「ここがその店かぁ。う〜ん………まあ如何わしい雰囲気はないね。店員さんはみんな可愛い子だけど……」
ベルに『食べに行きたいお店はあるかい?』と尋ね、やってきた店。『豊穣の女主人』と言う名の酒場の店員は
「………………」
「「「……………」」」
「………にゃ? 皆どうしたにゃあ?」
どいつもこいつも脛に傷がありそうだが、だからこそというか皆一様にベルを見ると一瞬固まる。例外はいるが彼女は単に頭があまりよろしないのだろう。
「よく来たね! あんたがシルの言ってた客かい? うちの娘達が迷惑かけちまったみたいですまないねえ!」
店の店主であるらしいドワーフの女性が豪快に笑う。本来小柄なドワーフでありながら高身長な彼女は、この中で一番強い。言葉が変になる表現だが、小さな巨人と対面にたかのような圧迫感。
「辛気臭い顔した坊主だねえ。綺麗所二人も連れてんだ、もっとしゃきっとしな!」
バシンと背中を叩いてくる店主。ドワーフに見合わぬ身長でも正確は豪快なドワーフのそれだった。
「腹一杯食べりゃ元気もでるだろ。馬鹿娘たちが迷惑かけた詫びでもあるんだ、たんと食ってきな!」
「ボクとしては嬉しいけど、いいのかい? ベル君は育ち盛りだぜ? まあ大食いってわけじゃないけど」
「一度ぐらいなら構いやしないよ。うちの飯はうまいからね、一度食えばまた食いたくなる。金はその時に落としてきな」
よほど味に自身があるのだろう。
「ふふん、ボクはこれでも天界じゃ色んなご飯を(働かず)食べてたからね、味にはうるさくないけど敏感だぜ?」
ほぼ毎食揚げ物の女神が何を言ってるのだろうか。
「はは。そりゃいい、そんな女神様の舌なら唸らせがいがあるってもんさ」
店主の女はヘスティアの言葉にそう笑った。
「ふふ、女神様。ミア母さんの料理はとっても美味しいんですよ」
シルの自信満々の言葉にヘスティアは楽しみだ、と案内された席についた。
「むぐむぐ、うまい!」
「ええ、自信に見合う素晴らしい一品です」
「……………」
出された料理はどれもこれも美味かった。
「ふふん。どーですか? ミアお母さんの料理、とっても美味しいでしょう?」
と、得意げに微笑み席に座るシル。キッチンは忙しいが給仕は十分なので休憩をもらったとのことだ。
「ミアお母さんは元冒険者なんです。怒るとすっごく怖いんですよ」
「だろうな……」
頼んだワインを飲みながら、ミアを横目で見るベル。彼女だけでなく、この店全員只者ではない。
「従業員は全員女性。結構わけありな人も多いんです」
「へえ、ならシル君も?」
「私は働く環境が良さそうだったからですよ」
ヘスティアの言葉にシルは笑う。
全て本当というわけではなさそうだが、まあ深く聞いていいことではないだろう。
「このお店、冒険者さん達に人気があって繁盛してるんですよ。お給金もいいですし」
「確かに、冒険者が多いな」
「トラブルが起きたりしそうなものですが、そんなことなさそうですね」
「今はギルドの目もそれなりに厳しいですからね」
シルの言葉にフェリはへぇ、と改めて周りを見つめる。彼女の記憶では酒を飲んだ冒険者は常人より高い身体能力で暴れることが多かったが、今はギルドの力も上がっているらしい。それを差し引いても、この店で暴れられる奴などそうはいないだろうが。
「私、この店が好きなんです。沢山の人がいて、沢山の発見があって……私、目を輝かせちゃうんです」
ベルが目を細めるシルを見つめていると視線に気づいたシルはこほん、と誤魔化すように咳払いをする。
「とにかく、そういうことなんです。知らない人と触れ合うのが、ちょっと趣味になってきていて……その、心が疼いてしまうんです」
「結構すごいこと言うんだね、君……」
と、不意に十数人規模の団体が入ってきた。様々な種族の実力者。見知った顔もいたが、わざわざ話しかける必要もないか、と視線を戻した。
「げ、ロキじゃないか」
「知り合いなのですか、ヘスティア様」
「天界でしょっちゅう喧嘩した仲さ。昔っから暇つぶしに殺し合いとかするよう唆すような奴で、下界で人が争ったりするのを見てゲラゲラ笑いながら他の性悪神達と賭け事してた」
まあ今は落ち着いてるらしいけど、と嘆息するヘスティア。
天界で名をはせた悪神の
「その点で言えばあの子……彼奴も落ち着いてるらしいねえ……不変のボク達が変われるってんだから、下界は面白いね」
だからこそ、遊びに来る神が耐えず、混沌を望む者と平穏を望む者が争っていた時代も生まれたわけだが。
選んだのは
「まあだから、話が本当なら昔ほどロキを嫌いじゃないよ。向こうはボクのこと嫌いだろうけどね」
へっ、と鼻で笑うヘスティア。ベルはロキと思わしき女神とヘスティアのいち部分を見つめ納得した。
「ベル、今女性の何処を見比べたんですか?」
フェリが黒いオーラを出しながら満面の笑みを浮かべていた。
何時もより、気が楽だ。
普段ならダンジョンに潜り強くなることばかり頭に浮かぶのに、今はキチンと……言葉にするなら、この場にキチンといる感じだ。
(ベルのおかげ、かな………)
ダンジョンに関わらない初めての友人。日常の象徴。大切な
(今、何してるんだろう)
冒険者ではない彼はダンジョンに潜らない。モンスターに関わらない。平穏な日々を過ごしているはずだ。それでいい。
平穏で優しい世界に彼が居て、モンスターを倒すことでそれを自分も守れると思うと、心がすっと軽くなる。
「うおおお! リヴェリアのおっぱいはうちのもんやー!」
ロキがリヴェリアの胸を揉む権利をかけて酒飲み勝負をしだした。また後でお説教受けるんだろうな、と自分が受けるわけでもないのにブルリと震えたアイズは視線をそらし、白い輝きを見つけた。
真っ白な髪はふわふわとして撫で心地が良さそう。自分と同じ黒い炎を内包した瞳は、赤い。白と赤、本当にうさぎのような彼は………
「………ベル」
思わず読んでしまった彼の名に、ピクリと反応され視線が合う。自分が何気なく呟いた人の名に周囲が反応し、視線を追われ【ロキ・ファミリア】の視線がたった一人の少年に注がれた。