前世は剣帝。今生冒険者


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作:ぐーたら王子
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友達


 英雄達に憧れる。彼等は守り通してみせるから。

 英雄達が嫌いだ。自分の無力さを思い出すから。

 憧れていて、でも嫌いで。詳しいくせにあらを探して、我ながら何とも面倒くさい幼少期を過ごしたと思っている。

 まあその性質は今でも変わらない。❲美神眷属譚❳などという現代の英雄譚を見ながらオラリオ唯一のLv.7の偉業を見ても、7年前から大した進歩をしていないな、と思ってるし。

 

「君ってつまらなそうに本を読むよね」

 

 ジャが丸くん販売休憩中、暇つぶしに本を読むベルにヘスティアはそんな言葉を投げかける。普通、この手の年頃の男の子は英雄譚に目を輝かせるものではないのだろうか?

 

「別に、皆が皆そういうわけじゃないだろ」

 

 まあそうだけどさぁ、といまいち納得言っていない顔をするヘスティア。

 

「すいません、ジャガ丸くんください」

「いらっしゃいませ!」

 

 そして客が来て直ぐに營業スマイルに切り替える。ベルも本を閉じ接客に映る。

 

「ジャが丸くん、小豆クリーム味」

「は〜い! ほらベルくん、揚げるんだ」

「もう揚げてる」

 

 ジュワワと油が跳ねる。

 客である少女が視線を向けていた味だ。揚げたてを包み紙に入れ、渡す。代金を受け取り………

 

「…………あ」

「あ?」

 

 お釣りを返そうとすれば、客の少女はピタリと固まりジッとベルの瞳を見つめる。ベルもまた、その瞳の奥の黒い炎に気付き顔を顰めながらも少女と目を合わせる。

 

「………ん? んん!? ど、どうしたんだい? ま、まさかお互い一目惚れとか!?」

「それはない」

「ひとめ……えっと………?」

 

 ベル君は僕のだぞーと抱きつこうとするヘスティアを片手で抑えながら気怠げに返すベルと首を傾げる少女。少女はお釣りを受け取ったあとも、ジッとベルを見つめる。

 

「ねえ……」

「はい?」

「貴方は、ここに居て良いの?」

 

 唐突に、脈絡も何もあったものではない問いかけにヘスティアは何言ってんのこの子、電波かな? と言いたげな視線を向け、逆にベルは問いかけの意味を察したのか目を細める。

 

「貴方は、私と似てる。力が欲しいはず。なら、剣を────っ!!」

 

 少女は目を見開き、冒険者の中でもトップクラスの反射速度で後ろに飛び剣を抜く。

 全身を嫌な汗が這い、呼吸一つ見逃さぬように目の前の少年を睨む。

 

「……貴方は、何……?」

 

 最大限の警戒を持って少女は目の前の少年に問いかける。

 少女の名はアイズ・ヴァレンシュタイン。

 このオラリオにおいて知らぬ者の居ない、最大派閥(【ロキ・ファミリア】)の幹部にして第一級冒険者(Lv.5)

 その彼女をして、感じたことのないほどの悍ましい気配。それが何か、彼女は知っている。他ならぬその身の内に宿す黒い炎と同じ。

 

「気安く人の心に踏み込むな。似ている? お仲間だとでも思ったか? 俺とお前は違う。それでも、簡単に踏み込んでいいことじゃねえのは解るだろ」

「…………ごめんなさい」

 

 その言葉にアイズは殺意を向けられた理由を納得する。自分とて、過去の話はしたくない。今でこそ、それが己の真実を明かし拒絶されることを恐れてだが、幼少期は確かに踏み込まれたくないからだ。彼も同じ。それは解る。本当に、良く解る。

 

「本当に、ごめんなさい」

「………べ、ベル君彼女は本気で悪かったと思ってるみたいだよ」

 

 下界の人類(子供達)の嘘を見抜く(ヘスティア)が言うのなら、嘘ではないのだろう。

 

「解った、もう良い」

「ありがとう……」

「ああ………」

「…………………」

「………なんだ?」

 

 謝罪を受け入れ、釣り銭も渡した。だけど中々さろうとしないアイズにベルは訝しげな視線を向ける。

 

「………アイズ。アイズ・ヴェレンシュタイン………私の名前」

「………ベル・クラネル」

「うん。ベル……その、今度なにか謝罪させてほしい」

「冒険者と関わる気なんてねえよ」

 

 そのやり取りに、ヘスティアは思う。

 そういえばベル君ってフェリ君以外と話すとこ見たことないな、と。いや、自分とは話すし雇い主とも話してる。だが後者は仕事関係だけだし、自分を入れてもプライベートで話すのは二人だけ。

 その二人も家族。あれ、この子ボッチ?

 

「関わろう!」

「…………は?」

「ベル君も僕達以外に交友関係をもつべきだ! このままじゃボッチ街道まっしぐらだぞ!」

「いや、別に……」

「初めての友達が女の子っていうのはあれだけど、寛大な心で許そうじゃないか!」

 

 一人盛り上がるヘスティアにベルは胡乱げな目を向ける。アイズにどうにかしろと言うような目を向ければ、何故かアイズもベルを真っ直ぐ見据えていた。

 

「うん、友達になろう」

「…………はぁ?」

「……失うのは、怖い。それは、知ってる。でも………えっと……一人、じゃないけど寂しい? うん、と……それは私だけ? ええっと………」

 

 上手く言葉が思いつかないのかウンウン唸るアイズ。言葉で飾るのをやめたのか、結局行動でしめす。

 

「私と、友達になってください」

「…………………」

「私は強い、ので……死なない。おいてかない、よ?」

「………………」

 

 強いから、皆自分を置いていった。

 弱いから、自分は皆に庇われていた。

 

「えっと……」

「……………はぁ」

 

 それでも、差し出された手を振り払えない。

 未練か、優しさか、ベルは差し出された手を握る。

 

「まあダンジョン関係以外でなら……」

「うん。よろしく、ベル……大丈夫、ジャが丸くんについてなら沢山話せる」

「ジャガ丸くん売る店員だけど詳しいわけじゃねえんたけど」

「えっと………じゃあ、えっと…………」

 

 どうやらアイズ・ヴァレンシュタインはダンジョン関連かジャガ丸くん以外の話の種を持っていないらしい。

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