「……立てますか?」
アイズ・ヴァレンシュタインがベルに近づき、華奢な手を差し伸べる。
ベルはその手を……
「ぁ、ぁ、ぁ、うあああああああッ!」
とらなかった。
それどころか、突然、叫び、まさに脱兎のごとく、この場から逃げ出した
初恋か。青春だなぁ……。
「……」
ベルに逃げられ、呆然とするアイズ・ヴァレンシュタイン。
あなたは、ベート・ローガが来る前にとっと退散するとしよう。と、ベルを全力で追いかけるのだった。
助けてもらったお礼はあえて言わなかった。 ベルくんとアイズがギルドで再開するイベントを潰す可能性を避けるためだ。多少の良心は痛むが、やむを得ない。
あなたがアイズ・ヴァレンシュタインから離れて割とすぐ、背後からベート・ローガの馬鹿笑いが耳朶を打った。
きっと、アイズ・ヴァレンシュタインは、からかわれて、ムッと可愛らしくふくれっ面をしていることだろう。
あの場に残っていればそれが見られたのだろうか? そう思うと、あなたはちょっと惜しいことをした気もした。
1
あなたは、全身返り血でどす黒くなっている少年の背を追う。
彼の行先は前方のあるギルド。
「エイナさぁあああああああんっ!」
「ん?」
ベルの声に反応する受付嬢、エイナ。
小冊子から視線をあげ、ギルドの出入口からした声の主に目をやる。
そこには、素敵な笑顔で、右腕を上げ、手をふりながら、エイナの元へとやってくる血染めの
「エイナさぁああああああああああああああんっ!!」
「うわあああああああああああ!?」
「アイズ・ヴァレンシュタインさんの情報教えてくださあああああいっ!!」
で。
ベルとあなたは、エイナさんにギルド本部のロビーに設けられた小さな一室へと案内された。
エイナさんに、どうしてアイズ・ヴァレンシュタインについて聞きたいのかとベルが訊ねられ、経緯を説明することに……。
5階層でミノタウロスに二人して殺された所をアイズ・ヴァレンシュタインに助けてもらった(以下略)。
ベルとあなたは5階層まで降りたことを、エイナさんにこっぴどく怒られた。
「特に──さん! 初日から五階層に行こうって提案したってどういうことかな!」
特にあなたは入念に叱られたのであった。ごめんなさいエイナさん!
ベルがアイズ・ヴァレンシュタインを好きになったことを知ったエイナはアイズ・ヴァレンシュタインについて知っている最低限の情報を教えてくれた。
そして、他のファミリア同士でお近づきになるのは難しいという残酷な現実を叩きつける。
「想いを諦めろなんて言いたくないけど、現実だけは見据えておかなきゃ。じゃないとベルくんのためにならないよ」
その後、『魔石の欠片』換金をする際、一緒に付き合ってくれた。
帰り際、エイナさんにベルが引き止められる。
「ベル君」
「……はい、なんですか?」
「あのね、女性ってやっぱり強くて頼りがいのある男の人に魅力を感じるから……えっと、めげずに頑張っていれば、そのね……ヴァレンシュタイン氏も強くなったベルくんに振り向いてくれるかもよ?」
落ち込んでいたベルを元気づけるエイナさん。
ベルもエイナさんが励ましてくれているのがわかったのだろう。
「エイナさん、大好き!」
「えうっ!?」
「ありがとうぉ!」
ベルは笑いながら、雑踏を走っていく。
顔を真っ赤にさせたエイナさんに、あなたはニヤニヤしながら、言った。
ベルとの式には呼んでくださいね。
「もう! 君たち! 大人の女性をからかわないのっ!」
あなたも笑いながら、ギルドを後にした!!
2
「……はい、これ。キミの新しい【ステイタス】ね」
素っ気ない口調で、些か不機嫌そうな
どうしてヘスティアさまは機嫌がよろしくないのか?
それはあなたよりも先に【ステイタス】更新をしたベル・クラネルが《スキル》を発現させたからだろう。
『恩恵』を更新する際、ヘスティアさまは、ベルからアイズ・ヴァレンシュタインとの運命的な出会いを聞いている。
だからこそ、アイズによってベルが変わったことが、尚更、面白くないわけだ。
──
Lv1
力I48→I51 耐久 I62→I69 器用I38→40 I敏捷I65→I70 魔力I0
《魔法》【】【】【】
《スキル》
【自動回復リジェネ】
・一定時間毎に体力と精神力の回復効果
・回復効果はレベルに比例
・常時発動
【 】
更新してもらった【ステイタス】の概要は以上。
獲得したはずのスキル
……まぁ、思いっきり消したあとがあるわけですが……。あとスキルのスロット一つ増えてるし。
あなたはヘスティアさまに聞いた。このスキルのスロットの空欄は? なんか消したあとがありますけど……。
「……あーと、それはだね。ベルくんのと一緒さ! 手元が狂ったんだよ!! ほら、ボクってまだ下界に降りて来た神としては新米だからさ! まだまだ
てへっ☆とデ〇ちゃん人形みたいな顔をしておどけてみせるヘスティアさま。
あなたはジーと、ジト目で、ヘスティアさまの青い瞳を見つめる。
ヘスティアさまの頬から一筋の汗が流れた。
まぁ、ここで問い詰めても仕方ない。ヘスティアも悪意があって隠しているわけじゃないだろう。
あなたたちのスキルがもし神々たちに知れ渡ったら、神々たちの玩具にされてしまうかもしれないとヘスティアさまは危惧しているのだ。
眷属たるあなたたちのことを思って、伏せているに違いない。もっとも、ベルに関しては半分以上私情が入っているだろうが……。
あなたは、そうですよね、誰にだって失敗することくらいありますよね!すみません疑っちゃって、と白々しい反応をしてみせた。
(あれぇ、もしかして──くん、ボクがスキルを消した事に気づいてるぅっ!?)
あなたの見透かしたような態度に、ヒヤッとするヘスティアさまであった。
3
翌朝。
ベルとあなたは早い時間帯から
ふたりとも装備一式を身につけ、朝の独特の静寂が漂う街中を歩いている。
「ごめんね──こんなに早くに起こしちゃって」
あなたは、別に構わないよ、と優しく答える。
ベルくんは、小さい頃、畑仕事を手伝っていたため早起きなのである。*1
あと、今朝は、ヘスティアさまがベルくんに乗っかって、寝ていた。
ベルくんだってお年頃の男の子! あの破壊力のある双丘を押し付けられれば、寝てなどいられないだろう。
ベルのお腹からくるると可愛いらしい音が鳴った。
ポリポリ恥ずかしそうに頬をかくベル。
「……あはは、恥ずかしいな。──、朝ご飯どうする?」
あなたは何処か適当なところで食べてからダンジョンに行こうと提案した。
「うん。そうしよっか。でもこの時間帯はまだ殆どのお店は空いてないだろうし……ッ!?」
突然、立ち止まるベル。
あなたは、どうかしたのかと訊ねる。
「……誰かに見られってるような」
警戒するように周囲を見渡すベル。
あなたは何も感じない。が、ベルが感じている視線の正体を知っていた。
あなたも倣って見回る。
そして、その少女は、なんの気配もなく、唐突に、ベルの背後から声をかけてきた。
「……あの」
バッと勢いよく振り返るベル、そこの先に視線を向けるあなた。
そこに居たのは、あなたのお察しの通り、灰色の髪をお団子に纏めたウェイトレスの格好をした少女、シル・フローヴァその人だ。
そして、あなたが、シル・フローヴァに掛けた最初の一言とは……!?