関数解析のありがたみで最もわかりやすく楽しいのは, 偏微分方程式の解の存在が言えることであろう.
偏微分方程式を, 関数の集合から関数の集合への作用素の問題とみて, 関数の集合に線型位相空間の構造を入れ, 作用素を何らかの意味で連続写像またはそれに似た作用素とみなして, 作用素について何かしらの定理を使い, 解の存在を示す. 解の存在は解の計算の前提である.
X=C^1([0, 1]\times [0, 1])を, 正方形(0, 1)\times (0, 1)で連続的微分可能かつ自分自身とその偏導関数が境界まで連続に拡張可能な関数の成す線型空間とする. ノルムを
\|u\|_1=\sup_{(x\in [0, 1]\times [0, 1])}(|u(x)|+|\nabla u(x)|),
\|u\|_2=\sup_{(x\in [0, 1]\times [0, 1])}(|u(x)|+|\nabla u(x)|)+\int_{[0, 1]\times [0, 1]}(|u(x)|+|\nabla u(x)|)dx
で定義するとXは距離空間として完備であり,
\|u\|_1\le\|u\|_2\le 2\|u\|_2
であるから, どちらにせよ同値な位相を定める. しかし
\|u\|_3=\int_{[0, 1]\times [0, 1]}(|u(x)|+|\nabla u(x)|)dx
でXのノルムを定めるとXは完備ではない. その完備化はソボレフ空間W^{1, 1}((0, 1)\times (0, 1))である. ソボレフ空間は偏微分方程式を解くためによく使われる.
超関数は或る線型位相空間から複素数体への連続線型写像である. 局所可積分関数は超関数とみなせる. 超関数の空間は距離化可能とは限らないが, 超関数の成す空間としてソボレフ空間(の双対空間)やベゾフ空間などを定義すると完備距離空間になる. 任意の定数係数線型偏微分作用素Lに対して, 或る超関数Eが存在して
LE=\delta
を満たす. ゆえに, 台がコンパクトな超関数fに対して偏微分方程式Lu=fの解のひとつは超関数の畳み込み(通常の関数の畳み込みの拡張)を用いて
u=E*f
である. 非線型方程式
Lu=f(u)
についても, u\mapsto f(u)が連続かつf(0)\neq 0かつEが局所可積分であれば, うまくバナッハ空間を設定してバナッハの不動点定理(縮小写像の原理)で自明でない解の存在が言える(逐次近似法でu_{n+1}=E*f(u_n)とすればよい). 問題はどうバナッハ空間を設定するかである. バナッハ空間以外でも使える不動点定理は他にもいくつかあるが, 解の一意性が成り立たないか仮定が強くて使いづらい. この非線型項をうまく処理するためにL^p空間やソボレフ空間もしくはベゾフ空間などが使われている.