ベルと共に強敵であるシルバーバックを打ち倒した翌日。
あなたとヘスティアさまは、ある神物の前で、正座をさせられていた。
両腕を組んで仁王立ち。両腕で支えられ強調されているたわわな二つの果実は、あなたに場違いな感想を抱かせたことだろう。
おっきい……でっか……すごっ……etc。
「……それで? どうしてヘスティアの眷族が、アタシとアフロディーテとの関係を知っていたわけ?」
彼女は神威を発しながら、ステキな笑顔をあなたたちに向けてくる。否、顔は笑っているのに、目が笑ってない。
返答を誤れば、最悪死ぬんじゃね? とすら思わせる凄みが感じられた。
「まさかと思うけど、ヘスティア、あなたが教えたんじゃないでしょうね」
「ぼ、ボクじゃないぜ! 親友の過去を吹聴するような真似は絶対しないさ!」
声を震わせながら、ヘスティアさまが自身の無実を訴える。
「じゃあ、どうしてこの子が天界でのアタシの話を知っていたのよ?」
「それはボクだって知りたいよ。説明してくれるかい──くん?」
あなたは、さて、どう
あなたがヘファイストスとアフロディーテとの関係を知っているのは、ダンメモの4周年イベントのストーリーでヘファイストスとアフロディーテの関係が僅かではあるが語られたからだ。
神に嘘は通じない。だからといって、正直に話せば、あなたが異邦人であることがバレてしまう。それどころか世界の根幹すらひっくり返してしまうことになるのではないか、という懸念がある。
ならば嘘をつかず、悪意を持たず、しかし重要なことだけは避けて、
──どこかの神様たちがそんな話をしていたのを聞いたことがあったってだけです……
と、あなたは言った。
嘘はついていない。4周年イベントのストーリーで、天界で色々あってヘファイストスとアフロディーテが付き合っていたと語ったのは、あの飄々とした旅男風の男神、ヘルメスであり、浮気したアフロディーテにヘファイストスが激怒した……と語ったのはヘスティアである。
「どこの神たちか言いなさい!」
相も変わらず凄まじい圧で、詰問してくるヘファイストス。
どこの神なのか名前を言おうものなら、話が拗れるのは明白なので、あなたはまた恐れ知らずにも神を相手に駆け引きを行う。
──どこの神様たちか、ですか? さすがに、そこまでは……(さすがに言えないという意味で)
困った顔を浮かべ、さも、その神の名前を知らないかのように誤解されるような言い回しを選ぶ、あなた。
実際、説明にする上で困ってるのだから、嘘はついてない。
──……あの、ヘファイストス様の過去を暴露してしまったことは謝ります。ですが、あれはやむにやまれないほどの緊急事態(ヘスティア・ナイフないとシルバーバック戦で詰む)……と言うよりは、ヘスティアさまのため(ベルくんが最悪死ぬから)で!
かなり苦しいかもしれないが、急いで呼びに来たのはヘスティアさまのため、ベルがシルさんとデートしていたからそれを知らせるため……ということにしている。
実際、ヘスティアさまを連れ出す時も、ベルがシルさんとデートしていることを伝え連れ出したのだ。
いいんですかヘスティアさま! あの
『な、なんだってー!!』
……みたいな感じで。
──悪気なんて、なかったんです、本当です。どうか、信じてください!(その方が都合がこっちにいいので!)
「んー、嘘はついてないようだけど……まだ引っかかるのよね」
しかし、まだ疑念の目を向けられる。
ちっ、どこかのチョロ主神と違って疑り深いな。これ以上追求されてもボロが出る可能性が高まるだけだ。ここは素直に主神を頼るべきだろう。
──助けてくださいヘスティアさまぁ……
と、ヘスティアさまに捨てられた子犬のような目を向け、助けを求める。
窮地であることは疑いようもない。ヘルプミーなのは本心だった。
「まぁまぁヘファイストス。ここはボクの顔に免じて──くんのことを許してやってくれないか。彼に悪意がないのは、君も接してわかっているだろ?」
「それはそうだけど……。……ヘスティア、あなたもその子に確認しておきたいことがあったんじゃないの?」
ヘスティアさまが確認しておきたかったこと……? なんだろう? 何を聞かれてもボロを出さないようにしないと……。
あなたがヘスティアさまの方を見ると、あなたを見るヘスティアさまは、どこまでも見透かすような、それでいて罪を許すような、優しい瞳で……
「そのつもりだったんだけど……ボクは──くんを信じることにするよ。だって──くんはボクのために動いてくれたんだろ?」
ズキっと、あなたの胸が痛む。良心の呵責に苛まれるあの感覚。
あなたの行動理由は、ヘスティアさまのためだけではない。
ヘスティアさまのため、ベルのため……これに嘘はない。だが、事実でもない。
事実はこの世界にとって
あなたがいたことで、ヘスティアはあなたの分までヘファイストスに武器の製作を依頼した。
結果、ヘファイストスの武器の製作時間が伸び、本来ベルに届けられるはずだったタイミングで、ヘスティア・ナイフが届けられず、ベルの冒険は終わりかけたのだ。
だから正確には、ベルのためであり、ヘスティアのためであり、何よりもあなた自身のためだった。
──……ヘスティアさまのためだけじゃないです。ベルのため、何より──自身のためです。
……けど、もし『神』に許されるなら、これからも──は、ヘスティアさまやベルと一緒に苦楽をともにして、みんなでたくさんの物語を紡いで行きたいです。
その言葉の真意はこの場であなた以外には分かりえないものだろう。
たとえあなたが、この世界にとっては異物なのだとしても……彼らと共に歩みたいというのが身勝手で迷惑でしかない
この世界に居られるかぎり、あなたはヘスティアさまとベルと、この世界に居る神を含めた全ての人たちと、物語という名の人生を謳歌したいと心底そう思っていた。
神の二人はあなたの言葉は、本心であることを見抜いていた。
何よりあなたの主神であるヘスティアさまは、あなたが何かに悩んでいることをわかった上で言葉をかけてくださった。
「──くんがいったい何を悩んで、どういう『神』にどんな罪の許しを求めているのかはわからないけど……君は、ヘスティアファミリアの一員なんだ。ボクとベル君と苦楽を共にして物語を紡ぎたい? そんなの願うまでもなく、一緒にいれば叶うさ! だからこれからもよろしく頼むぜ──くん」
──神様…………!!!!
ひっし!
感涙の思いで、あなたは隣にいるヘスティアさまに抱きついた。ヘスティアさまも抱きしめ返してくれる!
無論、二人とも、邪な感情などない!
胸元にあまりに、柔らかくて、弾力のああ二つのものが押し潰れている感覚があるけど、邪な思いなどない、ないったらないのだ!
そんな主神と眷族のやり取りを……蚊帳の外にされているヘファイストスは……私はいったい何を見せられてるわけ? と、なんとも言えない気持ちでしばらく、見守っていた。
しかしなかなか終わらなかったので、咳払いしてやめさせたのであった。まる。
☆☆☆☆☆
──ヘの、ファイストスさまからの尋問も終わり、店舗の武具などを眺め待っていたベルと──がダンジョンへ向かったあと。
彼らを見送った、ヘスティアにヘファイストスが尋ねた。
「本当によかったのヘスティア? ──って子に、ベルって子がモンスターに襲われるのを知っていたのか確認しないで」
「いいんだ。もう、ボクは──君を、ボクのファミリアの子を信じるって決めた。……それに──くんがボクを呼びに来たあの時……あの子は必死だった。本気でボクとベルくんのことを思ってくれいた……それが確信できた以上、ボクがあの子を信じるには十分だよ」
「そう……あなたのファミリアのことだし、あなたがそう決めたならもう意見はしないわ。けど、決めたからには何があっても最後まで責任をとりなさいよ?」
「ああ、もちろんそのつもりさ。……ところでヘファイストス」
「なによ?」
「──くんの武器の事なんだけど……やっぱり造ってはもらえない感じかな?」
「ええ、
「やっぱりだめかぁ……そりゃアフロディーテのことを自分のファミリアの子供たちに知られたショックは計り知れないけと思うどさ……そこをなんとかっ!」
「早とちりしない、
「えっ、じゃあ……」
「あの黒髪の──って子には『盾』を造ってあげる。直に話してみて、あの子には何か守りたいものがあるように思えたから」
「ありがとうヘファイストス! ってことは、あれだ───くんが暴露しちゃったアフロディーテについても許してくれたってことでいいんだね?」
「いや、その件については一生忘れないから……」
「ヘファイストスっ!?」
──────
これは英雄に憧れる少年と、その少年とその仲間たちに憧れる、
物語において異物は最後まで異物でしかないのかもしれない。
だが、異物(あなた)は、物語を逸脱させる可能性を示した。
それが意味するものとのは……。
───
後に、ある男神は、真実、世界にとって異物でしかないあなたにこの言葉を送ってくれた。
その言葉はあなたを救い、あなたを冒険者として背を押すことになる。
「異物? 知ったことか! 世界は英雄を欲している。キミがどんな存在であれば英雄を志し、真に冒険をするものなら、なんの問題もない! この神■■■■がキミの滞在(大罪)を許そう。──! キミは今日からオラリオの冒険者だ!」