超凡夫に転生するのは間違っているだろうか


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作:タルタル山賊焼
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1.ラウル・ノールドという男


書きたくなったので書きました


 冒険者の町、オラリオ。

 太古の昔、モンスターを生み出す大穴を塞いで作られたこの大都市は、モンスターを討伐する冒険者を多く生み出す英雄の町となった。

 嘗ての大穴はダンジョンと呼ばれ、冒険者が冒険するための場所となり日夜夢見る者がダンジョンに挑みに潜っていく。

 全ての冒険者達は下界に降りた神の眷属となり、恩恵を授けられることで力を得て強くなる。つまり、冒険者の強さとは与えられた恩恵をどこまで昇華することが出来るのか、と言ってもいい。

 

 現在の世界最高位は『Lv.7』。その一人がオラリオには存在する。その者の名前はフレイヤ・ファミリアの団長、『猛者(おうじゃ)』オッタルだ。

 オラリオ二大派閥を率いる誰もが知る強者が、オラリオに君臨している。

 

 そして、『Lv.6』の副団長の『女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)』ことアレン・フローメルに続くようにして、『白妖の魔杖』ヘディン・セルランド、『黒妖の魔剣』ヘグニ・ラグナール、『炎金の四戦士(ブリンガル)』ガリバー兄弟。

 神ゼウスと神ヘラのファミリアが無き後、オラリオを席巻しているファミリアの主戦力が彼らだった。

 

 だが、オラリオで名を轟かすファミリアはフレイヤ・ファミリアだけではない。フレイヤ・ファミリアと戦力を二分するかのように存在しているファミリアがある。

 

 笑う道化のシンボルを掲げる誇り高いファミリア、その名も───『ロキ・ファミリア』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シッ……!……フッ!……ハアッッ!!」

 

 その男は手に握った刀剣を握り、目の前の人物に目掛けて何度も振り下ろす。袈裟斬り、切り上げ、右薙ぎ、刺突。次々に出していく技の全てが見切られて防がれる。

 己の繰り出す全ての攻撃が全くもって通用しない。無力感すら感じるその攻防の中でも、その男は決してその動きを途切れさす愚行だけは犯してはならないと、再び握る柄に力を入れた。

 だが、その一瞬の隙を見逃す相手ではない。すぐさま攻撃に転じて凄まじい攻撃の嵐が襲いかかってくる。先ほど自分が振るった斬激など子供だましだったかと思う程に、疾く、鋭く、重い斬激の数々。

 見切ることだけで一苦労であり、とても攻勢に移ることなど出来はしない。次第にその剣戟に追い付かなくなり首元に剣を添えられた。

 それ即ち、自身の敗北に他ならない。

 

 その事実を受け止め、ロキ・ファミリア所属の冒険者、ラウル・ノールドは深く溜め息を溢した。

 

「フゥー……これで127戦127敗か。やっぱり、遠いな…………」

 

 ラウルの前には誰も居なかった。それもそのはず、彼がしていたのはボクシングで言うところのシャドー。

 目の前に相手が居ると仮定して行う特訓方法だ。彼はこれを何年も繰り返して特訓している。だが、届かない。

 まるで、これがお前の限界だとでも言わんばかりに。

 

「──いや、違う。やれる筈なんだ」

 

 ガンッ!と、柄頭を額に押し付けて弱気を払う。止まってる時間など自分に許されている訳がない。少しでも早く強くならなければならない。

 再び構えを取り振り上げた剣を振り下ろすその直前、遠くに居る誰かの声が耳に届いた。

 

「って、もう時間か!?急がないとヤバい!」

 

 剣を鞘に納刀し素早く片付けに入る。それは、今まで振っていた両刃剣だけではなく、双刀に槍や戦斧、盾に至る迄様々な種類の武器が彼の周囲には鎮座していた。

 彼がここで振るっていたのは両刃剣だけではなく、ここにある武器全てを用いて鍛練をしていたのだ。種類の全く違う武器を多く扱うなど非合理の極みのようだが、彼はその鍛練を長い間続けている。

 そんな彼だが、まるでここで鍛練していることが悪いかのように、鍛練用の武器を持ちすり足差し足で見付からないように声のする方から去っていく。

 まあ、それもあながち間違っていない。何故なら、朝方である今の時間はロキ・ファミリアの敷地内で鍛練をしていい時間ではないからだ。

 両手に武器を抱えて駆けていく姿は強盗そのものだが、そんな自分の姿を省みることなど彼にはできない。本当に時間がないのだ。

 なんとか武器庫に辿り着くとそこでようやく安堵の息を彼は吐いた。

 

「団長から指揮を任されるようになって、軽はずみなことは出来なくなったんだよなぁ。まとめ役が規律を乱してるなんて知られるとファミリア全体に悪影響だろうし……」

 

 練習熱心と言えば聞こえはいいが、決められた時間を超えている以上は規律違反である。

 冒険者の町だからと気にする者は少ないが、人に指示する人間が率先してそれを破るのは褒められることではないのは明らかだ。

 

「───やれやれ、分かっているなら控えて欲しいんだけどね」

 

「ッ!?」

 

 バッ!と、勢いよく振り向くとそこには、眉目麗しい金髪の少年が扉の近くの壁に寄りかかっていた。いや、違う。彼は少年などではない。

 小人族(パルゥム)はヒューマンの子供程度の姿のまま成長が止まる。目の前の人物もその例に漏れず子供の姿をしているが、四十代の男性だ。物腰柔らかだがその貫禄はその小さな体から出ているとは思えない程に満ち溢れている。

 

「団長!?」

 

「やあ、ラウル。朝から励んでいるね」

 

 ロキ・ファミリアの団長フィン・ディムナ。彼はこのオラリオでも数少ない『Lv.6』の一人にして、指揮能力ではオラリオ随一を誇る智将だ。

 そんな彼は困ったように眉を八の字にする。

 

「君のオーバーワークは相変わらずだけど、通常のダンジョン探索は勿論毎日の事務作業もちゃんとしているのが始末に終えない。君ほど真面目で不真面目な男もそういないよ」

 

「申し訳ないっす団長……でも、自分はまだまだっすからもっと頑張らなくちゃいけないんです。

 それこそ、年下のアイズさんにもレベルを抜かされてしまいましたし、もっと強くならないといけないっすから」

 

「その向上心は褒められるべきものだ。でも、だからと言って君がオーバーワークで倒れていい理由にはならないよ。

 まあ、最近はそんな姿を見ることは無くなったけど、もしまたそんなことになればアキを始めとして多くの団員が心配することになる。それを、忘れないで欲しいかな」

 

「も、申し訳ないっす!気を付けます!」

 

 勢いよく頭を下げる。それはそうだ。

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「まあ、僕としても上を目指そうと邁進する姿は見ていて気持ちのいいものだけど、ファミリア全体に認知されれば僕の立場だと何かしら言わなければならなくなるのは分かってくれ」

 

「はいっ、分かってるっす!誰にも気付かれないようにします!」

 

「うん、分かってるならそれでいい。くれぐれも騒ぎにならないようにしておくれ」

 

 そう言うと団長は身を翻して武器庫から出ていった。ロキ・ファミリアでは明確な起床時間などは決めていない。

 そこは冒険者特有のマイペースさが理由だが、それでも与えられたノルマを達成するために、朝早くから起きる者も居ないわけではないのだ。

 露見する可能性を高めてしまったのだから、忠告を受けるのは当然のことだった。

 

「足りない……全然足りていない……ッ!俺は……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 これは見た目も雰囲気も平凡で農家生まれの三男、原作においてサブキャラにもなれない男キャラ、ラウル・ノールド。

 そんな、とても主要キャラだとは言えないキャラクターへと転生してしまった男は、命を落とし再び命を得る幸運を手にしても我武者羅に前へ進み続けるしかない。

 数多を救う誰もが憧れる英雄になどなれないことを理解しながらも、彼は成すべきことを成すために血の滲む鍛練にその身を費やす。

 『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』という物語の展開に関わってしまっている、ラウル・ノールドへと転生してしまった男は、その()()を果たすべく、生涯に渡って無様に足掻き続ける道を行くしかないのだ。

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