ドラマ放映終了後、半年が過ぎても語り出したら止まらない「虎に翼」。ベストセラー『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』の著者で、大の虎に翼ファンを自称する弁護士の太田啓子さんの熱望で、脚本家で同作品作家の吉田恵里香さんとの対談が実現。ジェンダーにまつわる「あるある」体験や、ドラマで描かれた「変容する男性たち」のことをとことん語ります。これは「これからの男性たち」へのメッセージでもあります。
自分語りをしたくなるドラマだった
太田啓子(以下、太田) はじめまして。今日はとても楽しみにしていました。私は弁護士として仕事を始めて20年以上になります。セクシュアルハラスメントや性被害などにまつわる民事事件などを手がけていますが、一番多いのが離婚案件です。離婚案件は、社会のマクロレベルでの性差別がミクロレベルで噴出する分野。世の中のジェンダー不平等や性差別についていろいろ考えさせられることばかりです。
シングルで、高1と中1の息子がいることもあって、この社会で男性の性別を割り当てられている人たちが、ジェンダーや性差別の問題についてどうしたら他人事と思わずに、一緒に変えていこうと思ってもらえるのかをずっと考えてきました。それで書いたのが『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店)。また、私は弁護士仲間と情報や意見を交換しながら「憲法カフェ」という名の出張憲法学習会を実施しています。つまり、憲法とジェンダーが私の2大関心事。ですから「虎に翼」が憲法14条を読み上げるところから始まったときは本当に感動しました。弁護士仲間たちともいつも盛り上がっていました。
吉田恵里香さん(以下、吉田) ありがとうございます。うれしいです!
太田 このドラマのすごいところは、見た後に人と話したくなることですよね。いろんな人と感想を言い合ったり、どこの誰とも分からないSNSアカウントの感想を見て「深いわ~」と思ったり、「そんな見方もあるのか」と思ったり。ドラマに触発されてみんなが自分語りをしだす感じがすごくよかった。
吉田 大抵の場合、ドラマの感想はこの役者さんがすてきでした、とかそういう話が多いのですが、「虎に翼」についてはみなさんが自分のことを話して下さって。それは私にとってもすごく幸せなことでした。自分のことを話すのは、結構難しいことですから。
太田 そうですよね。ドラマが、そのハードルを越えるステップになるんですよね。自己開示誘発力が高いというか。自分の体験に結び付けたくなるものがあるんでしょうね。
吉田 この作品で私が伝えたかったのは、やはり、怒っていいんだよということ。それが自分の選択肢を増やすことになると思っています。今の時代は差別的発言を「言ってはいけない」という思いだけが働いて本質の問題解決まで到達しない、逆にとても分かりづらくなっていますよね。だから「はて?」と反発しても、だいたいわがままや自分勝手と言われて丸め込まれてしまう。そのような思いに対して、「わがままじゃないよ、もっと怒っていいんだよ」というドラマだったので。それがもし誰かを勇気づけたのならとてもうれしいですね。
太田 モヤモヤと、言葉にならなかった思いにちゃんと言葉が与えられるような。そんな感じでした。そういう意味で印象的だったのは、寅子(伊藤沙莉)を法律の世界に導いた大学教授で、後に最高裁判事にもなる穂高先生(小林薫)。女性が弁護士になる道が法律上もなかった時代に、寅子を励ましサポートした人。とてもいい人で、人権意識もある人。それなのにやっぱり……ことジェンダーになると、親切顔でおかしなことを言うんですよね。もう、「それ、あるある!」と心の叫びが……。(笑)
吉田 実は、一番相手の心を折るのって、敵ではなく、ああいった理解者然としたジェントルさだったりしますよね。期待していない人に対しては心の鎧(よろい)があるから、何か言われても平気。でも、自分が信頼している人におかしなことを言われると、この人に分かってもらえないのならもう誰にも分かってもらえないだろうという気持ちになる。そういう感じは、ほとんどの女性がこの社会で経験していると思うんですね。それをドラマでも描きたかった。「(寅子の言動は)恩人に向かってひどい!」って怒る方もいらっしゃいましたが……。