ランクアップと眷属になって一周年を祝ったあの日から、週に一回程度、メーテリアさんの治療に伺ってる。さすがに女性の部屋へ一人で伺うのもまずいだろうと、アルフィアさんに迎えに来てもらって案内される形だ。
「メーテリアの体調だが、極端に崩すことはなくなった」
「それは朗報ですね」
「ああ、本当にな」
それ以降、特に会話らしい会話は無く、かといって居心地が悪いわけでもない。アルフィアさんと何度か会って分かったのは、騒がしいのが本当に嫌いで、それはたまに見かけるクラネルさんの賑やかさに苛立つ様子からも伺えた。俺は静かなのも特別嫌いじゃないし、嫌な相手の前で態々騒々しくする必要もないと思うから、沈黙を守りながらついていく。
そんなこんなでメーテリアさんの部屋に辿り着き、アルフィアさんがノックする。
「私だ。パーシアスが治療に来てくれたぞ」
「どうぞ!」
そういってドアを開けたメーテリアさんの血色は良く、聞いていた通り体調に問題はなさそうに見える。
「失礼します。早速ですけど、どんな感じですか?」
「発作は、ほぼなくなって、たまになってもすぐ収まるの」
「ああ、本当に驚くほど改善してる」
俺は頷きつつ考える。発作はあるけど頻度は激減し、なっても軽度で復調する。つまり病自体は治ってないけど単純に進行が停滞してるか、身体が抵抗できる状態になりつつあるのか。この治療頻度にしたのは、その辺を確認する目的があったんだけど、間違いじゃなかったってことだ。
「じゃあ、今日の治療を済ませてから話しましょうか」
「お願いします」
まずはメーテリアさんの手を取って、【拒む者】の対象を病に限定。
「
何度か治療した経験から、根本的に代償が足りてないのはわかりきってる。けど、今できるのは、少しでも精神力を増やすことだけだ。相変わらずキツイ抵抗を自前の精神力に加えて、今回はマナポーションで補充しながら突破。
「ふー、どうですか?」
「なんかね、スーッとした感じよ。前までなかった体に力が入る感じというか」
「効果は出ているから安心していい。治療を受けるたびに必ずなにかしら改善してる」
万全の状態であれば体力で病と戦えるけど、その体力が十分育つ前に病を患えば、それも難しくなる。神の恩恵を受けて病に抗おうとした話は珍しくないから、メーテリアさんもその口なんだと思うけど、徐々に進行していたのはまず間違いないはずだ。その辺を確認するかな。
「一週間ごとに治療してたのは、魔法の効果がない状態でどうなるか確認して、頻度や対応を考えるためだったんだけど、少なくても病の進行はほぼ止まったと思っていいかな?」
「うん、そうだと思う。せっかく体調が良くなっても魔法が切れたらってちょっと怖かったけど、今は発作に怯えない生活ができてるし」
「たしかにな。たまに発作は起きるが、以前のように長引きはしない」
お互いに頷き、共通認識はとれた。そして、今の状態ならば。
「専門家じゃないので俺の感覚的な話になるんですが、俺の治療だけなら完治は遠いです。ただし、少しでも早める方法はある」
「それは?」
「
「そうすれば自然と体が病に抵抗して、完治へ近づくと?」
アルフィアさんの言葉に頷くと、何をするかも伝えないと困るだろうから例を挙げておく。
「最初は、普通の生活でいいと思うんです。慣れたら散歩、駆け足、持久走と徐々に強度を上げて体力増強に努める。将来的には……」
「ダンジョンで経験値を得て、ステイタスを上げる、か。しかし、戦闘は……」
アルフィアさんはメーテリアさんに戦わせたくないようだけど、それを決めるのはメーテリアさんだし、本気で治したいなら何かに取り組むのは必須だ。それに俺は案を提示しただけで、するしないは本人次第。
「今すぐダンジョンへって話でもないし、自分のためだから、無理せず頑張ってみるね」
そういったメーテリアさんは気負いのない優しい笑顔で。
「そうだな、体力はあって困る物でもない」
俺は勿論のこと、将来はともかく今は体力作りだからか、アルフィアさんも反対せずに笑顔で頷いた。
◇◆◇
部屋を出ると、アルフィアさんも一緒についてきて、遠慮気味に話しかけられた。
「……大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
笑顔で返すも納得はしていないようで、さらに追及される。
「あの魔法、相当精神力を消費するようだな。まさかマナポーションを口にしてまでとは」
「不治の病とやらが手強くて、未熟な俺の精神力だと若干厳しいのは事実ですが、心配ありませんよ」
魔法を使う時、普通は自前の精神力以上を要求されないのが当たり前で、されたところで供給できないから当然の話だ。しかし、それを覆す行為を見れば、誰でも気になるだろう。
「……礼がしたい」
「見返りが欲しくて治療してるわけではないので」
「そうはいうがな、本当に感謝してるんだ。なにか私にできることはないのか?」
なにかといわれても、欲しい装備はクーリエさんが準備してくれてるし。あとは……、人を紹介してもらう、とか?
「欲しい物は無いんですが、人を紹介してもらえると助かりますね」
「どういう意味だ?」
そこで、先日クーリエさんとクラネルさんから聞いた話、後衛の件について伝えてみることにした。
「先日、鉱石採掘のためにパーティーを組んで13層まで潜ったんですが、その時の話題で、今後俺に必要となるのは後衛だって話になったんです。俺は前衛ですからね、一人で対処できないケースを考えれば、広範囲魔法を使える方がいいだろうとのアドバイスをもらいました」
さすがに自衛できる後衛とまでは伝えない。そもそも後衛の意味を考えればわかるけど、それができたら前衛の魔法剣士になってるはずだから。
「なるほどな。ずっと一人で潜っていたのか?」
「一人じゃなかったのは、その一回だけですね。14層まで潜っていて、今は装備を更新してる最中なので、そこから下に降りるのはまだ先なんですが」
俺の答えを聞いて、アルフィアさんはなにやら思案している。
「心当たりはあるが……。希望を聞いておいてなんだが、潜る時、一度同行させてもらいたい」
「紹介するにしても見極めが必要ということですね、わかりました」
「ああ、では気をつけてな」
「はい、それでは」
そんな会話をしたのち別れ、俺は休養のためにホームへと戻ったのだった。
◇◆◇
いつものようにいつもの如く、クーリエさんから呼び出しを受けた俺は工房を訪れて早々、見事な装備に見惚れていた。以前のくすんだ鋼色も趣があって良かったけど……。
「すっごい輝いてませんか?」
「重量バランスとるなら、メインのブレストプレートを交換するのが最適だと思って、中層素材製一号にしたんだよね。なんかやたら輝いたけど」
そういう問題なんだろうか。いや、交換部分は納得だけど、この輝きは技術の証なんじゃないだろうか。そんな話をしてたし。
「とりあえず交換しようか」
即されて装備してきた上層素材のブレストプレートを外す。
「そういえば俺、最初は知らなかったんですよね。全身鎧って、アンダーが必須だって」
よくよく考えればわかる話なんだけど、アンダー無しで装備したら、火炎で炙られれば熱で延々と火傷するし、冷気に晒されれば凍傷や装備が肌に張り付いて大変なことになる。だから母さんの装備も部分鎧だったけど、アンダーは
「まあね。そもそも僕の装備は、分割する都合上、アンダーに
そう、これもまた特殊。アンダーはわかるけどミドルが必要なのは、その構造によるもので。
「単純に分割すると隙間ができて、防御力でプレートメイルに劣るんですよね?」
「うん、腹部はブレストプレートやウエストアーマーの内側にして、隙間を簡単に貫通されないようにそれぞれの末端を半球状に加工。それが繋がるようにしてるし、稼働の邪魔にならない範囲で上下にも長めにしてある。長さ・幅や角度を調整すれば成長に合わるのも余裕だからね」
攻撃を逃がす形状にもなってるし、構造上まずないだろうだけど、仮にジョイント部が破壊されてもレザーとチェインで備えてあるという万全の装備。しかもジョイントと重なる部分には、チェインメイル側にもしっかり装甲をつけてある辺り抜かりはない。
「ジョイント部分は、本体以上に頑丈にしてあるんでしたよね」
「勿論だよ。分割して弱くなるなら、可動域を多少犠牲にしても分割しない方がいい。なんの対策もしないなんて鍛冶師じゃないからね」
鍛冶師としてのプライド。冒険者を色々な意味で護るための対策。それを考えるのはクーリエさんにとって当たり前でも、全員が全員そうだとは俺には言い切れない。だからこそ、クーリエさんに出会えてよかったと心から思う。
装備したままの腹部に新しいブレストプレートを上から繋いで左右をロック。捻ったり反ったり屈んでみるも行動を阻害することはなかった。
「いい感じです」
「一回潜った後にまた来てよ、擦れた部分を見れば調整も改良もできるからさ」
いつものようにサムズアップしたクーリエさんは笑顔で、俺も笑顔を返したのはいうまでもなかった。
◇◆◇
<鎧について>
一般的なプレートメイルにも二種類あり、一体型と胴部&腰部分割型が実在します。
一体型は隙間を突かれる心配はありませんが、一切調整ができず、腹部の稼動不可。
分割型は隙間が出来にくいように腰部の上に胴部が重なる構造で、部分交換可能。腹部の稼動可。
クーリエさんは、部分交換や調整が可能で、可動域をさらに増やすために三分割型を採用。
胸と腰より内側に腹部を装備し、腹部の末端に返しを設けて隙間からの侵入を難み、尚且つ鎧同士を繋ぐことでより一層の安全性を担保する構造としました。
さらにアンダー&ミドルアーマーを重ね着して、二重三重の防御対策と環境からの身体保護を兼ねています。
ちなみに部分鎧で、日本の足軽が腹部だけの腹巻を装備していましたし、胴だけ腰だけも実在しているのはご存知の通りで、それ以上に分割・重ね着されているのが日本の武将の甲冑。
防具は使う相手に合わせ、お国柄や身分・役割に応じた数だけ、さまざまな工夫を凝らしたものが実在するので、職人の凄さを実感できて面白いと個人的には思っています。