最近、X(ツイッター)で拡散され、模倣され、パロディーとして大人気の「ネットミーム」がある。「もうええでしょう」。フレーズの元ネタは、ネットフリックスドラマ「地面師たち」の悪役キャラのセリフだ。この役を演じ、今や「Vシネマの帝王」ならぬネトフリの怪優的存在なのが、ピエール瀧さん(57)だ。
東京都内の某所。ずんぐりした巨漢が信号待ちしていた。顔を隠す黒メガネ。一発でモロバレする、そのフォルム。瀧さんだ。「サングラスした瀧を街で見た、ってよくいわれます。カムフラージュの意味ないですよね」
もうええでしょう、は地面師たちの詐欺グループの一人、司法書士崩れの後藤が、エセまがいの関西弁で吐き出すセリフだ。その言葉が、ネットで瀧さんの顔写真とセットでバズった。トラブルでこじれたり、芸能人が炎上したり、株価が急落したり、果てはドカ雪が降ったり……。ここぞとばかりに、もうええでしょう。ニュアンスの幅が広く、誰もがこのミームのタイミングを狙ってる。実に使い回しが利くのだ。
本業はミュージシャン。俳優業に首をつっこんだのは「20代後半の頃、『すぐ死ぬ役』で出ない?と知り合いの監督に誘われて、それなら楽でいいや、と出たのが最初。山っ気はなくて、いたずら気分でした」。ところが独特の風体と、人を食ったようなキャラを業界はほっておかなかった。
「顔が現代的じゃないからですかね? 『昭和顔』ってよく言われます」。ちなみに、高校時代に入っていた野球部でのあだ名は「顔」だった。
「ソバ屋なのに、お品書きにないラーメンが人気の店ってあるでしょ? 9割の客がラーメンを頼むのに、店主に『ラーメン屋さん?』って聞いたら『いやウチはソバ屋だよ』って言い張るみたいな。僕がミュージシャンなのに俳優ってのも、そんな感じがするんですよね」
「木更津キャッツアイ」「龍馬伝」「あまちゃん」「凶悪」……。映画でも、一時はテレビでも、善玉から悪玉まで引っ張りだこだった。
だが、瀧さんは、2019年6月に麻薬取締法違反に問われて有罪判決を受けた。それが今、この怪優をテレビで見かけない理由でもある。
ただ、この事件を裁いた小野裕信裁判官は、判決言い渡しの後、「薬物がなくても良いパフォーマンスをし、薬物をやめられたことを社会の人が見てくれることを切に願う」とエールを送った。有罪判決を理由に瀧さんの出演映画(「宮本から君へ」)の助成金を公的機関が取り消したことも、最高裁が「違法」と判断した。司法の番人たちは、瀧さんを切り捨てず、復帰を後押ししている、ともいえるのではないか。
執行猶予期間が明けてから、もうすぐ3年。そろそろテレビ復帰してもいい時期ではないか。きっと本人は泰然として、絶対に言わないだろう。でも、このフレーズがぴったりと来るタイミングな気がする。
もうええでしょう?【川名壮志】