【ビットトレント】弁護士から発信者情報開示に係る意見照会書が届いたら【示談】
個人的に調べた。たくさん間違いがある。信じるなよ。自分で調べろ。
おちけつ
この記事にたどり着いたあなたは、さきほどまでパニック状態で現在はやや落ち着いているだろう。恐怖と不安の中、情報を求めているはずだ。(私もそうだったのでね)
弁護士から大きい封筒が届いて、特定記録とか親展とか書いてあるし、なんか返答しないといけない紙が入っているし、というね。
まず最初に知るべきことは、これは民事訴訟に分類される可能性が高く、ほとんど刑事事件にはならないことだ。端的に言えば、相手方の弁護士から何度も連絡がきたり裁判(民事訴訟)に発展することはあっても、早朝に警察が自宅に現れて逮捕・勾留の後に犯罪者としての前科がつくようなことはない。どういう経緯で民事訴訟に発展しそうなのかも後ほど述べる。
犯罪者とは、いわゆる前科持ちである。前科とは、刑事裁判で敗訴し有罪となり、刑事罰として労務(執行猶予も含む)や罰金を課されることを言う。民事訴訟で敗訴しても、いわゆる前科持ちにはならない。
民事訴訟の争点は、債権と債務である。誰が犯罪者かを決めるのではなく、お金を取り立てる権利(債権)とお金を払う義務(債務)がどちらにどのぐらい存在するかを争う。勝つとか負けるというのは主観的な感想である。債権と債務を互いに認めているなら、裁判や訴訟の手続きなしに、単に合意の元の商行為となるだけである。債権と債務の金額的な数字が合意されないときに、裁判所や弁護士の支援によって法的公平性のもとに争う手続きのことである。
まず、落ち着こう。
とはいえ、刑事事件ではある。刑事訴訟の可能性は常にある。すぐ下の項で述べる。
回答書をどうしたらいいの?
とりあえず、今欲しい情報は「回答書に対して、はいといいえと無視のどれがいいの?」だろう?
結論。どれでもいい。が、覚悟はしよう。それぞれ意味が異なる。
回答書に「はい」と回答したらどうなるのか。
私は「はい」を選んだ。だが、お勧めするわけではない。単に「お相手の弁護士にお手紙でも書いてみたら」というふんわりとしたアドバイスに従っただけで、特に狙いなどはなかった。結構な長さのお手紙を書いた。パッション。
損害を与えたことが刑事罰になるかどうかについて。
ここで刑事罰・刑事事件・刑事訴訟について述べておく。著作権法違反において刑事罰・刑事事件かどうかは、故意か過失かで決まる。悪いとわかっていてわざとやった(故意)か、悪いと知らずに何かをしたら結果的に権利侵害をしてしまっていた(過失)か、で判断が異なる。
もちろん故意だと刑事罰で過失だと刑事罰にならない。ここに未必の故意が関係してくる。未必の故意の詳細はググって欲しいところだが、簡単に言えば「それやったらあれになって犯罪になるって、誰でもわかるでしょ?」という意味である。刑事訴訟ではしばしば争点になる。これも故意であるから、刑事罰となる。
かつて「悪いと知らずにやっていました」がほぼ認められた例も合ったようだが、現在は未必の故意になるとされています、と多くの弁護士がネットで語っている。ダウンロード違法化はたくさん報道されているので妥当であろう。
回答書に「はい」と回答するときに備考欄に何を書くかによっては、「故意だと認めた証言」にもなりえる。そうなれば「じゃぁ刑事訴訟となるべく警察に通報します」という対応もあり得る。
あり得るだけ。そう、刑事訴訟になるためには、訴えている側が「よし!刑事訴訟するぞ」となる必要がある。最初の段階で、この動機は存在しない。警察は単に通報すれば現場に駆けつけてくれるが、逮捕となると別だ。何か確からしいものを提示しないと逮捕には至らない。何百人にも書類を送って、すべてに対して刑事訴訟(通報)を起こし、勝ったところで罰金は国が受け取るだけである。経済合理性がない。が、「やる気になる」状況は考えられる。それは後に述べる。
話を戻そう。「はい」と回答するとどうなるか。
回答書に「はい」を返答すると、弁護士が次の手続きに速やかに移行する。次の手続きとはなにか?示談である。端的に言えば「お金を払え」という連絡が来る。インターネットサービスプロバイダから、氏名・住所・メールアドレス・電話番号とかが弁護士(そして訴えている会社)に伝わるからである。
示談とは、裁判所などを介さない契約である。なので、合意した示談自体に強制力はあるが、示談しろという連絡に強制力はない。もちろん弁護士の向こうの相手は、「回答書によってあなたが認めた事実によれば、あなたはお金を払う必要がある」という主張なのである。しかしながらその金額は、単に言い値である。1000円かもしれないし、1億円かもしれない。その金額に合意できないとなれば、民事訴訟となって裁判が開始される。弁護士が初めから関わっているのはこれが理由である。示談を受け入れてお金を払えば、それはネットショッピングなどと同じように、単にお金の流れとして処理される。示談によってお金を払ったからと言って犯罪者になることはない。
回答書に「いいえ」と回答したらどうなるのか。(無視も含む)
回答書に「いいえ」を返答するか、無視してしばらくたつと、相手の弁護士は訴訟を起こす(と思われる)。インターネットサービスプロバイダーに対して、「情報開示しろ」と訴える。訴えられたインターネットサービスプロバイダーは「法的に有効なら開示するが、そうでないなら個人情報を明らかにしない」という立場で裁判をする。
この時点では、回答書に記入したあなたが訴えられる裁判が始まるわけではない。
具体的な判例は、最高裁判所の判例検索で見ることが出来る。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1検索キーワードに「発信者情報開示請求」と入れて検索するだけでよい。
「被告は、原告(会社名)に対し、別紙発信者情報目録記載1の各情報を開示せよ」などの文言の入ったpdfファイルが多数出てくる。
この訴訟の結果によって、開示されたりされなかったりする。訴えが退けられれば、あなたの連絡先は秘匿される。示談や民事裁判が起こることはない。訴えが認められれば、あなたの連絡先は開示される。その後に、示談しろとか裁判しますよといったやり取りが始まる可能性が高い。
その他の、はいといいえの違いは。
証拠。
意見書に同封された書類を読むと、「証拠として使います」と書いてある。はい・いいえと回答した書類自体を、今後の示談とか民事裁判で使うという意味である。
例えば、回答書に「詳しいことは覚えていないから分からない」と書いたら証拠・証言として使われるのである。後に裁判となった場合に「それは何年何月何日の何時のことであってはっきり覚えている」と証言することと矛盾する可能性がある。慎重に言葉を選ぼう。
時効成立の時期。
後に述べるが、時効成立のタイミングが変わる。開示訴訟に1年かかった場合は、時効成立が1年遅れる。時効は3年である。民法724条、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効による。加害者があなたであると気づいたときから3年、である。
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089「いいえ」「無視」による心象の悪化はあるのか。
「いいえと回答したものの開示訴訟において開示が認められる十分な理由が分かって改めて示談や民事裁判となるときに、裁判所や弁護士に悪い心象を与えて、結果として不利になる」、について。
https://torrent-hayakawa.com/2024/06/09/douishinai/#index_id18そんなことないよ、という主張である。まぁそうかなと。
(すぐ上に大事なことが書いてある。次項に述べる。)
開示訴訟の費用が示談や損害賠償金額に上乗せとなる。
「いいえ」「無視」の場合はほとんどの場合で開示訴訟が行われるので、その後の示談や民事裁判における金額に「開示訴訟にかかった費用」が上乗せされる。
不法行為に基づく損害賠償においては、弁護士費用が損害賠償額に上乗せされる。一般的な民事裁判における「訴訟に掛かった費用の上乗せ」については、弁護士費用は含まれない。印紙代とかの費用が上乗せになる。詳細は弁護士事務所が解説しているので確認しよう。
https://matsuyama.vbest.jp/columns/general_civil/g_damages/7375/「この最高裁判例が基準となり、現在の訴訟実務では、不法行為に基づく損害賠償請求が認容された場合、認容額の1割程度の弁護士費用を賠償額に加算されることがあります。」の判例はこちら。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55036重要なポイントがある。示談においては「1割程度の弁護士費用」であるとは限らない。1割というのは、あくまでも裁判所を通した民事訴訟における不法行為の場合だ。示談は単に合意の元の商行為だ。もちろん訴えた側としては弁護士費用も払ってもらえたほうが嬉しいから、主張してくるのは当然である。
で、開示訴訟における弁護士費用はいくらなのか?
知らんがな。単発だから20万円とか30万円じゃないかな。開示訴訟自体に複数の個人が含まれている場合は按分してもよさそうだけど、按分しないで上乗せしてくるかもね。合意に至ればよいのだから。いっぱいIPアドレスが書いてあったから、まとめて開示訴訟していて、ひとり当たりの弁護士費用はとても安いかもしれない。
開示訴訟による時効成立の遅れについて。
いくつかの判例を見ると、興味深い事実が出てくる。それは開示の根拠になっている通信の発見と、意見照会書を送ったであろう時期と、判決の時期である。
インターネットサービスプロバイダーのログの保存期間は、3ヶ月であるとか1年であるとか言われている。しかし、それよりも明らかに長い期間をかけている。意見書から開示判決までに2年やそれ以上の時間が掛かっているのである。
判例を10年ほど遡って読んでみると、肖像権の侵害(勝手に写真を使う)などの分かりやすい理由があると、3ヶ月や6ヶ月という早さで開示となるようである。最近は誹謗中傷に関する開示訴訟で高速化が行われているように感じた。しかし、送信可能権の侵害(ファイル共有など)となると、2年や3年かかるのは普通のことのようである。
ログの保存期間より遥かに長い時間が経過しても開示が行われるのは、ログ保存仮処分という手続きによる。弁護士によって「このアドレスのログを探して、ログを保存しておいて」と頼む仕組みである。インターネットサービスプロバイダーは、この手続きに割と気軽に応じてくれるようである。弁護士さんのご苦労が忍ばれる。
開示訴訟の敗訴と、最近の変更点。
さて、開示訴訟は敗訴することがある。回答書に「いいえ」と回答し、開示訴訟が行われ、訴えが退けられれば、「ヤッていたとしても逃れられる」ことになる。じゃぁ、とりあえず「いいえ」と回答しておけばいいのか?
キーワードは「unchoke」である。
ビットトレントにおけるハイブリッドなP2Pネットワークにおいて、ダウンロード側は「欲しいピースを持っている相手を探し」出し、「ピースを要求」し、「ピースを入手」するという段階を踏む。ここで出てくるのがunchoke通信という手続きである。
unchokeのやり取りによって「相手がピースを送信可能な状態にある」ということが確定する。これはまさに著作権法の送信可能権を行使できる状態である。
しかし裁判所の判断としては「送信可能な状態にあったとしても、送信可能権を侵害した(実際に送信した)証拠にはならない」という時期がしばらく続いたのである。まぁそうではあるけども。ヤッてるでしょ確実に。
しかしその判断が覆る。令和6年の判決では「送信可能な状態なんだから侵害してるっしょ」との判断が出た。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=93192簡単に言うと、「送信可能権の侵害をした直後の状態と同じだから、送信可能権を侵害してるのと同じっしょ」である。わりと平易な日本語で読みやすい。
この判断の根拠は、ビットトレントのハイブリッドなP2Pネットワークを解析・分析するツールがどの程度の詳細な情報を得ているかに依拠する。
他の判例では「実際にピースをダウンロードし、ffmpegでキーフレームを切り出した。キーフレームが当該動画データと合致した」という調査を行ったりしている。いろいろ大変そうである。
というわけなので、現在は「いいえ」の回答をしても開示訴訟によって開示に至る可能性が高い。その推測は多数の開示訴訟の判例の存在によって傍証となろう。「勝てるから開示訴訟する」という現状があるのだ。
回答書に「いいえ」と回答すると、以下の状況になるだろう。
開示訴訟が行われ、おそらく認められる。弁護士費用が積まれる。
ログ保存の仮処分などを経て、時効成立が遅れる。
結果として、弁護士と訴えた者に住所や氏名などの個人情報が伝わる。
「はい」と「いいえ」の違いは、以下のように整理できるだろう。
示談と民事裁判の損害賠償額に弁護士費用が上乗せされる。
示談や民事裁判が行われるとしても、「はい」より1年後(?)になる。
時効成立(もう安心)となるまでが、「はい」より1年後(?)になる。
民事訴訟は少ない。示談を要求してくる。
少ないってわたしの感想ですよね。じゃぁ判例を見よっか。後ほど「実は多いかも」という考察も述べる。
最高裁判所の判例検索で、「債務不存在」「トレント or torrent or torrent」「知的財産裁判例集」で検索してみよう。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search73件ヒットする。少ない。
コピペしやすいようにタイトルを書いておく。
令和4(ワ)9660 債務不存在確認請求事件 著作権 民事訴訟 令和5年8月31日 大阪地方裁判所
令和3(ネ)10074 債務不存在確認請求控訴事件 著作権 民事訴訟 令和4年4月20日 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
令和2(ワ)1573 債務不存在確認請求事件 著作権 民事訴訟 令和3年8月27日 東京地方裁判所
いろんな弁護士の記事は、この内の2件をひたすら引用している。それぐらい民事裁判の例は少ない。だから、たった3件のpdfぐらいは自分で読んでみよう。とくに令和4(ワ)9660については、まだ弁護士による解説記事がない。めちゃくちゃ大事なこと書いてあるんだけども。Xには言及しているポストがあった。
とは言え、解説記事は便利だ。読んでおこう。検索すれば、10074の解説はたくさん見つかる。
https://rikishindo.law/torrent_mamtome/弁護士法人オリオン
なんだか詳しい感じのする弁護士事務所。それもそのはず、3件の判例のうちの2つを担当しているからである。有用な情報が多いので読んでおこう。
https://itlawyer.jp/bittorrent.html最新の判例と思われる9660については、担当した弁護士が「阿多博文」となっていることから「興和法律事務所」ではないかと思われる。公式サイトがhttpsではなくhttpだったり、デザインが20世紀なので不安はあるけども。
そもそも、示談を要求してくるのはなぜなのか?
示談金ビジネスだから、とは言えないようである。しかしビジネスという言葉が「弁護士にとって」なのか「訴えた企業にとって」なのかは考えておくべきだろう。
「ファイル共有 発信者開示」でネット検索すると、「速やかに示談できます!」のような結果がたくさんでてくる。これは明らかに、弁護士の仕事としてある程度の認知がなされており、広告も出しているのである。
示談の件数自体は増えている、と主張する弁護士がいる。
https://www.youtube.com/watch?v=553OBCIyCJgこのチャンネルでは、他にも解説動画があるので見ておくとよい。具体的に示談の相場がいくらなのかもわかる。
家族にバレずにすぐ解決したい、追い詰められた気持ちから解放して欲しい、などの理由で速やかな示談を選ぶこともあるだろう。示談は訴えた企業側からしても、民事訴訟費用を節約できてうれしい。
民事訴訟がうまく運んでそれなりの額に抑えた賠償となると、先に述べた判例のように示談よりは安い。だけど弁護士費用はかかる。どっちも金額が同じようなものなら示談するか、という考えにもなろう。
これはまさに「合意の元の商取引」に落とし込まれている。ビジネスではないが、というところだ。
「速やかな示談をサポートします!」の側の弁護士は、単にビジネスである。が、高速に処理してどんどん儲かるから示談を勧めるのであって、不法行為をした者にとって最も有利な提案をしているとは限らない。
開示請求する側の弁護士も、単にビジネスである。が、こちらは逆に、訴えた企業にとって最も有利な方法を提案しているように思える。私の感想だけども。末永いお付き合いをしたいように思える。
そして動画の中に重要なキーワードが出てきた。「損害額計算」だ。そして提示しない、という説明も出てきた。
損害額の計算方法
著作権法114条によって損害額が計算されてきた。いまのところは以下に示す方法が採用されている。というのは、今ある判例は令和6年1月1日より施行の「損害賠償額の算定方法の見直し」に関する著作権法の法改正より前のものしか無いからだ。でもまぁ関係なさそうだ。が、後ほど考察の項で詳細を述べる。
https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048販売等相応数量×単位数量当たりの利益の額
つまり、ダウンロード数と1つ当たりの利益の掛け算で求める。判例に出てきたのは「利益率38%」だった。実際にはダウンロード数×単価×利益率ということになる。特に難しい概念はない。
損害額を提示しないのはなぜか。
これは割と明らかであって、損害額が確定することがないからである。ビットトレントによるファイル共有は理論的には無限に続くのであって、いつの時点で送信可能権の侵害が終了するとは言えないからである。
これは交通事故の加害による怪我や病気の治療において、「まだ治っていない段階」で損害額を確定しないのと同じである。もし確定してしまうと、以後の治療費が損害額に含まれなくなってしまい、被害者側が不利になるからである。とはいえ被害者側も完治するまで待ってから賠償請求したのでは遅すぎる。だから、弁護士は争点を整理・分割するなどして、確定できる損害額と残っている損害額を調整していくようである。
また、損害額を確定して賠償請求を行って実際に満額の賠償金を得たとすると、その被害について賠償請求を行えなくなる。当たり前である。しかしビットトレントのファイル共有がまだ続いているとすると、実態としては著作権侵害が続いているのだ。にも関わらず、訴えたり損害賠償を請求できなくなるのは被害者にとって不利だ。これは法整備が遅れているからだが、賠償額を確定して賠償されたのなら、まぁそれはそうなる。
でも判例では損害額を計算していますよ。
それはそう。ダウンロード数から依拠して計算し、賠償請求をしている。ここで新たなキーワードが出てくる。債務不存在確認訴訟だ。(もう出てたけど)
債務不存在確認訴訟は、ビットトレントでファイルを配布していた側が行う訴訟である。裁判で原告(訴えた人)と被告(訴えられた人)という言葉が出てくるが、ここでは逆になる。不法行為をした側が原告になって訴えを起こすのである。
訴訟内容は「私の債務(支払う義務)はこのぐらいのはずです」となる。
この訴訟においては、ビットトレントのファイル共有が継続される中で、「私はもうやっていないのだから、無限に増大していく被害のすべてに責任があるわけではない」との主張から始めるのである。だから、現時点の損害額を最大とし、そこからどのぐらい減額できるのかの証拠を提示していくことになる。
証拠は自白やパソコンの状態を示すものなどいろいろあるが、判例においては「弁護士から連絡を受けた時点でもうやってなかった」「たぶん3時間ぐらいでやめた」という証言が証拠になっている。10074とか1573の中身に書いてある。
回答をどうしたらよいの?の項で述べたが、回答書の記入内容は証拠となる。「その時点でもうやめてました」と言えるような回答内容が残っていれば、証拠として採用して提出できる。
判例における賠償額の推移。
詳細は判例を見て欲しい。10074とか1573とか、最新の9660とか。弁護士の書いた解説記事とかも分かりやすいものがいくつもある。
まず、ずっと昔のwinnyとかのころは果てしない額が提示された。億とかそういうやつ。著作権法114条をそのまま適用したものだと思われる。しかしまぁ、払えないよね。訴える方も分かっていただろうし、見せしめ的な面もあったと思う。でも送信可能権とかの法整備が進んでいったわけで、社会としては必要な手続きだった。
10074と1573のやつ
私なりに勉強したことをメモしていく。
まず、著作権法114条に基づいて損害額が算定された。そして、その全額を請求した。
なんで全額をひとりに請求したのか。これはなかなか難しい内容だったのだが、民法719条が関係している。
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089この短い条文には、前段と後段という分類がある。具体的には以下の2つである。
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。
共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
分けたからなんやねんという感じなのだが、後段に分類される共同不法行為の場合は、賠償請求額の寄与度減免(寄与度減責・寄与度減額)が行われるのである。
仮に100人で共同不法行為を行った場合を考える。
前段と解釈される、つまりお互いに面識がある・同時に行った・共謀する意思があったなどの条件を満たす場合だ。損害賠償の全額を、ある1人に請求してよいとされている。これは被害者救済の意味があり、共同不法行為を行った100人全員にそれぞれ訴訟を行って賠償請求するのは大変だね、という意味である。逆に全額を賠償した加害者は、残りの99人の加害者に対して債務(お金を払う義務)を要求してよい。この金額は寄与度に応じて算定される。寄与度の概念自体は前段も後段も存在する。
例としては、集団でひとりを暴行する共同不法行為に対して、治療費や慰謝料の全額をひとりに請求するようなものだ。前段に分類される共同不法行為における寄与度は、加害者の賠償の後にしか考慮されない。
後段と解釈される、つまりお互いに面識がない・別の時点で行った・共謀する意思がなかったなどの条件を満たす場合だ。この場合は共同不法行為の寄与度を考慮して、損害額の全額より少ない額の賠償請求をしなければならない。損害額の全額に加えて、寄与度がどのぐらいかを争点とするのが通常である。交通事故で10-0だとか7-3だとか表現するのが、なじみのある寄与度である。
ビットトレントにおいては損害額を確定しないまま示談を要求されることがあり、それに対して寄与度を算定するべく起こす訴訟が債務不存在確認訴訟である。
ここで債務不存在確認訴訟の法整備が間に合っていない奇妙な点が浮上してくる。
債務不存在確認訴訟が棄却される理由として、「損害額が確定していないから」というものがある。至極、妥当である。
交通事故の加害で怪我や病気の治療が継続している場合は、債務不存在確認訴訟を「まだ治療していて損害額が確定していない」という根拠で裁判自体を棄却することが出来る。債務不存在確認訴訟は、原告(加害した側)の審理のみが行われるが、「損害額が確定していない」という被告(被害者)の訴えは確実に通るのである。「もう怪我とか治ってるだろ!」「まだだよ!」という感じである。そりゃそうである。
ビットトレントの損害額は著作権法114条で算定するし、実際の判例にも残っている。しかし、被害を受けた側は損害額が確定する状況は嬉しくない。民事訴訟を行うために被害額を確定しつつも、被害が継続的に続いていくのは望んでいないからである。だから被害者の側からではなく、加害者の側が起こした債務不存在確認訴訟において「私の寄与度を争う上においての最大金額としての損害額」としてしか判例に残らないのである。
発信者開示請求訴訟の数に比べて債務不存在確認訴訟があまりにも少ないのはこういう事情なのであろう。
先に提示したYoutube動画における「損害額を絶対に提示しないのは、民事訴訟を行わないということでしょう」という意味はここにある。
一旦まとめよう。
著作権法114条による損害額の算定。民法719条による共同不法行為において、前段と後段のどちらに分類されるか。それによって寄与度減免が行われるか否か。賠償請求が1人に全額なのか按分されるのか。債務不存在確認訴訟によって何が争点となるのか。
10074と1573における、上記のポイントを整理する。
ビットトレントのファイル共有によって著作権法における送信可能権の侵害が行われた。損害額を著作権法114条に従って総ダウンロード数によって算定する。これは共同不法行為であり、民法719条の前段にあたるものである。損害額の全額を賠償請求することを認める。
しかしながらビットトレントを利用していない期間に対する責任はないものとし、利用の始期と終期におけるダウンロード数に対するものとして損害額を算定しなおし、その全額を債務(払うべき金額)とする。
始期と終期がいつなのかについては、被告(被害を受けた側)は最初のシーダーの配布開始から原告(加害した側)の利用終了までと訴えたが、原告の証言に従って利用開始から終了までを始期と終期とした。
ただしパソコンの電源を切っている間は利用していないという考慮はせず、24時間連続稼働させたものとした。さらに配布期間には別の何者かによる配布は一切行われず、原告(加害した側)は利用期間中のダウンロード全てについて寄与したと判断した。
明らかに奇妙である。
まず、裁判を審理した裁判官の「さすがに過大請求でしょ。安くしたれや」という文脈を感じる。感じるが、有り体に言って支離滅裂である。まぁ考察とかは弁護士のみなさんがいろいろ解説してるのでそれを読みましょうということで。「なんか10万円ぐらい払うんだぁ」、というふんわりとした感想だけ述べる。
つぎに、9660におけるポイントを整理する。ほぼ同じなので差異に注目して述べる。
損害額は著作権法114条に基づいて、ダウンロード数で算出する。
ビットトレントのファイル共有における共同不法行為は、面識のないものによる同時でない共謀の意思のないものである。よって民法719条の共同不法行為における後段に当たる。
よって、寄与度減免を考慮した債務となる。寄与度を考慮した債務存在については、ビットトレントを利用していた始期から終期までの期間に、1日当たりのダウンロード数を掛けて算出する。
進展があった。しかしこれもまた奇妙である。
共同不法行為の前段か後段か、という判断が変わった。これは加害した側からすると「訴訟して全額を賠償請求する権利を行使するのは正当」という状況ではなくなったので、とても大きな変更である。
しかしである。1日当たりのダウンロード数を掛けるというやり方は、ビットトレントの仕組みを考慮していないと言わざるを得ない。
ビットトレントによるファイル共有は、参加者の人数やダウンロード数が少なかろうが莫大だろうが共通している点がある。それは、初シーダーの1名を除いた参加者全員の寄与度を平均したダウンロード数は、「必ず1になる」ということである。
これは至極当然の話である。「ダウンロード数」としてトラッカーサーバの提供するインデックスサイトに載っている数は、「ひとつもピースを持たないリーチャーだった者がすべてのピースを入手し、完全なコンテンツを入手した人数」にほかならない。ダウンロード数と参加人数は同じなのである。
ピースの授受ではなく、完全なダウンロードが1回行われるたびに加害が行われたと認定しているわけだから、加害の回数はダウンロード数である。
そして加害した側の人数は初シーダーを除くとダウンロード数と同じなのであるから、ひとりの加害者が何回に渡って加害を行ったかは、平均すると1になるのは当たり前である。
裁判は証拠の提出によって審理される。証拠がなければ、被害者の側に立って最大の損害とみなすのも公正である。最大とはもちろん、すべてのダウンロードをひとりの加害者がすべて寄与した、という意味である。過去の判例では、先に述べたように「安くしたれや」という文脈が感じられる。しかし9660の判例では逆に「できるだけ高く」という文脈も同時に感じられる。
1日当たりのダウンロード数は547回。
(1時間当たりのダウンロード数は547÷24回)
ビットトレントを3時間利用していた。
単価は1450円×38%
よって計算式は
547÷24×3×1450×38%
となる。
これは明らかにおかしい。3時間で約68回のダウンロードに寄与したという判断であるが、むしろそのタイミングで少なくとも68名のリーチャーが参加していた想定である。さらに他のシーダーがまったく存在しない想定である。さらにリーチャー同士のピース交換もまったく行われていない想定である。原告が68名全員の全ピースの送信を担ったと想定するのは、最大にしてもやりすぎである。
逆に言うなら、3時間で68名のリーチャーがシーダーになり得るネットワークがまず存在していた。これは日割り計算の理由であり根拠でもある。そこに原告が参加したのである。前日も前々日も翌日も翌々日も、常に68名がリーチャーからシーダーになる状態のネットワークが存在しつづけていた想定である。原告が参加した瞬間、すべてのシーダーは送信をやめた。そして原告が離脱した瞬間、どこからともなく3時間かけて68名がダウンロード完了となる程度の寄与度を持ったシーダーが再出現したのである。さすがに無理がある。
審理した裁判官はビットトレントの仕組みをほとんど理解していないことが推定される。にもかかわらず、なんとなく10万円ぐらいにしてくれる恣意的な判決となっているのは興味深い点である。
調査費用の全額を賠償額に認めた例がある。
とてもこわい。調査費用という言葉がわりと難しいが、ふんわりとした印象をもつのはよくない。調査費用とは何か?
いま争っている件の弁護士費用を除いた、先立って行われた諸々の弁護士費用を含む。ログ保存仮処分手続きとか開示訴訟とかそもそも裁判とか、弁護士に頼んだ費用である。もちろん主張として「いま争っている件についての弁護士費用も払え」は、ありえる。
分かりやすい解説はこちら。
https://wandk-law.com/column3092/簡単に言うと、「素人には難しすぎて、弁護士に頼んで手続きしたり調べたりして証拠を集めるしか無いから」という理由で認められるのである。
現在は個人で開示請求・開示訴訟をすることが簡単になってきたので、弁護士に頼んだ費用は一部しか認められなくなってきたようだ。どちらにせよ「社会通念上相当な範囲」という審理の恣意的な判断によって決まる。
ビットトレントにおいては通信を解析するツールを使うための費用が調査費用に含まれるはずである。いくらぐらいなのだろうか?
数人×数ヶ月で制作したとすると開発会社の原価は1000万円から上だろう。利用料として単発なら100万円単位、継続利用と保守契約ならそのぐらいの月額となるだろう。ただ、同時に複数人への調査となるなら按分してもよさそうだ。だが、「おおむね1割」の元の金額はもっと高額になるだろう。なんにせよ訴える側が事前に払うわけだからあまりにも高額になるとは考えられないのだが、ここにおそろしい事実がある。
ITJ法律事務所と同じフロアにビットトレント監視ツールを制作した株式会社HDRがある。訴訟に有利な金額を示してくる可能性は高い。審理においては「おおむね1割」という慣例なのだから、元の金額を高くしてしまえばよいのだ。弁護士事務所から事前に莫大な調査費用を払うとしても、同じフロアにある会社と密にやり取りがあるのは強く推察できる。HDRは外注して作らせただけで、ITJとは使用料・保守料をやり取りするだけの箱に見えるけどね。彼らは合法で正当である。不正はない。
考察。
雑感。
ここから先は、わたしの感想である。妄想と思って読んで欲しい。
漫画村に代表される著作権に関する不法行為は、むしろ増え続けているように思われる。ワンピース1000話記念生放送のエロクールとか。ググっても出てこないようにするDMCAの仕組みはあるが、それはつまり不法行為をやめさせるのは無理ということである。インターネット上のどこかにはあるが、探せないようにすれば実質的に不法行為を防げるという思想である。
そんな中に登場したのが、P2Pネットワークを監視して不法行為を発見し示談に持ち込んで賠償させようという動きである。あまりにも正しい。正しいが調査ツールの導入・運用と弁護士費用がかかりすぎて企業活動としては不合理であった。プロバイダ責任制限法においても、通信事業者と裁判所はつれない対応であった。
それがようやく判例が出揃って、手順がマニュアル化・半自動化されてきているということである。さらにある程度「儲かる」となれば、弁護士も訴える企業も乗り気になろうというものである。そこに「訴えられる側の弁護もしよう」という動きが出てきた辺りで状況は混沌としてくるのである。
上に述べたが、実態としての損害は「ひとりにつきダウンロード1回」なのは技術的に明らかなのだ。だが、裁判所や弁護士の制度設計の遅れに乗じて、そして裁判になれていない個人に示談を要求して恐怖と混乱に陥れて、まんまと(?)数十万円を払わせようとする行為である。この行為のあらゆる手順のすべては合法であり正当である。不正はない。この営みは時間の経過とともに「ひとりがひとつダウンロードしてアップロードしてるだけなんだ」という認識に変わっていく。そうなるまでの間に示談にもちこめるかどうかの勝負なのである。
それにしても判例の推移を見るに、個人相手に弁護士を通してやり取りする内容としては、あまりに多額の賠償請求である。
普通に考えれば、民法719条の共同不法行為の前段か後段のどちらになるかは、後段でしかない。それを「損害額の全額請求ができるのは前段だから」「加害した側(についたビットトレントに詳しくない弁護士)が前段でなく後段であると主張する証拠が出せないはずだから」という狙いで前段であると主張しているとしか考えられない。
また、裁判所の審理における判断も、ダウンロード数と参加人数が同一であるという事実をきちんと認識していない。例えば、100個のりんごを窃盗した集団が100人だったとしたとき(まぁ窃盗団だから共同不法行為の前段になるので寄与度減免はないのだが)、あるひとりの寄与度の基本的な率はりんご1個になるのは自然である。しかも、ごく一般的な参加者と認識しているならなおさらである。理解が足りないことで、ダウンロード数が多いほど寄与度が増大すると誤解している。10000個のりんごと10000人の窃盗団と考え直しても寄与度が増えないのは簡単な算数である。
昨今はあらゆるもののダウンロード数は莫大である。だから、同じような判決・判例において「ダウンロード数と利用時間の積」となると10万円ではとても済まないような金額になることが想定される。さらに、複数の会社から示談・訴訟となれば、その倍々となっていく。
もしかしたら、数万ダウンロードになっているものに絞って発信者情報の開示を行っているのかもしれない。損害額が最低でも数千万円になる。そのほうが、コスパがいい。これは妄想であるが、「新たに参入してきている弁護士事務所があります」という言い回しには文脈があるとしか感じられない。
最近見たネット情報だと、「示談の要求を無視していたら、民事訴訟が本当に始まりました。140万円だった。」というものがあった。
これはもしかすると「損害額を確定してもよい。もう損害額は増えそうにないから。」という考えに変わった企業が出てきたということかもしれない。そして示談ではなく民事訴訟となれば、債務不存在確認訴訟をしてこない相手であった場合に確実に140万円の請求ができる。140万円という数字は、簡易裁判所の最大金額である。この金額に特に根拠は必要ない。
簡易裁判所で終わらず、地方裁判所に移る場合がある。その場合に損害額がどのような扱いになるのかはよくわからない。でもまぁ、140万円じゃないでしょという争点で移送や控訴となるのだから、損害額の確定が必要になるんじゃないかなぁ。確定は不要となるなら、訴える企業にとってはコスパのいいルートになる。
現状だと債務不存在の算定がダウンロード数に依存しているから、莫大なダウンロード数が確認できる場合は債務不存在確認訴訟など恐れるものぞという態度なのかもしれない。
公開される判例には不法行為に関連するコンテンツの詳細が載っている添付資料は含まれないため、ダウンロードし放題のようなことにもならない。訴訟への姿勢がこのタイプの企業が現れたと見てよいだろう。
つまりだ。民事訴訟がほとんど起きないから判例がないのではなく、民事訴訟は多数行われた後に和解となって非公開になっている、という可能性もある。示談の要求を無視していればよい、どうせ民事訴訟はない、と断定するのは危険だ。ものすごい数の簡易裁判所への提訴が行われており、その99.999%が和解によって非公開になっていることも大いに考えられる。
これからどうするか。
まず、違法な使い方のビットトレントはやめるべきだし、やめた。これは当然である。
アンインストールはふんわりしている。判例の中にも「使用するのをやめた」という証言が証拠として採用されているので、アンインストールは必須ではないようだ。そもそもビットトレント自体は合法のツールであるし、アンインストールしたあとに再インストールもできる。あくまでも「もう使用していません」という証拠として意味がある。
アンインストールしないことで、ソフトウェアによっては使用履歴が残せる可能性がある。そうなれば「始期と終期」について証拠となるものが出てくるかもしれない。vuzeについては見つけた。現状は「始期と終期」が重視される傾向にあるので、証拠として提出できれば大きい。本来は意味のないものなのだが。
いろいろ調べたり想定したりしてみたものの、要するに相手から何かしてきたら対応しましょうと言うしかないようだ。いま想定しているのは以下のものである。
意見書が届くので、はい・いいえ・無視を選ぶ。(済)
はいなら情報が開示され、個人情報が伝わる(たぶん済)
いいえなら弁護士が開示訴訟の手続きを行う。
開示訴訟が勝訴となり、個人情報が開示される。敗訴はたぶんない。
示談しろ、という連絡が来る。相場は20万円とか77万円とか。
示談自体はお金を払って書面を取り交わせばすぐに終わる。
示談しないと民事訴訟するぞ、というのも来る。
示談しないと刑事事件に発展するかもよ、というのも来る。
実際には民事訴訟されずに何年も経過することがある。
2週間とかですぐに民事訴訟となり、裁判が始まることがある。
民事訴訟に敗訴すると、裁判所お墨付きの債権が発生する。
敗訴でなくても、和解となって取り下げられているものも多そう。
和解は示談に近いものだが、裁判所が入っている分の強制力が強い。
和解は示談ではない債権なので、強制執行などに発展。
先立って資産確認の手続きなども行われる。
差し押さえる財産がなくても、不法行為によるものは自己破産できない。
差し押さえの強制執行になっても、差し押さえ禁止財産は残る。
さて、あなたは「はい」「いいえ」「無視」のどれを選択するだろうか。そして、その後の対応はどうするだろうか。
複数の会社から発信者情報の開示をされるのではないか?
それはそう。1個だけです!って人はそうではないけど、そんな奴おる?
いくつも来ることは想定できる。ということはいくつも「示談しろ!」が来るのである。毎月ペースで来るらしい(ネット情報)けど、そのまま時効になりましたって感じでもなさそう。
時効になるような遅いタイミングともなれば、訴える側にも「損害額を確定させてでも民事訴訟」という選択はありうる。それは上で述べた。民事訴訟となるのは自然だ。その結果として「和解」となって判例が残らないと考えるのも辻褄が合う。もちろん示談よりも高額になっているだろう。弁護士費用も増大しているはずだ。
しかしながら手当たり次第に裁判しているわけでもなさそうという現状もある。弁護士は嬉しいけど訴える企業としてはマイナスだから。できるだけ示談を進めておき、応じなかった者には民事訴訟からの和解という流れが合理的に思える。でもまぁ、いくらでも示談を持ちかけられる相手がいる状況で、民事訴訟を優先するとは考えにくいなぁと。
実際に意見書の添付資料には数百のIPアドレスが並んでいた。とくに狙い撃ちされたわけでないのなら、同じ書類を全員に送りつけているはずである。流れ作業で示談の要求をしているとすると、さらに流れ作業で民事訴訟をするための弁護士を確保するのは現実的ではない。が、自分にとってゼロとも言えない。
いままでの推移を見るに、裁判所の審理は債務認定が10万円ぐらいであるけども弁護士費用と合わせると総額50万円ぐらいになり、逆算して示談は50万円ぐらいの相場であるが訴えた企業からすると民事訴訟費用が浮いて30万円ぐらい嬉しい、というような状況である。
弁護士法人オリオンが担当する裁判が和解とならずに判例が残って、しかも1日当たりのダウンロード数を掛けるなどという最大損害を認めるようなものでなくなれば、加害者側にとって有利になるであろう。
そういう意味では「回答書にいいえと回答する」のは賢い選択だ。時間が稼げる。加害する側にとって有利な判決が出ているかいないかでは、民事訴訟となったときの違いは大きい。
逆に、本質的にひとりの寄与がダウンロード1回であるにも関わらず、完全に否定するような判決が出始めるようなら(その金額はおそらく10万円から50万円ぐらいに裁判所の審理によって恣意的に決められるものであろう)、さっさと示談したほうが結果的に安く済むことになる。
そこまで行くと、権利者がわざわざシーダーとなって配布した上で訴えまくって儲ける、みたいなビジネスが成立しはじめる。が、すべて合法で正当である。恐ろしい。
示談が終わったらまた示談を持ちかけられたみたいなことは、ありうる。コブラ。複数の発信者情報開示が出揃うまで待てばいいか、とも考えられるが本当にそうだろうか。仮に10社から示談を持ちかけられていて総額が500万円となった時、「示談の減額はしない」と名言する弁護士事務所が多い中で何が出来るのであろう。
やはり債務不存在確認訴訟が鍵になりそうだし、その手続や書類作成などを学んで本人訴訟ができるようになるのが最も良さそうだ。10回の訴訟をするなら9回目にしてやっと本人訴訟ができたとしても、見返りは大きい。2回ぐらいでものになるといいけど。
そうすれば複数の示談の持ちかけに対して、ひとつひとつ本人訴訟で債務を確定していけばよい。示談と違って弁護士費用が上乗せされていそうな法外な値段にはならないし、現状だと審理において「まぁ10万円ぐらいでええやろ」という文脈が存在している。
1人当たりダウンロードとアップロードは1回
と示せる証拠について考えてみた。が、普通に考えて存在しない。
ビットトレントがそういう技術であるということは示せるが、審理においては証拠にならないのである。簡単に言えば「今日は万引きしていないから昨日もしていないはずです」という理屈として解釈される。審理としては「理屈は証拠にならないから、昨日はやってないという証拠を出せ」となるのである。
これは訴える企業が使っている調査ツールの、さらに過去のある時点での調査データがあれば証拠となるはずである。しかし利用させてもらえないだろうし、そもそも記録が残っていないかもしれない。
しかし、である。これは上手に使えばあるいは、というひらめきを得た。
寄与度減免の証拠として必要なのは、「あなたはこの時点で送信可能権を侵害していた」とするタイミングにおける、シーダーとリーチャーの人数である。これが「あなた以外には0人」という想定なので、1日当たりのダウンロード数の全体が寄与度に算定されているのである。
もちろんダウンロード完了数とシーダーとリーチャーの人数がほぼ同じことは技術的に明らかだが、証拠として示さねばならないのである。
よく考えれば、眼の前に証拠があるではないか。IPアドレスとポート番号とタイムスタンプによって発信者を特定し、開示させた個人情報を基に示談を持ちかけているのだから、添付資料にあった数百のIPアドレスとポート番号、そしてほぼ同じ時期として解釈できるタイムスタンプの数が、「その当時にビットトレントで送信可能状態にあった人数」である。
数百のアドレスを日ごとに分類し、1日当たりの「送信可能状態だった人数」を割り出すことが出来る。もちろん開示手続きのためだから、アドレスは日本向けのものに絞り込まれているだろう。それでも、「送信可能状態だった人数」がひとり増えるだけで寄与度減免は追加で50%になる。9人なら10%にまで減少する。
これは証拠になるのではないか。
証拠にならないのであれば、開示訴訟は敗訴しているはずである。勝訴する見込みで調査して個人情報を開示して、送信可能状態にあることを前提に示談に持ち込もうとしている人のリストのはずである。
理論構築がなかなかむずかしそうだが、最終的に「ひとりがひとつ」に向かうために通過すべき議論のような気がする。
特定のある1日やある1時間に、「参加者全員のダウンロードに関する全ピースを送信していた」という寄与度をもつ人間が同時に複数存在するのはおかしい。訴える企業が大量に発信者情報開示をしていること自体が、ある期間における全ダウンロードの寄与をひとりに集中させることの反証となるのではないだろうか。
「ツールの詳しい仕様とか知りたいなら500ページぐらいあるけど送るよ」って書いてあったけど、もらったほうがいいのかもしれないね。
それとは別に、もうひとつ証拠が提出できることに気づいた。弱い証拠ではある。
始期と終期についてである。
始期を経てしばらくの間は、原告は自分以外のシーダーからピースを入手する。そして完全なコンテンツとなるまでシーダーは存在しているはずである。シーダーではなく、複数のリーチャーの全体で全ピースを包含していて、すべてのピースを持っている参加者がいない状況も考えられる。いずれにせよ、原告が完全なダウンロードを完了できた事自体が、少なくともひとりのシーダーの存在の証拠である。このシーダーが原告のダウンロード完了の瞬間に消失した、というのが審理の主張の奇妙さである。毎日547件のダウンロード完了があるなかで、特徴を持たない原告のダウンロード完了のみに呼応して行動するシーダーしか存在しないと審理は判断しているのである。
次に、終期の直前において、原告以外のシーダーが存在しないし1ピースたりとも送信している者がいないとすると、原告が終期のタイミングで利用をやめた瞬間以降、すべてのリーチャーは1ピースも得ることができなくなる。にもかかわらず、現在(あるいは1年後など)においてもビットトレントのファイル共有が続いていることは、すくなくともひとりのシーダーが存在していることの証拠である。
これはインデックスサイトの現在のシーダー数か、ダウンロード数が日ごとに漸増していることを示せば証拠となる。
かつてシーダーだったものが一時休止していたが復帰したとか、原告からピースを受信したリーチャーたちが送信を開始したから、という論拠には穴がある。「送信可能状態にあるがピースを送信していないのだから送信可能権を侵害したわけではない」を覆した令和6年の開示請求訴訟の勝訴の内容に反する。一時休止していたシーダーも送信可能権を侵害し続けているし、後ほど協力すればすべてのピースを送信可能状態にできるリーチャーたちもまた送信可能権を侵害しつづけており、その期間は原告と完全に重なる。
なので、現在(あるいは1年後)もファイル共有が続いていることを示せば「少なくとも原告以外にひとりのシーダーがいた」ことは示せるはずである。
少しまとめ直すと、以下の3点が審理で認められるかが争点と言える。
送信可能権を長期間に渡って侵害し続ける継続的なビットトレントネットワークは、参加人数が多い。よって、原告ひとりのの参加・離脱で大きく変化しない。(審理による仕組みの理解)
原告が参加した時点でスムースにダウンロードが完了できていることで、少なくともひとりのシーダーが原告の始期直前まで継続的に存在していた。(スムースにダウンロードできたこと自体がシーダーが存在した証拠)
原告が離脱した以降もネットワークの機能が継続しているのだから、原告が送信中にまったく送信を行わなかった一時休止中のシーダーが存在していた。(インデックスサイトのダウンロード完了数の漸増を示すものが証拠)
これによって、利用期間×1日当たりのダウンロード数を賠償額の上限としていたものが、利用期間×1日当たりのダウンロード数÷2となる。少なくともひとりいたシーダーと原告の2人が半分ずつ送信していたからである。
この理屈というか証拠の提示には、もちろん穴がある。賢明な読者諸君ならもうおわかりであろう。原告とひとりのシーダーが存在する3時間において、68名のダウンロード完了者が現れた。このとき、原告が半分の34名に送信したという根拠がない。0名かもしれないし、34名かもしれないし、68名かもしれない。
この算定が困難なのは、68名の参加者の合計で68回のダウンロードに寄与したこと以外は何も算定できないことが原理的に明らかだからである。
そもそも「すべてのダウンロードに寄与した」という前提に「それを÷2する」などと付け加えようとしているのに無理があるのだ。無理があるが、寄与度はもっと低いという証拠にはなるはずだ。
もうひとつ穴があった。回答書に「はい」と回答した場合だ。
訴える企業は開示訴訟を行っていないので、「開示訴訟における送信可能権の侵害について云々が」という文脈が存在しない。同じコンテンツの他のアドレスに対しては絶対に訴訟手続をやってるんだけども。訴訟したことを示す理由がないから示さない。ということは、「じゃぁヤッたと認めたお前だけが送信していたことになるよ」という論にもっていける。
過去の判例を引用すればよさそうではある。でもまぁ、審理の判断に文脈は与えるだろう。
刑事訴訟に発展する可能性について。
「はいと回答」の辺りで触れた、刑事罰について。とはいえ訴えられるかもよ、というね。
ビットトレントによる著作権法の送信可能権の侵害は、誰がどう見ても故意であって刑事罰である。それは開示訴訟が認められてプロバイダが個人情報を開示していることからも明らかだ。
そして、バレたり認めたりしたら、即通報・即逮捕・即刑事訴訟・即敗訴・即前科、つまり犯罪者になることは確定している。ただその訴えがされない場合があるだけである。あるいは警察が逮捕せずに「厳重に注意」で終わる場合があるだけである。どのような動機で、訴えるのだろうか?
初シーダーは刑事罰の訴訟対象だろう。元凶と言える存在だから。まぁ犯人を見つけるのはほぼ不可能だろうけども。しかし99%の人は該当しない。もう持ってるならダウンロードしないからね。
途中から参加したとしても、積極的に送信行為を行って莫大なダウンロード数に寄与したとなれば、悪質だとして刑事罰として訴えられることは考えられる。考えられるが、それをどのように判明させるかは難しい。解析・分析ツールは通信相手としてどのようにふるまうかを調べるのであって、任意のピアとピアが何をしているかまでは調べることができない。参加している時間の長さを調べることはできるが、何もしていない可能性が残る。
ということは、すでに述べたが経済合理性の観点でいえば刑事訴訟に発展するのは「ごくわずか」と言えるだろう。ゼロではない。一体、「よし!こいつを訴えるぞ!」となる対象はどのように選ばれるのだろうか?
邪推だが、嫌がらせの文脈で刑事罰に訴える可能性はある。文脈としては民事訴訟でバチバチに戦った後で改めて刑事訴訟という意味になるが、合理性もある。何もせずに示談に持ち込もうとしている相手と、民事訴訟や債務不存在確認訴訟をやり合った相手では、刑事罰に問える証拠の提出のしやすさが異なる。すぐに訴えることができて、戦いに反撃してきた相手であれば躊躇する理由はない。邪推だが、まぁそうだろうなという気はする。
ここで留意すべきなのは、著作権法における刑事罰の時効である。詳細はめんどくさいのでwikipediaで概観を理解すればよいだろう。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%A8%A9%E6%B3%95%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E9%9D%9E%E8%A6%AA%E5%91%8A%E7%BD%AA%E5%8C%96親告罪(権利者が問うことで罪になる)の時効が6ヶ月である。刑事訴訟法235条による。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131著作権法違反は親告罪だったので、犯人に気づいてから6ヶ月をすぎると時効となっていた。2018年(平成30年)12月30日の以前と以後で状況が変わった。著作権法違反の一部が非親告罪(警察が見つけたら逮捕する)化となり、5年(軽いものは3年)が時効である。
これが俗にいう「アップロード違法化」である。その後ダウンロードも同様の変更となる。TPPが関係していたんだねぇ。もともと違法だったんだけども。急に警察が来るぞ!という印象が広まるには必要な広報活動だったのだろう。
とういことはだ。示談が成立となっても「やっぱり刑事罰で訴えるね」という展開はありえる。だからこそ示談や訴訟の末の和解の内容に「以後は刑事罰で訴えないことを約束する」という文言が入るのである。(最近、Xで和解文書を公開している人を見た。公開すんなって書いてあったけど)
そういう意味でも「民事より先に刑事で訴える」のは訴える側としては損である。6ヶ月という制約もなくなったので、急ぐ必要がない。
民事・刑事ともに時効が3年(以上)であるので、示談や民事訴訟(と和解)が終わっても、急に刑事訴訟となる可能性は常にある。民事訴訟の結果に「刑事罰には訴えない」と約束を含むことはないだろうから、前科がつくのがとてもいやだとなるなら示談の内容に入れるのがよいと思われる。
法改正による「損害賠償額の算定方法の見直し」の影響。
まぁ、影響ないけども。悪い意味で。増額はないはずだが、あるかも。
令和6年1月1日より施行された著作権法において、損害賠償額の算定方法が変わった。主に増額を目的としている。詳細は以下のサイトを参照。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r05_hokaisei/弁護士による解説記事はこちら。
https://www.businesslawyers.jp/articles/1323解説記事に書いてあるとおりであるが、自分用メモとしてアウトプットしておく。なのでこの項を読む必要はない。
改正前の著作権法は、「著作権者が販売能力等を超える部分」が損害額から除かれていた。
つまり、正規品はあんまり売れていないが海賊版は莫大に売れている、となったときに「損害賠償を払ったうえで、やっぱり儲かる」という状況があり得た。マイナー作品がバズったときに海賊版グッズばかり売れるとか、細々とイラストを書いている人たちの絵を多数パクってアクリルスタンドとか抱き枕カバーとかを大規模に販売するとか、そういうやり方が商売として成り立っている現状があったようである。
販売能力の捉え方に関しては従来通りとするものの、「販売許可とライセンス料の支払いによって正規な流通であった場合」を裏切った状態を想定して損害額を算定する仕組みに変更された。続く項で「裏切りを加味した高額なライセンス料として合意があれば請求できる」というものも追加されている。
無許可でたくさん売ったのなら、ライセンス料を払っていたとしたらこのぐらいはもらえていたはず、という感じの算定である。
ビットトレントにおいてはどうか。
何の根拠もないけど、販売数とダウンロード数はものによって多寡が千差万別なんじゃないかな。売上100個だけどダウンロードが10万回とかもあるだろうし、逆のパターンもありそう。
そうだけれども、確認できる債務不存在確認訴訟では「ダウンロード数の100%」で算定している。販売能力は加味していない。なのでこの法改正によって損害額が以前より増加することはないはずである。もう増える余地がないから。
そのはずであるが、いままでの推移を見るに「法改正で損害額の算定が増額の方向に修正されており、その内容は云々」という趣旨で増額してやろうという文脈をねじこんでくることは大いに想定できる。主張してくるであろう内容を理解しておくのは大切に思う。
実際にねじ込んでみようか。
例えば、過去の販売数の実績が1000個であり、ダウンロードによる被害が10000回だったとしよう。改正前であれば、10000から1000を引いた9000回分のダウンロードは「販売能力を超える分」なので損害額から除いて算定しなければならない(、ように思えるが実際はそうはなっていない)。
この算定をしないのは「たくさんダウンロードされたのは無料で入手できたからであって、有料だったら売れていないはずだから!とかは通用しませんよ。だからすべてのダウンロード数が損害額に算定されるんですよ。」という弁護士による解説がたくさん見つかる。
ではねじ込んでみよう。改正後であれば、「販売能力を超える分」の9000回については「単位数量当たりの利益の額」ではなく「ライセンス料(裏切りバージョンなので高額)」を掛け算して損害額とするように変更された。このライセンス料は「~~権を侵害した者との間でをこれらの権利の行使の対価について合意をするとした」価格ならなんでもよい。
ダウンロード販売を自社サイトで行うとあらゆるものが自前なので利益率はかなり低いものになるが、ダウンロード販売専門のサイトで商品を扱ってもらうような場合には「価格のほとんどがライセンス料」となる可能性も考えられる。楽天で売られているスイーツマーケットの商品のようなものだ。極端に言えば、ライセンス料の最大は価格と同じになる。
そして特許権の慣例をふまえると、その2倍が損害額として算定される。
要するに損害額は2倍になる。これはなかなかの増額といえるだろう。
「過去の判例だとダウンロード数全体×1個当たり利益を損害額としていたのだから、いまさら売上能力の範囲を超えた分を云々はおかしい」、との反論が通るのかどうか。争点はこれかな。
なんにしても審理の恣意的な運用によって「いろいろあるけど10万とか50万とか払いなさいよ」ってなることは分かっているので、それを前提にしておくのがよさそう。
唐突に終わる。この記事は更新される可能性があります。(更新したらここに書いておく)
2025/3/6
目次を追加。
損害額を提示しないのはなぜか、の文脈を修正。
考察の始期と終期にもうひとつの穴を追記。
調査費用が賠償請求に含まれる件を追記。
刑事罰と故意について何箇所か追記。
始期と終期の弱い証拠について追記。
2025/3/7
令和6年1月1日施行の法改正における損害額の算定について追記。


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