トランプ政権の科学冷遇、米サイエンス編集長「屈せず」
米国の著名な学術誌「サイエンス」のホールデン・ソープ編集長がこのほど来日し、京都市内で講演した。トランプ米政権が打ち出した科学界を冷遇する政策について「米国内で混乱が生じているが、我々が屈することはない」と語った。特に「(ジェンダーや環境保全などの)研究できる内容が制限されている」ことを問題視し、同誌の論文掲載や査読に関する方針は一切変えないと明言した。
ソープ氏は京都大学で開かれたイベントで10日に講演し、「現在の米国の科学界は、新政権によって予算の削減や職員の解雇に加え、一部の研究内容の制限が行われ悲惨な状況に陥っている」と訴えた。
トランプ政権は1月、DEI(多様性、公平性、包摂性)や環境保全に関連する政府の活動や助成金を廃止する大統領令に署名した。これにより助成金を主な資金源とする関連の研究を続けることは難しくなっている。
政府効率化省(DOGE)のコストカットの方針もあり米国立衛生研究所(NIH)の予算が数十億ドル削減され、NIHや米疾病対策センター(CDC)職員が大量解雇されるといった影響も出ており、混乱が広がっている。
ソープ氏は「我々は世界的な科学誌として独立性と査読の原則を確実に守っていくことが使命だ。一国の政策がどうあれ、論文を出版する方法を変えたことはないし、今後も変えることはない」と強調した。
そのうえで、「たとえ米政府が特定の研究を禁止したり制約を加えたりしても、日本やそのほかの国の研究者がその分野の論文を投稿してきたならば、掲載を続ける」と話した。
トランプ政権が反科学主義的な政策を強気で推し進められる理由について、米ピュー・リサーチ・センターが実施した科学への信頼度に関する調査のデータを引用しながら「新型コロナウイルス感染症の大流行時、科学的な分析が曖昧なままに不便な生活を強いられるなどして、特に米共和党員の間で科学への信頼が失墜したことが大きい」と指摘した。
そのうえで「トランプ氏自身が科学について否定的な見解を持っているというより、同氏の支持者が科学に対する信頼度が低いという事実を利用しているのだろう」との見方を示した。
一方、同データによれば「科学への信頼は落ち込んだとはいえ、まだ高いと言えるレベルにあり、コロナの大流行が落ち着いて以降は回復しつつある」という。科学への信頼を再び失わせかねないこととして論文の捏造(ねつぞう)や誤りの隠蔽を挙げ、「論文に誤りがあったことが分かったときには、ためらわず速やかに訂正や撤回をすべきだ」と訴えた。