怪我をした冒険者を地上まで送り届けた日の翌日から、6層での鍛錬を目的に潜り続けている。
装備重量に慣れたとはいえ、完全に使い熟せているわけじゃない。そんな状態でもう一種類の新米殺し、キラーアントが大量に湧く可能性のある7層に行くのは自殺行為だからだ。それに新しいモンスターも一気に増えると、母さんの本に書いてあった。用心するに越したことはない。
「少なくてもウォーシャドウが複数現れた場合に余裕で倒せる程度の実力は欲しいな」
新米殺し、ウォーシャドウ。早さ、リーチの長さ、鋭い攻撃手段、気配の薄さ。そのどれもがこの辺りでは突出していて、素の技術の底上げをしながら、ステイタスを鍛えるのに打ってつけな修行相手。
前回は、狭い通路という有利な地形での一対一だったから割と簡単に倒せたが、動き回れるスペースさえあれば脅威度は跳ね上がるだろう。そう考えた俺は、そんな状況ですら余裕を持って倒せるまでは6層で鍛え続けることにした。
「それにしても、みんな備えが足りない」
あの日、マキシムさんから貰ったポーションを使い切った経験から、常に4本準備して潜るようにしている。自分で使うことは勿論だけど、また怪我人に会った時の備えとしても必要だからだ。
そうして潜ってみれば、怪我人に使う機会の頻度が予想以上に多い。守ることを重視している俺は、ポーション一つで救えるなら安い物だという思いと同時に、これだけ頻度が高いと無謀な行動を謹んで欲しいとも思ってしまう。
「た、助けてください」
「後ろへ。それと、これを使ってください」
そして今日もポーションを渡すと、助っ人に駆り出される俺だった。
◇◆◇
「最近、噂になってるぞ」
「どんな噂ですか?」
あれから二週間経ち、7層へ挑む準備のためステイタス更新に伺った俺に、マキシムさんがそう話しかけた。
「6層以下で困ったら5層への最短ルートを戻れ、というやつかの」
「癒しの盾だの、護りの盾だのとも呼ばれてるが、お前のことだろうよ」
「ええ……」
頼りにされること自体は構わないけど、噂する暇があったらピンチにならない準備が先だと俺は思う。
ギルドの受付で言われた言葉、冒険者は冒険してはいけない。これを俺なりに解釈すると、対策や準備をしないで保険も勝算もない挑戦をするな、となる。勿論、ランクアップのためには偉業が必要だから時には挑戦、ギルドのいう冒険をする必要がある。とはいえ無策で挑むのは冒険じゃなく、ただの自殺行為だから論外。生きてこそ冒険者を続けることができるのだから。
「そう嫌そうな顔をするものではないぞ、とにかくステイタスを更新するとしよう」
力 F302
耐久 G228
器用 G224
敏捷 H188
魔力 I0
「耐久と器用がバランスしてんのは、途中から捌く機会が増えたか?」
「はい、ウォーシャドウの攻撃に慣れたからか、余裕を持って捌けるようになったので」
「重い装備の扱いが、力の成長に現れておるようだしの」
渡された羊皮紙には予想通りの結果、これなら7層に挑んでも十分やれそうだ。
「そうじゃ、魔法が発現したぞ」
「え?」
そういってもう一枚の羊皮紙を渡される。
《魔法》
【
・詠唱式
・長短文詠唱
・怪我を治し、精神を安定させる特殊階位魔法
・消費する精神力に応じて効果上昇。
”文字が掠れて読めない“
「これって冒険者を助けるたびに思ってたことだ……」
「ああ、なるほど。傷を治すだけじゃ戦えない奴を落ち着かせたいってか?」
「はい」
「魔法が発現するほど助けた証、というわけじゃな」
喜んでいいのか悪いのか、気分的には微妙だ。とはいえ
「まあ、はい。ところで、この掠れてる部分に何か書いてあったんですか?」
「ん? ああ、滲んだだけだ、気にすることではない。すまんの」
「そういうこともあるさ、爺も歳だしなぁ」
「はあ」
神に年齢の概念ってあったっけ? そう思いながらも、そういうものかと首を傾げつつ納得した俺だった。
◇◆◇
翌日、最短ルートで6層を目指しながら、ステイタスの上昇分に身体を慣らしていく。攻撃をわざと盾で受けて身体のキレを確認し、次は受け流して誤差を修正。それを出会うモンスターすべてで行いながら、ズレが許容範囲に収まるまで5層に留まり、納得してから6層に降りた。
「さて、あとはウォーシャドウが出るまで再調整だな」
ゴブリン、コボルト、ダンジョン・リザード、フロッグシューター。床から、壁から、天井からと節操なく湧くモンスターを片っ端から倒していく。
「まとまって湧かない分、苦労しないか。確か10層からマズいんだったな」
そんなことを考えながら長時間6層で修練していればウォーシャドウもそれなりに湧き、攻撃を受け流しつつ
「力が上がった分、ウォーシャドウの防御力を簡単に上回るようになったか」
斧だからって力任せはダメだ。しっかり斬る技術を応用して、より硬い相手に備えないとな。例えば、キラーアントが直近の相手になるんだから。
「まあ、キラーアントは槌で叩き潰すか、柔らかい節を狙って斬るしかないけどさ」
その後、斬ることを重視した鍛錬をしながら、ウォーシャドウと戦うこと数時間。夕方前にはダンジョンを出て、装備メンテナンスのためにクーリエさんを尋ねるべくバベルへと向かったのだが、最近の行動を話したら丸一日休むように強く言い含められ、装備も明後日まで没収されたのはいうまでもない。
……まあ、軽くはなるけど母さんの装備があるから困らないと思いつつ、それは黙っておいた。勿論、しっかり休むよ。心配されるうちが華ともいうし、ね?
◇◆◇
ステイタス
パーシアス LV1
2週間6層に入り浸り、再び荷物が魔石と素材で一杯になるたび帰還するというルーティーンを日に何往復もこなした。ついでに冒険者のヘルプをかなりの回数しており、急造のパーティーを組んで戦闘した結果、集団戦闘へも適応することに。
《基礎アビリティ》
力 H192→F302(+55/W) ※/W:一週間平均
耐久 H132→G228(+48/W)
器用 H144→G224(+40/W)
敏捷 H128→H188(+30/W)
魔力 I 0→I 0
《魔法》
【
・詠唱式
・長短文詠唱
・怪我を治し、精神を安定させる特殊階位魔法。
・消費する精神力に応じて効果上昇。
“文字が掠れて読めない“