オラりオ青春あーカぁイヴ


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作:タスクゴマ
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ベル・クラネル


豊穣編最高だったので深層編を見始めました。原作ちゃんと読んだ方が良いのか迷い中。


少年ベル・クラネルはかつて最愛の祖父を亡くして迷宮都市にやって来た。見た目は貧相(ひんそう)中身は弱気な風見鶏だった彼は、どこの【ファミリア】*1からも相手にされず、腹を空かせた眷属ゼロの処女神ヘスティアの眷族となった。

 

「ボクはヘスティア! お近付きのしるしに、一緒にジャガ丸くんを食べようぜ!」

「神様、僕、強くなります!」

 

ツインテール爆乳ロリ女神との共同生活が始まり、ベルの冒険者人生が幕を開ける。

当初は光る才能など無いかに思われたベルであったが、金髪の美少女剣士との運命の出会い*2を機に、好きになればなるほど強くなるとかいうクソ意味のわからんレアスキルを発現させて一気に開花。

 

「僕、強くなってる気がします!」

「ああうん、そうだね……」

 

ダンジョンでガンガンモンスターを倒して、正気を疑う速度で熟練度(アビリティ)を伸ばしまくり、ベルはジャンジャン飛躍した。ある夜、酒場で粗暴な狼人(ウェアウルフ)に罵られ、悔しさのあまり食い逃げをしてしまった意味のわからん事件すらも糧に変え、ベル・クラネルは走り続けた。

主神ヘスティアと一緒に向かった怪物祭では、どこぞの女神に魅了された野猿のモンスター『シルバーバック』に襲われるも、これを撃破。

 

「神様、行ってきます!」

「その前にズボンを何とかしようぜ! 半分脱げちゃってるからちょっとマズイ!」

 

路地裏で現場を目撃していた人々は、ベルを裏路地の英雄と讃え、新たなズボンを進呈した。腰の辺りが裂けてしまって上手く締まらず、そのまま帰っては大変なことになりそうだったからだ。

讃えられるベルの姿を女剣士アイズは遠くから見つめ、優しげな笑みを送った。この一件は怪物祭に使用されるモンスターの集団脱走が原因であり、責任者の男神ガネーシャはむち打ちの刑に処されることとなる。

 

「神様、リリを助けたいんです!」

「そりゃボクだって助けてあげたいよ? ところで、君ってちっちゃい女の子が好きなの?」

 

シルバーバックを打ち倒したベルは加速した。新たに知り合ったサポーターの少女を救うため、彼女に騙されていると薄々気づきながらも関係を継続。最終的には嵌められて危険地帯に取り残されるも、自力で脱出して全力疾走。

 

「リリィぃぃぃぃぃ──────────────ッッ!」

「えっ、ベル様? !? うわあああああ!? どうしてズボンを穿いていないのですかあああああああああああああ!?」

 

ここでもズボンを損傷したベルは下半身パンツ姿でリリ*3の元へと急行。リリは悪人達によって利用され、彼女もまたダンジョンに置き去りにされていたが、ベルが間一髪のところで救い出し、一件落着。その日は下半身にリリのローブを巻き付けて帰った。

 

「……」

「……」

 

最後は少し気まずい空気が流れていた。どうにも締まらないと汗を流すベルであった。このまま別れて、もう二度と会わないかもしれないも不安になったが、それは杞憂であった。

後日再会を果たした二人は、これまでの関係をリセットし、新たに始めていくことを約束する。異なる派閥ながら仲間ができことをベルは喜び、ツインテールを回転させて怒っているヘスティアを頑張ってなだめた。

 

「ボクは認めないぞ! 女狐ならぬ泥棒猫なんて!」

「リリは狐でも猫でもないんですけど……」

「そういうことじゃなあーーーーーい!」

 

なし崩し的ではなく、しっかりとしたリリの謝罪をもってヘスティアは二人の関係を認めた。あくまでサポーターとしてだ。それ以上の深い関係をおねだりしたりしていたら、教会に血の雨が降っただろう。

 

「それじゃ心機一転、行ってきます神様!」

「ああウン。もう女の子は拾ってこないでね」

 

はじめての仲間を得たベルは、それまでと変わらず連日ダンジョンに引きこもり、ガンガンモンスターを倒してジャンジャン強くなっていった。そんな最中(さなか)に訪れる女剣士アイズとの突然の再会。戦闘指南を受けていないことを彼女に相談すると、なんと直々に特訓して貰えることに。

ベルは頭の中がお花畑と化したが、世の中は厳しいものである。力加減のわからぬアイズにボッコボコにされ続け、ベルは何度も気絶した。

 

「次は……お昼寝の練習を、しよう」

「お、お昼寝……?」

 

憧れの人からの指導は厳しく過酷で*4、常人なら根を上げてしまうほどであった。だがベルは『アイズさん大好き』の一心で耐え抜き、ささやかなご褒美として気絶した後の膝枕とかして貰った。

訓練が終わりに近付いた頃、有り難い助言を頂くこともできた。

 

「忘れないで。無鉄砲にならないで。考えることを諦めちゃダメ。そうなったら最後、ダンジョンは逃がしてくれない」

 

それは直ぐに活かされる、この時のベルに最も必要だったアドバイス。

アイズとの訓練が終わってから間もなく、ダンジョンでミノタウロスに再度襲われ、ベルは獅子奮迅の戦いを繰り広げることになる。

結果は勝利である。大金星だった。

約一ヶ月で器を昇華(ランク・アップ)! Lv.2の世界に足を踏み入れた。因みにそれまでのLv.2へのランクアップ最短記録は一年位で、記録保持者は憧れの女剣士アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

「嬉しいなあ……でも思い出すと身震いしちゃいます。ミノタウロス、めちゃくちゃ強かったんですよ……」

「そりゃ、ソウダロウネ……」

 

ランクアップには偉業の達成が不可欠である。

ベルが打ち立てた偉業はLv.1単独(ソロ)でのミノタウロス討伐であった。だが真の意味で一人でやり遂げたかと言えば否であった。憧れの女剣士が特訓してくれていなければ、どこぞのストーカー女神が手を回して魔導書(グリモア)を読ませてくれていなければ、彼は食い殺されていたことだろう。まあ、ミノタウロスとの再戦自体、そのストーカー女神が仕組んだ自作自演(マッチポンプ)だったわけだが。

 

「はぁはぁ……なんて凄いのかしら……なんて凄いのかしらっ」

 

彼女ならではの裏技を用いて戦闘風景を盗撮していたストーカーこと女神フレイヤは、密かに達していたといなかったとか。「ド変態じゃねーか……」と副団長の猫人(キャット・ピープル)はドン引きしていたとか、いなかったとか。

 

「愛してるわ、ベル」

 

愛と美の女神フレイヤはベルにご執心であった。魂が透明だから好きになったらしい。只人に理解不能な理由ではあったが彼女は真剣(ガチ)本気(マジ)であった。

女神フレイヤが生きる上で最大の目標は伴侶(オーズ)を探し出すことである。あの少年なら望みを叶えてくれるかもしれないと、彼女は期待に満ち溢れすぎて達したとか、達さなかったとか。

 

「俺はヴェルフ・クロッゾだ!」

「僕はベル・クラネルっていいます! よろしくお願いしますクロッゾさん!」

 

ランクアップした者には神々から二つ名が授けられる。ベルは【リトル・ルーキー】に決まり、これからの冒険者人生に胸を踊らせた。そんな時、出会ったのは鍛冶師のヴェルフ・クロッゾ。魔剣を打てる一族としての一面ばかりが重宝され、完全に辟易していた彼にベルは急接近。あくまで貴方の武器に惚れましたという気持ちを全面的にアピールし*5、あっという間に兄と弟のような関係性を築いていった。

 

「この短刀の名前は牛若丸…………いや、ミノタウロスの短刀だからミノたんでどうだ?」

「なんで考え直したんですかっ、牛若丸で良いですっ」

「そうか……ベルは牛若丸が良いのか……そうなのか」

「なんで残念そうなんですか!?」

 

こうして二人目の仲間が出来た。だが彼もまた所属している派閥があり、【ヘスティア・ファミリア】の構成員は依然としてベル一人。新団員が来る日は訪れるのだろうか。まあ仲間はいるし焦ることもないかあ、とベルは呑気に考えていたが、必要に駆られる事態は突然としてやって来た。

 

戦争遊戯(ウォー・ゲーム)……決まっちゃった」

「どうしよう! ウチには団員はベル君しかいないのに、どうしよう! もうおしまいだっ、この世の終わりだぁ!?」

 

フレイヤとは別の変態アポロンに目をつけられたベルは、戦争を吹っかけられてしまった。リリとヴェルフと一緒に中層に乗り込み、死にかけながらもゴライアスの異常種を打ち倒し、地上に戻ってきてすぐのことだった。

第ウンウン回戦争遊戯(ウォー・ゲーム)の構図は、【ヘスティア・ファミリア】VS【アポロン・ファミリア】。

 

「ベル君、べるキュン、はあはぁはぁ……私とランデヴーする時はすぐそこだ……はぁはぁはぁ」

 

舞台はオラリオから離れたシュリーム古城。

他派閥の介入は禁止。助っ人は都市外の勢力に限る。これはいよいよ詰んだか。ベル・クラネルの【ヘスティア・ファミリア】での人生は終わりなのか。誰もがそう思ったが、なんとベルは勝利してしまった。

 

「なんだこの展開はっ、私はLv.3だぞッッ」

「やったぱりだ……ヒュアキントスさん! 貴方はアイズさんよりも弱い!」

「当たり前だ貴様! あんな化け物と比べるな頭がおかしいのか貴様!」

 

リリとヴェルフ、そして中層でのアレコレの時に知り合ったヤマト・(ミコト)が【ヘスティア・ファミリア】に改宗してくれて、団員数は1から4に。焼け石に水かに思われたが、リリの変身魔法により敵を混乱に陥れ、その隙にベル達は敵の陣内への潜入に成功。多勢に無勢で勝者は決まりきっていると、緩み切ってきた【アポロン・ファミリア】は大混乱に陥り、その中でベルは団長のヒュアキントス・クリオとの一騎打ちに挑んだ。

 

「ッッ、もらったぞ!」

「っ」

 

繰り広げられた一進一退の攻防。体勢を崩したベルに、ヒュアキントスは勝利を確信したかのような顔で襲いかかり、見事なまでの反撃(カウンター)を叩き込まれてこれまた見事に気絶(ノックダウン)

この勝利には三人の仲間以外にも、一人の協力者が大きく貢献していた。城外で敵を引き付け続けた人物である。

 

 

「見事です。勝ちましたか、クラネルさん」

 

豊穣の酒場の同僚にして親友、シル・フローヴァの想い人を守るため、また個人的に曲がったことが許せず参戦を果たした彼女は、覆面で顔を隠して身分も詐称していた。中身は今はなき【アストレア・ファミリア】所属のLv.4であった。

その実力を遺憾無(いかんな)く発揮し、敵の大半を引き付け続けた彼女は、少年が勝利したことを悟るなりほっと優しい笑みを浮かべ

 

 

 

「そういえばさ、エルフじゃなかったっけ? 戦争遊戯の助っ人って」

「いやティオナあんた、夢でも見てたんじゃないの? ヒューマンに決まってるじゃない。おっかないお面をつけた死装束の。耳は尖ってなかったし、どう見てもエルフじゃなかったわよ」

「そうだっけ? でもな〜、なんだか気味が悪い感じがするんだよね。ティオネこそ夢見てたんじゃないの?」

「そう思うんなら、みんなに聞いてきなさいよ……馬鹿ティオナ……」

 

それは戦争遊戯の翌年、【ロキ・ファミリア】本拠(ホーム)で交わされた、アマゾネス姉妹の会話。

妹のティオネはしばらく考え込んだ後、「まあいっか」と朝食のラーメンを食べ始めた。

 

「お米も欲しいな〜、最近ハマってるんだよね〜」

「私はパスタだけで良いわ」

「フィンが来たからっていきなり女の子ぶるのやめなよ。気持ち悪いって」

「ぶっ殺すわよアンタ」

 

閑話休題(かんわきゅうだい)

【アポロン・ファミリア】を打ち倒したベル・クラネルはLv.3にランクアップを果たし、一息つけなかった。

どこぞの神は言った。

試練は彼のためにある。

どこぞの女神は言った。

女の子を助けに行くのが生き甲斐なのかな。

両者の言葉を肯定するように、ベルは不幸な女の子を発見し、大派閥に喧嘩を売るという無謀に身を投じた。

 

春姫(ハルヒメ)さん、本当の貴方を教えてください!」

「アンタの前にはアタシが立ってるんだが……あのヘッポコ狐を口説き始めるのも良いけど、その前にアタシを倒しな、ベル・クラネル!」

「望むところです、アイシャさん!」

 

【イシュタル・ファミリア】所属の幸の薄い美人狐人(ルナール)、サンジョウノ・春姫(ハルヒメ)。彼女は主神イシュタルによって魂を石に変えられようとしていた。

その名も『殺生石(せっしょうせき)

満月の夜に狐人を生贄に生成できる代物で、依代となった人物が所持していた魔法を誰でも使用できるようになる。

春姫の魔法は簡単に言えば擬似ランクアップが可能になる破格の性能であり、イシュタルはそれをもって女神フレイヤを打倒しようとしていた。イシュタルはフレイヤを目の敵にしていたのだ。だが、女神の目論見はベルによって打ち砕かれ、イシュタル自身も天界に送還されてしまう。

 

「こんばんはイシュタル。早速だけど、退場してくれるかしら?」

「私の子を魅了するなど、どういう了見だフレイヤァァァ!」

 

女神フレイヤはこの一件を、【ヘスティア・ファミリア】だけでは手に余ると判断して、自らはイシュタルを潰しにかかった。屈強な戦士達を歓楽街へと送り込み、自らは一直線にイシュタルのもとへ。

 

「私とお前、何が違うというのだっっ」

品性(ひんせい)

「な────」

 

大宮殿の屋上でイシュタルの頬をグーで殴り、その勢いをもって突き落とした。地上に叩きつけられたイシュタルの下界での体は致命的損傷を受け、その時点で死を回避すべく神の力が強制発動した。だが、神の力は下界においては使用禁止。破れば即座に天界へと強制送還される。

 

「あれが、神様送還の柱……」

「はい……感じます。イシュタル様が……天界に戻られたのですね」

 

少年と少女は美しい光に目を奪われ、その一方で人智を超えた力を畏れた。安堵と不安が交互に去来する中、互いの温もりを求めるように体を寄せあったのだった。

 

「あいつ、あの兎を誘惑してるのか?」

 

戦闘娼婦のアマゾネス、アイシャ・ベルカは人知れずボヤいたのだった。この一件を乗り越えたベルは、春姫を新たな家族として迎え、主神のヘスティアは春姫を警戒することになるのだった。主に女狐的な意味で。

 

 

「ベル、大変だ! ヘスティアが拉致された!」

「タケミカヅチ様!? どういうことですか! どういうことなんですかっ」

 

訪れるひと時の休息。武神タケミカヅチに恋する少女の話とかパルゥムのリリが求婚されたりとか、ヴェルフがゾッコンなヘファイストスの話とか、色々とあった後でいきなりヘスティアが拉致された。

 

「アレスに拉致られた!」

「わかりません! よくわかりませんよ、タケミカヅチ様!」

 

平穏な日々は終わりを告げた。

詳しく聞いてみると都市外の勢力、軍事国家ラキアの主神アレスがオラリオを打倒すべく、人質ならぬ神質としてヘスティアを拉致したとのこと。ベルは慌てふためき、こうはしていられないと誘拐犯達を追いかけることに。

 

「アカンアカン、アイズが行くと言うておるんや。足でまといやから君は大人しくしとき」

「僕はヘスティア様の眷族です!」

「はあ……自分、レベルいくつや。アイズについていけるとでも」

「僕は、ヘスティア様の眷族です!!」

「おお……わかったから近い、近いで少年。なんや、まさかウチに気があるんか?」

 

神が誘拐されるなど大事件である。仕方なしに対処することにした女神ロキは、ベルの申し出を一度は一蹴したが、彼の勢いに押される形で承諾。「ついてこれんようなら置いてけ」とアイズに言いつけて、二人の背中を見送った。

 

「行こう、ベル」

「待ってください! いきなり早い! 早すぎます!」

「じゃあ引っ張るね」

「えっちょ待っておほおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

ベルはアイズに腕を掴まれて強制神速ダッシュをさせられて死にかけた。その甲斐あってアレス達の補足に成功するも、足場が崩れてヘスティアが転落してしまう。アレス達を見つけたのは断崖絶壁が続く険しい山の中だったのだ。

 

「うわあああああベルくううううううん!?」

「かっ、神様あああああああああああっ!?」

 

どうにかヘスティアを救出したベルとアイズは、近くにあったエダスの村で休ませてもらい、なんやかんや得がたい時間を過ごしてからオラリオに戻った。

天に還ってしまった女神を老いるまで思い続けて、死んでいった男を見た。村の村長だった。彼の葬儀が行われる中、ベルは自然と涙していた。

愛ってなんなんだろう。

真剣に考えたのはこの時かもしれない。

 

 

 

「神様、竜の女の子……なんですけど」

「しゃべる、もんすたー……? お、おいおいおいおいっ」

 

オラリオに戻ってから少し経った頃、ダンジョンで喋る竜の少女ウィーネと出会い、助けを求められたので全力で助けた。

ここからしばらくベルの心が病んでいく。

ウィーネという少女は爪や牙がある以外は、人間となんら変わらなかった。竜娘がいる日常をしばし過ごした【ヘスティア・ファミリア】は、ギルドの命令により20階層へと足を運ぶことになる。

極秘の強制任務(ミッション)が課せられたのだ。

竜の娘を連れて20階層へと向かえ。

理由は一切書かれてはおらず、拒否権はもとから存在しなかった。

 

「みんなごめん、僕の勝手で巻き込んだ」

「【ファミリア】は一蓮托生です。それに彼女を保護することは皆で決めたことです。貴方が気に病む必要はありませんよ」

(ミコト)さん……はい、ありがとうございます」

 

指定された場所に向かうや否や、リザードマンに襲われてベルは応戦。直ぐに異変が起こった。喋ったのだ、そのリザードマンが。

 

「お前のことはベルっちって呼ぶぜ!」

「べ、ベルっち……?」

「そっちはリリっち……いや、リリたんだ! 女の子はそう呼ぶと喜ぶって、フェルズが教えてくれたんだ!」

「り、リリたんですか……!?」

「そっちは春姫たそな!」

「か、可愛らしいので……しょうか?」

「兄ちゃんはヴェル坊とかどうだ?」

「他のにしてくれ」

「知ってるぜ! 今みたいなの、塩対応って言うんだよなっ! そうだろミコたん!」

「私は巫女ではないのですが……」

 

そのリザードマンの名前はリド。ひょうきんな性格の彼に酒を勧められ、ベル達は喋るモンスター達の宴会に招待された。

世の中、不思議なことはある。

ダンジョンは未知の巣窟である。そんなことはとっくに知っているつもりだったが、それでもベルは尋ねずにはいられなかった。

 

「神様、ダンジョンってなんなんですか……?」

「ダンジョンは……ダンジョンだよ」

 

どこの神に聞いても、きっと同じ回答をする。ベル達が真実の一端に触れるのは、まだ先の話。

喋るモンスター達との時間は一旦、終わりを告げた。

いつもの日常に戻ったことを寂しく感じながら、ベル達はそれまでの日々に帰っていくのだった。

 

「なんだか静かになっちゃったね」

「そこまででもないだろ……と言いたいところだが」

「やはり寂しいものでございますね……」

 

喋るモンスター達は異端児(ゼノス)と呼ばれている存在らしい。

ギルドの創設神ウラノスは彼らの存在を認知しており、これまで見守ってきたそうだ。ウラノス唯一の眷族である愚者フェルズは、異端児(ゼノス)達の良き理解者なのだとか。

 

「そういえば、フェルズ君のことだけど」

「ああ、喋る骸骨の人ですよね……」

「ベル様、それはもう人間ではないのでは?」

「リリ殿、それはそうですが……」

「細かいことはいいだろ。その喋る骨ってのと、これから関わっていく予感がする。ヘスティア様はそう言いたいんでしょう?」

「うん、ヴェルフ君の言う通りだ」

 

愚者フェルズ。

彼は骸骨だが、喋るモンスターではなくれっきとした人間であるとのこと。世の中には不思議なことが山ほどある。神であるヘスティアもまた、ベル達と一緒に困惑した表情を浮かべた。

異端児とはそもそも何なのか。

なぜあのような存在が生まれるのか。

フェルズは骸骨なのになぜ喋るのか。

疑問が疑問のまま放置されたまま時計の針が進んでいき、その時がやってくる。

 

 

「リヴィラが壊滅!?」

「ベル、討伐隊が編成されるって……君も組み込まれるって、エイナさんが言ってるよ」

「っ!?」

 

街中でばったりアイズと会った日のこと。突如として非常事態を報せる鐘が鳴り響き、二人はギルドに急行した。そこで18階層リヴィラが壊滅したことを知らされ、ベルは青ざめた。

今、何が起こっているのか。

わけがわからないまま討伐隊に組み込まれたベルの前に、喋る骸骨フェルズが現れた。彼の話によれば、モンスターを売買して利益を得ている【イケロス・ファミリア】が異端児を拉致し、怒りを買った結果がリヴィラ襲撃なのだという。異端児達は人間に対して怒っているのだ。

 

「討伐隊に参加してもらうという話は聞いているな?

 だが単に参加してもらうというだけではなく、君には【ガネーシャ・ファミリア】による先遣隊に入ってもらう。出会って間もない私達だが、どうか力を貸して欲しい」

 

ベルは力強く頷き返すと、【ガネーシャ・ファミリア】と共に18階層に急行した。だがそこにリドをはじめとして見知った異端児の姿はなく、一部の面々は既に地上に出てしまったことが発覚する。

 

「体を透明化させる魔導具(マジックアイテム)……フェルズ・ハットを使ったな! 効果は一時的だが、ダンジョンの出入口を通過するには十分すぎる時間が得られる……護身用に渡していたのが仇となったか……!」

 

どこぞの魔導具製作者(アスフィ)が製作できる『ハデス・ハット』の劣化版。フェルズはそれを護身用にと渡しておいたらしいが、完全に仇になってしまった形となった。ベルはもはや顔面蒼白で、誰が見ても様子がおかしい状態に。心配そうに近づいてきたのは、元【イシュタル・ファミリア】の戦闘娼婦アイシャ・ベルカと、戦争遊戯にも参戦してくれたエル

 

「おい、何をぼさっと立ってる。大丈夫かアンタ」

『貴方に何があったのかはわかりません。その上で、話しては貰えませんか? それができないのなら、まずは地上に戻りませ』

『放心している場合ではない。まずは深呼吸をしろ』

 

 

 

 

ここにいても最早どうしようもない。

覚悟を決めたベルは地上に戻った。地上に出たリド達はダイダロス通りに身を潜めていたが、【イケロス・ファミリア】の襲撃を受けて大混乱に陥る中、ウィーネが孤立してしまう。

 

「ウィーネ……!」

『ァ──アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

ベルが見つけた時、ウィーネは正真正銘の怪物へと変貌していた。【イケロス・ファミリア】団長、ディックス・ペルディックスの策略により、理性を奪われ完全なモンスターに身を落としていた。

どうすれば良い。どうすれば助けられる。

ダラダラと汗を流すベルの耳に、多数の足音が聞こえてくる。現れたのは【ロキ・ファミリア】。都市最大派閥が脅威を消し去るべく武器を握り、ウィーネに狙いを定めたその時

 

 

「こ、これは僕の獲物だっ! 手を出さないで下さい!」

 

ベルは咄嗟に叫んだ。眉をひそめる【ロキ・ファミリア】の面々を睨みつけ、逃亡に転じたウィーネを全速力で追いかけた。アイズはじめ【ロキ・ファミリア】の冒険者達は当然、追跡しようとしたが、

 

 

『ォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

「! フィン!」

「黒いミノタウロス!? っ、アイズ下がれ! 一目見ただけでわかる! アレは尋常じゃない!」

 

黒いミノタウロスが裂帛の咆哮とともに、家々を粉砕しながら突っ込んできた。応戦を余儀なくされた【ロキ・ファミリア】は足を止め、少年と(ヴィーヴル)を完全に見失ってしまう。

他方、ウィーネを追いかけるベルは、途中で襲ってきた冒険者達を()()()()()退()()、時に砲撃で吹き飛ばしながら走り続けた。

そして、悲劇が起こった。

物陰から飛び出してきた男がウィーネに向かって槍を投擲し、ぐさりと胸を貫いた。その瞬間、ベルとウィーネの足元が崩れ、二人は直下の空洞に転落してしまう。

 

「ウィーネ……」

「ごめんね……ベル」

 

呆然とするベルに向かって、少女は花のように微笑み、ボロボロと音を立てて灰に還った。

死との直面。失われていく温もり。救えなかった現実を突きつけられ、ベルは慟哭をあげた。だが、少女が完全に消え去るか否かという瞬間、ようやく追いついてきたフェルズが一か八かの賭けに出る。

 

「【ディア・オルフェウス】!」

 

 

 

それは蘇生魔法。

一度も成功したことがなく、ただ魔法スロットを埋めるだけだと嘆いていた、フェルズが遠い昔に発現させた奇跡の魔法。それがここ一番で成功を引き当て、ウィーネを死の運命から救い出した。

この顛末をもって、異端児達はひとまず落ち着きを取り戻し、少年は彼らとの絆を深めた。だが代償は大きく、ベル・クラネルは人類の敵と認定された。

 

 

「モンスターを庇って、同業者を攻撃するなんて……!」

「怪物趣味だったとはな、見損なったぜ」

「おい、噂をすりゃあアイツがいるぞ。どの面下げて街を歩いてやがるんだろうな」

 

街に出れば針のむしろ。どこからだって非難の声は聞こえてきたし、子供達からは石を投げられた。振り返れば怯えた顔で逃げられた。

裏路地の英雄と讃えてくれた人達も、白い目を向けてくるか憎悪するか、怯えた顔で逃げ出すか。ベルは世界の終わりが来てしまったような、底なしの絶望感に包まれながら、日々を過ごすことになった。

 

 

「異端児達を地下に帰す。フェルズ・ハットを使用すれば冒険者達の目を掻い潜ることはできるはずだ。だが、念には念を入れる。荒療治にはなるが、ウラノス主導で誤情報を【ロキ・ファミリア】に流し、遠ざける手はずでいる。きっと上手くいく。君は何も心配することはない」

 

フェルズによれば、異端児達は都市に潜伏したままで、地下に戻ることができないでいるのだという。ダンジョンへの出入口はひとつだけだ。そこの守りを固められてしまっているため、迂闊に動くことが出来ずにいるのだ。そこでウラノスとフェルズが選択したのは苦渋の策。

 

「モンスター達は既に地下に戻り、現在は下層で暴れ回っている。そういうことにする。【ロキ・ファミリア】には強制任務を与え、現地に向かってもらう。その隙をついて地上の異端児達はダンジョンに戻り、中層の未開拓領域に身を隠してもらう。それで上手くいく。この逃亡作戦は成功する、必ずやさせる」

 

ベルにできることはもうなかった。

後はただ、作戦の成功を祈るだけ。

せめて救われて欲しいと願った。

そうでなければ悲しすぎる。あんなに頑張った結果はせめて良い形になって欲しい。自分はもう堂々と街を歩くことはできないけど、せめて彼らだけは。

 

「終わった……僕の人生、しかもみんなも巻き込んで」

 

この苦しい時間は永遠に続く。布団の中でベルはそんなことを呟いた。

だが、転機はすぐに訪れた。

 

 

「モンスターが暴れてる?」

 

透明になった異端児達が次々とダンジョンに戻っていく中、バベル前で異変があった。一部の異端児が姿を現し、人々に牙を剥いていたのだ。フェルズから聞いた計画にはない行動。あるはずもない蛮行をベルが目撃できたのは僥倖だった。塞ぎ込んでいたベルを気にかけてくれた男神ヘルメス。事情を知っている彼が気分転換にと連れ出してくれた先で、ベルは異端児達と相対した。

 

「これはもう仕方がない。倒すしかないぞ、ベル君」

「でも、僕は……」

「【ロキ・ファミリア】はダンジョンだ。ここら一帯に【フレイヤ・ファミリア】の団員は見当たらない。君がやらなければ、街の人が死ぬんだぞ?」

 

ガーゴイルの異端児、グロスが空中で旋回を繰り返した後、現場にいたギルド職員に襲いかかった。ヘルメスに背中を押されたベルは苦渋の表情で飛び出し、女性を庇って剣を構えた。

そして、突っ込んでくるガーゴイルむかって、()()()()()()

 

「っ!」

『……ッッ!?』

 

まさかの()()()

グロスはすんでのところで爪を引っ込め、勢い良く空高く舞い上がる。その様子をヘルメスは冷たい瞳で見ており、小さな声で言った。

 

「本当に愚かだな、君は」

 

 

 

 

事態は急転する。

ヘルメスが舌打ちを鳴らしたと同時、街中を驀進してきた大きな影がベルの前に飛び出す。それは黒いミノタウロスだった。【ロキ・ファミリア】を相手に大暴れした夜、どうにか逃げ延びてからずっと、身を隠していた最強の異端児。

 

『ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

「ぐうううううううううううっ!?」

 

新たな好敵手(ライバル)

ベルは彼の戦意に応え、真正面から迎え撃った。すぐに誰かの声に導かれる形で高所へ、更に高所へと飛んでは着地を繰り返し、街が見渡せるほど高い場所へと辿り着く。

両者の間に風が吹いた。

激しく長い風が血だらけの白髪頭を揺らし、片腕を失ったミノタウロスはびくりともしない。やがて風が止むと彼は、静かな重々しい声を発した。

 

『我が名はアステリオス。少年よ、どうか名前を教えて欲しい』

「ベル。ベル・クラネル」

 

同時に飛び出し、雌雄を決する一撃がぶつかる。

負けたくない。最後はただそれだけの想いに突き動かされ、ベルは視界を白く染めた。街中で上がっていた大歓声も、悲鳴も、耳に届くことは最後までなく、気付けばベルは落ちていた。

叩き潰され、一気に地上に叩きつけられ、ゴフッと血を吐いたベルの前に、アステリオスは着地した。そして告げた。先程と変わらず静かな重々しい声で。

 

『再戦を、ベル』

 

ミノタウロスの武人はその場から立ち去り、冒険者達は彼をすぐに見失った。【フレイヤ・ファミリア】だけは補足していたが、深追いするなと主神のフレイヤが指示を出した。

 

「さい、せん……」

 

傷つき果てたベルの中に浮かぶのは、悔しいという感情ただひとつ。異端児達を気遣う気持ちすら忘れ去り、敗北の二文字だけを噛み締めた。

しゃくりあげて、泣いた。

本当の意味で負けたことを悔しいと思い、誰よりも強くなりたいと願ったのは、きっとこの時。駆けつけてきたギルドの受付嬢達は、誰もベルに近寄ることはできなかった。

 

「ベル君……」

「やめときなさい、チュール。死ぬ感じじゃないし、今は放っておいてあげたら?」

 

 

 

ベルはLv.4になった。

アステリオスとの一戦は、敗戦しても偉業認定されたらしい。まあそれだけでランクアップしたわけではないものの、ベルは複雑な気持ちであった。

そして、怪我の功名。

ベルの名誉は回復した。あの一戦は都市中の人間が見ていたらしく、多くの人が魅入られ、悪い言い方をすれば手のひらを返したのだ。名誉回復にあたってはヘルメスが影から印象操作をしたとか、しなかったとか。

 

「俺を恨んでいるかい?」

「恨んでいます。でも、許します」

「いいのか? 俺は君を嵌めたんだぜ? 許す必要なんてない、俺はそれだけのことをした」

 

後日、ヘルメスは種明かしをした。

異端児に人間を襲われたのは、ベルの名誉を回復させるためにしたことだと。同時にベルのこれからの冒険者人生のため、危険だと判断した異端児を見捨てさせようともしたらしい。

自分(ヘルメス)は異端の英雄など望んでいない。

はっきりとそう言った。

 

「はい。それでも、許します」

「そうか。わかった」

「これまで、ヘルメス様に助けて貰ってきました。アスフィさんにはもっと助けてもらいました。僕は、僕が見てきたヘルメス様を、それ以上にアスフィさん達が信じる貴方を信じます」

 

ヘルメスは羽付き帽子を深く被り直すと、「参ったなぁ」と弱々しい声を発した。

ヘルメスは謝らなかった。

ベルは折れなかった。

かつて気弱で自信なさげで、風見鶏気質だった少年は、もういなかった。

 

 

「ひとつ聞かせて欲しい。君は英雄になりたいか?」

「はい。なりたいです。今はとにかく強く、もっと強くなって、英雄に」

 

その決意を歓迎するかのように、世界は少年に試練を与え続ける。

ベル・クラネル、Lv.4到達。

その報せを受けると共に、ギルドは【ヘスティア・ファミリア】に新たな強制任務(ミッション)を与えた。

ダンジョン下層への遠征。

初めての遠征に向かうにあたり、【ヘスティア・ファミリア】は【タケミカヅチ・ファミリア】、【ミアハ・ファミリア】と派閥連合を結成し、入念に準備を整えた上で出発日を迎えた。

 

「行こう、みんな」

 

ここから、更に、更に、ベル・クラネルの人生は過酷に晒されていくことになる。

下層では苔の巨人『モス・ヒュージ』の強化種に襲われ、パーティが窮地に晒されるも、ベルが英雄の一撃をもって勝利に導く。遠征の成功に浮かれていたのも束の間、18階層に戻ったところで殺人事件が発生し、犯人はベルにとって大切な知己の

 

 

りお

 

 

じャガーのーぅと?

 

 

 

 

「ああ良かったベルさん……無事でいてくれて」

「……シルさん?」

 

 

ベルは生死をさ迷った後、バベルの治療室の中で目覚めた。不幸が不幸を呼んで深層まで落っこちた後、強敵と戦って死にかけ、どうにか勝利したものの気絶してしまったらしい。そのまま放置されていたら死、待ったなしだったが、救援隊が到着するのが間に合ったお陰で助かった。

異端児、それとベル行きつけの酒場、豊穣の女主人の店員さん達も手伝ってくれたとのこと。目覚めた時に手を握ってくれていた少女、シル・フローヴァもまた女主人の店員で、ベルにお弁当を作ってくれている人物であった。

 

 

「本当に良かった、ベルさん……」

 

涙ぐむ彼女の正体は()()

シル・フローヴァとは、フレイヤの町娘としての顔であり、そのことをベルはまだ知らなかった。すぐに()()()()ことになる。

 

 

「今度の女神祭、シルさんとデート……?」

 

完全に体が回復した後、迎えた秋の女神祭で、ベルはシルとデートをした。そこに至るまでは事件の連続で、恋文が館に送られてきて大騒ぎになった後、ベルは恐ろしいエルフに拉致されることに。【フレイヤ・ファミリア】所属の第一級冒険者、ヘディン・セルランド。彼はベルをぶっ飛ばした後、蔑んだ顔で吐き捨てた。

 

「シル様のため、貴様に改造を施す」

 

シルさんって何者? ベルが疑問を抱いたのは一瞬で、苛烈すぎる改造を施される中で、頭の中は「シルさん今日も綺麗ですね」という定型文で埋め尽くされていった。ベルは追い詰められていた。改造の途中でローリエというエルフの女性を練習がてら口説いたが、しばらくはそのことすら忘れていたほどだ。

そうして迎えた女神祭初日。

ベルは全力でシルをエスコートし、最後になんと愛の告白を受けた。言葉に詰まりながらもお断りした。翌日はシルに扮した少女に暗殺されかけた。この頃から記憶が曖昧になっているが、断言できるのはシルはフレイヤだったということ。そしてフレイヤは、拒絶されても諦めず、都市全体を魅了するという強硬手段に打って出た──ということだ。

 

 

「貴方は私のモノよ。貴方がどう思おうと、もうみんな認めている」

 

 

彼女がしたことは正に反則技だった。魅了をもって他者の認識を強制的に書き換え、ベル・クラネルは【フレイヤ・ファミリア】である、と思い込ませたのだ。

ベルには魅了は効かなかったが、それは織り込み済みで、フレイヤは「貴方は呪いを受けているの」と言って洗脳しようとした。

孤独な箱庭に囚われたベルは何度も屈しかけた。

だが、女神祭の日に暗殺しに来た少女がどういうわけか助けてくれて、全てを気づかせてくれた。さらに時を同じくして、同じく正気だったヘスティア*6超処女神状態(スーパーヘスティアモード)になって襲来。

ベルは主神と感動の再会を果たし、怒りに震えるフレイヤと見つめあった。

 

「フレイヤ様、ここまでです」

「そのようね。なら、この先は血と涙を流すしかない。勝負よ、ベル」

 

史上最大規模の戦争遊戯の開催が決まった。

構図は【フレイヤ・ファミリア】VS【ヘスティア・ファミリア】と参加を希望する()()()。そのはずだったのだが、【ロキ・ファミリア】はフレイヤ信者達の妨害を受けて参加を断念。アテが大きく外れることになったベル達だったが、結果として【フレイヤ・ファミリア】を倒すことに成功、女神フレイヤは()()されることになった。

 

 

 

「いや、そんなこと僕は望んでません!」

 

フレイヤを目の敵にしていた女神達が暴走し、ギルドに押しかけて連日の抗議活動をしたのである。困り果てたギルド長は女神フレイヤを()()ことを決断し、構成員達のみ都市に繋ぎ止められるよう、あらゆる策を弄した。

だが、女神フレイヤにのみ従う【猛者】達を、他神が飼い慣らすのはほぼ不可能。それどころか女神を守るべく、再度の戦争になりかねない。そうなれば今回は遊戯では済まず、オラリオそのものが揺らぎかねない非常事態。

 

「フレイヤを殺せ!」

「殺せ!」

「さっさと送還しろ、使えないなりにギルドはさっさと仕事をしろ!」

「おいやめろよみんな、戦争になったらまずいよ」

「黙れハトホル! 貴様はどちらの味方なのじゃ!」

 

ベルは当時の空気を鮮明に覚えている。

刺さるような緊張感がオラリオを満たしていた。

そして、しっかりと思い出せるのは雰囲気くらいだ。

何がどうなって今に至っているのか、誰とどんなやり取りをしたのか、断片的にしか思い出せない。

 

 

 

 

「……ん」

 

 

不意に光が差し込んで、ベルは覚醒した。

ゴシゴシと目を(こす)って上体を起こすと、窓から沢山の水滴が垂れているのが見えた。外はまだ薄暗くて、部屋の中にいてもわかるくらいに冷え込んでいる。竈の炎はいつの間にか消えていた。深夜に点火し直したはずだが、やはり朝まではもたなかったらしい。

 

「……あれから、()()

 

体を伸ばした(のち)、竈に炎を(とも)し直し、その前で着替えを始める。

姿見に映るのは紛れもない白髪赤目の少年。紛れもなく自分自身だが、袖を通しているのはかつてとは異なる。黒銀を基調とした戦闘衣(バトル・クロス)。部屋を出ると広い廊下。だが、【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)の屋敷ではなく、そこは戦いの野(フォールクヴァング)であった。

 

「僕は、フレイヤ様を助けるために、改宗を……」

 

そうだ。そのはずだ。

魅了されたわけじゃない。他ならぬベル自身の記憶が告げている。自分の意志でしたことだと。

反フレイヤ派の女神達は納得しなかった。中立を宣言したヘファイストスやハトホルはじめ、穏健派の神々が止めに入ったが駄目だった。

公開処刑でフレイヤを送還。それが反フレイヤ派の突きつけた条件であり、しかし強行すれば戦争が起こるというどん詰まりの状況。都市中が揺れに揺れていたあの時、流れを変える発言をした女神がいた。ベルはその女神の顔を思い出せない。

 

『ベル・クラネルが移籍すれば良い。フレイヤの監視役として。なに、本当の意味でフレイヤの()()になれないのは証明済み。フレイヤは喜ぶどころか、むしろ苦しむことになるだろうさ。【フレイヤ・ファミリア】には罰として慈善事業を無償でやらせる。後は財産の分割譲渡……そんなところで折り合いがつくんじゃないか?』

 

その女神の提案は思い出せる。ギルド長は鼻で笑って「その程度で納得するなら、こんな事態にはなっておらん」と喚いていた。ベルも正直、厳しいと思っていたのだが、驚くべきことに()()()

反フレイヤ派の面々は承諾したのだ。

そして、ベルは受け入れたのだが、どういうわけか今になってしっくり来ない。

 

(気のせいだよね……? 納得して決めたはずだし、神様達にも土下座した記憶があるし、僕は、覚悟を決めてここに来た……はず)

 

【フレイヤ・ファミリア】は存続。

ベルは女神の抑止力として移籍してきた。

嫌がらせという狙いも多分に含んでいるベル・クラネルの移籍を、フレイヤは表面上は歓迎していたが、内心では複雑な想いを抱えていたようだ。たまに蹴りを入れてくるのは、多分、彼女も気持ちのやり場に困っているのだろうと思う。

 

(ん……深く考えるのはやめよう。もう後戻りはできないんだし、後は進むだけだ。オッタルさん達と一緒に英雄になって、本気で世界を救いにいく。とはいえ、最近はやけに平和なんだよね……)

 

食堂に足を踏み入れると、まだ朝だというのに、大量の料理がテーブルの上で輝いていた。多くの団員達はこれから洗練だから、どれだけ食べておいても不足はないだろう。吐かない程度に。

 

(そろそろ深層をもう少し先に進みたいな。アレンさんを誘ってみるのも良いかも)

 

ベル・クラネルは【フレイヤ・ファミリア】所属。

かつてフレイヤのついた嘘は現実になった。

そういえば、最終的にヘスティアはどのようにして納得してくれたのだったか。

「うーん」と少し考えたあと、ブンブンと首を振って席についた。少なくとも今は良好な関係を築けているのだから、何を心配することもない。そのはずなんだと頷いて、骨付き肉に手を伸ばした。

 

 

 

────────

 

 

 

ベル・クラネル

Lv.5

力:A814 耐久:A827 器用:B739 敏捷:S999 魔力:B768 

幸運:E 耐異常:G 逃走:G 連攻:H

《魔法》

【ファイアボルト】

・速攻魔法。

《スキル》

【    】

英雄願望(アルゴノゥト)

闘牛本能(オックス・スレイヤー)

美惑炎抗(ヴァナディース・テヴェレ)

*1
下界に降りた神が恩恵を与えた人々を集めた組織

*2
ミノタウロスに殺されかけたところを助けられた

*3
フルネーム、リリルカ・アーデ

*4
本人にそんなつもりはなかったが

*5
打算的にそうしたわけではなく純粋に

*6
神格の高い処女神に魅了は効かなかった

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