作:レベルの高い合格点をオールウェイズ
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アルト・シーズリアの朝は早い。
夜は日をまたぐ前に就寝し、翌朝は陽が昇る前に自然と目が覚める。この習慣は、まだオラリオに来る前の幼少期から変わらない。店は夜にしか開けないのでそれほど早く起きる必要は無いのだが、彼には同居人の世話という重労働が待っているため、朝の時間はなるべく余裕を持たせる必要がある。
昨晩干しておいた洗濯物を取り込み、一枚一枚丁寧に畳んでいく。大量の衣服を畳み終わると、今度は家全体の掃除を始める。食事処である1階はそれほどの広さでもないのだが、彼らが生活している地下室は1階よりも遥かに広い。そんな広さの家を一人で掃除するとなると、数時間を要してしまう。
厨房の掃除をし終わって一度大きく息を吐いたアルトは、次に自分たちが食べる朝食と昼食の仕込みを開始した。まず初めに昼食に使う具材の下処理などを終わらせ、今度は今から食べる朝食の準備をする。今日は時間をあまり要さないオムレツを主菜にし、パンを焼いている間にサラダやスープの調理も進める。ちょうどパンが温め終わった頃に、メニュー全ての準備が完了した。
皿に盛り付けた2人分の朝食をトレーに乗せ、厨房奥の階段を下りて行く。地下室は広めのリビングのような場所を中央にして、そこから枝分かれするような形で数個の小部屋に繋がっている。アルトはトレーをリビングのテーブルに置くと、一つのドアの前に立った。まずは3度、静かにノックをする。しばらくしても反応がないので、今度は強くノックする。毎日律儀にノックをして確認しているが、直接アルトが起こす以外で同居人が起きたことは一度足りともない。
今日もダメかとため息を吐いたアルトは、入りますよと声をかけ、ドアを開く。窓一つ無い薄暗い部屋で惰眠をむさぼる同居人から布団をひっぺがし、呻き声をあげるのも無視して無理やり横抱きにする。そのまま洗面所へと運び、顔を洗ってやったことで意識が半覚醒になった同居人を、今度はリビングの椅子に座らせ、右手にフォークを握らせた。数秒遅れて同居人がモソモソと朝食を食べ始めたことを確認し、これでようやくアルトの朝の仕事は終了した。
時間に余裕のできたアルトはこの後の予定に頭を悩ませながら朝食を食べ進める。しばらく悩んだ末、午前中は市場へと買い出しに行くことにしたアルトは、綺麗に空となった2人分の皿を手に取り席を立った。
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アルトが市場で買い物をした日の夜、アルフィアは一人の同行人を引き連れてダイダロス通りを歩いていた。望んでいた同行人とは違うが、3日ぶりにアルトの料理が食べられることもあってその機嫌の良さは傍目にも見て取れる。
「ここだ」
アルフィアの案内の元、話に聞いていた店へと着いた同行人は、まさかこんな所で食事処を営業しているとは未だ信じられていない様子だ。アルフィアがドアを開け、同行人も恐る恐るその後ろを着いていく。
店内は外とは別世界のように幻想的な空間で、驚きに思わず思考を止めてしまう。アルフィアはそんな同行人のことなど気にも留めずに慣れた様子で店内へと入って行くと、それから数秒もしないうちに客の来訪に気づいたアルトが厨房から顔を出した。
「来たぞ」
「はい、お久しぶりです」
「これは先日の食事代だ。今日の分も入っている」
アルトがアルフィアから投げ渡された袋の中を見ると、かなりの量のヴァリスが入っていた。目算で1万ヴァリス*1はあるだろうか、食事代にここまでの料金を支払うなど、よっぽどの高級店でなければ考えられない。
「......多すぎます」
「良い、気にするな。お前の料理にはそれだけの価値があると私が判断しただけだ」
袋を返そうとしても頑なに受け取ろうとしないアルフィアを見て、アルトは肩を落としてため息を吐く。
「はぁ、わかりました。ならばその分料理にも力を入れることにしましょう」
「是非とも頼んだ」
「それで、そちらにいらっしゃるのがこの前話していた方でしょうか」
「いや、本来ならあの子を連れてきたかったんだが......こいつが危険かもしれないから行くなと言って聞かないのでな。自分の目で見て確かめろと言って連れてきたのだ」
自分の話をしていると気づいた同行者は、一度咳払いをしてフードを取り外した。
その女性は初老に差し掛かっているため皺も目立つが非常に整った顔をしており、穏やかな様子ながらも怒るとかなりの苛烈さを見せるだろうことを窺わせる。髪はオニキスのような艷やかな黒髪で、只人とは思えない神聖な雰囲気を漂わせていた。
「ヘラだ。妾の眷属が世話になったそうだな」
オラリオ双璧の一角、ヘラファミリアの主神ヘラ。その団員は女性のみで構成されており、ファミリア団長である"女帝"のレベルはオラリオでも最高のLv9。他にも幹部のレベルは軒並み高く、そのほとんどを第一級冒険者が占める。そういった方面の情報に疎いアルトでさえ、ファミリア単位の情報についてはある程度は持ち合わせていた。
「眷属......?もしや、アルフィアはかなり有名な方なのでしょうか」
「まさかとは思っていたが、やはり私のことは知らなかったのか」
「この子は良くも悪くもオラリオ内では有名なんだがな」
呆れるアルフィアを他所に、ヘラはアルフィアについての説明を淡々と語り始めた。ヘラファミリアについては知っていても、団員個人については全くと言っていいほど知らなかったアルトは、アルフィアがLv.7であると知ってその顔を驚愕に染める。
「かなりの強者だとは思っていましたが、まさか貴女があの"静寂"とは.....」
「私の話はもう良い。早く案内してくれ」
"静寂"という二つ名だけは知っていたアルトはそんな人物と気付かぬうちに知り合っていたことに驚いており、ヘラは自身の眷属の力が改めて認められたことに少し機嫌が良さそうだ。そんな状況に居た堪れなくなったアルフィアは、この状況から早く抜け出そうと催促する。それによって現実へと引き戻されたアルトは、二人を待たせたことを謝罪した後、奥にあるテーブル席へと二人を案内した。
「メニューはこちらです」
席についた二人にメニューを手渡し、アルトは一度厨房へと去って行く。前回来た時は正式な客としてではなかったので、メニューを見るのはアルフィアも初めてだ。興味深げにメニューを開くと、主食やつまみ、酒などかなりの種類が羅列してある。その殆どは全く聞き覚えのない名前のもので何を頼めば良いのか皆目検討もつかない。二人がしばらくメニューと睨み合っていると、アルトが水を入れたグラスを持ってテーブルへと戻ってきた。
「決まりましたか?」
「いや、何分知らない名前のものが多くてな」
「だろうな、チラホラと神しか知らんような料理があるぞ。小僧、何処でこれらを知った」
アルフィアの言葉を肯定するようにヘラが言葉を続ける。ヘラから睨むような視線を受けるアルトは、戸惑いながらもその質問に答えた。
「随分昔に先生────育ての親のような方から教わったものが殆どです。後は私の主神からリクエストされて作ったものも幾つか」
嘘は言っていない。そうなってくるとその育ての親とやらが気になってくるところだが、口ぶりからして恐らく近くにいるような者ではないのだろう。そう判断したヘラは、次の質問へと移る。
「では、お主の主神とやらは────」
「アルトー?夕飯はまだかしら」
何者だ。そう続けようとしたところで、ヘラの質問は厨房奥から聞こえてきた声に遮られた。三人が会話をやめて声の方向へと視線を向けると、厨房と客席をつなぐ通路から一人の少女がひょっこりと顔を覗かせた。
「ってやば、お客さんが来て────ヘラ!?」
「.....もしやヒメか?」
「そうよ!ひっさしぶりね〜。元気してた?」
「お主こそ。下界に降りて来ていたのなら一度くらい顔を見せに来てくれても良かったじゃないか」
「いや.......だって貴女のファミリア凄いらしいじゃない?降りてきたばかりのアタシが行っても何だか気まずいし」
「妾とお主の仲を忘れたのか。水くさいことを言うでない」
アルフィアとアルトを他所に、和気あいあいと話し出す女性二名。口を開けてぽかんとするアルトとは違い、アルフィアはその状況が衝撃的すぎて、閉じていた目を見開いてヒメと呼ばれた女性を凝視している。しかし、そんな反応も仕方がないことだ。
アルトは知らないことだが、ヘラは極度の神嫌いで有名だ。自身の眷属には過保護なまでに甘い彼女は、それ以外の者たちにはかなりの傲岸不遜な態度を見せる。そして、それは
しかし、前者はその浮気癖から顔を合わせればたちまちその空間は修羅場と化し、後者は神友というよりも親子のような関係に近い。よって、ヘラが誰かと対等に話し合う場面など、アルフィアは一度たりとも見たことがなかった。
驚きでフリーズしているアルフィアを一瞥したアルトは、未だ話を続ける二人の神に静止の声をかける。
「アルフィアが困っているようなので、話は一度そこまでに」
「あー、そうね。また後で話しましょう」
「そうだな、時間はまだ十二分にある」
自分の名前が呼ばれたことでアルフィアもようやく意識を取り戻し、それを確認したアルトは自らの主神の横に立ち口を開いた。
「ヘラ様は既に知っているようですが、アルフィアのためにも紹介を。こちらは我が主神、オオゲツヒメ様です」
「気軽にヒメって呼びなさい」
そう言って髪を右手の甲で流すようにするヒメを、アルフィアは改めて観察していく。
宵闇のように暗く冷たい色合いで、腰にまで届きそうなほど長く美しい彼女の黒髪はツーサイドアップで丁寧に束ねられている。見た者に幼い印象を与えるその髪型は大人らしい彼女とは些か相性が悪いようにも思えるが、美神の如く整ったその冷たい美貌にはむしろ程よいギャップを感じさせる。
服装は黒と赤を基調にした着物で、所々に散りばめられた桜の花弁が色合いに華やかさを持たせ、体を動かす度に揺れる袖先や裾がそれらを一層美しく映えさせる。
ヒメの自分の魅力を最大限に引き立たせる所作も相まって少しの間彼女に見惚れていたアルフィアは、軽く頭を下げ挨拶を返した。
「ヘラの眷属、アルフィアだ。ヘラ共々よろしく頼む」
「ん、よろしくアルフィア」
挨拶を終えて握手をする二人を横目に、ヘラは以前天界にいた頃にヒメに作ってもらったある料理を思い出していた。未だ色褪せない当時の記憶を鮮明に思い出したヘラは、無性にその料理が食べたくなって同じようにアルフィアたちを眺めていたアルトに声をかける。
「おい小僧、名はアルトと言ったか?」
「はい」
「ではアルトよ、注文が決まった。作ってもらいたい料理は────」
「なるほど、かしこまりました」
ヘラから受けた注文に納得の表情を浮かべたアルトは、一度大きく頷き厨房へと去って行った。
◇◇◇◇◇◇
厨房奥の階段を下りていくアルトは、ヒメと二人で暮らしている私生活空間へのドアも通り過ぎ、地上から10メドルほど下がった位置でようやく行き止まりに辿り着いた。ドア前でスーツ胸元の内ポケットから鍵を取り出し、重厚な金属製のドアを押し開ける。
中は何も見えないほど暗くヒンヤリとした空気が充満している。照明をつけるとそこは20畳ほどの広い空間で、壁際に設置された木棚に所狭しと様々な食料が置いてある。アルトはその中から2本の白ワインと今回の料理に使う小麦粉が入った袋を手に取り、地下室を後にした。
アルトが厨房に戻ると、カウンター席にアルフィアが座っていた。アルトの調理過程を覗き見たいという気持ちもあるにはあるが、久方ぶりに再会した二柱の神が花を咲かせる思い出話に水を差さないよう配慮した形だ。
アルフィアは地下室から出てきたアルトが手に持っているものを見て、今日何度目かの驚愕で声が震える。
「ま、まさかとは思うがそのワインも手作りか........?」
「......?はい、そうですが」
それが何か?とさも当然かのように答えるアルト。アルフィア自身わかってはいたが、こうまで差を見せつけられると女としてのプライドがガリガリと削れるのは避けられない。しかし絶望的な表情で顔を俯かせるアルフィアにアルトは気づくことも無く、1本のワインを冷蔵庫にしまってから調理を開始した。
まず初めに作るのはリコッタチーズ。冷蔵庫から牛乳とレモンを取り出し、その牛乳を大きめの片手鍋の八分目くらいまで注ぐ。次に塩とレモン汁を鍋全体にまんべんなく散らし、弱火で温めていく。鍋が沸騰して混ぜたい衝動に駆られるが、ここはじっと我慢。混ぜてしまったらせっかく固まったチーズがボロボロになり、火の通りが不均等になってしまう。しばらくして白い固形物が浮かんできたら鍋を火をからおろし、清潔な布で濾していく。水分が飛んでリコッタチーズが完成するのに約30分ほどかかるので、その間に他の手順も進めていく。
大きめのボウルに今回使う小麦粉────セモリナ粉を入れる。お代わりも想定して多めにセモリナ粉が入ったボウルに、今度は水を少しづつ注ぐ。ここで最適な量の水を入れられるかどうかが、完成に大きく関わってくる。固体と液体のちょうど中間あたりになったところで水を入れるのをやめ、何度か生地をかき混ぜてから、セモリナ粉をふやかすために15分ほどボウルを放置しておく。
次に数個の卵を卵白と黄身を2つのボウルに分け、黄身は空気を含むように軽く木べらで混ぜ、卵白は角が立つまで泡だてる。こうすることで、ただ卵を入れるだけのものよりも口当たりが滑らかになって美味しくなるのだ。
卵が混ぜ終わったことで全ての下ごしらえが整った。セモリナ粉が入っている鍋を弱火の火にかけ、その中にリコッタチーズ、卵黄、卵白の順で入れていく。最初のうちは焦げ付かないように木べらでよくかき混ぜる。チーズがだまになりやすいので、鍋肌ですり潰すようにかき混ぜると良い。しばらくして材料が混ぜ終わったら、白ワインを垂らしながら鍋上を一周だけさせ、蜂蜜を入れていく。ちなみに、蜂蜜はケチらずタップリと入れた方が良いというのがヒメの主張らしい。
その後も木べらで混ぜ続け、気泡が鍋全体にフツフツと浮かんできたらここで火を止める。蓋をして数分余熱で蒸らした後3枚の皿に盛り付け、ミントの葉を皿中央に添えたら完成だ。
◇◇◇◇◇◇
料理とスプーン、冷やしておいたワインとグラスをトレーに乗せてテーブルへと向かう。カウンター席には誰もおらず、いつの間にかアルフィアもテーブルへと戻っていたようだ。足音に気づいたのか、3人ともがアルトを見つめている。
「出来たのか?」
「はい、こちらが注文の品"キュケオーン"になります」
ヘラの問いかけに答えたアルトは、キュケオーンが入った皿を3人の前に並べていく。目の前に料理が来たことでその匂いが3人の鼻をダイレクトに刺激する。ヘラは目を細めて懐かしそうな表情を浮かべ、アルフィアは初めて見る料理に期待感満載の顔で皿を眺めている。残る一名は口端のヨダレを拭って今にもスプーンに手を伸ばそうとしていたが、そこはご愛嬌。
「では頂くとしようか」
ワインを注ぎ終わったアルトを一瞥したヘラがかけた声によって、各人は食事を始めた。
ヘラがキュケオーンにスプーンを入れるとその手に伝わってきたのは固体とも液体ともとれない不思議な感触で、すくい上げてみるとずっしりとした重量も感じられる。ヘラは白い湯気が立ち昇るキュケオーンに数度息を吹きかけてから、スプーンを口に運んだ。
まず感じられたのは濃厚なチーズの味わい。次いで、それに合わさるようにして蜂蜜の甘さが口いっぱいに広がる。数度咀嚼すると、隠し味の白ワイン特有の風味が鼻を抜けていくように爽やかさを足す。セモリナ粉も一粒一粒形を残しながら、しかし一度噛むと溶けるようにして口の中から消えてしまう。
1口目を飲み込んだ口の中は、未だ蜂蜜の甘い香りが僅かに残っている。スプーンを置いてからグラスを手に持ち、数度揺らしてから白ワインを口に含んだ。
アルトが今回選んだこの白ワインは比較的新しく作られたもので、熟成し切ったワイン特有のぶどうの香りが抑えられている。ワインのみを楽しむ際には少し物足りないと感じてしまうが、その料理に最適な飲み物は往々にして存在する。
ワイン自体の主張が強くないことでキュケオーンとワインが絶妙にマッチし、その味わいの深みが増した。
ワインから手を離したヘラはウットリとした表情で一度息を吐くと、ゆるりと首を回して隣の者たちに目を向ける。アルフィアは自分と同じようにキュケオーンの味わいに感動したような表情を浮かべているが、ヒメは既に空となった皿をアルトに突き出しお代わりを要求しているところだった。
「おい、ヒメ。元はと言えばこの料理は妾たちのものだぞ。少しは自重しろ」
「ムグムグ......ふん、私の眷属が作ったものなんだから私にも食べる権利はあるわよ」
ドヤ顔でそんなことを宣うヒメの頭を、アルトの右拳が襲う。突然の衝撃に耐えられなかったヒメは両手で頭を押えテーブルに突っ伏した。
「お代わりなら幾らでもありますから気にしないでください。それよりも神ヘラ、口には合いましたか?」
「ああ、昔食べた味と全く同じだ」
「それは良かったです。このメニューに関してはヒメを頼りに研究を重ねましたから自信はあったのですが、やはりその味を知っている方から直接感想が貰えるのは貴重な経験ですね」
「研究.....?」
「ええ。何せヒメが生み出した食材が使えないので、天界の味に近づけるのにかなり苦労しました」
冷静に考えると、下界の食材を利用して天界の味を再現するなど不可能だ。しかしこのキュケオーンの味は、昔ヒメが生み出した小麦や他の神々から分けてもらった食材で作ったものと同じ味。目の前の男は苦労したと言ったが、どれだけ苦労したところでこの味が再現出来るはずがないのだ。それに気づいたヘラは、今日一番の衝撃に思わず笑みがこぼれる。
「フフフ.....おいヒメ、面白い眷属を捕まえたな」
「私の眷属なんだから当然よね」
クールを装うヒメだが、その顔はどこか誇らしげだ。ヘラは神友が元気にやっていることを再確認して顔を綻ばせ、再度ワインを呷った。
ヘラが2杯、ヒメが3杯、アルフィアが5杯のキュケオーンを食べ終え、ワインも2本目のボトルが空になった頃。ヘラとアルフィアは示し合わせたかのようにゆっくりと席を立った。
「次は旦那とでも来るとしよう」
「今日も美味かったぞ」
「ええ、またのお越しを」
ヘラとアルフィアは酒で頬を少しだけ赤くして帰って行った。アルトは机で酔いつぶれて寝ているヒメの肩にスーツの上着をかけてやり、厨房の片付けを始める。皿洗いと掃除が終わってからヒメが起きていることを期待して再び客席を見るが、ヒメは寝息を立てて本格的な睡眠に入ってしまっている。しょうが無いなと呟いたアルトはヒメを背負うと、細心の注意を払いながら階段をゆっくりと下りていった。