ほぼ毎日、朝から夕方まで潜れる限り潜り、経験値の獲得と戦闘技能を鍛える。日に何度もギルドとダンジョンを往復することで体力や持久力をも鍛えるパーシアスの鍛錬は、安全に配慮したうえで行える冒険者に可能な最大限といえるものだった。
ダンジョン攻略に様々な準備段階を踏んではいるが、次の段階に移るまでステイタスを更新せずわざと据え置き、装備をひたすら重く頑丈にして身体能力と技能向上の一助とするという方法も前代未聞。
それをひたすら繰り返し、可能な限りの装備と身体能力・技能を確保してから、階層に見合ったステイタスまで上げた後に進んでいく。そんな妥協のない工夫の凝らされた鍛錬を繰り返す日々。
ダンジョンでは幾度も幾度も、何人も何人も助け、護り、送り届ければ上層における主とみなされるのも道理。
気が付けば、そんな生き様を反映したような魔法やスキルがランクアップせずに発現し、ついには12層に到達。そうなればランクアップに焦るのが一般的なのだが、まったく焦ることなく淡々と修練を続ける姿に儂は一度問うたことがある。
「中層に潜れぬ現状に焦りはないのかの?」
「ありません。ランクを上げられなかった時に後悔するから、アビリティを極めるまでは特別な理由がない限りランクアップすべきじゃない。そう母さんが教えてくれましたから」
それにといって、パーシアスは自分の考えを告げる。
「ランクアップしない時期だからこそできる鍛錬もあります。時間があるからこそ準備できる装備があります。俺がランクアップに相応しくなったら、試練から勝手に寄ってきますよ。だから、最大限の準備を行いながら日々鍛え続けるだけです」
そして、パーシアスの言葉通り、試練は訪れる。それも上層で考えうる最悪の相手として。
「爺、インファントドラゴンが出たらしい、しかも強化種だ」
足の速さが幸いしたのか、九死に一生を得て逃げ帰った冒険者からギルドに報告があったらしい。それを人伝に聞いたマキシムは儂に告げた後、12層に潜ってるパーシアスを心配し、パーシアスと面識のあるザルドとクラネルを連れてダンジョンに向かったのだった。
◇◆◇
緋色の竜、インファントドラゴン。上層最強の存在。稀にしか出現しない竜は、上層最高の冒険者と称されるに至ったパーシアスの前に、茜色の強化種として現れた。
最初から対峙した訳ではない。たまたま遭遇した冒険者が荷物を捨てて逃げ出し、それを取り込んだ竜はより強い存在へと昇華してしまったのだ。
ランクアップのために試練を欲した冒険者達が協力を拒絶して、同じファミリア同士組んで挑むも時間を稼ぐ程度で次々敗走し、それを追いつつ放置された魔石を取り込んでさらに強く大きくなる竜の歩みは、並みの上層冒険者では止められない。救いは、竜が何を思ったかインプやオークなどの取り巻きを一切呼ばなかったことだけであろう。
そして、12層入口前の竜にとっては狭い通路で対峙したのが、逃亡する冒険者を癒していたパーシアスであった。
「これ以上先には進ませないよ、俺がいる限りはね」
慌てて逃げるも11層との境界で転倒して腰を抜かし、見ることしかできなかった女性冒険者。彼女を護るためにパーシアスは立ちはだかったらしく、一言一句、一挙一動忘れられないと女性冒険者が語った戦いが始まる。
竜が咆哮し、炎を噴く。盾を構えようともそれを大きく上回る火勢に彼女は死んだと思ったそうだが、炎は何かに遮られ、パーシアスは一歩も下がることなく受け止めた。
盾の守備範囲を拡大し、ノックバックを無効化するスキル【不動要塞】を発動したのであろう。
本来であれば、炎を防いだとしても装備が痛むし、回った炎で焼かれる。しかし、そうはならなかった。【
「はじめようか」
瞬間、滑り込んだパーシアスの姿は竜の下にあり、右前足を武器の突起部で痛打。穿たれた痛みにバランスを崩しかけた竜が耐えたのが仇とななった。伸びた膝、
「稼働部である以上、関節は弱点。次に狙うのは」
バックステップで位置を調整しながら旋回しつつ穿ったのは目。竜が絶叫し、暴れまわるが、盾を構えるパーシアスの体勢は崩れることなく。
「火を吹かれたり、動き回られると面倒だね」
振りかぶった武器の突起部が口を上から貫き、頭部を無理矢理地面に縫い付ける。そして、重量武器を手放し抜き放ったのは、黒い刀身を持つ
「過去を束ねた
その瞬間、閃く黒剣は光の軌跡を残し、堅牢な鱗に覆われ頑強なはずの竜の首を容易く両断したのだった。
◇◆◇
「アイツ、やりやがったぜ。竜殺しを一人でだ」
そう話すマキシムは、頭を縫いつける直前から目撃していたらしく、酷く興奮気味だったの。
鍛えに鍛えた技量、積み上げたステイタス、更新し続け上層の性能限界も見えてきた装備。そして、聞いたところ今まで一度も使うことのなかった
「しかもだ。アイツ、もしかしたらアレができるようになるかもな」
「なにを為すというのかの?」
「残光だ。習得への道を歩みだしたかもしれねえ現象を見たのさ。形見の剣を見せて貰ったが、それだけであそこまで鋭利に抵抗なく斬れるもんじゃない」
「だが、実際に切って見せた」
「ああ」
残光。距離を殺し、すべてを絶つといわれる剣士の絶技。使い手は過去に実在したといわれており、大英雄アルバートが黒竜の目を奪った技ともいわれているが、証明できるものはいない。
「インファントドラゴン程度、十分なステイタスと装備を整えた冒険者であれば倒せんだよ。だがな、俺は見たんだ。あの黒剣が確かに光ったのをよ。現実として切れ味が上がった以上、あの光に何かあるのは間違いねえ」
「なるほどの」
三大クエストは過酷を極めるだろう。だからこそ勝因は一つでも多い方がいい、それが伝説上の絶技であろうと別の何かであろうと構わぬのだ。
「特別扱いはできぬが、手助けぐらいはしてやりたいの」
「中層に潜るようになったら、クラネルをつけるってのはどうだ? パーシアスの体力的には、もう問題ねえだろ。それより鍛錬時間がもったいねえ」
ランクアップ可能となっても、先の発言からしてアビリティに納得するまでは行わないだろう。そうなると鍛錬時間は多い方がいい。
「なるほどの、クラネルならランク的にもサポート的にも丁度いいかもしれんな」
「ああ、荷物持ちだけでいいんだ。あとはパーシアスが勝手に考えて強くなるさ」
そんな話をしたのが三か月前。そしてパーシアスが眷属になって丸一年の記念日である今日、オールSを達成したパーシアスは、亜竜殺しの偉業によりランクアップ。それは過去最速ランクアップ記録であり、実際にはそれより前に達成できた事実は儂らの胸に秘められることとなったのだった。
◇◆◇
ステイタス
パーシアス LV1
インファントドラゴン戦時の習得魔法およびスキル。護ること・癒すことに特化した構成は、過去の経験から生まれたもの。ゼウス曰く、必要に駆られて習得した好例ではあるが、拒む者を除き必ず対価を支払うことで効果を向上させるのが気になるとのこと。
《魔法》
【
・詠唱式
・超短文詠唱。
・怪我を治し、精神を安定させる特殊階位魔法。
・消費する精神力に応じて効果上昇。
・拒む者による効果拡大可能。
《スキル》
【
・望まぬ外因を拒み、影響を受けない。
・現在の対象:病・毒・集中阻害・方向感覚麻痺・炎
・新たな対象:即座に拒み、癒し、対象に加える。
・精神力などを消費し、拒む者の対象を任意でスキル・魔法に拡大する。
【不動要塞】
・消費する精神力に応じて盾の守備範囲を拡大し、防衛能力を向上させる。
・ノックバックを無効化する。
・自分以外の護る対象がいる場合、防衛能力がさらに向上する。
・盾を装備している時、装備全体に不壊属性を付与する。
・拒む者による効果拡大可能。
◇◆◇
<オリ主とは>
・オリジナル主人公の意、本作品ではパーシアス君が該当。
・原作に存在しないキャラクターを作り上げ、主人公として投入し、オリ主を中心に物語を変化させるための存在。
<鍛錬とアビリティに関する裏話>
筆者なりに理由も含め考えて、小説の中でも表現してるんですよ、というお話。
データ①原作から一か月でH(100以上)が上出来、G(200以上)は出来すぎ。
(どういう装備で、どういう鍛え方をしたかが明記されていない微妙な参考データ。おそらくですが、LV1アイズはそれを余裕で越えてると思われる)
データ②俊敏に動けば、モンスターをそれほど倒せなくてもH中間まで14日で上がる。
例:ベル君(憧憬一途無し)二週間(14日)で、敏捷Hの中間(150程度)。
・初期戦闘技能が比較的低いため、鍛錬効率が悪い。
・アイズに出会う前で、朝から晩まで潜っていない。
・ヘスティアナイフが無いため攻撃力に乏しく、魔石一日数個程度の戦果。
本作:パーシアス君一か月(31日)で、力ギリF、耐久・器用G序盤、敏捷H後半
-修練方法-
・力と生身の筋力向上手段→常に重量装備
・耐久と技術向上手段→重量盾装備による受けなど
・器用と技術向上手段→重量盾装備による捌きやシールドバッシュ、武器の扱いなど
・敏捷と技術向上手段→回避・ステップ・踏み込みやシールドチャージなど
・魔力向上手段→救援に魔法使用・スキルに精神力消費など
(魔法習得後の二か月目からなので一か月目での魔力上昇は無い)
-条件-
・能動的に鍛え上げるための装備と可能な限り限界を責めた修練・行動を継続。
・憧憬一途のようなチートスキル無し。(原作主人公特権)
・初期戦闘技能が比較的高いため、鍛錬効率も良い。(目標明瞭)
・最初から安全な最大時間を最大効率で活用(方法明確)
・ステイタスを更新せず、低いまま修練することで成長促進。(独自解釈)
・圧倒的数量のモンスターを駆逐し続ける。(膨大な経験値)
・ベル君(14日)の2倍以上となる31日間で検討。
-結果-
・基本は原作基準で出来過ぎのG(200以上)とする。
・力のF(300以上)は、装備重量や修練方法などが過酷極まりないため不可能ではない。
(ベル君が憧憬一途なしでも、一か月あれば主人公補正込みでF以上になったと推定)
・敏捷のH(100以上)は、戦闘タイプの違いにより他よりやや伸びづらく、ベル君の特技を潰さない範囲で設定。
(憧憬一途なしベル君の2/3程度の成長速度、あったら当然比較対象外)