前世は剣帝。今生冒険者


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作:ぐーたら王子
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「ふう……」

 

 中層のモンスターの群れを一層し、剣をしまう。

 冒険者はそのステイタスから鎧をあまり必要としない者が多い。

 フェリもまた、軽装だ。流石に汚れると困るメイド服ではないが。

 

「思ったよりやれていますね」

 

 フェリは元々所属していたファミリアがある。それは、2つだ。そのうち最初のファミリアは【ポセイドン・ファミリア】。とある事情で保護されたフェリは海にて鍛えた。

 その後所属を変え先達達に扱かれていたが、その派閥もオラリオを離れダンジョンに潜るのはかなり久しい。

 Lv.5という、現在のオラリオではトップクラスの実力を持っている彼女もあの派閥の中では周りに埋もれていた。というか意図的に印象操作していた。そのかいもあって、()()()()()()()もオラリオに来れたのだが。

 

「………………」

 

 その事件の顛末を思い出し、首を振る。

 過去の話だ。

 過ぎ去った話だ。

 欲を言えば、()()には最期ぐらいベルの側に居てほしい、という願いはあったが、それは彼女の覚悟を否定する理由にはならない。

 ただ、そんなことを考えてしまったから18階層で休憩を挟まずそのまま地上に帰った。

 

 

 

「聞いてくれフェリ君! ベル君に友達ができたんだ!」

「まあ!」

 

 

 

 少女は夢を見る。

 幼い自分の夢。嘗て過ごした幸福な光景。 

 読み聞かされる物語に笑い、驚き、悲しみ、喜ぶ。

 森の奥に閉じ込められた眠り姫を、一人の若者が救い出す英雄譚。

 ころころ表情を変える少女に優しく英雄譚を語りかける女性に目を合わせれば、少女と同じように無垢な笑みを浮かべる。

 

『この物語は好き?』

 

 うん、と頷く。(あなた)は、と尋ねる。

 

『私も。あの人のおかげで幸せだから』

 

 屈託なく笑う母に少女は羨望と憧れの視線を向ける。

 

『あなたも素敵な相手(ひと)に出会えるといいね』

 

 無邪気に微笑む母に、少女嬉しそうに頷いた。

 

 

 場面が変わる。

 薄暗い洞窟の中。少女は恐ろしい怪物から逃げていた。

 無力な子供も、鍛えた騎士すらも食い殺しそうな獰猛な怪物は、しかし銀の一閃にその身を切り裂かれる。

 怪物は倒れ、代わりに立つのは一人の青年。少女は瞳を一杯に見開き彼へ飛びついた。

 優しく抱きしめられ、頭を撫でられ、安心しきった少女は物語の英雄(若者)を幻視し、一層強く抱きついた。

 

『私はお前の英雄になることは出来ないよ。もうお前の母親(おかあさん)がいるから』

 

 膝を降り、少女に目線を合わせて青年は言う。

 

『いつか、お前だけの英雄に巡り逢えるといいな』

 

 

 

 

「……………」

 

 意識が浮かび、目に映るのは見慣れた自室。夢の続きでないのが少し残念だ。

 

「アイズ、起きているか?」

 

 コンコンと扉がノックされ、聞こえる声。起きた、開けていいよと言うと扉が開く。

 

「珍しいな、普段のお前なら一人早く起きて鍛錬でもしているのに」

「…………」

 

 確かに。

 久しく見ていなかった両親の夢のおかげか、安らぎを覚えながら深く眠りについていたらしい。友達ができたからだろうか?

 

「何か良いことでもあったのか?」

「え?」

「今日はやけに、張り詰めた空気が消えている……」

「…………良いこと…………あのね、リヴェリア」

「ああ……」

「私、友達が出来た……」

「ほう……」

 

 【ファミリア】内、ではないだろう。ティオナ達とはとっくに友達だろうし、他の団員は幹部に遠慮するし。

 

「他派閥か? 私としてはお前に友人が増えるのは喜ばしいが、まあ【ファミリア】間での問題にならないように……」

「えっと、大丈夫………冒険者じゃないから」

「そうなのか?」

 

 暇があればダンジョンに潜るばかりの彼女が、冒険者達以外と関わり? などとちょっと失礼なことを考えてしまう。

 

「ジャが丸くん屋の、店員………」

「…………ああ、なるほど」

「おかげで──」

 

 

 

 少年は夢を見る。

 生まれる前の自分。嘗て過ごした地獄のような世界の記憶。

 未熟な自分より強い仲間達と共に、今日も皆で生き残ったと酒を飲む。まだ誰一人死んでいない頃の記憶。

 好きな女のために片腕を斬られたことを、斬らせてやったと笑う男は女のために命を張れる事は恵まれたことだと思わないかと訪ねてきた。思わない、腕を失ったらどのみち戦えなくて死ぬと返したら解ってない、と逆に呆れられた。

 

『お前等にもいつか守りたい奴が出来る! 絶対にだ!』

 

 剣を執らなければ死んでいく、殺されないために誰かを殺すそんな世界の、楽しい時間。年上の仲間は幼い少年に言い聞かせるように笑う。

 

『大事なモンは、死んでも守れよ』

 

 大事なもののために死にかけて、片腕を失うという生き残っても死ぬ可能性が増える結果を誇る男はそう言って豪快に笑った。

 

 

 

 場面が変わる。

 少年の腕には、一人の少女。

 胸に大きな穴を開け、命が溢れるかのごとく血が流れる。もう助からないと、一目で解る。

 彼女は強かった。自分より。だから、守られた。

 

『あはっ。守れてよかった……大好きだよ、※※※』

 

 

 

 最悪な気分で目を覚ます。

 地下の湿った匂いが鼻につく。まだ寝ているヘスティアは、どうやらまた勝手に人を抱きまくらにしているらしい。少し前はフェリも対象だったが早起きして朝食を用意するフェリの邪魔にならないためベルばかりが標的になった。

 

「ベル、起きました………? 今日は体調でも悪いんですか?」

 

 ベルが起きた気配を察したのだろう、扉を開けたフェリはベルを見て心配そうに訪ねた。

 

「せっかく友人ができたんですから、お見舞いにでも来てもらいますか?」

「こんな廃墟にか? いいだろ別に………本当に風邪だったらうつして悪化もさせちまう」

「体調は、大丈夫なんですか?」

「ああ、ただ──」

 

 

 

「いい夢、見れた」

 

「嫌な夢を見ただけだ」

 

 

 

 

 

「……………」

「やけに機嫌が良さそうだな」

 

 友達と遊んでおいで〜とヘスティア達に送り出され、そもそも何処にいるかも知らないと適当に街を歩き木陰で本を読んでいると現れたアイズは無言でベルの横に座るとソワソワと話しかけたそうにしていた。なんか嬉しそうだった。

 

「あ、えっと……あのね、昔の夢を見たの」

「…………へえ」

「ずっと、見てなかったの。見れたのは、きっとベルが友達になってくれたから。ううん、絶対そう」

 

 ダンジョン攻略とは無縁の関係。

 【ロキ・ファミリア】、『剣姫』、冒険者、それらの要素を取っ払った、ただの少女(アイズ)としての友達。

 もちろん、自分に似ていてほっとけないというのもあったが……。

 

「俺も見たよ、昔の夢」

「そうなんだ。一緒だね……」

「………だな」

 

 嬉しそうな彼女と違って、自分はまあ悪夢の類だが。

 前世の夢なんてそんなものだ。あの世界、あの場所は絶望が満ちていた。それでも、まあ………最初はたしかに幸せな一時の記憶ではあった。

 

「ベルは……何、読んでるの?」

「ネメアの黄金獅子退治。古代……神が現れる前の英雄譚」

「面白い?」

「………読むか?」

「え………良いの?」

「爺に何度も語られ読まされ、大抵の英雄譚は覚えちまった」

 

 そう言って差し出してきた本を受け取るアイズ。普段なら、鍛錬のほうが大事だからと返していたろう。だけど、家族との平和な時を思い出し、母に物語を語り聞かされたことを思い出したアイズは本を受け取る。

 

「ありがとう」

「おう……」

「じゃあ、私はこの後【ファミリア】の皆と酒宴だから……またね」

「ああ……」

 

 

 

 

 

「あ……!」

 

 帰り道。給餌服の少女が目の前ですっ転び抱えていた袋の中身が運悪くベルに向かって飛んでくる。中には卵もあった。

 舌打ちしたベルは落ちたら間違いなく割れる卵を起用に指で挟みながらキャッチしていく。

 

「私に触れるな!」

 

 最後の一つを取ろうとしたら空色の瞳のエルフと手が重なり、ぶん投げられた。このままだと先に落ちてぶちまけられた卵の上に落ちるので片手を付き勢いを利用して跳ねる。

 エルフとベルの間にグチャチャ、と残りの卵が落ちた。

 

「もうリュー! 何やってるの!?」

「も、申し訳ありませんシル!」

「謝るのは私じゃないでしょ!」

「あ! その、申し訳ありません。お怪我は?」

 

 シル、と呼ばれた少女の言葉にハッとエルフはベルに振り返り頭を下げる。

 エルフは基本的に肌の露出、接触を嫌う。さらに他種族を嫌悪し触れ合うことすら汚らわしいと叫ぶ者もいると聞く。

 その手の手合かと思えば瞳には本当に申し訳無さが浮かぶあたり、生粋のエルフ至上主義ではなく、その教えを幼少期から聞かされ続け体が勝手に動くタイプなのだろう。

 目を逸らすのは罪悪感からのようだ。エルフらしいくせにエルフらしくない、なんとアンバランスなエルフだ。

 

「もうリュー! ちゃんと目を見て謝らなきゃ。ごめんなさい、冒険者さん……」

 

 ベルの動きを見て冒険者と判断したのだろう、訂正するのも面倒だったので訂正はしないでおく。

 

「申し訳ありません。こちらの不注意に手を貸してくださったのに……………」

「……………」

 

 と、リューの空色の瞳とベルの紅玉色の瞳が合う。

 既視感。

 アイズとの出会いを思い出すベルは、しかしこちらのほうがより()()と感じた。

 

「貴方は………いえ、深く聞きません。()()()()()()()、その方が良いでしょう」

「だろうな?」

「………?」

 

 何やら目と目で通じ合うリューとベルに首を傾げるシル。

 

「あの、冒険者さん。よろしければ今晩のお食事、うちでどうでしょうか? お詫びも兼ねて、ミアお母さん……店長にも話を通しておきます」

「…………同居人に聞いてみる」

「はい! 私達のお店は、この道をまっすぐ行った先の『豊穣の女主人』というお店です。今晩来れなくても、次の機会に是非立ち寄ってくださいね」

 

 

 

 

「ベル君ベル君! 今日はバイト先の打ち上げ予定だったんだけど店長が君に友達ができたって聞いて『家族で祝ってきな』だって! 何処か行きたいお店ないかい?」

 

 どうやら自分は、思っていた以上友達の作れない人間だと周りの人達に判断されていたらしい。




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