マキシムさんに相談して、アルフィアさんとパーティーを組んで、ダンジョンに潜る許可を貰った。
その後、事前情報の擦り合わせとしてお互いのスタイルを申告しあったんだけど、アルフィアさんは……。
「私は、魔法が使える後衛だ。必要とあらば指示してくれ」
「わかりました」
客観的に見れば、ほとんど最速でランクアップしたような人間が、なんの特徴もないただの後衛だとは思えない。とはいえ俺を見極めるために必要なことなんだろうと理解を示し、前回同様に見敵必殺するのが良さそうだと判断して、行動指針を伝えておいた。
ちなみに装備更新開始から一週間が経ち、武器・盾・胸部を中層素材にして重量バランスを取ったから、準備は万全だ。勿論、事前に潜って装備には慣らしてある。
「随分と重装備なんだな」
「俺は守るために鍛えてますからね、まだ小柄なのもあって余計に重くしています。不測の事態であろうとすべて受け止められるのが理想です」
「守るため、か」
そんな言葉に頷く。アルフィアさん的には、なにか思う事でもあるのか、いつものように静寂を好むからか判断がつかないけど無言となり。
「行きましょう。モンスターはすべて引き受けますから、ついて来てください。壁や後ろなどには十分注意を」
「ああ、わかった」
返事に頷き、前回と同等かそれ以上の速度でダンジョンを下り始める。後衛とはいったけど、クーリエさんと違って戦闘職ではある訳で、こちらもどの程度か測らせてもらった。あっさり着いてくるあたり、それなりに体力と敏捷性はある後衛のようだ。
「いつもこの速度か?」
「いえ」
「最速で構わない」
「わかりました」
簡潔明瞭、必要最低限。けど、十分に意図は伝わる。立ち塞がったモンスターを両断しては、止まることなくドロップアイテムや魔石を掴み取り、アルフィアさんの様子を伺いつつもひたすら下り続け、13層直前で足を止めた。
それにしても、アルフィアさんは絶対にただの後衛で済むようなステイタスじゃない。この人は、おそらく自衛できる魔導士だ。その自衛方法が、武器戦闘か回避能力かは問題じゃない。自衛できること自体が重要だから。
「備えを確認しながら、一度休憩しましょう」
「ああ」
念のため、今回も火精霊の護布を装備してから、武器を点検する。
前回、クーリエさんは自作の金属鎧を装備してたし、クラネルさんはレザーアーマーにブレストプレートといった追加を施す装備で自衛していた。けどアルフィアさんは鎧らしい鎧どころか、ドレスといってもいい装備で、物理防御にまったく期待できない。そういうことで、いつでもフォローできる準備も忘れずに済ませる。
「斬撃も打撃も扱うのだな」
「選り好みして不利になるぐらいなら、有効な手段を準備します。一撃の差が、明暗を分けるかもしれないでしょう?」
「そうだな」
んー、俺ってどんな採点を受けてるんだろうか。盾による物理防御、二種属性を持つ武器戦闘、回復魔法あたりはすでにアルフィアさんの知るところだ。速度は、同じレベル帯で前衛戦闘職の比較対象がいないから、なんとも。強いていえば、軽装のアルフィアさんと同じ速度で移動はできる。まあ、できることしかできないし、気にすることでもないか。
「行くか?」
「ええ」
考えても仕方ない。体力を回復し、立ち上がる俺を見てかけられた言葉に短く答え、俺達は中層へと踏み入った。
◇◆◇
装備更新前ですら一撃だったモンスターなんか、中層素材で備えた今ならまったく相手にならない。とはいえ複数纏めて撫で斬りできるようになったのは、武器性能が上がったからだ。つまり多少の数では、アルフィアさんの出番はない。
「……なるほどな、
視線の先、遠方にアルミラージが湧いた瞬間、灰になる。威力・距離・速度、すべてを兼ね備えた超短文詠唱の速攻魔法とは恐れ入る。アルフィアさんは、魔法で前衛さえ熟せる魔導士だったわけだ。
「さて、どうする?」
「今まで通りで」
「ほう?」
対処不能になるような圧倒的規模で襲われない限り、この辺のモンスターにやられるような鍛え方はしてない。そもそもこの程度で助けられてるようじゃ鍛錬にもならないし、この先へ進んでも死ぬだけだ。そう思いながらも、次々に湧くモンスターへあらゆる不利を押し付け、安全に殲滅していく。
そうこうしてるうちに、アルフィアさんの後方へ沸くアルミラージ。その瞬間、振り向きざま魔法を唱えようと彼女の口が動きかけ。
「なっ!」
アルフィアさんとモンスターは、それ以上動くことなく、杭に撃ち抜かれたアルミラージの頭が吹き飛ぶ。こういう時に投擲武器が必要だろうと準備していた俺が、クーリエさん謹製の中層素材を使った超重量投擲杭で倒したからだ。
「
「……ああ」
アルフィアさんは、必要とあらば指示しろといった。それは今も変わらないはずだ。なら、俺の判断は、
魔導士にとって、精神力という残弾は生命線。マナポーションだって数に限りがあるし、広範囲魔法となれば消費精神力も嵩むはずだから、無駄打ちさせるべきじゃないと思う。必要となった時、
タイミングを見て投擲杭を回収しつつ休憩する。俺の体力だって当然無限じゃないし、休める時に休むのも冒険者に必要な能力だが、単独で潜り続けてきた俺にとってはいつものこと。
「並みの数では、この辺のモンスターなど敵にすらならない、か」
「ええ、先への備えは必要ですが」
「そうだな」
そういったアルフィアさんが頷いた後、しばしの静寂が訪れる。それは次の戦闘が始まるまで続くことになった。
◇◆◇
ほどほどに時間が経ち、まだ余裕はあるけど、そろそろ戻ったほうがいい頃合いと判断した俺は相談することにした。
「そろそろ戻ろうと思うんですが」
「ああ、そうしよう」
見た感じ、疲れている様子はない。そもそもの話、アルフィアさんに戦わせてないから当然かと思いながら、階層を登った12層で猛烈な違和感に襲われる。なんだ、なにが気にかかった?
「……静か過ぎる」
「確かに」
アルフィアさんの指摘に考える。ここは12層で、上層の最下層。モンスター発生頻度は高く、数も多い。
「冒険者が駆逐したにしても、妙だな」
「ええ、警戒しつつ進みましょう」
何かある。そう思いながら進んだ先、11層直前にそれはいた。
「インファントドラゴンの強化種、か?」
以前戦った緋色よりさらに濃い紅に染まった
「パーシアスを見ている?」
「そう感じますか、実は俺もです」
一歩踏み出すと、インファントドラゴンも一歩踏み出す。もう一歩踏み出すと、相手も同じように一歩だけ踏み出す。
「……お前をご所望のようだ」
「離れて自衛を、アイツは
瞬間、返事を待たずに間合いを詰める。如何にアルフィアさんが俊敏で回避が上手くとも、ブレスをすべて避け切れる保証はない。それを可能にするには、ある程度の距離が必要だから。
咆哮と共に吐き出されたブレス、一気に間合いを詰める俺を焼き尽くそうという意思が込められたソレを、盾とスキル【不動要塞】で受け止める!
「以前より重い」
集束されて圧力を増したブレスは、以前以上の脅威で飛距離も伸びてるだろう。後ろにそらせば、
「お前もか」
インファントドラゴンも同じように、ブレスを吐き続けながら前に出て、さらに圧力が増す。
「とはいえ」
ブレスを吐き続けることは、流石にできない。圧が弱まりつつあるタイミングで、
「パーシアス!」
炎の影から死角を狙って飛んできた尻尾、普通の冒険者ならまともに貰っただろう一撃。
「備えあれば憂いなし」
俺の装備は、盾が
「邪魔だな」
弾いた尻尾を通りすがりに切り飛ばし、奴の武器を一つ潰す。以前より手応えがあるあたり、強度はどちらも増してたんだろうが、技術の差が出たな。そう考えつつしっかり観ていれば、奴は痛みに咆哮するもすぐさま迎撃体制を取って、再び響く轟音。
「お返しのつもりか?」
サイズを利用し、身体を斜めにしてのタックル。力比べになるも俺が動く気配がないからか、一瞬で奴は飛び退き、再びブレスを吐く。
「まだ遠い」
「やるなあ」
奴は再びタックルで俺を止め、間合いを離そうと飛び下がろうとしたが。
「けど」
二度もチャンスを逃しはしない。振り下ろした突起部が奴の肩に突き刺さり、飛び下がろうとした反動を利用して、奴の上へ飛び乗る。すでに盾は手放し、腰から引き抜いたのは、母さんの剣。
「終わりだ」
突き刺さった片手の武器で体勢を支え、奴の体に両足をつけた俺は、一息に剣を振り抜き。首を失った竜が崩れ落ちたのは、その直後だった。