解の計算は解の存在が前提である. 解が存在しない方程式の解の計算はできないからである。しかし解の計算は解の存在を確かめずにされがちである. それは数学を使う立場では自然なことであろう. しかし数学には解が存在しない方程式がいくらでもあり, また解の意味を具体的に何か考えると, 同じ方程式でも解が存在したりしなかったりする.
0x=3
は解を持たない. 0=3であるような数xは存在しないからである.
連立方程式
2x+3y=5
2x+3y=6
は解を持たない. 連立方程式とはふたつの方程式を「かつ」で結んだものである. どのように数x, yを考えても5=6とはならない.
x^2=-3
は実数解を持たない. 実数は正であれ負であれゼロであれ, 二乗したら負になることはないからである. 複素数という範囲に解の意味を広げたら解があることが知られている.
微分方程式
y'=2\sqrt{y}
を考えよう. y=0は解である. もしy\gt 0としたら
\frac{1}{2\sqrt{y}}\frac{dy}{dx}=1
なので両辺をxで積分して左辺で置換積分するとCを定数として
\sqrt{y}=x+C
ゆえに
y=(x+C)^2\,(x\gt -C)
である. 従って初期値としてy(0)=-1を考えると, 実数値関数についての初期値問題としては解を持たない.
偏微分方程式は線型方程式でも解が存在しないレヴィ(Hans Lewy)の例がある. f(z)を実数zについてのC^1級実数値関数とする. \mathbb{R}^3における関数u(x, y, z)についての方程式
-\frac{\partial{u}}{\partial{x}}-i\frac{\partial{u}}{\partial{y}}+2i(x+iy)\frac{\partial{u}}{\partial{z}}=f'(z)
の, 解u(x, y, z)が存在して(x, y, z)=(0, 0, 0)の近くでC^1級ならf(z)はマクローリン展開可能でなければならない. よって, これを対偶にすれば, f(z)としてマクローリン展開可能でないもの(例えば隆起関数)を取ると, (x, y, z)=(0, 0, 0)のどんな近くでもC^1級の解u(x, y, z)は存在しないことがわかる. f(z)は実数値なのに複素数係数で考えるからおかしいのではないかと思うかもしれないが, 実部と虚部に分ければ実数係数で解が存在しない例があることがわかる.
偏微分方程式は, 普通の意味で微分可能でない解も現象を記述することがあるので, 滑らかでない関数以外にも解を考える必要があるが, 解をあらかじめどの範囲で考えるかによって解は存在しないことがある.