ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
本家のグール部隊も出す予定なので、そこはご安心(?)を……。
あと本家ホワイトベース隊に遭遇したら死あるのみなのでまだ絡まないかな……すいません。
9月25日、僕たちはティルナノーグ内にある広めの会議室に集まっていた。
僕のザクの改修もそうだが、パーシーのザクの修理に思っていた以上の手間がかかっているようだ。
その間、ギャレット少佐からヨハンソン隊長に報告してもらい、僕たちはここでお世話になることになった。
鹵獲ザク部隊の追跡任務も継続しつつ、今はメンテナンス期間にしてもらっている形だ。
そんな感じで時間を過ごしていたのだが、今日は朝からギャレット少佐から呼び出されてしまった。
何か作戦に参加するのかと思ったが、少し変わった事情があるようだ。
なんとまあ、極秘部隊であるはずのノイジー・フェアリー隊、さらにはその拠点であるこのティルナノーグにジャブロー攻撃軍司令官である少将がやってくるらしい。
どうしてそんな事態になってしまったのかはわからないが、激励のための視察という名目でここに来る以上、部隊としては迎え入れる準備をしなければならないようだ。
その場に僕たちサブナック隊も同席してもらいたいというギャレット少佐の要請に応えることにした僕たちは、続いてやって来る少将についても話を聞かせてもらった。
ジャブロー攻撃軍司令官などという立場の人間なのだから、さぞや力量のある方なのだろうと思ったのだが……どうやら、そうではないようだ。
「まあ、その立場はお飾りね。本人を一言で言うなら、無能が軍服を着て歩いているような男かしら?」
ズバッと切り捨てるような容赦のないギャレット少佐の評価に、思わずリリアとガスが噴き出してしまった。
どういう意味かと尋ねれば、まあ会えばわかると適度に濁した上で少佐は苦笑を浮かべる。
そうして時間は経ち、件の少将がティルナノーグにやってきたのだが……確かに、すごい人だった。
「遠路はるばる、ご視察ご苦労様です。ガルシア・ロメオ少将」
「ふん。基地らしくない、いいところじゃあないか。いかにも女の住処といった感じだ」
敬礼するギャレット少佐に対して、ジャブロー攻撃軍司令官であるガルシア・ロメオ少将が鼻を鳴らしながら応える。
なんかもう、男尊女卑のオーラがむんむん湧き上がっているなと考える中、ギャレット少佐の後方に並ぶノイジー・フェアリー隊を一瞥した少将は、一瞬鼻の下を長くした後で口を開いた。
「ギレン閣下から女ばかりの部隊だとは聞いていたが、子供がパイロットを務める部隊でもあったとはな。こんな連中を極秘部隊として運用するとは、キシリア様も酔狂なことをお考えになるものだ」
「むっ……!!」
その物言いに、アルマたちだけでなく厳格なハハリ中尉ですら一瞬ムカッとしたような表情を浮かべる。
この人、視察兼激励に来たんだよなと事前の情報を再確認した僕は、それなのに逆に部隊の士気を下げかねない少将の行動を目の当たりにして、ギャレット少佐の言葉の意味を理解し始めていた。
「それで? こっちの連中はなんだ? ここには女しかいないんじゃなかったのか?」
「彼らは我々と同じキシリア様の傘下の部隊、サブナック隊のメンバーです。とある任務に協力してもらうため、一時的にここを拠点として使ってもらっています」
「ふぅん……! こちらも子供ばかり、本当に戦力になっているのか怪しいな」
「んだとぉ……!?」
ノイジー・フェアリー隊の時と同じく、僕たちを嘲る少将に対してガスが怒りの声を上げかける。
咄嗟に彼の脚を蹴り、動きを止めた僕は、噴火寸前にまでなっていたガスを視線で制した。
「……危ないところだったな、クロス。ここでガスが爆発したら、冗談抜きで洒落にならない事態になっていたぞ」
隣に立っていたアクセルの言葉に、冷や汗を流しながら頷く。
こんな人でも少将だ。軍曹であるガスが飛び掛かったりしたら、僕たちだけでなくサブナック隊全員がペナルティを喰らう事態になりかねない。
「ノイジー・フェアリー隊といったな? 極秘部隊らしいが、戦果の方はどうなんだ? んん?」
「はっ! つい先日、連邦の鹵獲部隊と戦闘し、これを見事撃退してみせました。初陣としては、十分な戦果かと」
「なるほど、なるほど……! 確かにまあ、初陣の小娘にしては十分かもな。しかし、俺の部隊が出撃していたら、それ以上の戦果を挙げていたはずだ。その程度で満足するとは、まだまだ甘いな! ガハハハハ!」
いや、そこは褒めろよ。部隊を激励する絶好のチャンスだったじゃないか。
ギャレット少佐からのナイスパスを見事にスルーするどころか、オウンゴールを決めた上で味方のゴールキーパーにタックルを決めるレベルの大やらかしをしているロメオ少将は、ノイジー・フェアリー隊のみんなの顔をじっくり……いや、ねっとりと見つめた後、彼女たちの背後に回り込みながら話を続ける。
「お前たちも自分たちの力で任務を成功させただなんて思うなよ? お前たちの活躍の裏では、我々のように戦線を支える将官たちの奮闘があるのだ。つまり、我々がお前たちの青いケツを拭いてやっているということだな!」
「ひゃうっ!?」
そう言いながら、ロメオ少将がアルマの尻を掴む。
話だけでもセクハラで訴えられかねない内容なのに、しっかり彼女の尻を揉みに揉みまくる彼の姿に唖然とする僕の隣で、先ほどまで怒りを燃え上がらせていたガスもまた信じられないといった表情を浮かべていた。
「おい、クロス。あいつ、本当に少将なのか?」
「そうみたい、だけど……」
あのガスがドン引きしてしまうくらいにはヤバいロメオ少将を見て、ギャレット少佐の評価の意味が十二分に理解できた。
この人、普通に無能だ。激励に来たはずなのにやっているのはセクハラだし、邪魔な存在でしかない。
もう一分くらいお尻を揉まれ続けているアルマが不憫に思えてならないし、僕だって頭にきていた。
さりとて相手は少将。位が違い過ぎる相手に下手に口出しはできないぞと悔しさを募らせる中、ヤバい人はさらにヤバいことを言い出す。
「ところで、だ……我々も少し長旅で疲れていてな、ゆっくりと休みたいと思っているんだ。このティルナノーグはロケーションとしては絶好だし、俺も気に入った。酒と、そうだな……溜まった性欲を解消するための相手の用意を頼む」
「っっ……!?」
……信じられない。この人、なんで少将なんだ?
仮にも軍隊に所属している兵士に、性処理を行えと命令するだなんて、気が狂っている意外に表現のしようがない。
「幸い、ここは女だらけの部隊なんだろう? そっちのサブナック隊の面々に応援を頼んでも構わんぞ? 上官として、まだケツの青い小娘たちに男を教えてやるというのもやぶさかではないしな!」
この人、殺しちゃダメなのかな……? 絶対に生かしておいてもこっちに不利益しかもたらさないよ。
でも絶対大問題になるし、ここはギャレット少佐の対応に期待するしかないと、そう自分を必死に律していた僕は……その瞬間、途轍もなく嫌なプレッシャーを感じ、息を飲む。
(なんだ……? この、感覚は……!?)
今まで戦場で感じたものと大きく違う。
爬虫類のような何かが体を這いあがってくるような、そんな感覚に襲われた僕が目を見開く中、そのプレッシャーを発している人物が部屋の中に入ってきた。
「お待ちください、ロメオ少将。お気持ちはわかりますが、それは止めておいた方がよろしいかと」
……その人物は、とても美しい青年だった。
多分、僕と同い年か少し上。芸術品として作り上げられたフランス人形のような、美しく整った顔立ちをしているその青年は……まさしく人形だ。
彼からは人としての温もりのようなものが感じられない。冷たい、血の通っていない人形のような雰囲気を纏っている。
微笑を浮かべてはいるが、まるで楽しさだとか優しさだとかを感じさせない彼はつかつかとロメオ少将……に尻を揉まれているアルマへと歩み寄ると、彼女を蔑みの目で見つめながら言った。
「この女は止めておいた方がいい。失敗作の烙印を押された落伍者に相手をさせては、あなたの格まで落ちてしまいますから」
「あなたは……!?」
「おや、落伍者の君にも私のことを忘れないくらいの記憶力はあったか。久しいな、アルマ・シュティルナー」
「ギベオン……! ギベオン・クレイズ……!!」
金色の髪。美しく整った顔立ち。感情のひとかけらも感じさせない立ち振る舞い。
人とは思えない、グールのような怪物としての雰囲気を纏う彼の名をアルマの口から聞いた僕は、静かにその横顔を見つめる。
……この男とは、幾度となくぶつかり合うことになるのだが……この時の僕は、そんな未来のことなど何も知らず、ただただ異質なプレッシャーを放つ彼を見つめ続けていた。