正義の眷属
「ただいま帰りました! アストレア様!」
アリーゼの弾むような声が、ファミリアの本拠、星屑の庭に響き渡った。 彼女の声はいつも明るいが、今日はいつにも増して弾んでいる。 その様子に、静かに書物を読んでいた主神のアストレアが顔を上げ、微笑を浮かべた。
「おかえりなさい、アリーゼ。随分機嫌が良さそうね」
「今日は随分帰りが遅かったですね」
腕を組みながら、副団長の輝夜が少し眉をひそめる。
「何か良いことでもあったんですか?」
エルフのリューが穏やかな口調で尋ねると、アリーゼは満面の笑みを浮かべて胸を張った。
「えぇ! とっても良いことがね。 ほら!」
彼女は勢いよく後ろを振り向き、そこにいた青年を手で示した。
「アゼル!」
その名が響いた瞬間、ファミリアのメンバーたちは驚きと喜びが入り混じったような表情を浮かべた。 久しく見なかった青年の姿に、空気が一瞬和らぐ。
「……久しいな」
低く淡々とした声が場に響くと、アストレア・ファミリアの面々はそれぞれの反応を見せた。
「おやおや、我々の事などとうに忘れてしまったのかと思っておりました」
輝夜が腕を組み、冷ややかな口調で皮肉る。だが、その嫌味がこもった言葉とは裏腹に、隠しきれない安堵の色が微かに滲んでいた。
「……あなたですか」
リューがアゼルをじっと見つめる。表情は硬く、どこか距離を置いたような眼差し。その目には微かな警戒心が見え隠れするが、それ以上の言葉は口にしない。
「おー、ついにこのファミリアの”幽霊”が帰ってきたってわけか!」
ライラがケラケラと笑いながら、アリーゼの肩を肘で軽く突く。
「幽霊?」
ライラの言葉にリューは眉をひそめた。
「このたわけは、影のように消えては現れ、好き勝手に動き回る。団長がいなければ、誰も見つけられないからな」
輝夜が再び皮肉を口にするが言葉に乗る感情はどこか暖かい。
「ふふん!アゼルを見つけるの得意なのよ、私!」
「これが”愛の力”ってやつか?」
ライラが再びニヤリと笑うと、アリーゼの顔が一気に赤くなる。
「ちょ、ちょっとぉ!」
普段はどんなことにも動じないアリーゼだが、アゼルの話になると途端に可愛らしい反応を見せる。その様子にファミリアの面々は笑みを浮かべながら、それぞれの形でアゼルの帰還を受け入れていた。
輝夜も一度目をそらしながら、口の端をわずかに持ち上げる。
「まったく……本当に自由なやつだ」
輝夜が小さく呟く。言葉とは裏腹に、その声には微かな温かみが滲んでいた。
「まあまあ、輝夜。そんなに素直じゃないと、可愛げがねぇぞ?」
ライラがニヤリと笑いながら輝夜の肩を軽く叩く。
「ふざけるな。誰がこんな男の帰還を喜ぶものか」
「おっと、ツンデレだな。やっぱり素直になれないお年頃ってやつか?」
「この無礼者が……!」
輝夜がぎろりと睨むが、ライラは軽快にかわしながらケラケラと笑う。しかし、輝夜の口元はわずかに引きつっていた。
「だが……まぁ、たまには顔を見せるくらい、許してやろう」
輝夜はそう言って腕を組み直すが、その頬がわずかに紅潮していることに気づく者もいた。
「それにしても、あなたがいると雰囲気が変わりますね」
リューがふと呟いた。彼女の表情はまだ険しいが、その声には複雑な感情が混ざっている。
「そうね。アゼルは迷子の不思議ちゃんだから!」
アリーゼが笑顔で言うと、ライラが「つまり、団長の”お気に入り”ってわけだ」とニヤつく。
「うっ……」
アリーゼは何かを言い返そうとするが、言葉が詰まる。
「な、何よ、それ……」
「いやいや、どう見ても特別待遇だろ?」
「そ、そんな……まあ、そりゃあ……」
アリーゼは否定することができない。むしろ、否定する気がないのが明白だった。しかし、はっきり認めることもできず、視線を泳がせながら頬を赤らめる。
「おぉ〜、団長様が照れてる! こりゃアゼルがいねぇと見れねぇ貴重な瞬間だ!」
いつも振り回される団長が隙を見せたことで、ライラはケラケラと笑いながら楽しそうにアリーゼをからかう。
「ちょ、ちょっと! からかわないでよ!」
アリーゼがバッと手を振るが、その頬の赤みはますます増していく。
アリーゼは言葉に詰まり、思わずアゼルの方をチラリと見た。しかし、当の本人はいつものように冷静な表情のまま、特に動じる様子もない。
(ちょっとは何か言ってくれたっていいのに!)
心の中でそう思いながら、アリーゼはふいっと視線を逸らした。
「……くだらんことで盛り上がるな」
そんなやり取りを横で見ていたアゼルは、静かにため息をついた。
「お前がいると、自然とこうなるんだよ」
ライラが肩をすくめる。
「ま、なんにせよ、久しぶりに顔を見せたんだから、少しくらいゆっくりしていけよ」
「……あぁ」
アゼルは短く答えたが、その目にはほんのわずかに安堵が浮かんでいた。
その様子を見て、輝夜もそっと目を細める。そして、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
「……仕方ない奴だ」
その表情は、どこか柔らかかった。
◾︎
アゼルが壁際に腰を落ち着けると、場の空気も次第に落ち着きを取り戻した。ファミリアの面々の喜びの余韻が残る中、彼は静かに言葉を発した。
「最近の調子はどうだ?」
その問いに、アストレアが少し表情を引き締める。
「
その言葉に、ファミリアの雰囲気が一気に引き締まる。アゼルも目を細めながら話を促した。
「活発に、ね……どの程度だ?」
「目立つ襲撃は少ないですが、各地で潜伏していた残党が動き出しているようです。統制が取れているのか、無秩序な暴れ方ではなく、計画的な動きをしている」
リューが淡々と説明する。
「つまり、質より量か」
アゼルが静かに呟くと、ライラが肩をすくめながら鼻で笑う。
「あぁ、時代錯誤もいいとこだぜ」
「ですが油断も出来ません」
リューが鋭く言葉を継ぐ。その目は冷静だが、どこか険しさを帯びていた。
「その通りだ。奴らはかつての二大勢力がいた時代から存在していたのだからな」
輝夜が厳しい声で応じる。その言葉に、場の空気が一瞬だけ張り詰める。
「【ゼウス・ファミリア】【ヘラ・ファミリア】…」
輝夜の二大勢力が指す【ファミリア】の名を、リューは切り離すことの出来ない畏怖とともに呼んだ。
「『神時代の象徴』、そして『神の眷属の到達点』…
「
アリーゼも真剣な顔付きで言及し、行儀悪くソファーに座るライラもまな、呆れるしかないと言わんばかりの表情を浮かべた。
「「古代」から続く人類史の中でも最強、といっても過言ではない。それほどゼウスとヘラは圧倒的だった」
主神の断言に、【ファミリア】の中で最も若いエルフの団員が息を呑むのも束の間、リューは強張った声で言う。
「しかし、そのゼウスとヘラも、「黒竜」に敗れた・・・・・・」
その言葉にアゼルは僅かに眉をひそめる。
——————『三大冒険者依頼』。
古の三体のモンスターを討伐目標に据えた、迷宮都市の使命であり、世界がオラリオに求める「悲願」である。
ベヒーモス リヴァイアサン ゼウスとヘラの二大派閥はその内の二体、『陸の王者』と『海の覇王』を打ち倒し――そし て『生ける終末』とも呼ばれる最後の竜に、敗北した。
眷族の間から数瞬、音が途絶える。
『神の眷族の到達点』とも呼ばれる最強の二大派閥を、全滅に追い込んだ恐ろしき悪夢。
ややあって、彼女達の胸の内を代弁したのは、獣人のネーゼである。
「どれだけヤバかったんだよ、「竜の王」は・・・・・・誰が倒すんだよ、ソイツ・・・・・・」
今度こそ、部屋に完璧な沈黙が訪れた。
その悲観めいた心情は【アストレア・ファミリア】だけでなく迷宮都市、いや下界中が抱いている共通の思いである。
それほどまでに『黒竜』の絶望の象徴に違いない。
大陸の遥か北、世界の最果てで眠っている終焉の存在に、リュー達は度し難い「未知」への恐怖と不安を覚えずにはいられなかった。
「・・・・・話、逸れちゃったわね。目前の話題に戻しましょう。私達の正義の魂を燃やすの! バーニングー !バーニング!」
そんな少女達の重苦しい沈黙を破ったのは、やはりアリーゼだった。
「私たちは闇派閥の戦力を確実に削ってる! 敵は決して無限じゃない。私 達はちょっとずつでも前進してるわ!」
明るく潑剌とした声音は、ついうつむきそうになっていた団員達の顔を蹴肌に上げさせた。
赤髪の少女は弾けるような笑顔で続ける。
「そして私達が正義の翼を広げた分だけ、二大派閥がいた頃のオラリオに戻っていく!」
「アリーゼ…」
「信じなきゃダメ!地道が一番の近道だって!私たちの不屈がは必ず
目を見張るリューの視線の先で、アリーゼは胸に右手を当てて、告げた。
「その後、ついでに『黒竜』も倒しちゃいましょう! うんうん、いけるいける!」
荒唐無稽かつ、一気に飛躍したその発言に、団員達がぽかんとする。
アストレアとアゼルもつい、瞬きを繰り返す。
先程とはまた違った意味で部屋が静寂に包まれる中、ライラが口を開いた。
「・・・・・・ついでに「黒竜』を倒しちまうなよ、ったく。楽観的過ぎて何も言えね~」
彼女は呆れながらも、その口もとには笑みが浮かんでいた。
次に言葉を継いだのは、輝夜。
「……………団長、私は貴方のその甘言を受け入れがたい。未来を想うことはいい。だが、「現実」は直視すべきだ」
ライラと対照的に、彼女は厳しい態度を崩さない。
その声音は硬く、猫かぶりを止めた眼差しは鋭い。リューをからかう時とは異なる真剣な顔付きで、楽観を許さない
「あら、何を言っているの?輝夜?私はちゃんと目の前のことだって見ているわ」
一方でアリーゼは、きょとん、と。不思議そうに言った。
「だって、やるしかないもの。じゃあ、やりましょう」
そして、笑った。
1点の曇りなく、当たり前のことを言うように、破顔して。
固まるのは輝夜だ。愕然とした表情をあらわにし、しばらく身動きすることを忘れる。
すると、静寂を破るように、ククク、と低く喉を震わせる笑い声が響いた。
はじめはかすかなものだったが、次第に抑えきれなくなったのか、アゼルは肩を揺らしながら笑い出す。
「……はは、はははは!」
普段の彼からは想像もつかないような笑い声に、その場の全員が驚愕した。
「え……?」
アリーゼが瞬きを繰り返し、まるで信じられないものを見るようにアゼルを見つめる。
「な、何よ……そんなに可笑しかった?」
眉をひそめながらも、彼女の頬はじわじわと赤みを帯びていく。
アゼルはようやく笑いを収めながら、目尻にうっすら浮かんだ涙を指で拭い、深く息をついた。
「……いや、すまん。ただ、お前があまりにも変わってなさすぎてな」
その言葉に、アリーゼの顔はさらに赤くなる。
「ちょ、ちょっと!何よそれ!ちゃんと説明してよ!」
頬を膨らませて抗議するアリーゼに、アゼルは肩をすくめて言った。
「昔から、お前はそうだった。理不尽なほどに楽観的で、無謀なことを言いながら、まるでそれが当たり前のように突き進む……」
そう言いながら、アゼルは微かに目を細める。その瞳の奥には、どこか懐かしさが滲んでいた。
「久々に、お前らしい姿を見た気がして嬉しくて、つい……な」
アリーゼはしばらく唇を噛んでいたが、やがて観念したようにため息をつき、そっぽを向いた。
「……そっか。なら、笑ってもらえて光栄だわ」
アゼルの笑みは消えず、その瞳にはどこか柔らかな色が宿っていた。
まるで何か張り詰めていたものが、ようやく解けたかのように。
「……珍しいな」
そんな彼の様子を見て、輝夜がぼそりと呟いた。その表情は驚きと、わずかな安堵が入り混じった複雑なものだった。
「貴様が笑うなど、珍事にもほどがある……いや、それほどまでに団長の無鉄砲さが愉快だった、ということか」
「……まぁ、そういうことにしておくか」
アゼルはそう言いながら、輝夜の方をちらりと見る。輝夜は軽く視線をそらし、そっけなく続けた。
「……別に、悪くはない。たまにはそうして笑っている貴様を見るのも……その、悪くはない」
「ハハッ!輝夜が素直になったな」
ライラがニヤニヤとした笑みを浮かべながら茶化すように言う。そんな彼女に、輝夜は鋭い視線を向けた。
「……言葉の綾だ」
バツが悪そうにそっぽを向きつつも、声色はいつもより幾分柔らかい。その様子を見て、ライラはさらに面白がるように肩をすくめた。
「へへっ、ツンツンしてるくせに、団長と同じでアゼルのことになるとちょっと甘くなるんだから」
「なっ……」
輝夜が何か言い返そうとした瞬間、アリーゼが咳払いをして割り込んだ。
「はいはい、それくらいにしときましょ」
軽く手を振りながら話を収めようとする彼女の顔には、どこか満足げな笑みが浮かんでいる。
「ま、でもアゼルが笑うなんて確かに珍しいわよね。こんなこと、もう二度と見られないかもしれないし!」
「……お前は俺を何だと思っている」
アゼルが少し呆れたように言うと、アリーゼはケラケラと笑いながら肩をすくめた。
「そりゃあ、いつも表情乏しくて気配も薄いし。まさに幽霊男よ!」
「……返す言葉もない」
アゼルが微かにため息をつくと、ライラがまたケラケラと笑い出す。
「まぁまぁ、でも今日のアゼルは悪くないぜ。こういう時くらい、もうちょっと愛想よくしてみたらどうよ?」
「俺に期待するな」
「期待なんてしてないわよ。ただ面白がってるだけ」
そう言いながら、ライラはまたアリーゼの肩を肘で軽く突いた。
「アリーゼはアゼルの笑顔、どうだった?」
「えっ?」
アリーゼはふと視線を落とし、言葉を選ぶ間もなく、ぽつりと零してしまった。
「……良かった」
その瞬間、自分で言っておいて、はっとしたように目を見開く。
すると一瞬の静寂ができ、アゼルが小さく首を傾げる。
アリーゼは慌てて誤魔化そうと口を開いた。
「だ、だって!普段は仏頂面ばっかりじゃない? もうちょっと笑えばいいのにって思ってたのよ! そう!」
「ふ〜ん?」
ライラが口角を上げ、アリーゼの肩を肘でつつく。
「……何よ?」
アリーゼは軽く肩をすくめるが、その耳はじわじわと赤くなっていく。
「アリーゼったら、また自爆してない?」
「し、してないわよ!!!」
慌てて否定するものの、あまりに分かりやすい反応に、ライラはニヤニヤと笑みを深める。
「……珍しくはないですね」
リューが静かに言葉を挟む。アリーゼはちらりと彼女を見やるが、それには何も言えず、ただ唇を尖らせた。
そんなやり取りをよそに、アゼルは何か引っかかったように首を傾げる。
「良かったってなんだよ。俺の顔がそんなに面白かったか」
当の本人はまるで自覚がないようだ。アリーゼはその鈍感さに、思わず肩の力を抜き、大きくため息をついた。
「……バカ」
そう言いながら、どこか拗ねたように視線を逸らす。
それを見ていた輝夜は、僅かに視線を落とし、誰にも聞こえないほど小さく呟いた。
「……まったく」
そんな微かな言葉など気にもとめず、ライラは楽しげに笑い、賑やかな空気が戻っていく。
「とにかく! 私たちが取るべき行動は一つ!」
先ほどのやり取りを誤魔化すように、アリーゼは勢いよく宣言した。
「悲しみの涙を拭い、みんなの笑顔を守る! そのために、私たちは戦い続けるわ!」
力強い言葉が場の空気を引き締める。まるで沈みかけた焔に薪をくべるように、仲間たちの表情に再び熱が灯った。
アリーゼの視線が、仲間たちを順に見つめる。
「私たちならできる。何度だって立ち上がれる。だから、前を向いて進むわよ!」
彼女の真っ直ぐな言葉に、ファミリアの団員たちは一様に頷いた。
「当然だ」
「言われるまでもない」
「ま、仕方ねぇな!」
それぞれの言葉で、彼女の想いに応える。
その様子を静かに見守っていたアストレアが、穏やかに微笑む。
「そうね……星の数ほどあれど、『正義』の一つはここにある。それは決して間違いではないわ」
「アストレア様のお墨付きももらったし、問題なしね!さあ、恒例のヤツをやって明日も頑張るわよ、みんな」
そこで俄然、アリーゼの笑みが輝き出す。
全ての訴えを退けるだろう彼女の
「いつもやんなきゃダメなのかよ、コレ・・・・・・アタシ、小っ恥ずかしくて苦手なんだけど・・・・・」
「安心しろ。私もだ」
「ライラ、輝夜、真剣にやってください!・・・わ、私は、恥ずかしくなどないっ」
口では言うがしっかり頬を赤らめてしまうリューを他所に、アリーゼは全ての団員に起立を促す。
十一人の少女が輪になると、きらめく赤い髪を揺らし、アリーゼは手を伸ばした。
「使命を果たせ!天秤を正せ! いつか星となるその日まで!」
歌われるのは正義の詩。
彼女達がアストレアの眷族であることの宣言と証明。
「天空を駆けるがごとく、この大地に星の足跡を綴る!」
それは少女達が自分の心に刻み込む、「誓いの言葉」だった。
「正義の剣と翼に誓って!」
『正義の剣と翼に誓って!』
アリーゼの声の後に、リュー達の唱和が重なる。
目を細めるアストレアとアゼルの視線の先で、少女達は今日も正義の誓いを新たにした。
アゼルは静かに誓いの光景を見つめる。
どこか遠いものを見るような、どこか寂しげな眼差しで。
「なぁ、アストレア」
「どうしたの?」
アゼルの低い声に、アストレアは静かに問い返す。
「あんたの眷属は、強くなったな」
「そうね。自慢の
アストレアは穏やかに答えるが、ふと胸の奥に微かな違和感が走る。
「お前たちなら、きっと……」
アゼルの言葉は、そこで途切れた。
その声音に宿るのは、慈しむような響き。
それなのに、アストレアの中には得体の知れない不安が広がる。
何か、見えないものが彼の胸の内にあるような。
(アゼル……)
アストレアは何かを問おうとしたが、言葉にならなかった。
夜の帳が静かに降り、ファミリアの館には、今日も変わらぬ光が灯る。
しかし、アゼルがその光をどのように見ているのか――それは、誰にも分からなかった。