マキシムが連れてきた若干9才の少年、パーシアス。ホームに滞在した三日間でどんな思いに駆られたのかまではわからないのだが、儂の眷属となることを選び、冒険者として歩みだしたのは一年前のこと。
彼はとにかく慎重で堅実だった。数多の冒険者を見てきた儂が、目指す自分へ至るのに必要な筋道を立ててダンジョンに挑んだ冒険者を彼しか知らないといえば、どれだけ特異な存在か伝わるだろうか。
そうなった理由が、過去の悲劇に起因するのか、冒険者だった母親の教育の賜物か、それとも少年自身の考えによるものか。もしくは、そのすべてか。
どちらにせよ、年齢にそぐわないあまりにも出来過ぎた人格。歪みを抱えているのは間違いなく、儂らは
それが功を奏したのか、出会った人々から良い影響を受けたのか。人間関係を構築し、次第に周りを頼るようになったのは喜ばしいことであろう。
「それでも随分と大人びておるのに違いは無いが」
そして、恐ろしいほどの執着。彼は、守ることに強く拘っておる。おそらく母親を守れなかった後悔に起因しておるのだろう。オラリオで出会った少女達への対応や、ダンジョンで遭遇した冒険者達との関わり方が、拘りの強さを証明している。勿論、生来の優しさや思いやりからくる行動でもあるわけで。
「彼のお陰で、ファミリアへの風当たりがいくらか和らいでおる」
少女達と何度も屋台で交流し、市民に好感を持たれた。数えきれないほどに膨れ上がった人数の冒険者をダンジョンで救援し、獲物を奪うことなく、最終的には上層最大の危機さえ退けて見せた。
あれだけ普段は五月蠅いピラミッド大好き同盟の神々ですら、パーシアスを悪くいうことだけはない。なんせここ一年間の下級冒険者でパーシアスの世話になっていない者を探す方が、今のオラリオでは難しいぐらいなのだ。当然、眷属から話を聞く機会もあれば、ホーム内外で噂を耳にすることもあろうというもの。
朝から夕方なら、いつダンジョンに潜っても上層にいることから上層の主と呼ばれ、対価を求めず救援することから上層最高の冒険者と敬われる。
「そして今は、中層の
自然と良い意味での通称が生まれるのは、荒くれ者の多い冒険者にとって非常に珍しい。となれば今回の
「そう心配しなくとも妙な二つ名はつかんじゃろうが、頑張るとするかの」
そう意気込んでマキシムを呼び出した儂は、
◇◆◇
「あんなできた子供を、お前の眷属にしておくのは問題じゃないか?」
早速絡んできたのはオシリスか。
「選んだのはあの子じゃ、儂らは無理強いしてはおらんよ」
「そういうこといってるんじゃないんだよねー。確かに強くて優しい子みたいだけどさ、だからってあんな小さな子を一人でっていうのは違うと思うなー」
今度はハトホルかの。まあ、ハトホルの眷属はLV1~2が多い分、パーシアスに接する機会も多いのだろう。一言いいたくなる気持ちもわからんではない。
「あいつは、神の恩恵を受ける前にうちの新人を下してみせたんだぜ?」
ざわりと周囲が騒がしくなる。あれはなかなかに衝撃的だったとマキシムが語る一戦。練武場という隔離された場所での出来事ゆえ、外にはほとんど知られていないからの。
「亡くなった母親がLV2冒険者だったらしくての、備えは十分じゃった。そして、自分の意志で必要となるまで一人を選んだ勇者。儂はその意思を尊重したにすぎんよ」
「そういう問題か?」
「そういう問題じゃ」
平行線だの。すべてとはいわないが内面と実力を知る儂らと、眷属からの話や噂程度の知見では印象が大きく変わる。よって受け取り方や扱いに差が出るのは致し方ないことなのだから、苦言は甘んじて受け入れるが、パーシアスの対応を変える気はない。
「まあ、今はそれでいいさ。だが、いつまでもデカい顔してられると思わないことだ」
「いやいや、穏便に済まそうよ、オシリスー。じゃあ、後でねー」
そういうとオシリスとハトホルは連れ立って場を離れ、ピラミッド大好き同盟の残る二神の元へと歩いていく。
「先が思いやられるな、狙われてるぜ?」
「そういうことだろうの。その時は頼んだぞ」
「任せろ、伊達に最強を名乗ってねえところを見せてやるぜ」
まったく頼りになる男だの、そう思いながらオシリス達の同盟勢力について考える。彼らとは鎬を削る関係になってしまっておるが、これもまた場合によっては必要なことだろう。そう思いつつも気が重い儂は、溜息をつきつつ席へと向かうのだった。
◇◆◇
さて、始まるか。まずは空気を読んで黙すことにしようかの。
「俺がガネーシャだ! ここ一年、ダンジョン上層での死亡率が激減してる。ゼウス・ファミリアのパーシアス少年には感謝だな!」
ウラノスから任され、ギルドと共にオラリオの治安維持を担っているガネーシャにとって、ダンジョン上層という経験不足による死亡率が高いエリアは、悩みの種でありながらも人を配置するのは難しいからの。本来は冒険者自身で乗り越えるべき壁であり、乗り越える前に運よく先へ進んでしまっても結局死が待つのみで自己責任の世界であるし。
「うちの子達もずいぶん助けて貰ってるみたいだしねー、今までにないタイプだよね?」
「儂の記憶にはないの」
ワイワイガヤガヤといつも通り騒々しくなる。
「彼に救われ、もしくはその姿を見て引き返し、鍛え直すことで先へと進めた者も多数いると聞く。今までとは違うやり方だが、このランクの冒険者一人の行いから出た結果としては十分な偉業といえよう」
セトか。どうも本格的に狙われておるようじゃの、話を変えるか。
「同じ時期に
「うちのオッタルは、まだまだよ。他人に目を向ける余裕なんてないわ。けど、その分必死さが伝わってきて可愛いものよ」
美の女神フレイヤ。可哀そうにの、見染められたか、魅了されたのか。どちらにしても健闘を祈るよりほかないが。
「アルフィアは、天才という言葉で収まらない稀代の才能を有しているわ。見ただけで技能を模倣して行使できるのよ。まあ、その技能のレベルが高すぎて身体がついていかないことも多いようだけど、上手く自分に落とし込んでる。そもそもアルフィアは魔導士、近接戦闘技能は魔法を使うための補助といった扱いになっているわね」
ヘラは珍しく機嫌がいい。何かいいことが……、あったな。眷属の病に回復手段を見出せたなら、なんだかんだと情の深いヘラが喜ばないわけがない。
「今日は、そのパーシアス少年とアルフィア嬢の二つ名を決める場でもある。特にネタが無ければ話を移すが?」
「「「「「さんせーい」」」」」
相変わらずうるさいのお。それはさておき、正念場じゃの。
「いつも盾を背負ってるらしいね、
「センスねーな! 重装鎧でうろついてるから
まあ、盾亀よりは彷徨う鎧の方がマシじゃが、五十歩百歩だの。
「うーん、金髪で小さくて盾を背負ってるんでしょ?
「なーんかさ、いつもよりつまらない二つ名ばっかりじゃん?」
「そういうこと言ってると自分の子らも弄られるで?」
ええい、余計なことを! 焚きつけるではない! それにしてもロキは珍しくフォローしてるの、なにが目的だ?
「あら、珍しいじゃない。貴方がそんなこというのね」
「うちの子らもな? インファントドラゴン戦の止めチョイ前から見てたんやけど、相当凄かったらしいんや。もうチョイいい二つ名あげんと可哀想やろ、なあ?」
近年、ファミリアを立ち上げてロキが積極的に活動するようになったのは、三人の眷属を得てから。彼らの今後も考えれば、フォローするかもしれんが……。眷属から嘆願でもあったか?
「例えば、
「いいんじゃないかなー、そのまんまだし」
「まあ、無難なところだが同意する」
「そんなところね」
これは決まったか?
「では、パーシアス少年の二つ名は、
「「「「「異議ナーシ!」」」」」
パーシアスの普段の行いが、無難な二つ名を得る最大要因だの。儂も胸を張って帰れる。
ちなみにアルフィア嬢の二つ名で遊ぼうと思った神はいなかった。ヘラが怖すぎて、蛇に睨まれた蛙になるだけだから、というのが理由での。まあ、誰も送還されたくない、そういうことじゃ。