オラりオ青春あーカぁイヴ


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作:タスクゴマ
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フレイヤ


(な、慣れることができない……気持ち悪い!)

 

私は絶叫した。心の中で。鳥肌は立っていない。心は慣れなくても体は絆されているらしい。なんだか誤解が生じてしまいそうな言い方だ! と、こんな風に頭を抱えてしまう程度には、私の現在は混沌としていた。

 

「おはようございます、ヘルンさん。今日も綺麗ですね」

「──ぶっっ、げほげほっ、げほっっ!?」

 

憎き憧憬の奴隷が、ヘラヘラしながら隣の席に座ってきたかと思えば、自然(ナチュラル)に歯の浮くような台詞を吐いてくる。補足しておくと今しがたのコレ、一週間前から始まって本日朝まで継続している。

 

「大丈夫ですか!? すみませんいきなり話しかけたから驚きました!?」

 

違うそうじゃない。驚いているのは主にお前の存在に対してだし、咳き込んだのは不意打ちでき……綺麗だとか言われたからだ。この兎、フレイヤ様からアドバイスを受けたとかで、私と親睦を深めるために褒めることにしたらしい。アホなのか。知ってた。初対面の時には既にアホだったな。

 

「あーあ、いけませんよ、ベル!」

「うわびっくりした! いきなり頭を叩かないでくださいよっ!」

「そういう言葉は私に言うべきです。主に日頃の感謝を込めて!」

「感謝の気持ち……そういうことなら……! ヘイズさんも、綺麗ですよ!」

「もうひとおしっ、ヘイズさんは可愛くて優しいから、僕はとっても癒されてドキドキしてます! はい復唱!」

「そ、それは……ヘイズさんは、可愛くて優しいから、僕はとっても癒されて……ドキドキ、してますっ! これでいいですか!?」 

「ええバッチリです! 百点満点をあげましょう! ふっふっふっ、良い気分です!」

 

アホが増えた。赤毛というか薄紅色というか、もはやピンクにしか見えない髪の治療師(ヒーラー)、ヘイズ・ベルベットが現れた。アホアホ言っておいてあれだけども、私が気安く話せる数少ない友人的な何かだ。愛嬌がある美人で数少ない人格者。女神が絡まなければ基本ずっと癒し系だ。

 

「ヘイズ、そこは俺の席……なんです……けど」

「ああヘグニ様。これはこれは失礼しました。では私はベルの膝の上に」

「させるか! 何を考えてるの貴方! 朝からやめてくれますか、うっとうしい!」

「鬱陶しいとは何事ですかヘルン! この杖でぶん殴りますよ!」

「どこの蛮族だ! 癒し系が聞いて呆れる!」

「残念でした〜、癒し系であることを自称したことはありません〜」

 

何が残念なんだ……! ああ苛苛する。ヘラヘラしている兎にはもっと苛苛する……! というか誰か真剣にツッコミなさいよ。どう考えてもおかしいでしょう。ベル・クラネルが進んで移籍してくるなんて!

そりゃまあ、フレイヤ様をお救いしたいという気持ちはわかる。理解する。あの派閥大戦を通じて、彼は女神も娘も救おうとしていたから。でも、それとこれとは違う。主神に背を向けて移籍までするのは、私の中では解釈違い! だから気持ち悪い。もう鳥肌モノだと言って良い。それなのにああもう、どうしてどいつもこいつも平気な顔して受け入れているのか。私は毎日のように頭を痛めているというのに。もう一年も経ってしまったんだけど、この兎はどう責任を取ってくれるのだろうか。

 

「アレンさんも、おはようございます!」

「……おう」

 

そこを通りがかったアレン様。あなたもあなただと思うんですよね。おう、じゃないんですよ。何普通に朝の挨拶してるんですか。

 

「オッタルさん、今日も凄い筋肉ですね!」

「……うむ」

 

斜め前の席に着席なさったオッタル様。あなたもですね、もう少しどうにかならないんですか。うむ、じゃないんですよ。何ちょっとだけ嬉しそうに微笑を浮かべておられるのか。派閥大戦の時もそうであったように、本能的感覚でこの異常事態について何か感じ取ったりしてないんですか。

 

「みんな、おはよう」

「「おはようございます、フレイヤ様!」」

「ベル、おはよう」

「おはようございます、フレイヤさま! 良い夢が見られたみたいですね!」

「わかるの?」

「昨日よりも少しだけ顔色が良いかなって……」

「ふふ、成長著しいようで何よりね」

 

さて……フレイヤ様がご降臨された。

何かしら考えてはいるご様子だけど、最近のフレイヤ様は私をもってしてもお考えが全く読めない。それでも断言できるのは、この状況は彼女が望んだものではない、ということ。

あの大戦で区切りをつけた筈なのだ、彼女は。

町娘として生きていくという本当の願いにもお気付きになられて、あの馬鹿女神共が騒ぎ立てなければハッピーエンドの顛末になっていた筈。それなのにこんなことになってしまって、本当においたわしい。

そりゃあ、都市魅了などという蛮行に走ったのはどう考えても罪深いし、罪を犯したんだから罰があって然りというのも理解出来るけども。だからってこの展開はどうなのだろうか。私個人としては送還が避けられただけで御の字だけど、少年がやって来るという展開は理解に苦しむ。

 

「そうだ、アレンさん。良かったら今日はダンジョンに行きませんか?」

「……あ?」

「アーニャさんも一緒に行くので、良かったらなんですけど」

「……あ゛?」

「どうするの、アレン?」

「……行って参ります」

 

アレン様は妹が気になるのを隠すこともしなくなった。開き直るようになってしまったし、一体どうしてしまったというの? フレイヤ様はやけに殊勝で気味が悪いし、私は夢でも見ているのだろうか?

解釈違いの兎と殊勝になったフレイヤ様。

うん、悪夢だな。それも極上の。頭が馬鹿になってしまいそう。いやほんとこの展開、誰が得をするというの?

 

「ベルが行くなら我々も同行しよう」

「それなら私も」

「私も行ってやっても良いぞ」

「いっそ希望するエルフ全員で行くか」

「待ってください。あんまり大人数になると目立ちすぎて落ち着かないので、ここはくじ引きで決めて貰えませんか? それかジャンケンで」

 

いつの間にか眷族達と仲良くなりまくっている兎と、彼に群がるエルフ共。地獄絵図か? 

なんでこの人はこんなにエルフにモテるんだ。

たった一年で派閥内のほとんどのエルフとダンジョン探索を済ませたようだけど、それはつまり個人的に仲良くなっているということで、まるで意味がわからない。あと苛苛する。殺意の波動を放ってしまいそう。

 

「少し落ち着こう、みんな。本日はアレン様が兄妹水入らずのついでにベルだ。つまり私達は邪魔になるから、やめておいた方が良い」

「「それもそうだな」」

 

えっと、ベル……モテてはいるけど扱いが結構雑なのよね。ついでって言われて苦笑いしている。いい気味だ。ははは! 駄目だ、笑いたいけど、笑えない。

この状況に慣れなさすぎて、笑えない!

ほんとどうしてこうなってしまったんだろうか。ヘラヘラしているそこのお前に、ナイフを突きつけて問いかけたい!

解釈違いだから死ね! と。

問いかけじゃないなこれは。あまりツンケンしすぎて険悪になってしまうのは困るし、やめとこう。険悪になりすぎるのは困る……困るな。悩ましいことに。悩ましいことは他にもあるけど、真剣に考えると吐血してしまいそうなのでやめておく。

 

 

 

────────

 

 

 

ヘルンが変な顔をしている。

まあ今に始まったことではないけれど、最近のあの子は前にも増して様子がおかしいことが多い。全てベルのせいね。ええベルが悪いわ。元を辿れば(フレイヤ)がやりすぎたのが原因だけど、ヘルンを悩ませているのはベルに大きな責任がある。今の状況を知れば、誰だって同じこと感想を抱くと思うわ。

 

(時間の流れが今日も緩慢。この分じゃ、終末はまだまだ遠いわね)

 

さて、あの派閥大戦が終わってから、ベルを含む私達の運命は大きく狂ってしまった。

それどころか、下界の命運そのものがおかしくなった。私以外は誰も気づいてはいないようだけど、()()()()()()()しまったみたい。だから大抗争でアルフィアとザルドが暴れた事実はないし、(シル)の大切な人は消えてしまった。だから私の胸にはぽっかりと穴が空いているし、この喪失感はそう簡単には埋まらないだろう。

 

(元凶はわかっている。オルザの都市遺跡の地下にあった、神の装置)

 

巨大な端末のような形状をした装置は、遙か太古に神が落としたアーティファクトの類いだろう。開戦前に神殿地下の存在に気付いた私は、興味本位で近づいてしまって、私が部屋に入った時、その装置は自動的に起動した。

願いを傍受し改竄と誘導を開始。

無機質な声は確かにそう言った。

アレが何なのか、神と呼ばれる存在であれば、多少は想像がつくと思う。想像できたところで対処することは不可能だった筈だけど。なにせ起動して直ぐに()()()()()()()のだから。消滅ではなく転移の類だとは思うけど、移動先がわからない限りは調査も破壊も不可能ね。

 

(【フレイヤ・ファミリア】が存続する未来はなかったし、ベルが来る未来なんて有り得なかった。それで良かったと思うし、だったら自害でも何でもして防げば良かっただけのこと……でも、できなかったのよね)

 

無理だった。だってあのベル・クラネル、優しく抱きしめた上で「僕が守りますから」とか優しい顔で言いやがったんだぜ? それは決意も揺らぐというものだし、口調もおかしくなるというものよ。彼を責めるつもりはないし、そんな資格がないのも自覚しているし、なんだったら責められる側なのも重々承知してはいるけれど、ね。

 

(毎日が楽しいけど、苦しくて、彼女を思い出すと虚無感が辛くて、快楽と拷問を交互に受けている感じ。こんなのは初めてね……いつか頭がおかしくなってしまうかもしれない)

 

下界が救われれば、少しはマシな気持ちになれるのだろうか。わからないけれど、私は女神としての責務を果たさなければならない。今度は全てが終わるまで。

もはや女神を辞めることはできない。私が真の意味で開放される瞬間は、しばらくはやって来ることはなさそうだ。

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