私と同年代のLV2冒険者が姉さん以外にも誕生した。そんな噂を聞いた時、傍にいた姉さんがピクリと反応したのをよく覚えてる。
「ゼウス・ファミリアで祝いの席を設けるらしいの、折角だから冷やかしに行くつもりなのだけど?」
団長はそう言ったけど、年齢の近い冒険者が周りにいない私達に出会いの場をと考えてくれてるのはわかったし、それと同時に体調が良くなければ外出すらできない私にそういう場での楽しみを経験して欲しいんだろうとも感じた。
「……どうする?」
「体調もいいし、せっかくだから参加してみたいな」
姉さんは騒々しいのが嫌いだから、微妙な反応だったけど、私が行くならと参加を決めてくれた。まあ、気になってるのもあるんだろうけどね。そして馴染めない私に最初に話しかけてくれたのは。
「よう、はじめまして! 楽しんでるかい?」
「えっと?」
「ああ、悪い悪い。俺はゼウス・ファミリアのクラネルっていうんだ。君は?」
「ヘラ・ファミリアのメーテリアです」
凄い明るくて楽しそうにする人だなっていうのが第一印象で、そもそも男の人と話す機会に乏しかった私は、最初勢いに圧倒されてたの。
「喧しい奴だな、あっちの彼を少しは見習え」
「えー、それは酷くないか」
姉さんは、クラネルさんの賑やかさがどうしても合わないみたいで邪険にするんだけど、クラネルさんはまったく気にしない雰囲気で接してる。けど、こんな対応すら姉さんの行動としては珍しくて、私がいるから退出しづらいっていうのもあるんだろうけど、なにか面白くって笑みが溢れた。
「お、いいねえ。こういう時は楽しんだもん勝ちだ!」
「はあ、メーテリア、その男を甘やかすな。お前も調子に乗るんじゃない」
「くすくす」
そんな経験のないやり取りが続く中でも、今日の主役を疎かにするつもりはないようでクラネルさんは度々声をかけていたんだけど、いつのまにか団長と多分ゼウス・ファミリアの団長さんが口論を始めたの。
それに巻き込まれないようにクラネルさんが強めに呼びかけて歩み寄ってきたのは、金髪碧眼の凄い奇麗な男の子。さっきの口論内容からいえば、姉さんを追い抜いた最速ランクアップ記録を持つLV2冒険者で、今日の主役パーシアスさん。
色々と話してみた感じ、クラネルさんは楽しい感じで、パーシアスさんは真面目な感じかなあ。なんだかんだいって姉さんがパーシアスさんを気にしてるし、きっと強いんだろうね。
そんなことを思いながら、クラネルさんを含む近い年齢同士仲良くできればと、人付き合いの下手な姉さんをフォローしつつ楽しく会話をしてたんだけど、いきなり苦しくなって。
「ゴホゴホッ」
「メ―テリア!」
突然の発作で、咳き込み過ぎて涙が出る。滲んだ視界の中で見えたのは、必死な姉さんと心配そうなクラネルさんの顔。呼吸が苦しすぎて目を開けてられないし、周りの状況もまったくわからなくなった時、手の温かさと共に耳に届く落ち着いた声。
「
どれくらい経ったのか、時間感覚がおかしくなってよくわからないんだけど、ふっと体が軽くなる。
「あれ、急に楽になった?」
「ふー。効果、あったみたいだね」
「メーテリア!」
その途端、姉さんに抱き着かれてびっくりした。発作に苦しんでたはずなのに、今は調子の良かったさっきまでよりもっといい。急に回復した私は、その理由がまったくわからなくて。
「私、どうしちゃったの? いきなり良くなったんだけど……」
「パーシアスがな、魔法で治療してくれたんだ」
「パーシアスさんが、魔法で、治療……?」
視線の先に、団長と何か話してるパーシアスさんの姿を捕らえながら、姉さんの言葉を鸚鵡返しで呟いてみるけど、現実味がなさ過ぎて理解できない。だから、ただ尋ねるしかなくて。
「だって、今まで、誰も」
「だからこそ、他言無用よ。彼にも念を押されてるわ」
いつのまにか傍に来ていた団長の言葉。つまり、そこまでのありえないほど効果のある貴重な治癒魔法だということ。知られれば攫われて無理強いされたり、冒険者を続けられなくなるくらい治療に駆り出されるのは目に見えてる。
「アイツの魔法を見たのは初めてだが、そこまでだったか」
「たしか前衛よね? 加えて治癒魔法が使えるから最速なのかしら?」
「いや、アイツは自分に魔法を使ったことはないはずだぞ。そもそもまともに攻撃をもらって鎧に傷をつけたモンスターなんか、今のところいないから必要ない」
「なに?」
「嘘……」
ゼウス・ファミリアの団長さん、マキシムさんの話によるとパーシアスさんは盾を持った戦士で、どれだけ盾が傷だらけになっても自分自身は傷を負ったことがないそうだ。そんなことが本当にできるのかなって思ったんだけど、そうなれるような努力と準備をずっと続けて比較的安全に潜ってるんだって。魔法だって、ダンジョンで救援を繰り返してたら発現したらしく、人を癒す手段をポーション以外に欲したのが理由なんだとか。
「それほどなのね。人柄は真面目そうだし、魔法と能力も素晴らしいなんて惜しいことをしたわ。想像以上に奇麗な子だし、今からでも改宗しないかしら?」
「アイツは、よほどの理由がない限りウチを出ていかないだろうよ」
「どうして、そういいきれるの?」
「家族を捨てるような人間じゃないからさ」
そういったマキシムさんは、自分のことのように誇らしげで。それを聞いた団長も納得したのか、優し気な笑顔を浮かべて続ける。
「本当に逃がした魚は大きかったわ、傍に置いておきたかったのだけどね。そう思わない?」
私の頭を撫でながら訊ねられたから、自分に置き換えて考えてみる。
「うーん、女の人ばっかりだと居心地悪いかもしれませんよ?」
「ああ、それでむさ苦しいマキシムのところなのね」
「そんな理由じゃないと思うが。まあ、最初に出会ったんだ、運命ってやつかもな」
運命。もしもそんなものがあるなら、同じ時期に現れた
「あれ? そういえば姉さんは?」
「貴女の体調という心配事を一時的かもしれないけど解決した人間がいて、それが無自覚にでも意識していた相手。礼をいうって目的もあるなら」
「責任感の強い姉さんが動かないわけないかな」
そう納得した私は、姉さんの邪魔をしないように。そして、せっかくだし盛り上がっている皆に混ざって、私の回復という理由の増えたお祝いの席を楽しむことにした。私にも気になってる人はいるし、ね?
◇◆◇
不治の病だといわれていた私に治療法があるって判明したあの日から、パーシアスさんは経過観察込みで週に一回、クラネルさんは特に理由なく週に二回くらい会いに来てくれる。
姉さんは、クラネルさんの賑やかな楽しさが合わないみたいで、それを察したクラネルさんはどうやってか姉さんの不在を狙って会いに来るっていう離れ業をやってのけた。まあ、さすがに必ずとはいかないらしくて、たまに出会っては追い払われてるから、週に三回くらい来てる感じなんだと思う。
「それでね、どう考えても姉さんはパーシアスさんを気にしてるのに、無自覚なのかまったく行動しないの!」
「へー、そうなんだ。まあ真面目で普段は物静かなパーシアスと、騒がしいのが苦手なアルフィアさんなら相性は悪くない、のか?」
クラネルさんの言葉に頷き、どうにかならないものかと考えてみるけど、妙案は浮かばない。
「なんとか二人で行動させる方法ってないかなあ」
「二人でねえ……。強いていえば、パーシアスはソロでダンジョンの13層あたりに潜ってるから、そこに同行するとか?」
「一人で中層に行ってるの? 危なくない?」
そもそもダンジョンって一人で潜るものなのか、私にはよくわからない。うちのファミリアでは、誰か彼か姉さんと一緒に行動してるって聞いてたし。
「パーシアスは、
「姉さんは才能の塊らしいけど、パーシアスさんも別の意味で凄いんだね」
これは、いよいよもって運命というものでは?
「まあ、そうはいってもずっと一人って訳にはいかないさ。階層を下るほど通路が広くなるし、モンスターは強くなるくせに群れるようにもなる。どう頑張っても一人の壁にぶつかるから「それだー!」うお、びっくりしたあ」
姉さんは攻撃魔法を得意とする魔導士、パーシアスさんは盾による守りを得意とする戦士。こんな理想的組み合わせもないはず!
「えっとね、姉さんは攻撃魔法が得意な魔導士なんだって。広範囲魔法も使えるし、近接戦闘すら熟せるって団長が褒めてたよ」
「魔法のエキスパートで自衛すらできるとか、アルフィアさん、マジでやべーな。で、パーシアスに必要なのは後衛だから」
私達は、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。どこかのタイミングで二人にパーティーを組む必要性を伝え、パーシアスさんには理想の後衛として姉さんの能力を挙げて、姉さんにはパーシアスさんの人柄とか能力を教えて気を引くというマッチポンプを仕掛けるために。
◇◆◇
機会を伺うまでもなく、クラネルさん・パーシアスさん・鍛冶師の人という三人パーティーで、鉱石採掘に潜る予定ができたらしい。その時、クラネルさんは鍛冶師の人を巻き込んで、姉さんの能力を理想の後衛として猛プッシュ。
私の方は、本心もあるけどそれ以上にパーシアスさんへの感謝を伝えまくり、クラネルさんから聞いた体でざっくりした能力と人柄も併せて姉さんの耳へ届くように手を回した結果。
「団長に聞いたんだけど、一度二人で潜ることになったそうだ」
「無欲そうだし、パーシアスさんからじゃないよね。きっと、姉さんがお礼したいとか何とかいったんだと思うな」
うんうんと二人揃って頷く。姉さんには、私のせいで苦労させっぱなしだから、少しでも幸せになる手伝いがしたい。ファミリアに入って頼る相手が一応できたけど、姉さんは自立してる方だから、無条件にっていうのは経験上凄く難しいと思うんだよね。
そこに現れた能力的に対等かもしれない同年代の相手で、無条件に私を治療してくれるような慈愛の人。しかも、姉さん自身がなんだかんだと気にしてるんだから、上手くいけば寄り添う相手になるんじゃないかって思ってもおかしくないでしょ?
「俺、団長に誘われてんだよ」
「尾行するってこと?」
「そうそう」
「悪趣味だねえ、気になるけど。私も行きたかったなー」
またしても悪だくみ。最近、これはこれでなかなかと私も楽しんでる。体調がいいからそんな余裕が生まれてるんだろうけど、こんな日が来るなんて思ってなかったな。
「メ―テリアの分まで俺が見てくるさ、報告を楽しみにな?」
「はいはい、病人は大人しくしてますよーだ」
そんなやり取りをした私達は、二人して大笑い。これも幸せの形なんだって初めて知った私は、今ある普通の有難みを噛み締めていた。