初日の結果から5層まで潜る許可をもらった俺は、本格的に鍛え始めた。1層には、ゴブリンや犬の頭部を持つコボルトしかおらず、人型というのもあって正直なところ鍛錬にならない。しかし2層からは、モンスターらしいモンスターが現れるようになる。
人と同サイズの茶色いヤモリ型モンスターで、壁や天井を縦横無尽に移動しながら攻撃してくるダンジョン・リザード。
大きな犬と同サイズの一つ目カエル型モンスターで、体当たりや舌で攻撃してくるフロッグ・シューター。
どちらも体当たりが多いので躱してから攻撃すればいいけど、人型と違って太い首を刎ねるとかバランスを崩して有利にといった手段がとりにくい。しかも攻撃に体重が乗っていて重いのが厄介だ。
ダンジョン・リザードの体重が成人男性より重いと推定して軽く100㎏以上、四足歩行で壁・天井・床かまわず突進してくるとなればダンジョン産モンスターということもあり並大抵の威力じゃない。猪なんて目じゃないはずだ。しかも現状唯一の遠距離攻撃であるフロッグ・シューターの舌がダンジョン・リザードの突進とあわされば厄介極まりない。
そこで俺は片手にショートソード、片手にメイスを装備して戦うことにした。フロッグ・シューターの舌をショートソードで切断し、突進攻撃はいなしたり躱した後メイスで頭を潰す。舌のないフロッグ・シューターは基本後回しにしてダンジョン・リザードを片付けてから、跳ねて回避できるフロッグ・シューターを仕留める方がリスクが低いからだ。
そういうことで対策は済み、ゴブリン・コボルト交じりの場合も含めて、盾がある俺には通用しない。ただこの先を見据えれば、盾で受け止めなければいけないケースも出てくるだろう。
そこで必要となるのは、強くなるモンスターの攻撃を受け止めることができるほど頑丈で重い装備を得ること。それはステイタス更新後の修練を効率的に行う助けにもなるので、ずっとお金を貯めていた訳だ。そして、ある程度貯まった俺は、今まで修練のためにわざと更新していなかったステイタスを一気に更新する。
力 I0→H132
耐久 I0→I76
器用 I0→H118
敏捷 I0→I96
魔力 I0
「随分と頑張ったようだの」
「ダンジョンを出るまで体力が尽きない程度の余力をもって、二週間欠かさず5層まで潜り続けていましたから」
「なるほどの」
そう話ながら、このステイタスだとどれくらいが適正か考えていると、察したマキシムさんが教えてくれた。
「6層まではいいんじゃねえか? ただ奴が出る」
「ウォーシャドウですね」
「ああ」
ウォーシャドウ。大人と同じ程度の身長で、鋭利な三本の鉤爪みたいな指で攻撃してくる影のようなモンスター。母さんの本によれば、初心者殺しとして有名な最初の壁らしい。
「装備を更新しようと思っています。今のスタイルは攻撃的ですが、俺本来のスタイルじゃありませんから」
「だな。パーシアス本来のスタイルなら十分やれると思うぜ」
こうして俺は、更新されたステイタスに合わせて装備を準備するために動き出した。
◇◆◇
バベルには、ヘファイストス・ファミリアの占有フロアがある。その中には、修行中の鍛冶師が格安で出品している商品があり、俺の目当てはその値段と埋もれた腕だった。かなりの商品がある中を見て回る。気になった商品を手に取っては戻し、繰り返すことしばらく。
「これは……」
それはステイタスが上がった俺でも重さを感じる装備。
冒険者は一般的に不要な重さを嫌う。動きを妨げ、遅くなるのを避けるためだ。
けれど俺の考えは違って、正直重い方がいい。修練になるし、受けるにはある程度の重さが必要で、盾での攻防を得意とする俺にとっては死活問題。加えて武器による攻撃であれば確実に威力が増すんだから、重さには十分なメリットがあるからだ。
品質を見ると、素人目ながら他の商品を上回っている気がする。重さで敬遠されたのか、値段も手頃。とはいえある程度品質の保証が無いのは……。
「うーん」
「それ、気になるかい?」
「貴方の作品ですか? すみませんがメリットとデメリットを教えてください。重いだけなら必要ありませんが、メリットに納得できれば使いたいので」
そういって盾を普通に扱って見せると、ドワーフと思われる男性は目を見張る。
「……本気で言ってるのかい?」
「本気ですよ。俺にとってこの程度の重さはデメリットじゃないので」
そういうと少し考える素振りを見せる彼。
「場所を変えよう」
その言葉に頷くと、俺は先を行く彼の後を追った。
◇◆◇
「まずは自己紹介だ。おいらはクーリエ、見ての通りドワーフの鍛冶師だよ」
「俺はパーシアス。ゼウス・ファミリアの新米冒険者です」
「新米?」
そういった彼は、俺をジロジロと見て観察すると一言。
「上、脱げる?」
「はい、問題ありません」
引き締まってはいるけどムキムキじゃない。余計な筋肉もなく、必要な部分に必要な分だけ付けた俺自慢の身体だ。見せることに抵抗なんかない。
「……年、いくつ?」
「9才です」
「いつから鍛えてるの?」
「4才ですね」
話しながら上半身の装備を持った彼は、一瞬動きが止まったけど、そのまま俺に渡してきた。
「着ていいよ」
そういうと目を瞑って唸りだすクーリエは、何か考え込んでいる。時間がないわけでもないし、工房にある装備を見ながら俺も待つことしばし。
「どうして重さがいるの?」
「一つは修練のためで、ステイタスによって装備が軽いと感じる状態は、技術を磨きづらくなるから。もう一つは、俺が盾による防御を得意としてるからです」
「へー、そういう人もいるんだね。おいらはさ、修行についてはよくわかんない。けど、おいらの造る装備が重い理由なら説明できるよ。おいらは重い素材を使ってないし腕が悪すぎて重いんでもなくて、何回も何回も圧縮に圧縮を重ねて強くしたから重くなったのさ。つまり成り立ちが普通じゃないってこと」
なるほど。鍛えて強度を増しながら余計な重量を削ぎ落して軽くするのが一般的なら、その逆に過剰なほど鍛えて圧縮してを繰り返したのがクーリエさんの作品。それは当然重くもなる。
「重さに見合った。いえ、それ以上の強度と耐久力がメリットですか?」
「そうだよ、試しに装備してみる?」
「是非」
装備したのは、鈍い鋼色のプレートメイル・アームガード・レッグガード・カイトシールド。その出で立ちで防御態勢に問題なし、ステップや摺り足には多少重いけど慣らせばいいレベルで鍛錬にもなる。
「問題ないですね。これならウォーシャドウとやり合っても装備が簡単に壊れたりしなさそうです」
「うん、上層なら基本的に問題ないんじゃないかな。で、買うの?」
「買います」
即答。
「君なら使えるね、すぐ調整するよ。それと話は変わるけど切断武器と打撃武器装備してるでしょ? これ、サービスするから試しに使ってみてよ」
そういって渡されたのは、随分と特殊で片手だとそこそこ重い武器。
「えっとね、ポールウェポンの先端を手持ち武器にしたんだ。片側は斧、片側は槌、重量バランスはとってあるんだけど重いから使い手がね」
「武器を二種類持たなくていいのは便利ですね。ちなみに名前はありますか?」
「勿論。
ふた通りの属性を持つ武器に相応しい名前。クーリエさんは、サムズアップしながらそう告げたのだった。
◇◆◇
身体を装備に慣らすのに、安全マージンを確保しつつ潜ること五日。四日目には5層でも問題なく戦えて体力的な余裕が十分あることを実感した俺は、五日目を通常の鍛錬にあててそれを確認。そして、6層に挑む最後の準備としてステイタスを更新した。
力 H132→H192
耐久 I76→H132
器用 H117→H144
敏捷 I96→H128
魔力 I0
「ふむ。前回まで、他と比べて伸びの悪かった耐久が伸びておるな」
「盾で受け止める戦い方が増えたからでしょうか?」
「器用さの伸びが落ちてるとこをみると捌けば器用さが、受け止めれば耐久が伸びやすいんだろうよ」
なるほど、それは今後の成長が読みやすい。力が伸びれば捌けるようになるし、モンスターが強くなれば受け止める機会が増えるから、必然的に伸びていくということだ。
そして翌日の六日目。問題なく6層まできた俺は、今まで同様にルートを覚えながら、5層までと変わらないモンスターを駆逐しつつ探索していく。
「なんだ?」
ダンジョンではあまり聞かず、地上では聞きなれた音が迫ってきているような……。これは人の足音か? 念のため装備やアイテムを確認し、退路を確保して、何が起きてもいいように備える。
すると、しばらくして奥の方から血を流しながら逃げる杖を持った冒険者がモンスターを引き連れてくるのが見えた。
「た、助けてくれ!」
「戦えますか!?」
「前衛が必要だ!」
「後ろに! 俺が前衛になります! それとこれを使ってください!」
「助かる!」
ポーションを手渡し、細い通路を利用した耐久戦に突入する。こういう普段から連携をとったことのない相手と組む場合は、目的をはっきりするに限るな。まずは足の速い……。
「ダンジョン・リザード三体からいきます!」
「っ、ああ!」
突出していたダンジョン・リザードの頭を出会いがしら槌で一撃。追ってきたもう一匹を受け止め、
「!」
狙いすましたように伸びてきたフロッグ・シューターの舌を斧で切り飛ばし、振り切った反動を利用して残るダンジョン・リザードを撲殺する。
「大丈夫ですか?」
特に援護のなかった冒険者に声をかけながらチラリと振り向けば、ポーション一本では足りなかったのか調子が悪そうだ。仕方ない、このまま死なれても寝覚めが悪いしな。
「これもどうぞ」
「本当に済まない」
これでも足りないか、こういう時に回復魔法があればな。回復さえできれば、落ち着きを取り戻して戦うこともできるはずだから。まあ、無い物ねだりしても仕方ないか。とりあえず安心できるように話すかな。
「困った時はお互い様、余分に準備してきて正解でしたね。地上まで送って!?」
瞬間、感じた気配に素早く盾を構えるとほぼ同時、そこそこ重い攻撃に襲われ耐える。盾越しに見えたのは黒い影のような人型、こいつが新人殺しことウォーシャドウか! 戦った経験のない相手だ、怪我人に気を回す余裕はあまりないだろう。
「離れて自衛してください! 一人で相手します!」
「すまない!」
指示しながら長い三本の鋭利な指を押し返すと、以降は慎重に攻撃を受け、捌きながら動きを観つつ考える。全体的な速度は、これまで出会った中で一番早いけど対応できた。ただし、攻撃できるタイミングはある程度限られている。自分と怪我人の安全性を考慮した場合、スピード重視じゃない俺は大きな隙を狙うしかないからだ。
何度目かの攻撃を捌き、体勢が流れたはずのウォーシャドウが無理矢理残る腕を振るう。引き付けた盾で受け止めるが、盾の上から指を曲げて斬撃が襲ってきた。
「なめるなよ!」
盾の陰に身を隠すように体勢を低くすると、ウォーシャドウの腕をかち上げる。奴は両腕を上げた万歳の体勢、ここがチャンスだ。振りかぶった斧で近い方の腕を攻撃して切断。そのままバックステップで反撃を避けると同時に体勢を整える。
「終わらせようか」
片腕となったウォーシャドウは敵じゃない。だから、攻撃してきた腕を捌いた直後に、その腕を盾で押し潰して地面へと縫い付ける。そして、縫い付けた勢いを利用して振るった槌が、奴の頭を砕いた。
「ふう、流石にタイミングの調整しずらい戦闘は疲れるな」
呼吸を整え、体力の回復を図る。連戦になっても耐えられはするけど、パフォーマンスはどうしても落ちるから、避けられるなら避けるべきだろう。
「運がいいのか、悪いのか」
そうこうしてるうちに灰となったモンスターは消え、鋭利な爪が残る。今のうちに怪我人を連れて撤退すべきだな。
「次が来ないうちに地上まで戻りましょう」
「ああ、頼む」
こうして当初の目的を一応とはいえ果たした俺は、約束通り怪我人を送るため速やかに撤退を開始。多少余裕を取り戻したのか怪我をしている冒険者が魔法でフォローしてくれたこともあり、いつもより早くダンジョンを脱出することに成功したのだった。
◇◆◇
<アビリティについての解釈>
・上昇判定は、関連する行動を行ったり、攻撃を受けたりするたびに判定される。
・上昇数値は、基本的に環境や行動の難易度、相手の強さなどで変化する。
・得られる経験値は、それらを上昇させるのに消費され、ステイタス表示外に累積される。また、LVが上がった場合、そのLVに応じた経験値でなければ、どれだけ行動しようとも消費できる経験値がないため上昇しない。
・伸び率は、IからSに向かうにつれ段階的に低くなる。
つまり、IからG辺りは鍛えれば鍛えるほど伸びるので、ひたすら修練するのが最適解であり、ダンジョン内であれば悪環境と潜るほどに上昇し続けるモンスターの強さが大きく加味されやすいため、さらに伸びやすくなる。
◇◆◇
ステイタス
パーシアス LV1
2週間5層まで毎日潜り続け、金策のため荷物が魔石と素材で一杯になるたび帰還するというルーティーンを日に何往復もこなした。成長促進スキル持ちのベル君には圧倒的大差で負けるが、怪我はなく無理もしない分、長時間安全に修練を積むことができるので、普通の冒険者よりは効率的に伸びる。ただし、このような修練でのランクアップは不可能である。
《基礎アビリティ》
力 I0→H132(+ 66/W)※/W:一週間平均
耐久 I0→I 76(+ 38/W)
器用 I0→H118(+ 59/W)
敏捷 I0→I 96(+ 48/W)
魔力 I0→I 0( 0/W)
重い装備に多少振り回されながら、上記と同じルーティーンを五日間敢行。重量物を扱うことで力が、防御する機会が圧倒的に増えたことで耐久が大きく上昇。その分、盾で逸らす機会が減ったため、器用の伸びが減少した。とはいえ三週間未満で約600のアビリティ上昇はかなりのもの。努力の天才、面目躍如である。
《基礎アビリティ》
力 H132→H192(+ 60)
耐久 I 76→H132(+ 56)
器用 H117→H144(+ 27)
敏捷 I 96→H128(+ 32)
魔力 I 0→I 0( 0)