【あなた】
ヘスティアさまが出掛けてから今日で3日目。
本日、オラリオでは
そして、今、あなたとベルは怪物祭の会場である闘技場に続く東のメインストリートに来ていた。
大通りには、たくさんの露店が並び、大勢の一般客で賑わっている。
「すごい。リューさんたちの言ってた通りだ。シルさん見つけるの、苦労しそうだね」
案外、シルさんの方から見つけてくれるかもよ? ほら、ベルって目立つし(澄んだ魂の色が)
とか、冗談口調で言ってみる。 ……というか既に見つかってるんだろう。
「え、僕って目立つの? あ、いや、でも、確かに今朝アーニャさんに声をかけられたの僕だっけ」
『おーい、待つニャ、そこの白髪頭ー!』
今朝の出来事を思い返しながら、自身の白髪を指先で弄るベル。
ベルが勘違いしていることを察しながらも訂正はしない。
それにしても……。
あなたは、周囲を見渡し、ある
……ヘスティアさま、全然来ないな。
が、現在、まったくそんな気配がない。
このままではマズイ。
へスティアさまと合流できなければ、この後、巻き込まれるであろう
ステータス更新+神様のナイフ。
この2つの
支給品のナイフでは攻撃は通らないし、大きな力の差を埋めるための技も未熟。
……ダメだ。まともに正面からやり合って勝てるとは思えない!!
なぜ、ヘスティアさまが現れないのか? 原因があるとすればそれは、
思い出すんだ。自分の言動を。
あなたはオラリオに来てからの自分の言動を必死に思い出し、ヘスティアさまがこの場に現れない原因を探す。
そして、この今の事態、原作崩壊を引き起こす最大の自分の失言を発見した。
『そして、ベルくん。キミ自身も今より強くなりたいと望んでいる』
『はい!』
『──くんもそうなんだろ?』
『はい』
あれかぁぁぁああああ!!!!
本来であれば、あの時のベルとのやり取りで、ヘスティアは彼の力になるため、神友であるへファイストスの元へ訪れ、武器を打って欲しいと、丸一日、土下座で頼む。
そこからさらに約一日間掛かってでき上がったのが、神様のナイフ『ヘスティア・ナイフ』だ。
ナイフが完成して、すぐにヘスティアさまは怪物祭へと向かう。祭り事だから、きっとそこにベルがいるはずだろうと(ガバ推理)。
そして、ちょうどベルが東のメインストリートに来てまもない頃に偶然の再開を果たす。
だが、今は原作との違い【ヘスティア・ファミリア】にあなたが入っている。
そして、あの時の強くなりたいと望んでいるか? という問答に、あなたも同席していて、はい 。と頷いてしまった。
つまり、ヘスティアさまが現れない理由は……
ベルの武器以外にもう一本、あなたの武器をヘファイストスさまに打ってもらっているから。
いかにヘスティアさまがベルくんラブで贔屓をするとしても、ファミリアの団員を家族を蔑ろにするはずがなかった。
ヘスティアさまは『護り火』を司る『慈愛の女神』なのだからから……。
サー、っと、自分の中から血の気が引いていくのがわかった。
今すぐ【ヘファイストス・ファミリア】の本店へと向かい、ヘスティアさまを呼びに行かないと……。
それともベルを連れて上級冒険者がいる場所に逃げる? ダメだ、そんなことをすればベルの最初の冒険の1ページが、彼の成長の機会を奪うことになってしまう。
ダンまちが好きなあなたからすれば、選択肢はひとつしかない。
「とりあえず、怪物祭の会場の闘技場に続く道を辿って、地道にシルさんを探すしかないよね。行こう──」
待って、ベル!
「……? どうしたの?」
ごめん、急用を思い出した。悪いけど、少しの間、シルさん探しは任せていい? できるだけ、早く戻って来るから!! 必ず、戻ってくるからぁああ!!
そうベルに一方的に告げて、あなたは【ファイストス・ファミリア】の武具店がある北西のメインストリートを目指して、全力で駆けて行った。
「ええっ!?ちょっ、 ──!? ……行っちゃった……というか、急用ってなんの?」
ベルは困惑に満ちた目で、呆然と遠くなっていくあなたの後ろ姿を見ていることしかできなかった。
【ベル】
──が突然、急用を思い出したと言って、何処かへ行ってしまった。
必ず戻って来るって言ってたから、大勢の中からシルさんを探すのが面倒になって逃げたわけじゃないとは思うけど……。
せめて、急用がなんなのか説明してほしかったな。
……いや、もとはといえば、僕がアーニャさんに声をかけられて、頼み事をされたわけだし、──ひとりでダンジョンに向かってもいいところを、一緒について来てくれたんだし、──のことを悪くいうのはよくないよね。
こうしている間にも、財布がなくて、シルさんが困っているかもしれない。
「早く見つけないと」
そう自分を鼓舞して、歩を進めようとして……
ゾワッとした感覚が背筋に走る。
誰かに見られているような視線。
あれ? こんなこと前にもあったような……。
あの時は確か、豊饒の女主人の前で……
「ねぇ、そこのあなた、なにか探しものかしら?」
背後からかかる、脳に甘く響くような、女の人の声。
振り返ると、ローブ姿の女神さまがそこには居た。
ローブで顔は覆われていて、容姿は、はっきりとはわからない。
けど、それでも、ローブの隙間から見える部分だけで、美しく綺麗な方なんだと、脳が勝手に理解する。
「女神さま。えっと、実は、人を探していまして……」
「そう、人探しを。相手はどんな特徴をしているの?」
「えと、灰色の髪と瞳をしたヒューマンの女の子なんですけど」
僕がそういうと、女神さまは、「フッ」と口元に微笑を浮かべる。
色っぽくて、思わず、ドキッとした。
「その
「本当ですか!」
「ええ、たしか……あっちの方へ歩いて行ったと思うわ」
そう言って女神さまが指先を向けた方は闘技場の方角。
「教えてくれて、ありがとうございます、女神さま!」
「ふふっ、いいのよ、このくらい。ところで、あなたはどうして、その
「知人から、怪物祭へ向かったその女の子に忘れた財布を届けて欲しいと頼まれまして。それに、その女の子にはいつもお世話になっているので、困っているなら、少しでも力になりたいんです」
「そう……見つかるといいわね」
「はい! それじゃあ、女神さま、僕はこれで失礼します! 本当にありがとうございました!」
僕は女神さまに一礼してから、シルさんを探しに闘技場へ向けて歩みを進めた。
前進しながら、あれ? 、と思った。
女神さまが現れたのは僕の後ろから、闘技場とは真逆の方向からだったよね?
アーニャさんは、シルさんはさっき出かけたばかりだから、今、行けば追いつくと言って、僕と──を見送った。
僕と──は
じゃあ、あの女神さまは、いったい、いつ、シルさんを見たんだろう?
そんな疑問を抱いて、首だけ回して女神さまの方へと振り返る。
ローブで顔を隠した女神さまの姿は、影も形もなくなっていた。
前に向き直る。
「……どの道、闘技場の方へ行きながら、探す予定だったんだし、気にしてもしょうがないよね」
それに女神さまが僕に嘘をついても何も得はないだろうし、本当のことを教えてくれたんだと思う。
単純に僕と──が気づかないうちにシルさんを追い越しただけかもしれないし、あの女神さまの目がとびきり良くて、闘技場の方に向かう灰色髪で灰色の瞳の女の子を遠目から見掛けたのかもしれない。
それから結構な時間、闘技場の方を目指して、混雑している大通りを歩きながら、灰色髪の女の子を地道に探していると……
「あ、ベルさん!」
「シルさん!」
シルさんをやっと見つけることができた。
というより、僕の方がシルさんに先に見つけられた感じだけど。
「ベルさんも
「いえ、僕は、アーニャさんとリューさんに頼まれて、シルさんに、これを届けに」
がま口財布をシルさんに見せて、手渡す。
「これは……私のお財布。ありがとうございますベルさん!」
ベンチに座って、露店で購入したサンドイッチを食むシルさん。
彼女の隣に座る僕も、同じ露店のサンドイッチに舌づつみを打つ。
「その、なんだかすみません。奢ってもらって……」
「お財布を届けてくれたお礼なんですから遠慮なんてしなくていいんですよ? ……ここだけの話、露店で食事を買うつもりで朝食を抜いて来たんですけど、途中でお財布がないことに気づいて、とっても困ってたんです。ベルさんのおかげで、周りの人にお腹の音を聞かれて、恥ずかしい思いをしなくて、助かりました」
感謝の言葉の後、急に小声になるシルさん。その顔には恥じらいの色が伺える。
「そんな大袈裟な……誰にだって、お腹の音くらい鳴ることはありますし」
「それでも、女の子にとっては、結構、いえ、かなり、恥ずかしいことなんですよ?」
「そう、なんですか?」
「そうなんです! だからベルさんは私の恩人と言っても過言ではありません!」
「さすがに、過言な気がしますけど……。……それに、シルさんにはお弁当を作ってもらったり、お世話になってますし、このくらいのことはむしろさせてほしいというか」
シルさんは、「んーと」と、自分の頬に人差し指を当てて考える仕草をする。
「お弁当作りは私が好きでやってることなので。……それに、ベルさんたちにはその分、うちのお店をご贔屓にしてもらって、お店の売上に還元してもらえればいいですし♪」
素敵な笑顔をしながらそんなことを言うシルさんに、僕は思わず苦笑いしそうになる。
初めて豊饒の女主人にお呼ばれした時も思ったけど、ちゃっかりしてるんだよなあ。
「また近いうちに豊饒の女主人を利用させてもらいます」
「ええ、是非そうしてください♪」
サンドイッチを完食した後。
シルさんから
「ベルさん、もしよかったら、一緒に露店を巡りませんか?」
露店巡りに誘われた。
けど、もしかしたら──が僕を探しているかもしれない。
もしそうなら、僕だけ露店巡りを楽しむのはどうなんだろう?
「……ベルさん?」
「えっと、シルさん、実は……シルさんのことを探してたのは僕だけじゃないんです。同じファミリアの──も同行していたたんですけど……」
「……もしかして、はぐれちゃったとか?」
「はぐれたというか、急用があるとかで、居なくなちゃって」
「なるほど、大勢の中から私を探すのが面倒になって逃げたんですね」
素敵な笑顔で容赦のない物言い。
「た、多分、違うと思います! 必ず戻ってくるって言ってたので、本当に急用だったんじゃないかなって」
「……ベルさんは優しいですね」
「えっ?」
「──さんがベルさんを探しているかもしれないかもしれないのに、自分だけが私みたいなかわいい女の子と露店巡りをするのに引け目を感じちゃってるんですよね?」
「えっ!? な、なんでわかるんですか……!?」
「ふふっ、顔に出てましたよ」
「……えぇー、僕って、そんなにわかりやすいですか?」
「そうですねー、かなりわかりやすい方だなぁって、思います。嘘や隠し事ができない人かなって」
「シルさんには敵わないなぁ……」
頬をポリポリ掻きながら、僕は苦笑した。
接客業をやっていると、そういうこともわかるようになるものなのかな?
「いいんじゃないですか、気にしなくても……って、言ってもダメなんですよね、きっと」
「……せっかく、誘ってくれたのに、ごめんなさい。──のことはファミリアの大切な仲間で、家族みたいな存在だって思ってるんです」
「……ベルさんにこんなに思われてるんなんて、──さんのことが、羨ましいなぁ」
「え? それってどういう?」
「ふふふっ、どういう意味だと思いますか?」
上目遣い気味に、意味深な灰色の瞳を向けられて、顔が熱くなる。
「え、えぁ、あーと……」
「ふふっ、ベルさん、かわいい♪」
「か、からかったんですか! もうシルさん!」
「あはははっ! ……じゃあ、ベルさん、──さんを探しに行きましょうか」
「え、シルさんも一緒に来るつもりなんですから?」
「ダメですか?」
「……ダメじゃないですけど、怪物祭はいいんですか?」
「始まるまで、まだ時間はありますし、それに……私としては、もう少しベルさんと一緒に居たいなぁって」
か、かわいい……。
そうして、僕はシルさんと一緒に──を探すことになった。
探していた人と一緒に、別の人を探すことになるなんて、なんか奇妙な事になったな。
元きた道をシルさんと一緒に戻って、──を探して、しばらくして、聞き覚えのある声が遠くの方から聞こえてきた。
「ベルくうううぅぅぅん!!」
結構、距離があるけど、あの黒髪のツインテールは!
中性的な見た目の──に、肩車された、その神物は、元気そうに僕へ手を振ってくれる。
「ベルくぅーううううううううううん!!!! ボクを差し置いて他の女の子とお祭りデートとはどういうことだあああ!」
「え? か、神様!?」
神友の元へ行くと行ってから、約3日間、姿が見えなかった。神様がそこにいた。
……なんでか、──に肩車されてるけど……。
「良かったですね、ベルさん、──さんが見つかって。……どうしてか女神さまも一緒みたいですけど」
「は、はい。僕にも何がなにやら……」
「……。……感動の再会に水を差すのも悪いですし、ベルさん、私、そろそろ行きますね」
「え、はい、ありがとうございましたシルさん!」
「ふふっ、ベルさん、機会があったら今度は一緒に露店巡りデートしましょうね♪」
「えっ、で、でーと!?」
シルさんは僕と──と神様との再会に気を使って、闘技場の方角へと戻っていき、大通りを歩く大勢の人影に消えていく。
別れ際に見たシルさんの笑顔は、今日一番のもので、素直にかわいいって思った。
【あなた】
全速力で【ヘファイストス・ファミリア】の店舗まで行き、何とかヘスティアさまと再会し、こうしてベルの元まで連れてくることができて、あなたは安堵する。
【ヘファイストス・ファミリア】の団員に、ここに来ているはずのヘスティアさまに合わせて欲しいと頼んだが、「武器を打っているヘファイストスさまの邪魔をするわけにはいかないから、終わるまで待て」と言われたため、少々強引な手を使わざるを得なかったが……*1。
その結果、ヘファイストスさまに不興を買い、あなたの武器は、一旦、お預けを喰らう形になってしまったが……。全て計画通りでっさ……。
とりあえずヘスティアさまには、ベルくんがこのままだと酒場のウェイトレスの可愛い女の子とお祭りデートをすることになる! ヒロインの座をとられてもいいんですか、ヘスティアさまぁぁ!
と、ヘスティアさまの危機感を煽り、東のメインストリートまでヘスティアさまをおぶって全力疾走。
東のメインストリートに到着してからは、ヘスティアさまを肩車して、高いところから白髪の少年を探してもらった形だ。
「ここまで来たんだし、せっかくだ。ベルくん! ボクと露店巡りデートしようぜ! ついでに──くんも一緒に同行して、ボクとベルくんのイチャイチャを見届けてくれていってくれ!」
そうして、あなたは、ベルとヘスティアさまの露店巡りデートに同行することになった。
そのあとの展開は概ね原作通りである。
女神の悪戯に巻き込まれ、シルバーバックと戦闘になり、ステイタスを更新して、『ヘスティア・ナイフ』をヘスティアさまから贈られたベルがシルバーバックにトドメを刺して、冒険の1ページを刻んだ。もちろんあなたもステイタスを更新して全力で戦った。囮と盾での防御が主な役割だったが……。
違いがあったのは、シルバーバックが、ヘスティアさまだけではなく、あなたのことも、狙っていたことだろう。
背後にいる
シルバーバック討伐後、丸1日の土下座と神友が武器を打つ間約1日、計二日と半日の間、一睡もしていなかったヘスティアさまが疲労で気を失い、ベルとあなたは、豊饒の女主人ヘと主神さまを運び込み、看病してもらった。
ベルはシルさんにかっこよかったとか、惚れそうになったとか耳元で言われて顔を真っ赤にしてた。
ちなみにシルさん、──*2のことは?
「え? ──さんですか? そうですね〜、──さんは〜……自分にできることを精一杯頑張ってたと思います」
それだけですか? こっちはシルさんのせいで命懸けの戦いをするハメになったんですけど……。
全てを見透かしたような態度で、シルに目線を送るあなた。
シルは、一瞬、本当に一瞬だったが口元に笑みを浮かべると、すぐに申し訳なさそうな、いかにも私反省してますという表情のなる。
「ごめんない私が財布を忘れてしまったばかりに……ベルさんたちを危険な目に合わせることになってしまって……」
「シルさんも忘れたくて、財布を忘れたわけじゃないし。それにモンスターが襲ってきたのはシルさんのせいじゃないですよ」
フォローするベル。
あなたは、シルさんに別に責める気はなかったと、むしろ成長できる機会になって良かった、と伝える。
「うん、そうだね──!」
「ふふっ、やっぱりおふたりとも面白い冒険者さんたちですね♪」
こうして、あなたとベルは今回の冒険を得て、確実に成長した。
そして、あなたの前に選択肢が現れる。