冒険者が自分を鍛えるのは、武具を造る鍛冶師にとても似てる。
鍛冶師は、素材を選び、組み合わせてベースを決める。それらを入れた炉を炎で熱して溶かし、精錬した金属の地金を作る。その後、地金を打ち鍛えては冷やしてを繰り返し、鍛冶師の望む姿になるか、妥協するまで作業は続く。
冒険者は、身体と武具という素材を組み合わせて備える。ダンジョンという炉でモンスターという炎に抗い、心技体を鍛えては、
「あの頃は、ダメダメだったなあ」
上層素材だから認められる武具にならない。
発展アビリティの【鍛冶】がないからに違いない。
自分に言い訳して、技術は負けてないと思いあがっていた数年前の僕は、中層素材を自力で集めるために戦闘能力を鍛えた時期がある。
パーシアスに戦闘はわからないといったけど、知るべきことを知らないで造った武具なんか一流の鍛冶師と冒険者の求めるレベルになりえないでしょ?
だから、素材収集と同時に武器の使い勝手と戦闘方法をより深く知ろうとして、色々使いながらダンジョンに潜った経験が僕にはあるんだ。まあ、僕自身の武器は、結局使い慣れた槌に近いウォーハンマーに落ち着いたけどね。
「一応、自力で中層素材を集められる程度にはなったけど……」
手に入り易いのもあって、ある程度技術が確立されてるから比較的扱いやすい上層素材に対して、中層素材の難易度は、その時の僕にとって予想以上に高かったんだ。
軽くできたと思った。スカスカで脆くなった。
硬くできたと思った。柔軟性を失って耐久力が激減した。
「自分の技術に自信が持てなくなってさ」
だから、扱える上層素材で作る武具に性能を求めた。脆さを克服して軽くする方法を。柔軟性を維持して耐久力を増す方法を。そのどちらも小手先の技術じゃなく鍛造を突き詰めるしかない。
素材を、火入れを、鍛え方を、焼き入れを。それ以外も含めて多くを知り、識ることに時間を費やして鍛えた一片の板は、軽くて柔軟性に富み、耐久力も高かった。
「それでも、特筆するほどの性能には至らなかったんだよね」
売れない、好まれない。その技術で作った武具は、素材と労力から設定した値段が高く、その割には他の鍛冶師の作品と
「だから、個性を求めた。僕だけの特筆すべき個性を」
鍛造技術を突き詰める中で、軽さを失う代わりに強度と耐久性・柔軟性の向上を促す方法を得ていた僕は、それを唯一無二の個性に高めると決めた。この方法だと、量が手に入り易い上層素材でも重さに目を瞑れば一気に性能が向上するからね。
そうして作り上げたのが、パーシアスが最初に装備した武具達。重さと価格に尻込みした冒険者には敬遠されたけど、その重さこそ必要だと言われた僕の驚きなんて、きっと誰にも理解できないと思うよ。
そして驚きが喜びになった。だから、修繕や鍛え直しを喜んで行える。
喜びが情熱になった。だから、細かな調整は僕の仕事で、手を抜くなんてありえない。
情熱は武具という成果になった。鍛造過程で新しい技術を生み出し、不足を埋めるのは鍛冶師として当たり前だから。
うん、勿論認めるよ。この出会いは、これまでの僕の人生で最大級の奇跡だったんだ。
「だからこそ僕も負けられない」
パーシアスは間違いなく強い冒険者になる。中層だってすぐに到達するはずだと思っていた。なら、彼の武具すべてを担当する僕も足踏みしてちゃだめだ。
今の僕に驕りはない。あるのは情熱と高め続けてきた技術だけ。真摯に素材と向き合い、上層素材を使用した時と同じように、中層素材を使った一片を無心で作り上げた。
「結果は最上、あの挫折は必要な工程だったんだね」
他の冒険者はわからないけど、パーシアスは僕の武具を本当の意味で必要としてくれる。挫折が無ければ絶対に至らなかった今の技術と、あの出会いに感謝して、僕は常に最高の武具を君のために用意するよ。
「これが鍛冶師冥利に尽きるってやつかもね」
さあ、中層素材を使ってパーシアスの望む重量武具を拵えよう。この奇跡に最大級の感謝をしながら、彼を失わないように、守ってくれますようにと願いを込めて。
◇◆◇
パーシアスの装備は、僕の個性を生かせるような工夫がいくつも凝らしてある。
例えば、腕装備。前腕と上腕を別々にしてあるのは、なにも二の腕の成長に配慮しただけじゃない。部位ごとに調整可能なのはもちろん、部分交換で性能に違いを設けることも可能。当然、冒険者が望むところを交換できるんだから、費用を抑えて更新することもできるというわけ。
そして最も手間がかかってるのが胴装備。普通のプレートメイルだと一体型だから動かないけど、胸・腹・腰に分割されていて反ったり屈んだりできるんだ。
「今回は重量の足りてない胴体のうち、最も守るべき胸部のブレストプレートだね」
素材使用量、最多部位。形状加工難易度も、頭部を除けば最高。
「やりがいがあるよねえ」
高品質の鉱石を選別して、鍛冶窯で熱せられた炉に投入。そうやって精錬した金属で地金を作り、事前準備は終わってる。
窯に複数の地金を時間差で入れ、焼いて温度が上がった順に取り出してはハンマーで叩き、冷え切る前に窯に戻す。それを延々と繰り返して不純物を焼き尽くし、
「さて、しっかり温度管理しながら重ね打ちしてギュッと圧縮だ」
二本を重ねて打ち、薄く延ばしては曲げてを繰り返し、一本に。さらに一本加えて、同じように繰り返し。さらに一本加えてを延々と繰り返す。
「前側の素材が完成だ」
素材を作るだけで、普通の鍛造なんか目じゃないぐらい手間がかかるけど、こうすることでギュッと詰め込まれて密度が増す。重く、硬く、それでいて柔軟性を失っていない金属が生まれるんだ。
◇◆◇
地金の精製、地金の圧縮鍛造。その二工程で、普通の武具を造れるだけの時間すら余裕で上回ってる。そして、ここまでは休む時間を挟むことができたけど、以降は完成まで打ち続けないと駄目。
「体形は把握してるけど、成長尤度を多少持たせないとね」
日を改め、心身共に万全な状態で臨む。鍛冶窯で熱した一本の圧縮鍛造地金を、叩き伸ばして望む形状へ鍛え導くために。
一打一打に想いを込める。
「使い手を守り給え」
一伸毎に祈りを捧げる。
「使い手を護り給え」
一曲毎に願いを込める。
「使い手に幸あれ」
繰り返し、繰り返し。ただひたすらに繰り返し続け。
「ふー、ブレストプレートの前部、完成だ」
いつから止めていたのか覚えてないけど、深く息を吸い込んで呼吸を落ち着けながら出来栄えを確認する。
「……過去最高の出来じゃないかな、これ」
上層素材では表面が鈍く輝いていたけれど、中層素材を用いたこのブレストプレートには曇り一つない。素材の違いを理解して特性を引き出せれば、圧倒的性能を生み出せるというのは間違いじゃないみたいだ。
「ま、心に迷いがなくなったから、武具の曇りも晴れたってことにしておこう」
ありがとう、パーシアス。ここまで来れたのは、君との出会いがあってこそなんだ。
僕は二度と慢心しない。常に自分と向き合って、いつか手にするだろう下層素材や希少素材を扱えるように研鑽も怠らないよ、だからさ。
「これからもよろしくね」
ブレストプレートに映る僕は笑顔で、自分でも見たことがないほどに満足気だった。