急にできた休日。とはいえ習慣化されてるので普通に起きて朝食を取り、その後、ゆっくりとお茶を飲みながら考える。
「クーリエさん的には、鍛錬続きの身体を休めるのが目的かなあ……」
それはそれで大事だけど、張りつめていた精神を一度緩めて次に備えるのも大切だと個人的には思う。そこで思いついた癒し。それは、いつも帰り道に買っていくジャガ丸くんの屋台へ、アイリスの弟達と触れ合いに向かうことだった。
「ホクホクで美味しいジャガ丸くんはいかがですか?」
「いかがですかー!」
「おいしいよー!」
おー、やっぱり午前中は特に元気だな。働き始めた翌日には、清潔な服装となり、同じ意匠のエプロンをつけて売り子を始めた三人。弟達はおやつにジャガ丸くんが貰えるらしく、キャッキャと騒ぎながら呼び込み、それを見たお姉さん達が撫でに来る。そんなお姉さんにつられて冒険者も来て繁盛する。どっかで見たような気もするが、まあいいだろう。
「じゃあ、一つ貰おうかな」
「あー、お兄ちゃんだー!」
「おはようございます、パーシアスさん。今日はお休みですか?」
「ああ、根を詰め過ぎだって装備持ってかれちゃったよ」
苦笑しながら話すと、ジャガ丸くんを手渡しながら笑いが起きる。あの日のお節介が、アイリス達に笑顔を齎す一因になったのなら嬉しいことだ。
「すっかり冒険者だな、坊主」
「一か月の新米ですけどね」
店主のオジサンも裏から出てきて、バシバシと肩を叩いていた。さて、それじゃあ少し付き合おうかな。そう思った俺は、弟達二人に声をかける。
「二人とも肩に乗って呼び込みしようか」
「いいのー?」
「やったー!」
装備に比べれば軽すぎる二人を交互に乗せては、遊びながら呼び込みも行う。子供なんだからじっとしてるのは難しいはずだし、俺も触れ合えて癒されるから一石二鳥だ。
その後、売り切れるまで付き合った俺は三人を連れて昼食を取り、次のアルバイト時間に合わせて別れたのだった。
◇◆◇
翌日、クーリエさんの工房を訪れると奇麗に磨かれた装備が俺を出迎えた。
「ちゃんと休んだみたいだね」
「そうですね、リラックスできました」
そういうと納得したのか、クーリエさんはうんうんと頷き、続けて装備に目を向けると話を続ける。
「防具は特に異常なし、というか攻撃を貰った形跡がないね。盾は少し傷んでたけど使えばつくレベル、一応補修しといたよ。で、
クーリエさんが双牙を持ってこちらに向き直る。それを見ると明らかな変化があって、気になった俺は質問した。
「斧と槌の形状を変えたんですか?」
「うん、斧の刃の消耗具合から見て、君は斧を斧として使ってないでしょ? どっちかっていうと剣の技術で扱ってるみたいだから、それに見合った形状と刃に打ち直して刃渡りの延長とバランス調整したよ」
斧のような半円ではなく、湾曲した刃。曲刀のような形状で以前より重心が刃先に移動しているように見える。
「それと槌の打面をみたら全体を上手く使えてる。体重を打面に乗せられてるってことだけど、面の分威力が分散するんだよね。潰すより穿った方が威力増すし、キラーアントみたいな硬い奴には向いてるんだよ。そういうことでね、そっちも変えたわけ。その分、硬い甲殻で逸らされない技術がいるけど君なら大丈夫でしょ?」
ハンマーのような平面から、杭のように尖った先端への変更。面より点の方が扱いは難しくなるけど、威力は段違いに向上する。
……武器の消耗を見るだけで使い手の癖や技量を知り、それに合わせた加工を行うことで、より一層使い手に貢献できる武器へと変えていく。鍛冶師との個人的付き合いでしか得られない最高のサポートに感動してしまった。そこまで理解されて、できないなんて口にできるわけがない。
「ええ、すぐに使い熟してみせますよ」
「そか。じゃあさ、ついででいいからキラーアントの素材沢山持って帰ってきてよ。素材があれば費用を抑えて鍛え直せるんだ。より重くより頑丈にするには本当に大量にいるからね?」
これは餞別。7層に挑む俺に最適な装備を与えて、必ず帰ってこいというメッセージと、その先で必要になることまで含んだ最高の言葉。
「わかりました。クーリエさんがもういいっていうくらい持ってきますね」
「ふふ、期待してるよ」
そういってサムズアップしたクーリエさんに頷き、俺はダンジョンに向かった。
◇◆◇
ダンジョンに潜り、最短ルートで階層を下る。その間に出てきたモンスターで試し切りしたんだけど……。
「凄い」
叩き切る斧から、斬る剣斧に変わったんだとハッキリ理解できるほどの違いに驚きを隠せない。斬れ味が圧倒的な分、当然の如く技術を要求されるけど、それこそ望むところだ。
ダンジョン・リザードの首が飛び、飛び掛かるフロッグシューターを一刀両断。ゴブリンやコボルトなんて部位を意識することなく切り捨てる。鎧袖一触とはこのことだろう。
そしてウォーシャドウ。左から襲い掛かる鋭い三本指の攻撃を内側にいなすと同時、振り上げた突起部が脇下から入り込み右腕が飛ぶ。
「観える」
無理矢理な体勢から繰り出した攻撃が右から襲ってくるけど、すでに切り返していた斬撃があっさりと腕を斬り落とし。
「遅い」
奴が下がろうとした時には、下段から切り上げた斬撃が股下からウォーシャドウを両断した。
「練習のためにわざと三回攻撃したけど、次からは伸びたリーチで首を落とせば終わりだな」
以前のように重量で叩き切るのとは違う。重さを乗せはするけど、あくまで技術で斬る。それがこの形状にしてくれたクーリエさんへの礼儀であり、俺の目指すところだからだ。
念のためポーション類を確認し、万全の備えに納得した俺は、7層へ降りることを決意。この先に待つのは新米殺しキラーアント、そして新たに出現する複数のモンスター。まずは死なないことと、慣れることだと自分を戒めて、階下へと足を踏み出した。
◇◆◇
降りて早々に気づいたのは、通路の広さ。今までより一段階広く、混戦が予想できてしまった。
「なるほど、地形も影響してると」
狭ければ、相手は限定される。広ければ、囲まれやすい。至って当然のことだけど、その当然に対策したかが重要で、逃れられないから死ぬ。つまりはそういうことだ。ならばと俺は壁側を歩き、7層の地理を覚えていく。そして遭遇したのは。
「ニードルラビット」
小型で角の生えた兎にしか見えないが、素早く鋭い。突進を受け止めること自体は簡単だけど、生身の部分に角を受けてしまえば容易く貫通するらしい。複数種と戦闘になった場合に、見落とせば致命的だろう。
「とはいえ単体なら脅威じゃない」
突進を盾で受け止めて首を刈る。クーリエさんの盾は重く硬いから脳震盪……、脳があるかわからないけど怯んだ隙に倒すのは簡単だ。複数でもタイミング次第でやりようはある。
そして、次に出くわしたのはパープルモス。大きな蛾、モンスターとしては小さな部類だが。
「あの鱗粉を吸ったり浴び続けると毒になるのか」
解毒用ポーションは準備してあるけど、使わないにこしたことはない。向かってきた個体には、速さと斬れ味を重視した斬撃をお見舞いして退場させる。
「うーん、戻っておくか」
新種は脅威じゃないとわかったけど、キラーアントには仲間を呼ぶという特性がある。キラーアントを倒した経験がない俺には、仲間を呼ばせないだけの実力があるのかわからない。だから、退路を確保するのが大切で、それほど進んでいない今ならすぐに戻れるからだ。
加えてもう一つ理由がある。それは複数のせわしない足音が今日も聞こえてきたから。
「き、キラーアントが」
「どうしよう!」
「
とりあえず、問答無用で二人に魔法をかけて落ち着かせるところからスタート。
「前衛で、キラーアントを受け止めるのは俺がやります」
「俺は、抜けてきた分の対処だな」
「……じゃあ、私は魔法で援護するね」
「これ、使ってください。それと無理にずっと援護しないで、必要な時でお願いします」
魔法を使える冒険者にマナポーションを手渡しながら、ポーション頼りにならない様に指針を伝える。そして、士気高揚のため宣言する。
「焦らなくても大丈夫です。範囲外でない限り、俺の護りは絶対に抜けませんから」
そういいながら笑顔を向ければ、彼らも冒険者らしく頷いてくれたのだった。
◇◆◇
カサカサと六本脚を駆使して高速で近づいてきたかと思えば、二脚で立ち上がり残る四脚で攻撃に移るキラーアント。これはかえってやりやすいと、攻撃を受け流した直後に
「次!」
首を落とされた奴が灰になるのを待たず、横にステップして抜けさせない様に後続を受け止めると、
「お見事です!」
「まだ来るよ!」
「よっと」
声をかけながらも、警戒は怠らない。後続の前に立ち塞がると、立ち上がった瞬間に首を撥ね、接近中の個体の頭に突起部を叩きつければ灰になる。
「追われてたのは5体ですか?」
「う、うん。君、強いね」
「準備に時間をかけたからですよ、ほら」
そういって盾を手放せば、ズドンという音と共にあっさりと地面に突き刺さる。それを見て、唖然としてる二人に問いかけてみる。
「持ってみます?」
信じられなかったのか、近接職の冒険者がチャレンジするも。
「おっも! よくこんなの扱えるな、しかも片手かよ……。まさかそっちも?」
「はい」
盾を装備し直して武器を手渡そうとするけど、彼では両手でやっと持てるかどうかだった。
「俺、6層まで戻って鍛え直すわ……」
「だね、私も一緒に頑張るから!」
なるほど、彼が挑戦したがって、彼女が付き合った感じかな。それはともかく素直にそう思えるなら、この人達はいつかきっと強くなれると思う。だからさ、今は無事に地上へ戻ってほしい。
「帰りの分のアイテム、足りそうですか?」
「……すまん、少し貸りていいか? それと名前を教えてくれ」
「ゼウス・ファミリアのパーシアスです」
名乗った俺は、彼にポーションを二本渡す。
「必ず返しに行くからね!」
「はい、お二人も気を付けて」
少し安心したのか、明るい声で手を振る彼女達に振り返すと、二人は地上へと向かった。
「さて、調整しながら戦うか」
クーリエさんのお陰で十分戦える。そこで俺は、退路を確保したうえでキラーアントに仲間を呼んでもらうことに決め、大きめのバックパックが一杯になるまで戦い続けたのだった。