳銃を至近距離で威嚇射撃するというもので、行為の危険性がある。
 負傷については介在事情であるCの回避動作により生じており介在事情の結果発生への寄与度は大きい。
 もっとも、拳銃による威嚇射撃をされれば、人は咄嗟の行動に出て多少の受傷も止むを得ない動作をとることはままありうることであるため、介在事情の異常性は低い。
ウよって、威嚇射撃という「脅迫」行為の危険性が、Cの上記負傷という結果となって現実化したといえ、因果関係が認められる。
⑷なお、事後強盗の未遂と既遂の区別は強盗罪との均衡から財物奪取の未遂と既遂により区別されるため、本件の場合、事後強盗は未遂である。
 もっとも、行為と因果関係のある死傷結果を生じさせた場合、強盗致傷罪の身体犯的性格を重視し、死傷結果の有無により未遂・既遂の区別をすべきである。
 したがって、本件ではCが行為と因果関係のある負傷をしているので、強盗致傷罪の既遂となる。
⑸故意及び不法領得の意思もおよそ認められる。
⑹以上より、甲の上記行為に強盗致傷罪の既遂が成立する。
 また、後述のように乙と共同正犯(60条)となる。
3甲の罪数
 甲には建造物侵入罪と強盗致傷罪の既遂が成立し、これらは手段と目的の関係にあるから、牽連犯(54条1項後段)となる。
第2乙の罪責
1乙がA所有の倉庫の敷地内に侵入した行為は甲同様に建造物侵入罪(130条前段)が成立する。
2甲乙が共謀の上、甲が第1の2の行為に出た点について、乙は強盗罪の実行行為を行っていないため、共謀共同正犯が成立しないかを検討する。
⑴「二人以上の者・・・共同して犯罪を実行した」(60条)の文言及び共犯の処罰根拠が因果関係へ影響を与えた点にあるから、①正犯性または重要な役割②意思連絡③意思連絡に基づく実行行為が要件となる。
⑵ア本件では、甲は乙に犯行計画を打ち明けて協力を求めており、これに対して乙は計画に加わることを承諾しているため、甲乙間に本件倉庫における窃盗の意思連絡がある。(②充足)
イ次に、乙は甲のために倉庫の近くで倉庫の外に立って事務室の方から人が来ないか見張り役をするという重要な役割を果たしていることや、盗取した絵画を売って得た金の30パーセントを分け前としてもらう約束をしていたのであるから、捕まらなければ利益帰属していたといえ正犯性も認められる(①充足)。
ウしかし、甲は当初の絵画の窃盗ではなく、それを超えて事後強盗に及んでいることから、③意思連絡に基づく実行行為とは言えないのではないか、共謀の射程が及ぶかが問題となる。
 この点、共謀と実行行為との間に因果関係があるならば共謀の射程が及ぶ。
 本件で、甲がCに対して脅迫行為をしたのは窃盗の機会性がある中であり、当初の窃盗行為との関連性や連続性が認められる。
 また、Cは当初から窃盗現場において宿直している警備員として甲らと出くわしてしまうことも想定されており、実際に乙も警備員に発見され逮捕されそうになれば相手に暴行などを振るうことになっても仕方ないと考えていたほか、甲も同様に考えて拳銃を用意して相手を脅すことを想定していた。
 そのため、甲がCに対して「脅迫」(238条)を行い事後強盗に及んだことは共謀と実行行為との間に因果関係があるといえ、共謀の射程が及ぶため、③意思連絡に基づく実行行為と言える。(③充足)
エしたがって、甲乙間に共謀共同正犯が成立する。
⑶よって、乙の行為は強盗致傷罪の共謀共同正犯の客観的構成要件を充足する。
⑷アもっとも、乙は、逮捕を免れるための暴行行為は想定していたが、甲が拳銃を用意していることや、これを用いて脅迫行為をするつもりだったことは知らなかったため、基本犯である事後強盗の成立に関して錯誤があるのではないか。
イ本件では、事後強盗における「暴行」と「脅迫」はともに相手方の反抗を抑圧するためになされるという点で同一であり、同一構成要件内における錯誤にすぎない。
ウよって、事後強盗罪の故意が認められる。
⑸以上より、基本犯である事後強盗が成立する以上、結果的加重犯である強盗致傷罪の既遂罪が成立し、甲と同罪の共同正犯が成立する。
3乙の罪責
 乙に建造物侵入罪と強盗致傷罪の共同正犯が成立し、これらは牽連犯となる。
以上

事例6 カネ・カネ・キンコ

第1乙の罪責
1乙が窃盗目的でB店に立ち入った行為について建造物侵入罪(130条前段)、B店でアダルトビデオを万引きした行為について窃盗罪(235条)が、それぞれ成立する。
2乙が強盗目的でスナックCに立ち入った行為について建造物侵入罪が成立する。
3乙がD子に対しエアーガンを突きつけて「カネ、カネ、キンコ」と3回繰り返した行為について強盗罪(236条)が成立しないか。
(1)「暴行又は脅迫」とは、財物奪取に向けられた客観的に相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の不法な有形力の行使又は害悪の告知をいう。
イ本件では、二人きりの店内という密室で、乙は目出し帽をかぶり、しかも本物の銃のように見えるエアーガンをD子突きつけ鬼気迫る様子で「カネ、カネ、キンコ」と3回繰り返して現金を要求した。
 被害者は女性一人であり、他方で行為者は14歳の男の少年ではあるが、乙は目出し帽で年齢が一見して分かりえないことから、Dにとって乙が低年齢であることは影響がない。
 また、深夜のスナック内では、逃走したり他人の助力により加害から逃れることも困難である。
 以上の事実から、客観的に相手方は犯人の言う通りに従わなければ、射殺されてしまうものと考え、その抵抗を諦めるのが通常である。
 したがって、上記行為は、財物奪取に向けられた客観的に相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の害悪の告知であり「脅迫」に当たる。
(2)これによりD子を抵抗不能の心理状態に陥れ、35万円を手渡させているので、「他人の財物を強取」したといえる。
(3)よって、強盗罪が成立する。
4乙がD子に対し性交に及んだ行為について、強盗・強制性交等罪(241条1項)が成立しないか。
(1)乙は上記行為の前に、D子に対し「強盗の罪」を「犯した者」である。
(2)その上で、D子に対し、「脅迫」(176条1項1号)を行い「前条第一項各号に掲げる行為…により、同意しない意思を…全うすることが困難な状態にさせ」「性交」に及んだ(177条1項)から「第百七十七条の罪」「を犯した」といえる。
(3)よって、強盗・強制性交等罪が成立する。
5乙が、E男に対し、エアーガンを発射して3週間の打撲傷を負わせた行為について強盗致傷罪(240条前段)が成立しないか。
 まず、前提として、本行為はD子に対する強盗・強制性交等罪に包摂されないかが問題となる。
 つまり、法定刑が強盗致傷罪(240条前段)よりも強盗・強制性交等罪の方が重いので別途強盗致傷罪を成立させる意味が無いとも思えるからである。
 しかし、強盗・強制性交等罪は、性交等を受けた被害者の身体のみを保護していると考えられ、他の者に死傷結果が生じたならば別個に罪責を検討すべきである。
 そこで、E男に対する強盗致傷罪を検討する。
(1)乙は、D子に対する強盗罪を犯しているから、強盗既遂犯人として、「強盗」に当たる。
(2) 「負傷させた」といえるか。
ア 強盗致傷罪の重罰根拠は強盗の機会に犯人が被害者等に致傷結果を生じさせることが多いためである。
 そのため、財物奪取の手段のみならず強盗の機会に行われた暴行・脅迫であれば足りる。
 上記行為は、甲が店を出た後、強盗現場のスナックから30mしか離れていない路上で行われているため、時間的・場所的近接性が認められる。
 また、D子から直ちに連絡を受けて駆けつけたE男の追跡から免れるためだから、犯意の継続性もある。
 そのため、強盗の機会に行われた暴行といえる。
イ また、上記行為と致傷結果の因果関係も問題なく認められる。
ウ したがって、「負傷させた」といえる。
(4) よって、強盗致傷罪が成立する。
6 乙が、E男に対し、睨みつけながら「文句はないな」と申し向け、現金2万円の入った財布を奪った行為について、強盗罪が成立しないか。
(1) 乙は、3の暴行後にはじめて、胸ポケットの財布に気づき、奪取意思を生じている。そこで、強盗の意思なく暴行・脅迫を行い、被害者の反抗を抑圧した後、はじめて財物奪取意思を生じてそれを実現した場合に、いかなる要件の下に強盗罪が成立するかが問題となる。
ア この点について、暴行・脅迫を「用いて」財物を強取したといえるには、「暴行又は脅迫」の時点で、これを財物強取の手段として用いる意思がなければならないと解する。そのため、奪取意思が生じた後に、「暴行又は脅迫」を含む強盗罪の成立要件を充足する行為が行われる必要があると解する。そして、新たな「暴行又は脅迫」といえるためには、奪取意思を生じた後の行為者の言動が、反抗を抑圧するに足りる程度のものと評価できることを要する。ただ、その判断に際しては、被害者の反抗抑圧状態を作出した者の言動であることを考慮し、それ自体としては比較的軽度の暴行・脅迫でも、反抗抑圧を維持・継続するに足りる効果を持つものであれば、「暴行又は脅迫」と評価され得る。
イ 本件において、乙は、専ら逃走の目的でE男にエアーガンの弾丸3発を命中させ、E男はそのショックで仰向けに倒れ、3週間の打撲傷を負い、苦悶の表情を浮かべていたので、反抗を抑圧されていたといえる。その上で、乙は、睨みつけながら「文句はないな」と申し向け、うなずくEから現金2万円入りの財布を奪っている。この言動は、逆らえば再びエアーガンを発射するなど身体に危害を加える旨の脅迫であり、Eがすでに乙自身の行為により上記のような状態に陥っていることを踏まえると、反抗抑圧を維持・継続するに足りる程度のものといえる。
ウ したがって、乙の上記行為は「脅迫」に当たる。
(2) これにより、E男の反抗抑圧状態を維持・継続し、その財布を奪っているので、「強取」したといえる。
(3) また、乙は、財布そのものは捨てるつもりであるため、財布については不法領得の意思(利用意思)に欠けるとも思えるが、財布と中身の現金を分けて検討することは不自然であるため、「現金の入った財布」全体についての不法領得の意思が認められる。
(4) よって、強盗罪が成立する。
7罪数
 ①建造物侵入罪②窃盗罪③建造物侵入罪④強盗罪⑤強盗・強制性交等罪⑥強盗致傷罪⑦窃盗罪が成立する。
 まず①と②、③と④、③と⑤はそれぞれ目的・手段の関係にあるから牽連犯(54条1項後段)となる。
 ④の強盗罪と⑤は被害者が同一であり時間的場所的近接性もあるから包括一罪となり軽い④は重い⑤に吸収される。
 ⑤は⑥と一連であるものの、被害者が異なるため併合罪となる。
 よって、①②、③⑤、⑥、⑦がそれぞれ併合罪(刑法45条前段)となる。
第2甲の罪責
1甲は、乙に犯行計画を持ちかけて、乙を介してスナックCから35万円を奪っているため、建造物侵入罪(130条前段)及びD子に対する強盗罪(236条1項)の間接正犯または共同正犯が成立しないか。間接正犯と共同正犯の区別が問題となる。
(1)正犯者は結果に至る因果経過を支配している者だから、利用者が正犯意思を有することを前提に、行為者の意思を抑圧し行為支配性を有する場合には、間接正犯が成立する。
(2)ア正犯意思
 本件において、甲は、乙の弱みにつけこんで金儲けをするという犯行計画を立てた上で、実際に強盗に及んだ乙がD子から奪った現金35万円のうち、その大半の32万円を自らの物として取得したから正犯意思が認められる。
イ行為支配性
 確かに、甲は35歳の男性で14歳の男子中学生3年生の乙よりもはるかに年上の成人であり、さらに鍛え上げられた腕や太ももの筋肉の隆起が着用しているスーツの上からも容易に認識できる優れた体格である。
 また、その外見もスキンヘッドで眉毛を鋭く整え、ラメ入りの紫色のスーツを着用し、肩をいからせて歩くなどの一見して暴力団等の関係者ではないかと他人に思わせるものであった。
 そのような甲から、年若い乙が自己の万引きを目撃されるという弱みを握られてしまえば、多少の無理は聞かざるを得ない。
 そして、甲から、自らが以前暴力団A組に所属しており、殺した人の数は数え切れず、刑務所に何度も入っていたことなどを具体的なエピソードを交えながら「お前もわしの言うことを聞かないとそうなるぞ。親や先生に言っても無駄だ。警察に言ったら、わしは刑務所から出てきてお前を捜し出して殺す。」等と生命に対する加害言動をされた。このような脅迫行為を暴力団関係者等に見える甲からされれば、指示された行為が重罪であっても従わざるを得ないと言いうる。
 実際に、乙は、その後甲から具体的な犯行計画について説明を受けたが、乙は、甲が人の生命をなんとも思っていない人間であると確信し、自らがこの依頼を断れば、万引き発覚のみならず自分自身が半殺しに遭ったり家族に後難が訪れると考えた。
 そのため、乙は、強盗と言う重罪であっても従わざるを得ない心理状態に追い込まれ、反対動機形成が困難だったとも言いうる。
 しかし、乙は14歳であり刑事責任年齢(41条)に達しており、強盗が重大な犯罪であることは理解していることから、十分な是非弁別能力がある。
 さらに、乙は自らの判断でスナックのシャッターを降ろしたり、甲からの指示に予定がなかったD子への性行に犯罪発覚防止のために及ぶなど臨機応変な対応をしている。
 そのため、乙の意思は、未だ甲から抑圧されているとまではいえず、行動の自主性が強く認められる。
 また、乙が、甲の指示を受けて承諾したのも、結局は自らの万引きの罪が発覚して捕まりたくないからに過ぎない。
 したがって、乙には行為時における甲からの独立性や自主性が強く認められ、意思が抑圧されていないといえる。
ウよって、甲による乙に対する行為支配性は認められない。
(3)以上により、間接正犯は成立しない。
2それでは、直接実行に関与しない甲には、建造物侵入罪の共同正犯(60条、130条前段)及び強盗罪の共謀共同正犯(60条、236条1項)が成立しないか。
(1) この点、「二人以上の者…共同して犯罪を実行した」(60条)といえるには、その文言及び共犯の処罰根拠が結果に対する因果性を与えた点に求められるから、①正犯性又は重要な役割②意思連絡③意思連絡に基づく実行行為があれば共謀共同正犯が成立する。
(2)本件において甲は、犯行を計画し、乙にその具体的方法や成功しやすい時間帯を指示して必要な道具を与え、上述のように脅迫などを用いて乙に強い指示命令をしており、首謀者といえる。
 さらに、自ら金に困って本件犯行を考え、実行犯の乙がD子から強取した35万円のうち、その9割近い32万円を領得した。このような事実からすれば、甲は「自己の犯罪」として犯行に関与したといえ、正犯性又は重要な役割が肯定される(①充足)。
 次に、甲は乙にD子の店舗に対する建造物侵入及び強盗を命じて承諾させているから、両者に同犯罪にかかる意思連絡がある(②充足)。
 そして、この両者の意思連絡に基づき乙は下記乙の検討で述べる通り実行行為に及んだ(③充足)。
(3) よって、甲は、乙との間で、両罪について共謀共同正犯が成立する。
3(1)では、D子に対する強盗・強制性交罪(241条1項)についてはどうか。
(2)この点、当初の共謀に含まれていない行為であるため③意思連絡に基づく実行行為とはいえないのではないか、共謀の射程が問題となる。
(3)この点、当初の共謀と実行行為者の行為の間に因果性が認められるのであれば、③意志に基づく実行行為といえ、共謀の射程内といえる。
(4)本件では乙が強盗の後に強制性交等に及んだのは、当初の強盗を、警察に通報させないようにするためのものであり、強盗と強い関連性を有する。
 また、被害者も同一である。
 以上よりすれば、甲乙の当初の共謀と実行行為者乙の行為の間に因果性が認められるので、③意志に基づく実行行為といえ、共謀の射程内といえる。
(5)よって、客観的には強盗・強制性交等罪が成立する。
(6)もっとも、甲には強制性交の故意はないから、軽い強盗罪の限度で共同正犯となるにとどまる。
4次に、Eに対するエアーガン発射行為による強盗致傷罪(240前段)について
(1)この行為も共謀の射程の有無が問題となるので、上記基準により検討する。
 この行為は、D子とは全く別のEに対する行為ではあるものの、D子に対する強盗罪等による逮捕を免れる行為として、当初の強盗罪と強い関連性を有する。
 また、乙の意思としても当初の強盗を完遂させる意思であり動機の継続性もある。
 そのため、当初の共謀と実行行為者の行為の間に因果性が認められるので、③意志に基づく実行行為といえ、共謀の射程内といえる。
(2)想定外の被害者に結果が発生した点について具体的事実の錯誤(方法の錯誤)の処理として、同一構成要件内で符号する限り、規範に直面し得たといえ、故意は認められる。(抽象的法定符号説)
 なお、構成要件の範囲内で故意を抽象化する以上、故意の個数は観念し得ない(数故意犯説)と解する。
イ本件では、共に「人」という構成要件の範囲内で符号しているので、故意が認められる。
(3)したがって、強盗致傷罪の共同正犯(60条、240条前段)が成立する。
5Eに対する2万円の強盗罪について
(1)この点も共謀の射程内として③意思連絡に基づく実行行為といえるか上記基準に従い検討する。
(2)この行為は、甲の命令した強盗を完遂するために必要な行為というよりは、その場でEの財布が目について欲しくなり行った行為である。
 そのため、当初の共謀と被害者が異なるだけでなく、動機の継続性も殆ど無いので、当初の強盗の共謀の射程外といえる。
 よって、かかる強盗罪の共同正犯は成立しない。
6罪数
①建造物侵入罪の共同正犯②強盗罪の共同正犯③強盗致傷罪の共同正犯が成立する。
②は③と被害者が異なるので併合罪(45条前段)となるようにも思えるが、一個の指示行為でなされた行為であるため、「一個の行為が二個以上の罪名に触​​れ」るといえ観念的競合(54条1項前段)となる。
①と②及び③は手段と目的の関係にあるので牽連犯(54条1項後段)となる。
以上

事例7 男の恨みは夜の闇より深く

第1Aに暴行を加えて負傷させた行為
 甲と乙は、A襲撃を合意した上で、乙がAという「人」の体を押さえつけ、甲が顔面を殴打する暴行を加えて転倒させ気を失わせた上、Aの側頭部という「身体」に加療4週間程度を要する頭部打撲傷を生じさせたから、人の生理的機能障害という「傷害」を負わせたといえ、傷害罪の共同正犯(60条、204条)が成立する。
第2Aハンドバッグを持ち去った行為
1甲と乙の上記行為に、窃盗罪の共同正犯(60条、235条)が成立しないか。
(1)甲と乙は、Aの所有し占有するハンドバッグという「他人の財物」を、占有者Aの意思に反して自己の占有に移転させており「窃取した」といえる。
(2)もっとも、甲・乙は、Aが死亡したと誤信しているため、Aの財物に対する占有を認識しておらず、主観的には「他人の財物」また「窃取」したとはいえないのではないか、死者の占有の有無が問題となる。
 この点、死者の占有を認めることはできないのが原則であるが、全体的に考察して、殺害者との関係では、殺害行為との時間的場所的近接性や被害者の生前の占有状態変更の有無などを考慮し、なおも被害者の生前の占有を保護すべき場合には死者の占有が認められると解する。
 本件では、主観的には甲乙はAの殺害者であり、Aは被害者である。
 甲乙の持ち去り行為は、主観的にはAに対する殺害行為の直後に同一の場所でなされているため、殺害行為との時間的場所的近接性が認められる。
 さらに、甲乙の主観的には特段Aの生前の占有状態に変更を加えていない。
 したがって、全体的に考察すれば、殺害者甲乙との関係では、なおも被害者Aの生前の占有を保護すべきと言えるため、ハンドバッグに対するAの占有は認められる。
 よって、甲乙は、「自分たちがたった今死亡させたAから財物を領得する」という認識であり、その認容もあることから、窃盗の故意(38条1項本文)が認められる。
(3)次に、不法領得の意思が必要であり、その内容は、使用窃盗との区別から権利者排除意思と毀棄罪との区別から利用処分意思である。
 甲乙はハンドバッグを物取りの犯行と見せかけるため持ち去っているため、権利者排除意思は認められるものの、後者の利用処分意思は認められるか。
 乙は、将来売却しようと思っており、当該物を売却して利益を得る目的があるから、利用処分意思があり不法領得の意思が認められる。
 甲は、物取りを装うために持ち去り、すぐに焼却する意図しかなかった。
 そのため、ハンドバッグ自体から何らかの効用や利益を得る意図がないので、利用処分意思はない。
 したがって、不法領得の意思は否定される。
 よって、乙には窃盗罪が成立するが、甲には窃盗罪は成立しない。
⑷もっとも、甲については、ハンドバッグという「他人の財物」を持ち去ることで、Aがハンドバッグを自由に使えなくするという意味で物の効用を害する一切の行為をしたから「損壊」したといえ、また、故意もあるから、器物損壊罪(261条)が成立する。
3なお、甲乙に成立する犯罪は異なるため共犯が成立する範囲が問題となる。
 器物損壊罪は物の所有権を保護しており、他方で窃盗罪も所有権を保護法益に含み保護法益の共通性が認められ、また、他人の財物を持ち去るという意味で行為態様も重なり合う。
 したがって、重なり合う軽い器物損壊罪の限度で共同正犯(60条、261条)の成立が認められる。
第3Bに暴行を加えて負傷させた行為
1乙の罪責
(1) 乙の上記行為について強盗致傷罪(240条前段)が成立しないか。
アまず基本犯については事後強盗罪(238条)を検討する。
 乙は上述のように窃盗既遂犯人であるから、「窃盗」に当たる。
イ「暴行」は、強盗罪との均衡から、客観的に相手方の反抗を抑圧するに足りる程度であることを要する。
 本件では、二人がかりで、Bが地面に倒れ込んでしまう程の強さで顔面や胸部に対して激しい暴行を加えていることから「暴行」に当たる。
 なお「暴行」の客体は、逮捕しようとする者等の被害者側の者であれば足り、BはAのために甲乙を逮捕しようとしているので、被害者側の者として客体になる。
ウ事後強盗は「強盗として論ずる」とされるから、強盗罪に引き上げる要件として、窃盗の機会性が必要である。
 そして、窃盗行為と「暴行」行為との時間的場所的近接性を考慮しつつ、被害者の支配領域を脱したといえるならば窃盗の機会性は否定される。
 本件では、窃盗直後にその付近を通りかかったBに発見されその直後の「暴行」行為であることから、窃盗行為との時間的場所的近接性を有し、未だ被害者の支配領域を脱したといえないので、窃盗の機会性が認められる。
エ故意も認められ、Bによる逮捕を免れようとする目的も認められる。
オよって、事後強盗罪が成立する。
(2)そして、上記「暴行」によってBという「人」に加療3週間程度を要する打撲傷という「負傷」を生じさせたから、強盗致傷罪が成立する。
2 甲の罪責
(1)まず、甲は、前述のように器物損壊犯人にすぎず、「窃盗」に当たらない。
 そして、甲は、乙が領得行為をもって窃盗を犯した事実を認識していないから、事後強盗行為に加功する故意を欠くため、身分犯の問題として65条の問題にはなりえない。
 よって、事後強盗罪の共同正犯(60条、238条)は成立しない。
(2)そうすると、甲は傷害の故意で乙と共同してBに暴行したことになるが、強盗致傷罪も傷害罪も人の身体を保護法益としており被侵害法益の共通性があり、行為態様も人の身体に暴行を加えるという点で共通するため、重なり合う軽い傷害罪の限度で甲乙に共同正犯が成立する。
第4罪数
1甲について
 傷害罪の共同正犯、器物損壊罪の共同正犯、傷害罪の共同正犯が成立し、併合罪(45条前段)となる。
2乙について
 ①傷害罪の共同正犯、②窃盗罪、③事後強盗罪による強盗致傷罪が成立し、②は器物損壊罪の限度で、③は傷害罪の限度で、甲との共同正犯が成立する。そして、②は③とは被害者が異なるため吸収されず、①・②・③は併合罪となる。
以上

事例8 トランク監禁の悲劇

第1甲の罪責
1Aの顔面を殴打した行為に、暴行罪(208条)が成立する。
 なお、暴行は支払要求の手段として行われているわけではないので、恐喝未遂罪(250条、249条1項)は成立しない。
2次に、Aの身体をつかんでトランク内に無理矢理押し込んだ行為について、監禁致死罪(221条)が成立しないか。
(1)まず、Aという「人」をトランク内に閉じ込めることは、Aのトランク外への脱出を困難にして移動の自由を奪うから「監禁」に当たる。
(2)次に、人の死とは心停止・呼吸停止・瞳孔反射の喪失の三徴候をもって決すると考えるところ、3月12日午後6時頃にAの心臓停止が確認されており、この時点でAの死という結果が発生している。
(3)では、因果関係は認められるか。
 監禁行為と死亡結果との間に、①停車中の乙車への丙車の追突、②人工呼吸器の取外しという事情が介在しているため、因果関係の有無が問題となる。
アこの点、条件関係を前提に、行為時に存在する全事情及び行為後の全事情を基礎事情として、行為の危険性が結果となって現実化したといえる場合には因果関係が認められる。
イ条件関係はおよそ認められる。
ウ①停車中の乙車への丙車の追突という介在事情
 まず、介在事情の死亡結果発生への寄与度は大きい。
 また、停車場所は、高速道路上や交差点内などと異なり、深夜とはいえ見通しのよい一般道路であり、直ちに事故へ直結するほどの行為の危険性は無いと思える。
 しかし、人を防護する構造を持たない後部トランク内に人を監禁した場合、追突事故に巻き込まれた場合には、最も衝撃を受けることになるため、死傷結果が生ずる危険性が高いといえ、行為の危険性は高い。
 また、追突事故は、一定の確率で相応の数発生しているのが実情であり、介在事情の異常性は低い。
 したがって、この点は因果関係を否定することにはならない。
エ②人工呼吸器の取外し
 実行行為により生じた脳損傷により脳死状態に陥った上、実際にAは脳死のため心停止している。そのため、介在した人工呼吸器の取外しは、死期を早めたにすぎず、元々の脳損傷の危険を増幅していない。
 したがって、この点も因果関係を否定することにはならない。
オよって、行為の危険性が結果となって現実化したといえるので、因果関係が認められる。
(4)また、結果的加重犯たる監禁致死罪においては、基本行為と加重結果との因果関係があれば足り、加重結果発生の予見可能性は不要であるため、この点も問題にならない。
(5)よって、Aに対する監禁致死罪が成立する。
(6)なお、甲と乙がAを車のトランクに押し込んだ行為については、それ自体が15万円の支払いに直接向けられた行為ではないから恐喝未遂罪は成立せず、監禁致死罪に吸収される。
3罪数
 暴行罪と監禁致死罪が成立し、併合罪(45条前段)となる。
第 2 乙の罪責
1 甲がAに対して車内で顔面を殴打した行為につき、乙は共犯にならないか。
⑴ア共同正犯
 甲と乙の間に A に暴行を加えることを前提とするやり取りはないので、両者に意思連絡は無い。
 そのため、共同正犯は成立しえない。
イ幇助犯
 乙は、甲による暴行が心理的物理的に容易になるような手助けをした訳ではないし、また、甲を止めるべき作為義務も無いので、作為及び不作為による幇助犯も成立しない。
⑵ よって、この行為に関して乙に共犯は成立しない。
2 乙が、甲とともにAをトランクに押し込んだ行為に、甲乙間で監禁致死罪の共同正犯(60 条)が成立しないか。
⑴「二人以上」の者が「共同して犯罪」を「実行」したとの文言及び共犯の処罰根拠が共犯者の行為が結果に因果性を与えた点に求められるので①正犯性または重要な役割②意思連絡③意思連絡に基づく実行行為が認められるならば共同正犯が成立する。
⑵乙は、甲が車内でAに暴行を加えている際には見て見ぬふりをしていたものの、Aが車外へ逃げ出す直前頃には、Aの態度の不誠実さから甲に協力しようという意思になり、甲と一緒になってAを追跡して、乙がAを捕まえて、甲と2人でAの身体を掴んで車のトランクにAを押し込むという「監禁」行為に至った。
 そうだとすれば、両者の間に、Aをトランクに押し込むという暴行について現場共謀があったといえるので、②、③が認められる。
 また、Aは直接実行行為に関与したから重要な役割を果たしており①も認められる。
 よって、Aに対する「監禁」の共同正犯が成立する。
⑶その他の点は甲の検討で述べた通りである。
⑷以上より、甲乙間に監禁致死罪の共同正犯が成立する。
第3丙の罪責
1丙が前方不注意により自車を乙車に追突させた行為によりAを死亡させた点については過失運転致死罪(自動車運転死傷行為処罰法 5 条)が成立する。
2なお、甲乙によるAの監禁致死罪との関係でAの死を二重評価していることになるが、それぞれに行為責任を負わせるべきだから、この点は問題ない。
3よって、丙は過失運転致死罪の罪責を負う。
以上

【1】関連設例①追突事故が危険運転致死罪を構成する場合
 かかる場合でも、監禁行為と死亡結果の因果関係は肯定される。なぜなら、トランク内の無防備さに基づく危険が現実化した関係は認められることに加えて、丙の罪名にかかわらず、社会的にはままありうる追突事故の一場面にすぎない事態であり、「甚だしい過失」による衝突事故と区別する必要はないからである。

【2】関連設例②後部座席に監禁していた場合
 かかる場合には、監禁行為と死亡結果の因果関係は否定される。なぜなら、後部座席に乗車していて事故死する危険は、誰もが生活上薄く・広く負っており、そのことを受け入れている危険(一般生活的危険)と同質的であり、それが現実化したにすぎない結果を実行行為に帰責することはできないからである。

事例9 紫の炎


第1 甲が、1階出入口、廊下、エレベーターホールなどの集合住宅共有部分に立ち入った行為の邸宅侵入罪(130条前段)の成否
1⑴まず、居住者とは別に管理者のいる集合住宅の共用部分は「邸宅」に当たる。
⑵次に、集合住宅の1階出入口には管理人が存在し、侵入防止のための人的・物的設備が施されているといえ「人の看守する」 といえる。
⑶「侵入」とは、居住者ないし看守者の意思に反して立ち入ることをいう。
 本件では、居住者以外の者の立ち入りを拒む意思が、常駐する管理人による監視の事実や、「居住者以外の立入り禁止」 という立札の存在により明示されている。
 また、放火目的の立ち入りについて居住者・看守者の推定的同意も認められないのは明らかと言える。
 よって、「侵入」に当たる。
2 以上より、邸宅侵入罪が成立する。
第 2 甲が、集合住宅の建造物部分を出て、屋外駐車場に入った行為についても邸宅侵入罪に当たるが、一連の行為として一回的に130条前段に該当する行為と評価できるから、第1行為とともに1個の邸宅侵入罪が成立するに過ぎない。
第3甲が、A所有の原動機付き自転車を燃やした行為に現住建造物等放火罪(108条)は成立しないか。
1⑴まず、本件の集合住宅は、Aら合計140世帯が現に住居に使用し、かつ、Aを含めて多数人が現にいる集合住宅であるため、「現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物」である。
 また、8階のエレベーターホールについては、建造物と物理的に一体となっており、その天井についてもエレベーターホールの一要素として通常取り外しが困難であることから「現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物」に含まれる。
⑵次に、「放火」とは、目的物の焼損を惹起させる行為をいう。
 甲は、エレベーターホールに置かれていたA所有の原動機付自転車の座席シート上に、丸めたティッシュペーパーを置き、これに所持していた簡易ライターで点火し、さらに、座席シート上にライター用オイルを撒いた。
 座席シートは皮などであるため燃えやすい素材であり、これにガソリンを撒いて着火すれば、その揮発性から一気に火が燃え上がり、原動機付き自転車のガソリンタンク内のガソリンに引火してしまう。
 そうなれば、さらに火の勢いは強まり、エレベーターホールの壁や天井にも燃え移るおそれがあるから、集合住宅という目的物の焼損を惹起させる行為といえ、「放火」にあたる。
⑶次に、「焼損」とは、火が媒介物を離れて目的物が独立して燃焼を継続する状態に達すること(判例、独立燃焼説)をいう。
アエレベーターホールの天井の一部
 本件では、エレベーターホールの天井の一部には、可燃性の木材が使われていたためこの部分がすべて消失した。
 そのため、この部分については、火が媒介物を離れて目的物が独立して燃焼を継続する状態に達したといえ「焼損」に当たる。
イエレベーターホールの床や壁
 この部分には不燃性の素材が用いられており、その表面を損傷させるにとどまったことから、独立して燃焼を継続する状態に達したとは言えないものの、これにより人体に有害なガスが発生したから、この部分についても「焼損」させたといえないか。
 まず、可燃性物質が使われているか否かで結論が異なるのは妥当ではないこと及び現住建造物等放火罪の保護法益は不特定又は多数人の生命・身体、財産に対する危険にあることからすれば、人体に有害なガスが発生したのならば、不特定又は多数人の生命・身体に害を与えるものとして「焼損」に含むべきとも思える。
 しかし、「焼損」という文言を重視した解釈をすべきだから、判例のように独立燃焼説の立場を貫くべきである。
 そのため、この部分については「焼損」したとはいえない。
ウ よって、エレベーターホールの一部分についてのみ「焼損」にあたる。
⑷ 甲は、火が壁や天井に燃え移るかもしれないと認識しつつ、上記行為を行ったから、故意(38 条 1 項本文) も認められる。
2よって、現住建造物等放火罪が成立する。
3なお、有害なガスを吸引したBとCが中毒症状を起こして数日間病院に入院して治療を受けることになった点については、過失傷害(209条)が成立し得るが、現住建造物等放火罪となる行為により発生したのだから、保護法益としても身体を含む重い現住建造物等放火罪に吸収される。
第4甲が、D 車に火をつけた行為の建造物等以外放火罪(110条 1項)の成否
1⑴ まず、D所有のスポーツカーは、「自己の所有」にかからない物(110条2項)であり、「​​​​前二条に規定する物以外の物​​」である。
⑵甲は、D 車に、あらかじめ用意してあったガソリン約1リットルをその車体のほぼ全体にかけた上、簡易ライターで点火したから、目的物の焼損を惹起する行為をしたといえ、「放火」したといえる。
⑶また、D車は、これによって、約1メートルの高さに達するほどの紫色の炎を上げて勢いよく燃えたので、目的物が独立して燃焼を継続する状態に至ったといえ「焼損」したといえる。
⑷ア「公共の危険を生じさせた」といえるか、本件の現場駐車場は集合住宅に隣接するものの、D車と集合住宅の建造物部分との距離は約50メートルも離れており、さらに、周囲にはその他の建造物も存在せず「公共の危険を生じさせた」とは言えないのではないか。「公共の危険」の意義が問題となる。
 本罪の保護法益は、108条・109条物件のみならず、不特定又は多数人の生命・身体や前記物件以外の財産も含まれるため、これらが「公共の危険」の内容となる。
 なお、危険については、放火現場における一般通常人が感じるであろう危険のことをいう。
イ 本件では、D 車には、ガソリンという可燃性と揮発性の高い液体が車全体に撒かれ、これに着火すれば、ガソリンタンクの中のガソリンに引火して爆発を引き起こしてさらに火の勢いは強まると言える。
 しかも、D車から約15メートルの地点にE所有の高級外車1台が駐車されていたのだから、気象条件によっては、E車に引火する可能性もあり得た。
 実際に、D車は高さ約1メートルもの火柱を上げて燃焼していたのだから、放火現場における一般人は、D車に燃え移るのではないかという危険を感じると言える。
 たまたま火を見たEが消化活動を行ったのも、その場に遭遇した者が、このような危険があると一般的に感じることを示唆している。
ウよって、「公共の危険を生じさせた」と言える。
⑸次に「公共の危険」発生について認識の要否が問題となる。
 この点、構成要件要素として認識を必要とする見解もあるが、「よって」(110条1項)という文言は同罪が結果的加重犯であることをあらわしているので、「公共の危険」発生について認識は不要である。
⑹甲については、それ以外の点について故意があることは明らかである。
2よって、建造物等以外放火罪が成立する。
3なお、消火活動をした E が全治2週間の火傷を負っているが、身体については、建造物等以外放火罪の保護法益に含まれており、同罪で評価されているので、同罪に吸収される。
第 7罪数
①邸宅侵入罪、②現住建造物等放火罪、③建造物等以外放火罪が成立する。
本来②・③は別個の公共の危険が生じているのだから併合罪(45条前段)となるものの、①と②、①と③はそれぞれ牽連犯(54 条 1 項後段)となることから、①をかすがいとして全体が科刑上一罪となる。
以上

事例10 偽装事故の悲劇


第1甲の罪責
1甲が、車をA車に追突させた行為について、Aに対する傷害致死罪(205条)の成否
(1)まず、車で追突し衝撃を与える行為は、Aという「人」に向けられた不法な有形力行使として「暴行」(208条)に当たる。
(2)次に、Aは、後頸部血管損傷の傷害に基づく頭部循環障害・脳機能障害により「死亡」した。
(3)アでは、行為と死亡結果との因果関係は認められるか。
 A車への追突行為と死亡結果との間に、①乙車との衝突事故、②Aが安静に努めなかった行為による治療効果の減殺という事情が介在しているため因果関係の有無が問題となる。
 この点、条件関係を前提に、行為の危険性が結果となって現実化したといえる場合には因果関係が認められると解する。
 なお、因果関係の基礎事情としては、行為時の全事情及び行為後の全事情を判断基底に含む。
イ①乙車との衝突事故について
 確かに、前記の傷害を直接生じさせたのは前方不注視した乙の運転する車との衝突が原因であり介在事情の結果発生への寄与度は大きい。
 しかし、赤信号で停止した車に時速20kmで追突する本件実行行為は、相手の車を交差点内に押し出す可能性が十分ある。
 そして車が交差点内に押し出された場合、右左方向からは青信号のために直進してくる車両が存在し、この車が前方不注意のため衝突し得る可能性はまま有り得ることなので介在事情の異常性は低い。
 実際に、本件でも甲の車がAの車に追突したことでAの車が交差点内に押し出されたのだから、そのような事故を発生させる危険性が行為自体にあると言える。
 したがって、上記1行為の危険が結果となって現実化したものといえる。
 よって①については因果関係は否定する事情とはならない。
ウAが安静に努めなかった行為による治療効果の減殺
 確かに、Aが安静に努めないという介在事情は、やや異常性を有する。
 しかし、Aは元々が生命の危険に瀕していたのであり、医師の治療により一旦の生命の危険は脱したとしても、完全な回復に至ったものではなかったのだから、危険を増幅するものではないと言える。
 したがって、上記1行為の危険が結果となって現実化したものといえる。
 よって②についても因果関係を否定する事情とはならない。
エ 以上より、因果関係が認められる。
(4)なお、結果的加重犯たる傷害致死罪においては、加重結果の予見可能性は不要であり因果関係さえあれば足りるので、本件ではこれがある以上、この点は問題ない。
(5)違法性阻却事由の検討
ア本件では、上記1行為についてはAから依頼を受けて行ったものだから、被害者の同意があるものとして違法性阻却されないかが問題となり得るが、この点については同意傷害として違法性が阻却される余地はない。
 なぜなら、被害者Aが同意したのは、あくまで追突により軽傷を負うことであり、Aはさらに後頸部血管損傷等という生命に関わる重傷を負うことまでは同意の範囲を逸脱しているためである。
 したがって、本件傷害はAが具体的に同意した範囲を大きく超えている以上、Aの同意があるとはいえず、違法性阻却されない。
(6)違法性阻却事由の錯誤
アもっとも、甲はAに追突して軽傷を負わせるという限度では承諾を得ており、甲としてもその限りでの傷害を負わせる認識認容しかなかったのだから、違法性阻却事由の錯誤として責任故意が阻却されないか。
イ構成要件該当事実を認識していても、違法性阻却事由に当たる事実を誤信している場合には、規範に直面して反対動機を形成することができない。
 そのため、行為者の主観面を見て、違法性阻却事由があるならば、責任故意が阻却される。
 そして違法性の実質は社会的相当性にもあるから、単に同意を得ただけではなく、同意を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、傷害の部位、程度などを考慮して社会通念上相当といえるか判断する。
ウ本件では、甲の車をAの車に時速20キロメートル程度で追突させるという手段方法であり、また、これによりAの身体に軽傷を負わせることについては、Aの同意がある。
 しかし、保険金詐欺という動機・目的の違法性は強い上に、傷害の手段方法は公道上での追突というもので危険性の高いものである。
 そうだとすれば、社会的通念上相当とは言えない。
エしたがって、かかる甲の主観を基準としても上記行為の違法性は阻却されないので、責任故意は阻却されない。
(7)よって、Aに対する傷害致死罪が成立する。
(8)上記行為によってAの自動車を損壊した点について
 これは、Aの同意がある以上、器物損壊罪(261条)は成立しない。
 器物損壊罪は、当該「他人の物」の所有者の同意がある場合には構成要件該当性が否定されるからである。
 つまり、傷害罪のように被害者の同意がある場合でも構成要件該当性は前提とし、その上で違法性阻却事由が認められるか否か検討をするということにはならないため、社会的相当性の判断は不要だからである。
 よって、器物損壊罪は成立しない。
2甲がA車への追突によりA車を交差点内に押し出して、右方から進行してきた乙車と衝突させた行為について、乙に対する傷害罪(204条)の成否
(1)まず、追突によりA車を交差点内に押し出し、乙車と衝突させた行為は、客観的には乙の身体に対する不法な有形力行使として「暴行」(208条)に当たる。
(2)次に、乙に肋骨骨折という生理的機能障害が生じているため「傷害」したと言える。
(3)また、上記結果には乙の前方不注意という過失も介在しているが、これ自体は異常性が高いものとはいえず、A車に追突するという行為の危険が現実化したものといえるから、因果関係が認められる。
(4)甲はAに対する暴行・傷害の故意はあるが、乙に対する暴行・傷害の故意は無いため、具体的事実の錯誤(方法の錯誤)の処理が問題となる。
ア故意責任の本質は、反規範的人格態度に対する道義的非難であり、規範は構成要件の形で与えられている。そこで、主観と客観が同一構成要件内で符号する限り、規範に直面し得たといえ、故意は認められる。(抽象的法定符号説)
 なお、構成要件の範囲内で故意を抽象化する以上、故意の個数は観念し得ない(数故意犯説)と考える。
イ本件では、甲は、Aという「人」に対する暴行・傷害の故意をもって、乙という「人」にも暴行・傷害を及ぼした。
 そのため、「人」という構成要件の範囲内で符号しており、両名に対して、暴行・傷害の故意が認められる。
ウしたがって、乙に対する傷害罪の構成要件該当性が認められる。
(5)また、Aの罪責で検討した通り、責任故意が阻却されることはないのだから、乙に対する行為も同様に責任故意は阻却されない。
(6)よって、乙に対する傷害罪が成立する。
3罪数
 以上より、①Aに対する傷害致死罪、②乙に対する傷害罪が成立する。
 ①と②は甲の運転する車をAの車に追突させるという「一個の行為が二個以上の罪名に触」れていることから、観念的競合(54条1項前段)となる。
以上

事例11 帳簿の紙吹雪


第1甲が、Bから帳簿をいきなりつかみ取り、Bが手で制止しようとしたのを振り払い、Bの面前においてこれをビリビリと破り、窓から紙吹雪のように投棄した行為に、公務執行妨害罪(刑法 95 条 1 項)の成立しないか。
1客観的構成要件
⑴B は国税調査官として浪速税務署に勤務する財務事務官であり「公務員」(刑法95条1項、7条)である。
⑵ B は、甲の勤務するA株式会社に対する帳簿操作の疑いを持って税務調査を実施中だったのだから、「職務を執行するに当た」ることに疑いはない。
⑶公務執行妨害罪は記載されざる構成要件として、公務の適法性が要件となる。
 そして、Bは国税通則法74条の13に定める身分証明書の提示義務違反をしており公務が違法である以上、公務執行妨害罪は成立しないのではないかとも思える。
 しかし、軽微な違反がある場合にまで公務を保護しないのは妥当ではない。
 そこで、公務の保護と国民の人権保護の調和の確保から、①当該職務が抽象的職務権限に属すること②具体的職務権限に属すること③法律上の重要な条件・方式を履践している場合には適法な公務として保護される。
⑶本件のBが行っていたA株式会社に対する税務調査は、税務事務官である B の抽象的職務権限に属しており(①充足)、また、浪速税務署管轄の大阪市浪速区所在のA社に対する税務調査であるため、Bの具体的職務権限がある(②充足)といえる。
 次に、B は身分証明書を甲に提示せずに税務調査を行ったから、検査章の携帯義務を定める規定は単なる訓示規定ではないのだから、国税通則法に定める法律上の重要な条件・方式を履践していないとも思える。
 しかし、検査権が検査章携帯によって初めて付与されるものではなく、また、Bの提示要求は検査章の提示が本来的な意味をもつ検査着手前ではなく調査の開始後にそれを妨害する目的でなされたものであり、しかも、相手方の身分・権限を確認するという本来的意義をほとんど持たないものであることからすれば、重要な条件・方式を履践していないとはいえない。(③充足)
 したがって、適法な公務として保護される。
⑷「暴行」は公務員に向けられた不法な有形力の行使(間接暴行)をいう。
  本件では、甲は、Bから帳簿をいきなり掴み取り、Bが手で制止しようとしたのを振り払うなどしている上にBの面前で帳簿を破り捨てているのだから、Bに心理的動揺を強く与えるものと言えるため、Bに向けられた不法な有形力の行使(間接暴行)である。
 よって、「暴行」に当たる。
2公務の適法性の錯誤
⑴もっとも、甲は行為の際「身分証明書を見せないなら調査は違法だ。」と叫んで行為に及んでいるから、甲には公務の適法性について錯誤があるといえ、故意(38 条 1 項本文)が阻却されないかが問題となる。
⑵ この点、公務の適法性も構成要件要素であり故意の対象となる。
 そのため、故意が阻却されるとも思える。
 しかし、軽々しく職務行為を違法だと誤信しただけの者を処罰できなくなるのは妥当ではない。
 そこで、公務の適法性を基礎づける事実の認識がある場合には、故意は阻却されないと解する。
 なお、この事実の範囲がさらに問題となるが、ここでの公務の適法性とは公務の要保護性であるとして、当該公務が軽微な違反にもかかわらずなお保護されるべきとするだけの実質的根拠となる事実であれば良い。
⑶甲は、B が所轄税務署で A 社を担当していること、Bのなしているのが法的権限に基づく税務調査であることは認識している。
 そのため、当該公務が軽微な違反にもかかわらずなお保護されるべきとするだけの実質的根拠となる事実は認識しているので、公務の適法性を基礎付ける事実の認識がある。
 よって、故意は阻却されない。
3以上により、甲に、公務執行妨害罪が成立する。
第 2 甲の上記行為に、業務妨害罪(233 条)ないし威力業務妨害罪(234 条)は成立しないかが問題となるが、公務執行妨害罪と業務妨害罪は法条競合となるから、公務執行妨害罪が成立する以上、業務妨害罪を検討する余地はない。
以上

事例12 赤いレンガの衝撃

第1Aに対する罪責
1甲が、自己の右隣の椅子のシート部分を右足の裏でAに向けて強く蹴り付けた行為(以下「椅子を蹴った行為」とする。)については、甲とAの間にあった2脚の椅子が将棋倒しのような状態での方に向かって倒れたものの、この行為は傷害の危険まで生じさせるものではなく、身体に向けられた不法な有形力の行使(直接暴行)とまではいえない。
 そのため、人に向けられた不法な有形力行使(間接暴行)に過ぎないため、「暴行」とはいえず、暴行罪(208条)は成立しない。
2甲がAの手拳をかわしつつ、左掌を強く突き出し、Aの顔面を強く突いた行為についての傷害致死罪(205条)の成否
⑴甲が、左掌を強く突き出し、Aの顔面を強く突く行為は、人の身体に向けられた不法な有形力の行使といえ「暴行」に当たる。
 そして、この「暴行」によりAはしりもちをつきながら後方に転倒し、頭部をレンガ製の床面で強打した。
 その後、A(「人」)は上記行為から18日後の令和元年7月31日に、硬膜下血腫を伴う左前頭葉脳挫傷により「死亡」した。
⑵では、因果関係(「よって」)は認められるか。
アこの点、条件関係を前提に、行為の危険性が結果となって現実化したといえる場合には因果関係が認められると解する。
イ本件において、条件関係は認められる。
 次に、死因は後頭部を打撲したことによる対側損傷によるものであり、この負傷原因が、甲による上記暴行であることは明らかである。
 そして、当時の店内のうちAが転倒した店内側の出入口付近は、狭隘な上に飾り棚のように柱が突き出ており、また床も約7センチメートル高くなっている部分があって、長身のAが後ろ向きに倒れた場合、頭部などを床面や壁面などに強く打ち付けることは十分に有りうる状況であった。また、壁面や床面ともにレンガ製であり相当に固かった。
 そうだとすれば、Aが転倒して頭を強く打ち付けることも十分に起こりうる事態と言える。
 また、確かに、医師の診察により一旦帰宅させている事情はあるものの、その時点でのAの意識ははっきりしており、医師Eの診察に明らかな瑕疵はうかがえないほか、仮に入院させていたとしても救命できたか否かも明らかではない。
 したがって、甲による行為の危険性が結果となって現実化したといえる。
ウよって、因果関係が認められる。
⑶正当防衛の成否
 もっとも、この行為は、Aが左手拳を甲に向けて一気に突き出し、甲の顔面を殴打しようとする暴行に対して行われたとして、正当防衛(36条1項)が成立し違法性阻却されないか。
ア自招侵害の検討
 まず、甲は上記1の椅子を蹴った行為により、Aの侵害を招いているとみられるので自招侵害として正当防衛が否定されないか。
 この点、①侵害行為が防衛者の先行行為に触発された、②その直後の近接した場所での一連、一体の事態といえ、③行為者の先行行為の程度を大きく超えるものではない限り正当防衛は成立しないと解する。
 本件では、Aによる上記暴行は甲が椅子を蹴った行為の数分以内になされており、それまで甲とAは店で1、2度顔を合わせた際にとりとめのない会話をしたことがある程度があった間柄に過ぎないことを踏まえると、Aによる暴行は甲の椅子蹴り行為に触発されたと言える。(①)
 次に、甲の椅子蹴り行為からAが左手拳を甲に向けて一気に突き出されて、その後に甲がAを倒すまで数分間であり、また、場所も同じ店内であるため、甲の先行行為とAの侵害行為の時間的場所的近接性は認められる。
 しかし、Bによる仲裁が入り、甲が店を退店しようとするまではAから反撃や反論を受けたり、両者が睨み合う場面もなく、甲が退店する際に初めて起きた事態である。そのため、一連、一体の事態ということは困難である。(②不充足)
 また、甲による椅子蹴り行為は対物的でありAの身体に直接影響を与えないものであったが、他方で、Aによる上記行為は、甲の顔面を手拳で殴打しようとするものであり、Aの暴行が甲の椅子蹴り行為の程度を大きく超える。
 そのため、甲による先行行為の程度を大きく超えるものではないとも言えない(③不充足)
 したがって、自招侵害として正当防衛が否定されることにはならない。
イ正当防衛の検討
 甲は、Aに顔面を殴られそうになっているため、甲の身体という「自己・・・の権利」に対して、侵害が間近に押し迫っているといえ「急迫不正の侵害」が認められる。
 次に、「防衛するため」として、防衛の意思が必要であり、その内容は、侵害を認識しつつ、これを避けようとする単純な心理状態をいう。
 甲は「こんな奴に殴られてたまるか」と憤激しているが、これはAからの攻撃を回避するとともに、Aに反撃して自らの身体の安全を保護するという心理状態も併存していることから、専ら攻撃の意思になっているとは言えない。
 そのため、甲は、侵害を認識しつつ、それを避けようとする単純な心理状態にあったといえ、防衛の意思が認められ、防衛するため」といえる。
 次に「やむを得ずにした」とは、防衛手段としての必要最小限度性をいう。
 まず、甲は身長約170センチメートル、体重約78キログラムのがっしりした体格であり、柔道の有段者でもあった。
 他方で、Aは身長約177センチメートルであるものの胃腸に持病を抱えており体重が約50キログラムしかなく非常に痩せた体格であった。しかも、当時のAは相当に酩酊している状態でもあった。
 そのため、甲の方が圧倒的に体格や健康状態、格闘技術に優れているのだから武器対等とは到底言えず、また、あえて顔面を狙って左手拳を強く突き出すという危険性の高い行為に出なくても安全に攻撃を回避して組み伏せることが可能であったと言える。
 それにもかかわらず、甲が、狭隘なレンガ製の壁面や床面に囲まれた場所で泥酔しているAの顔面を狙って左拳を強く突き出す行為は、Aをその場に不安定なかたちで転倒させ、Aの頭部をレンガ製の固い壁面や床面に打ち付けさせることとなり、Aの生命に対する強い危険性を有する行為といえる。
 よって、甲の行為は、防衛手段としての必要最小限度性を有するとは言えず、「やむを得ずにした」とはいえない。
 以上より、正当防衛は成立しないため、違法性は阻却されない。
(4)よって、傷害致死罪が成立するが、過剰防衛(36条2項)が成立し、刑の任意的減免を受ける。
第2Bに対する罪責
1甲が左拳でAの顔面を強く突いたことにより、止めに入ったBも巻き添えとなって負傷させたことから、Bに対する傷害罪(204条)が成立しないか。
⑴負傷との因果関係
 まず、現にBが巻き添えになり負傷したことについて因果関係が認められるか検討する。
 当時の現場の出入口の場所的状況や、Aの転倒が突然の出来事であったことにかんがみると、上記暴行の危険性がBの負傷という結果となって現実化したといえ、因果関係が認められる。
⑵もっとも、甲は、Aに対する暴行の故意しかなく、Bに対する暴行の故意はなかったのだから、事実の錯誤(方法の錯誤)として故意が否定されないか。
 故意責任の本質は、反規範的人格態度に対する道義的非難であり、規範は構成要件の形で与えられている。そこで、主観と客観が同一構成要件内で符号する限り、規範に直面し得たといえ、故意は認められる。(抽象的法定符号説)
 また、構成要件の範囲内で故意を抽象化する以上、故意の個数は観念し得ない。(数故意犯説)
 本件において、甲は、Aという「人」に対する暴行の故意をもって、Bという「人」に暴行の作用を及ぼした以上、主観と客観が同一構成要件内で符号しており、規範に直面し得たといえ、故意は認められる。
⑶違法性阻却の検討
アまず、Bは急迫不正の侵害者ではない以上、Bに対して正当防衛が成立して違法性阻却される余地はない。
イ緊急避難についても、危難を避けるための唯一の手段とはいえないため、補充性を満たさず、「やむを得ずにした」とはいえない。
 そのため、緊急避難も成立しない。
ウしたがって、違法性は阻却されない。
(4)責任故意阻却の検討
 甲には、当時の現場の状況やAとの体格差や力量の差など過剰性を基礎付ける事実の認識が当然にあったといえるのだから、「誤想防衛の一種」としての責任故意の阻却は認められない。
(5)よって、Bに対する傷害罪が成立する。
第3罪数
以上より、①傷害致死罪、②傷害罪が成立するが、①と②は「一個の行為が二個以上の罪名に触れ​​」るといえ、観念的競合(54条1項前段)となる。
以上

事例13 一線を越えた男友達 

1 甲が、B店とC店において、A名義のクレジットカードを使用して28万円のバッグや18万円の腕時計を購入した行為に、詐欺罪(246条1項)が成立しないか。
⑴B店とC店の店員は店のために商品を客に交付する権限がある「人」である。
⑵「欺」く行為とは、相手方の財物交付するにあたっての判断の基礎となる重要な事実を偽ることをいう。
 まず前提として、クレジットカード加盟店は事後に信販会社から立替払いが受けられることから財産上の損害が発生しえず「欺」く行為と言えないのではないかが問題となる。
 この点、詐欺罪は個別的財産の罪であるし、また、クレジットカード加盟店には、規約上、カード利用者とカード名義人の同一性を確認する義務があり、これを怠ると、規約違反として立替払いを受けられないリスクもあることから、財産上の損害が発生しうる。
 そのため、「欺」く行為に当たり得る。
 次に、クレジットカード名義人から許諾されているのであれば「欺」く行為に当たらないとも思えるが、クレジットカードは本人以外の者に使用させることが予定されていないから、名義人からの許諾があっても無効であり、「欺」く行為に当たり得る。
 そして、上記の義務やリスクから、加盟店であるB店・C店にとって、カード利用者がカード名義人本人であるか否かは重要な事実といえる。
 それにもかかわらず甲は、Aと偽ってカードを利用しているため、店員が財物を交付するに当たっての判断の基礎となる重要な事実を偽ったから「欺」く行為をしたといえる。
⑶甲の「欺」く行為によって、B店とC店の店員は錯誤に陥り、バッグや腕時計という「財物」を甲に対して「交付」した。
⑷甲に故意(38条1項本文)及び不法領得の意思があることに疑いはない。
⑸よって、詐欺既遂罪が成立する。
2甲が、売上票用紙の「ご署名」欄にAの名前をボールペンで記入した行為に有印私文書偽造罪(159条1項)が成立しないか。
⑴まず、売上票用紙により立替払い契約がなされることから、同用紙は「権利、義務……に関する文書」に当たる。
⑵次に、「偽造」とは文書の作成者と名義人の人格の同一性を偽ることをいう。そして作成者は文書作成に関する意思の主体であり、名義人は文書から見て取れる作成者をいう。
 本件において、売上票用紙から見て取れる作成者はAであり、他方で作成者は甲である。もっとも、Aの同意を得ているのだから、実質的には作成者もAであり「偽造」に当たらないのではないか。
 この点、文書の性質上、名義人本人の自署性が求められる文書の場合には、名義人から同意を得て署名したとしても無効であり、「偽造」に当たる。
 本件では、売上票用紙の「ご署名」欄はクレジットカード本体の名義と対比することで名義人の本人確認するものであり、文書の性質上、名義人本人の自署性が求められる文書である。
 よって、同意は無効である以上、文書の作成者と名義人の人格の同一性を偽っているといえ「偽造」に当たる。
⑶甲は、Aという「他人の……署名を使用」した。
⑷さらに、甲には、偽造した売上票用紙を真正な文書として使用するという「行使の目的」があり、故意もある。
⑸よって、有印私文書偽造罪(159条1項)が成立する。
3甲が、「偽造」(「前二条」)「文書」である売上票用紙を真正な文書として店員に交付して「行使」した行為に偽造有印私文書行使既遂罪(161条1項)が成立する。
4甲が、A名義のクレジットカードを用いて自動キャッシング機にて50万円のキャッシングをした行為に、窃盗既遂罪(235条)が成立しないか。
⑴キャッシング機中の現金は、キャッシング機管理者という「他人」の占有
する「財物」である。そして、同管理者の意思としてクレジットカードの名義人から正当な払出権限を委ねられていない者からのキャッシングに応じることは無いから、甲が50万円を引き出したことは、占有者の意思に反する財物の占有移転として「窃取」に当たる。
⑵甲に故意及び不法領得の意思があることに疑いはない。
⑶よって、窃盗既遂罪が成立する。
5甲の1及び4の行為についての背任罪(247条)の成否
⑴甲は、Aという「他人のためにその事務を処理する者」として、Aの同意の範囲である10万円の限度をはるかに超える合計46万円分の商品購入を行っているから、権限逸脱行為を行ったといえ「任務に背く行為」をしたといえる。
 また、Aの意に反し差し引き36万円の「財産上の損害を加え」た。
⑵「自己の・・利益」を「図・・る目的」及び故意もある。
⑶よって、背任罪が成立する。
6甲が、Aから返済を迫られ刺身包丁でAの左上腹部を深く突き刺した行為に、2項強盗殺人既遂罪(240条後段、236条2項)が成立しないか。
⑴まず、2項強盗罪(236条2項)を検討する
ア上記行為は、人体の枢要部である腹部を刃渡り20センチメートルの刺身包丁という用法上の凶器を使って深く突き刺すという態様であり、これによりAはその場で失血死していることから客観的に相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の有形力の行使といえる。
 さらに、1項強盗との均衡から、「暴行」は確実かつ具体的な利益移転に向けられたものであることが必要である。
 本件では、Aが死亡すればAが甲にクレジットカードを利用させていた事実を知る者は誰もいなくなり、Aに対する債務を免れるから、甲の行為は確実かつ具体的な利益移転に向けられているので「暴行」である。
 また、甲の行為は客観的に見て債務の返済を免れることに役立つ行為であることから、これを「用いて」といえる。(「前項の方法により」)
 そして、Aが死亡したことで債務を免れたといえ「財産上不法の利益を得」たといえる。
イよって、甲の上記行為に2項強盗罪が成立し「強盗」に当たる。
(2)行為当時の甲は激怒していたこと、刺身包丁を凶器として使っていること、刺した部位が人体の枢要部である腹部であること、深く突き刺すという態様や、行為後にもAを介抱せずにそのままその場を立ち去った事実を踏まえると、未必的に死亡結果を認識、認容していたといえ殺意が認められる。
⑶なお、240条後段は「よって」の文言がないこと及び同罪は死刑又は無期懲役という極めて重罪であることから同罪は殺意がある場合も含まれる。
⑷よって、強盗殺人罪が成立する。
7 甲が、殺害後、ハンドバッグの中からキャッシュカードを抜き取り持ち去った行為に窃盗既遂罪が成立しないか。
⑴まず、キャッシュカードは、現金の入出金をすることができる物であり「財物」に当たる。
⑵もっとも、甲がこれを持ち去った時点において、既にAは死亡していたため、他人の占有する財物として「他人の財物」または他人の占有する財物を占有者の意思に反して自己又は第三者の占有に移転させる「窃取」に当たらないのではないか。死者の占有が問題となる。
 この点、死者の占有を認めることはできないのが原則であるが、全体的に考察して、殺害者との関係では、殺害行為との時間的場所的近接性や被害者の生前の占有状態変更の有無などを考慮し、なおも被害者の生前の占有を保護すべき場合には死者の占有が認められると解する。
 本件では、主観的には甲はAの殺害者であり、Aは被害者である。
 甲の持ち去り行為は、Aに対する殺害行為の直後に同一の場所でなされているため、殺害行為との時間的場所的近接性が認められる。
 さらに、特段Aの生前の占有状態に変更は無い。
 したがって、全体的に考察すれば、殺害者甲との関係では、なおも被害者Aの生前の占有を保護すべきと言えるため、キャッシュカードに対するAの占有は認められる。
 よって、キャッシュカードは「他人の財物」といえ、甲はこれを「窃取」したといえる。
⑶故意及びその後にATMから現金を引き出そうとしている事実関係から行為当時に不法領得の意思があることは明らかである。
⑷よって、窃盗既遂罪が成立する。
8甲が、D銀行E支店という「建造物」に犯罪実行目的で立ち入った行為は、E支店の管理権者の意思に反する立入りとして「侵入」に当たり、建造物侵入罪(130条前段)が成立する。
9甲が、Aのキャッシュカードを用いてATMから消費者金融Fの口座宛てに振込送金を試みた行為に、電子計算機使用詐欺未遂罪(250条、246条の2)が成立しないか。
⑴甲は、ATMという「電子計算機」にFの口座への振込送金という「虚偽の情報」を与えようとした。
 もっとも、Aは暗証番号を変更していたため、甲が振込送金をすることはおよそ不可能であったので、「虚偽の情報」を与える行為とは言えず、電子計算機使用詐欺罪の「実行に着手」(43条本文)したとは言えないのではないか。未遂犯と不能犯の区別基準が問題となる。
 この点、行為時に一般人が認識し得た事実および行為者が特に認識していた事実を基礎に、一般人を基準に行為の具体的危険の有無を判断すべきであると解する。
 本件において、暗証番号の変更はAが機転をきかせて直前にしていたものに過ぎず、一般人は、通常、元のまま暗証番号の変更がなされていないという事実関係を認識し得たにすぎない。
 また、行為者である甲はこれと異なる事実を認識していたわけではない。
 そうすると、かかる事実を基礎に一般人を基準に判断すると、暗証番号が元のまま変更されていないA名義のキャッシュカードの操作を行うものであるといえるので、当該行為は、振込送金に至る具体的危険があるといえる。
 よって、同罪の「実行に着手」したといえる。
⑵しかし、甲は、Aの機転によりキャッシュカードの暗証番号が変更されていたことから「未遂」である。
⑶よって、電子計算機使用詐欺未遂罪が成立する。
10甲が、クレジットカードでキャッシングを試みた行為は、キャッシングATM内の現金はE支店長という「他人」の占有する「財物」を、前記9⑴同様の理由により「窃取」する「実行に着手」したといえ、また、故意及び不法領得の意思も明らかなので、窃盗未遂罪(243条、235条)が成立する。
11甲が、係員Gの胸部を強く突くなどの暴行を加えて負傷させた行為に、強盗致傷罪(240条前段、238条)が成立しないか。
⑴まず、事後強盗罪(238条)が成立し、甲は「強盗」に当たらないか。
 事後強盗罪には、窃盗既遂のみならず窃盗未遂も含むところ、甲は上記10のとおり窃盗未遂罪が成立するため、「窃盗」に当たる。
 「暴行」は事後強盗が「強盗として論ずる」とされる以上、強盗罪との均衡から客観的に相手方の反抗を抑圧するに足りる有形力行使が必要である。
 本件では、Gの胸部を強く突き、これによりGは全治約10日間を要する前胸部打撲等の傷害を負っており非常に強度な暴行だったことを推認させる以上、客観的に相手方の反抗を抑圧するに足りる有形力の行使がなされたといえ「暴行」に当たる。
 また、「暴行」はATMコーナーで行われており、甲が窃盗未遂を行った直後になされたのであり窃盗と時間的場所的近接性を有し、被害者の支配領域を脱していない。そのため、「暴行」は窃盗の機会に行われたといえる。
⑵ もっとも、Gは逮捕目的で甲に近づいてきたのではないのに甲は「逮捕を免れ」る目的で上記行為に出ていることから、同罪所定の目的をどのように判断するのかが問題となる。
 この点、目的は、主観的要素である以上、犯人の主観的に同罪所定の目的があれば足りると解する。
 本件では、甲の主観的に「逮捕を免れ」るという同罪所定の目的がある。
⑶したがって、甲は「強盗」に当たる。
⑷また、Gは上記のとおり「負傷」している。
⑸よって、強盗致傷罪が成立する。
12罪数
 ①詐欺既遂罪、②有印私文書偽造罪、③同行使既遂罪、④窃盗既遂罪、⑤背任罪、⑥強盗殺人既遂罪、⑦窃盗既遂罪、⑧建造物侵入罪、⑨電子計算機使用詐欺未遂罪、⑩強盗致傷罪が成立する。
 ①②③及び⑧と⑨⑩は目的・手段の関係に立つから牽連犯(54条1項後段)となり、⑧と⑨⑩は全体として科刑上一罪となる。
 なお、⑤は①・④との関係上「​​​​​​一個の行為が二個以上の罪名に触れ​​」たといえ、観念的競合(同項前段)となる。
 その他は併合罪(45条前段)となる。
以上

事例14 燃え移った炎

第 1 甲、乙、丙の3者が、トーチランプを防護シートの近接位置に置いたまま、3名ともに同所を立ち去り、2つのトーチランプのうち、とろ火で点火されたままの状態にあった1個のトーチランプから炎が防護シートなどに着火し、これが通信ケーブルなどに延焼し、さらに洞道内のNTTが所有する通信ケーブル及び洞道壁面225メートルを焼損させた行為について、業務上失火罪(刑法117 条の2前段、116 条2項)が成立しないか。
1まず、各々に単独犯は成立しない。
 なぜなら、丙はトーチランプを準備していないし、また、甲乙については、いずれかのトーチランプから火災が発生したのか不明であり、因果関係が分からない以上、個別に見た場合は帰責できないからである。
 そこで、甲乙丙の3者に共同正犯(60条)が成立しないか。
2⑴「業務」とは社会生活上の地位に基づいて反復継続して行うもののうち、火災防止を行うべきものをいう。
  甲と乙は、通信線路工事の設計施工等を目的とする A通信株式会社の作業員として通信ケーブルの断線探索作業に従事する者であり、洞道内の作業においてはケーブルの断線による火災発生やトーチランプの不適切な扱い方により火災発生が予測される。
 そのため、甲乙は、作業員としての地位に基づいて反復継続して作業を行うとともに、これらの火災防止を行うべきものといえ、「業務」性が認められる。
 次に、丙は、見習い作業員であるものの、A 社作業員であることに変わりはないため、甲乙同様に火災防止を行うべきものといえるから「業務」性が認められる。
⑵「必要な注意を怠」るとは、予見可能性及び結果回避可能性を前提とした結果回避義務違反である。
 そして、過失の共同正犯の成否について、共同正犯の特色は「一部実行全部責任の原則」にあるから、共同の注意義務に違反したといえるならば、過失犯の共同正犯を認めることができる。
 甲、乙、丙は、甲がベテランの現場主任として、乙が作業員として、丙も見習いではあるものの一作業員として甲からの指示を受けて作業していたのだから、3者には、共同の注意義務として、作業中における火災防止義務があった。
 そして、3者は、地下洞道には布製防護シートが垂らされており、これにトーチランプの炎が接して着火し、火災が発生する危険があり、これを十分に予見することができたにもかかわらず、トーチランプの炎が確実に消火しているか否か確認することなくその場を立ち去った。
 そのため、立ち去る前の時点において3者には火災発生の予見可能性及び結果回避可能性が認められ、結果、火災が発生しているから、結果回避義務違反(「失火」させた)も認められる。
 よって、3者は、共同の注意義務に違反したといえるため、過失犯の共同正犯を認めることができる。
⑶ 「110 条に規定する物」として、NTTが所有する通信ケーブル(110条1項の「​​前二条に規定する物以外の物​​」)を「焼損」させた。
⑷そして、「公共の危険」とは、108条及び109条物件に対する延焼の危険に限らず、不特定又は多数人の生命・身体及び財産に対する危険をいう。
 本件では、通信ケーブル及び洞道壁面225メートルを焼損させたことで東都電話局局舎を始め周りの建物に延焼する危険はなかった。
 また、大量に発生した煙によって東都電話局局舎の職員をはじめ、周りの建物に居た多くの人々が一時避難する騒ぎとなったものの、直接的に火災の炎による生命身体財産への被害は無かった。
 しかし、法益保護の範囲を広く解し、上記危険は炎からの直接の危険だけではなく、これに伴う煙害などによる生命身体財産に対する危険も含むべきである。
 そのため、本件では、煙を吸引してしまった場合には重ければ一酸化炭素中毒に陥ったり、軽くても喉が痛くなるなど、不特定又は多数人が煙害により死傷する危険性があったといえるのだから、「公共の危険」が認められる。
⑸ なお、失火罪は「よって」の文言から結果的加重犯の規定であり、「公共 の危険」の発生について認識は不要である。
⑹以上より、甲乙丙の3者には業務上失火罪の共同正犯が成立する。

以上
​​

事例15 愛人への貢ぎ物

第1甲が、愛人の D にプレゼントするために外国製の200万円の腕時計の購入代金の支払いに充てるために、A 会社代表取締役B名義で振り出した額面200万円の小切手1通を作成し、交付した行為に、有価証券偽造罪(162条1項)及び同行使既遂罪(163条1項)が成立するか。
1 有価証券偽造罪
⑴小切手は、「有価証券」 にあたる。
⑵次に、甲はA会社代表取締役B名義で小切手の振り出しを行う事務も行っていたことから、名義人に代わる作成権限を有していたといえ、作成者と名義人の人格の同一性を偽ったとは言えず「偽造」に当たらないのではないか。
 この点、行為者の一定の作成権限を有する場合であっても、行為者の作成権限に内部的制約があり、それが権限の行使方法の制限に留まらず、権限の範囲を制限したものである場合には、「偽造」に当たると解する。
 本件では、甲は、小切手の振出しに必要な銀行届出印、会社ゴム印、小切手帳を保管しており、甲の判断において自由に振り出すことが容認されていたことから、一定の作成権限は有していた。
 しかし、これには「会社の業務運営 に必要な限り」という限定が付されており、作成権限に内部制約があったといえる。また、これは、業務とは無関係な振り出しについては権限を制限したものと解することができる。
 そのため、甲が自分の愛人のためにA社の業務とは全く無関係な高級腕時計の代金の支払いに充てるために小切手を振り出すことは、業務とは無関係な振り出しといえる。
 したがって、権限の範囲外の振り出しであるため、「偽造」に当たる。
⑶「行使の目的」及び故意(38条1項本文)もある。
⑷よって、有価証券偽造罪が成立する。
2そして、「偽造」した「有価証券」を「行使」したから、偽造有価証券行使既遂罪が成立する。
第 2 甲が偽造小切手を作成した行為にA株式会社に対する業務上横領罪(253)又は背任罪(247条)が成立しないか。
1まず、横領罪と背任罪の関係については両者は法条競合の関係に立つため、
背任罪は罰金刑が規定されている点で横領罪よりも軽い罪であるため、重い横領罪を先に検討すべきである。
2⑴甲は、A株式会社の経理部長として、会計、経理関係の事務全般を掌理する地位にあり、同社の資金計画の策定や銀行との交渉、契約、支払いの決済とそれに伴う当座小切手の振り出し、会社の預貯金等会社財産の管理業務に従事していたから、社会生活上の地位に基づき反復継続して行う事務のうち、委託を受けて他人の財物を占有管理する職務を行っているといえ「業務」性が認め られる。
⑵当座預金は、銀行の所有に属するから「他人の物」である。
⑶「自己の占有」とは、濫用のおそれのある支配力で足り、事実上の占有のみならず法律上の占有も含む。
 当座預金は、債権に過ぎないものの、預金は自由に引き出すことができ現金と同視できること及び上記の通り占有には法律上の占有も含むから、預金による金銭の占有も認められる。
 本件では、F 銀行 G 支店にあるA会社の当座預金口座は、甲が経理部長として決済などで使うため管理していたことから、法律上の占有があるので「自己の占有」が認められる。
⑶「横領」とは、不法領得の意思の発現たる一切の行為をいい、不法領得の意思とは、他人の物の占有者が、委託の任務に背いて、その物につき権限がないにもかかわらず、所有者でなければできない処分をすることをいう。
 他人の物の占有者である甲は、愛人のために高級腕時計を購入してこれの支払いに充てることはおよそ権限がないにもかかわらず、所有者でなければできない処分をしており不法領得の意思が認められるので「横領」したといえる。
⑷なお、既遂時期について、小切手による振り出し時点でA社においては財務処理上Cに対して現金が支払われたことと処理されるので、振り出し時点において既遂に達する。
⑸ 甲には、上記事実の認識・認容があり、故意(38条1項本文)がある。
⑹よって、業務上横領罪が成立する。
第3甲が、自己の借金に充てるために、A 会社代表取締役B名義の小切手を振り出してF銀行G支店の行員に対してこれを呈示した行為に有価証券偽造罪及び同行使罪が成立する。
第4その上でA会社の当座預金口座から現金 300 万円の支払を受けた行為に業務上横領罪が成立しないか。
1甲は第2で述べたとおり「業務」上「他人」の「物」である現金を「占有」している。
 また、甲が自己の借金返済のために300万円の支払いを受けることは、他人の物の占有者が、委託の任務に背いて、その物につき権限がないにもかかわらず、所有者でなければできない処分をすることといえ、「横領」にあたる。
2故意もある。
3よって、業務上横領罪が成立する。
第5罪数
 ①有価証券偽造罪②同行使既遂罪③業務上横領罪④有価証券偽造罪⑤同行使既遂罪⑥業務上横領罪について、①・②及び④・⑤はそれぞれ目的手段の関係にあるため牽連犯(54条1項後段)となる。
 ②と③、⑤と⑥は「一個の行為が二個以上の罪名に触れ​​」ているといえ、観念的競合(54条1項前段)となり、①から③、④から⑥はそれぞれ科刑上一罪となる。
 そして①から③と④から⑥は併合罪となる。
以上
​​

事例16 哀しき親子


第1 乙の罪責
 1 乙がAの後頸部を強く押さえつけて死亡させた行為について、傷害致死罪の共同正犯(60条、205条)が成立しないか。
 (1) まず、乙は、甲との現場での黙示的共謀に基づく共同暴行の中でAの頸部を圧迫し死亡させているため、傷害致死罪の共同正犯の構成要件に該当する。
 (2) もっとも、上記行為に正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。
  ア まず、Aはうつぶせ状態のまま体を押さえつけられているが、「急迫不正の侵害」の継続が認められるか。
    Aはうつぶせ状態のまま体を押さえつけられても両足を激しくばたつかせたり膝を立てて起き上がろうとするなどしていたことなどからして、押さえつけられたことにより直ちに侵害が止んだとみることはできない。抵抗は徐々に弱まっていったにしても、いずれかの時点でAが暴れ起き上がろうとするのを完全に止めたと認定することもできないから、Aがおとなしくなったときまで「急迫不正の侵害」は継続していたものと認めるほかない。
  イ 次に、乙は、日頃からのAに対する反感ともあいまって憤激の念が高まっているが、防衛の意思が認められ、「防衛するため」といえるか。
    乙の一連の行動が殴りかかろうとするAを制止しようとするものであったことなどに照らしても、乙が専ら攻撃の意思に基づいて行動していたとは認められず、防衛の意思は否定されない。そのため、「防衛するため」といえる。
  ウ では、防衛行為の相当性が認められ、「やむを得ずにした」といえるか。
    反撃行為のうち、うつぶせに倒れた状態のAの後頸部を5分程度強く圧迫する行為は、死亡の危険性が大きい。また、Aを押さえつけるためには、体の他の部位を押さえてもよかったのであり、後頸部を押さえるにしても、それほど強い力を加える必要はなかった。そのため、防衛行為の相当性を欠き、「やむを得ずにした」とはいえない。
  エ よって、正当防衛により違法性が阻却されることはないが、過剰防衛(36条2項)として任意的減免を受ける。
 (3) よって、傷害致死罪の共同正犯が成立する。
 2 以上より、乙は傷害致死罪の共同正犯の罪責を負う。
第2 甲の罪責
 1 乙がAの後頸部を強く押さえつけて死亡させた行為について、傷害致死罪の共同正犯が成立しないか。
 (1) まず、上述の通り、甲乙間には現場での黙示的共謀が認められる。また、後頸部の押さえつけも防衛の合意の趣旨を大きく逸脱するものではないから、死因となった乙の後頸部押さえつけ行為は客観的には上記共謀に基づくものといえる。そのため、傷害致死罪の共同正犯の構成要件に該当する。
(2) また、正当防衛の成否は共同暴行全体を対象に評価するので、乙と同様、相当性を欠くものとして過剰防衛が成立するにとどまる。
 (3) しかし、故意責任の範囲は、あくまで甲の事実認識に応じるところ、甲の認識した事実は、首以外を押さえつけるという、正当防衛として評価されるものであった以上、責任故意が阻却される。
 (4) よって、傷害致死罪の共同正犯は成立しない。
 2 また、甲の上記誤認について、その責めに帰すべき過失があったことも認め難いから、過失致死罪(210条)も成立しない。
 3 よって、甲は何らの罪責も負わない。
以上


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