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『脳外科医竹田くん』のモデル医師を作者が提訴「漫画は名誉毀損にあたらない」 大阪地裁
漫画「脳外科医竹田くん」、作者の男性(2025年3月11日/大阪府/弁護士ドットコム)

『脳外科医竹田くん』のモデル医師を作者が提訴「漫画は名誉毀損にあたらない」 大阪地裁

インターネット上に公開された漫画『脳外科医竹田くん』の作者である男性が、登場人物のモデルである医師に対して、この漫画に関して、名誉毀損を理由とする損害賠償の債務が存在しないことの確認を求めて大阪地裁に裁判を起こした。

男性が3月11日、大阪市内で記者会見を開いて明らかにした。提訴は3月5日付。

『竹田くん』のモデルとなった医師は、漫画の内容が名誉毀損にあたるとして、発信者情報開示の手続きをすすめ、東京地裁がプロバイダに作者の住所と氏名の開示を命じていた。

一方、医師は昨年12月、兵庫県の赤穂市民病院で2020年に女性患者の神経を誤って切断して後遺障害を負わせたとして、業務上過失傷害の疑いで神戸地検姫路支部に在宅起訴された。

こうした状況の下、『竹田くん』の作者である兵庫県在住の男性は今年2月、自らがこの女性患者の親族であることを明かしていた。

男性は記者会見で、改めて自身が作者であるとしたうえで「今後、一連の医療事故に関わった医師から、漫画の表現について刑事告訴や訴訟提起がおこなわれることがあったとしても、堂々と公益性を主張し、粛々と対応してまいりたいと考えています」と語った。

●『竹田くん』は大きな反響を呼んだ

『竹田くん』の連載は2023年1月からインターネット上で始まり、ほぼ1日1話のペースで142話まで続いた(うち2話は非掲載)。

「赤穂市民病院」が「赤池市民病院」などと書かれているフィクションのかたちをとってはいるが、「漫画は公立病院における一連の医療事故およびその後の病院組織の対応をめぐる諸問題を主題として描いている」(訴状から)

モデルとなった医師による発信者情報開示の手続きがとられ始めたのは同年10月のこと。その後、発信者情報の開示が裁判所に認められて、2024年7月に作者である男性の住所・氏名が医師のもとに渡ったという。

以来、NHK『クローズアップ現代』で医療事故が報じられ、医師が在宅起訴されるなど、メディアや捜査機関も巻き込み、大きな動きが続いている。

●「竹田くんモデルの医師」を自称するXアカウントが発信をはじめた

原告代理人をつとめる平野敬弁護士によると、開示の手続きにおいて、医師は、不法行為に基づく損害賠償請求をする考えを示したという。また、SNSには「脳外科医 竹田くんのモデル」と称するアカウントが、漫画の発信元について刑事告訴も検討しているとの考えを公表した。

平野弁護士によると、このアカウントが医師によるものだと判明していないが、当事者しか知りえない情報を発信しているという。活発な発信活動に合わせてフォロワーが集まっていることもあり、「漫画をウソだ」と広められるおそれを懸念したという。

医師がいつ損害賠償請求に動くかわからない状態にあり、「地位が不安定」な状況にあったことから、「開示されて3年間、怯え続けなければいけない。先手を打って心身の安定をはかりたい」という考えからも、今回の提訴に至ったとしている。

画像タイトル 作者代理人の平野敬弁護士(2025年3月11日/大阪府/弁護士ドットコム)

実際のところ、医師からは、まだ民事・刑事で法的措置をとられていないが、作者側としては先んじて、漫画には違法性がないことを確認しようとするのが今回の裁判の狙いだ。

●漫画による「名誉毀損」は成立しないと主張

原告の男性側は、漫画によって、医師の社会的評価は一定程度低下することはあっても、漫画には公益性・公益性や真実性などがあり、裏付けられた情報に基づく内容であるから、名誉毀損は成立しないと主張している。

また、漫画は市立病院における一連の医療事故およびその後の病院組織の対応をめぐる諸問題をテーマとして描いており、赤穂市民病院において被告の医師が関与した一連の手術に重大な医療事故が頻発したこと、そして検証過程で問題が多発したことという「重要な部分」においては、病院のガバナンス検証委員会の報告書などから事実が裏付けられており、真実性に欠けるところはないとしている。

つまり、医師の社会的評価が低下したとしても、名誉毀損の成立が認められないという考えだ。

なお、先行する開示手続きで、医師側が問題としたのは、140話あるうちの4話だけだったという。平野弁護士は、4話だけをもって名誉毀損の成否を論じる判断枠組みは「誤り」と指摘。この4話には、赤穂市民病院における医療事故の描写は一つも含まれていないという。

また、仮に問題とされた4話について検討しても、名誉毀損は成立しないという考えだ。

作者が漫画を執筆・公表した理由は「一連の医療事故の真相が究明されないまま事件の記憶が風化すれば、また新たな犠牲者が生まれてしまうのではないか」「どうにかしてこの問題を社会に伝えたい」という危機感によるものだという。また、書籍化などの話も届いているが、すべて断っていて、漫画によって収益は得ていないと作者の男性は説明した。

●作者の思い「こんなことって起こるのか。私たちもそう思っていた」

原告である作者の男性は3月11日の記者会見で、漫画に込めた思いについて語った。

画像タイトル 漫画の作者の男性

「漫画を読まれた方は、こんなことって現実に起こりうるのかと思われます。実際、私たちも医療過誤事件に遭遇するまではそう思っていました。私の親族が医療過誤にあったことで、いろんな経験をした。その実体験にもとづく漫画であるということをわかっていただきたい。

情報提供者からの情報もあって、私が見聞きしてないこともありますが、基本的にはリアルタイムに私たち患者家族が経験したものが本質となって描かれた漫画ということはわかってほしいです」

医師側が、漫画について名誉毀損だと捉えて作者に法的措置をとる考えはあるのだろうか。弁護士ドットコムニュースは、医師による開示請求手続きについて代理人をつとめた弁護士を通じて問い合わせている。回答があれば追記する。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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