マキシムさんに助言を貰い、もう一度ギルドに行ってショートソードを二本借りてから、バベルの下にあるダンジョンへと向かう。道すがらいろんな人に見られてるのを感じたけど、それはそれ。必要なことをしない方が必ず後悔するし、俺は天才じゃないからできることは全部やっておきたいだけなんだ。
練武場で試して分かったけど、認識との誤差が酷かった。あらゆるものが軽いからタイミングはズレるし、力が強いから未熟さの影響が出て武器への負担まで増加する始末。
そんな状況でダンジョンに挑もうものなら、あっという間に武器は壊れるし、カウンターのタイミングがズレて空振りしてもおかしくない。じゃあどうするか。俺は、慣れた重量に極力近づくまで重くすればいいと結論付けた。
その結果が今の恰好で、腕に取り付けるタイプの小盾を両腕に、借りたショートソードは腰の左右に装備してる。ショートソードと盾だけじゃ軽いなら、同じものを左右逆に装備すればいいという力業だ。
防具は、練習着にレザーアーマーを重ね着。その上にいつも通りプレートを装備することで重量を倍化した。結果的に防御力も少しは上がってると思う。
これだけやっても以前より軽くて速いんだから、神の恩恵には笑うしかない。母さんのいう通り、これじゃ技術が疎かになる訳だ。
「無駄に力を籠めないように注意しないと」
力を籠め過ぎると、速度が出ないし、武器が壊れる。それを肝に銘じながら、ダンジョンへと侵入した。
「母さんの本のとおり結構明るいんだな」
母さんの形見の本に、ダンジョン中層までの情報が事細かに記されたページがある。地形、モンスター、特徴などなど。その内容は多岐にわたり、少なくてもLV2から3の中間までは通用する内容と聞いてた。
マキシムさんから貰った地図を頼りに道を覚えながら進みつつ、軽く身体を動かしてみる。
「足元に注意した方がいいな」
練武場は怪我をしない様に砂が敷いてあったけど、ここは凹凸のある土。摺り足でならともかく、走ったりすれば躓く可能性もあるからだ。そして。
「こうして湧き出ることもあると」
現れたのは、外で倒したことのある二足歩行のモンスター、ゴブリン。攻撃は、爪・噛みつきが主で、体当たりもありえる。ダンジョンでは最も弱い部類だが、油断せず慎重に行こう。
まずは盾を構えて、攻撃を観る。右爪、左爪、飛びついての噛みつき。今のところ足では攻撃してこないけど、念のため警戒しておく。
「そろそろ試すか」
装備重量が二倍、力も二倍。俺自身の体重に変化が無くても、総重量で受け止められる条件は整ってるからわざと受けてみる。爪による連続攻撃を余裕で受け止め、それに激高したゴブリンが噛みつこうとするのに合わせて盾の攻撃を顔面に喰らわせる。
「軽い」
吹っ飛んだゴブリンに摺り足で詰め寄ると、起き上がるのに使っていない左手で攻撃してきた。ならばと
「力加減は及第点かな」
剣を確認して影響度合いを見ていると、目の前で死体が灰になり、魔石が落ちた。それを小袋に入れてからさらに進むと、再び地面から二体湧く。
右のゴブリンが左腕で殴り掛かってきたのを、左の盾で内側に逸らしつつ右の盾を構えて盾で突撃《シールドチャージ》で左側を狙って吹っ飛ばすと、左から向かって来ていたゴブリンを巻き込んで転倒。
それを摺り足で追い、左の剣で起き上がる最中の首を切り落とし、右の盾を構えたままもう一匹のゴブリンの背中へ回り込む。ゴブリンは振り向きながら攻撃してきたけど、その頭を
「問題なく戦えるな」
灰になり、二つの魔石と牙が落ちる。その後、出てくるゴブリンを技術で倒しているうちに、二刀二盾の型が自然と出来上がって安全性と効率が増していき、どうせ帰り道でも出会うだろうと来た道を引き返すと、予想通り沸いたゴブリンを倒してはドロップアイテムを回収してギルドに向かったのだった。
◇◆◇
二刀二盾の型。
攻撃する時は順手か逆手持ち、防御する時は力の入りやすい逆手持ちを基本とする。盾で捌き、その隙に攻撃しても、最悪もう片腕の盾で防げたり、さらに攻撃できたりというのはソロだと極めて有効だった。
そんなこと考えながらギルドの帰りに向かったのは、ジャガ丸くんの屋台。初めて自分で稼いだお金で、この間のお礼をしたくてさ。
「おう、その恰好は冒険者になったんだな!」
「はい、おかげさまで。今日は自分で稼いだお金でジャガ丸くんを買いに来ました」
「いくつだい?」
「10個です」
そういうと店主のおじさんは、手際よく揚げ始めた。
「どこのファミリアに?」
「ゼウス・ファミリアです」
「最強かい! たいしたもんだ!」
家族が褒められるのは自分のことのように嬉しい。それはそれとして聞くだけ聞いてみたいことがある。
「ところで店主さん、もしアルバイトしたいって女の子がいたら雇う気はありますか?」
「どういうことだい?」
俺はアイリス達のことを話した。あの年の子供にまともな職なんてある訳がない。だけど、ここでなら安心して任せられると、あの日の売り子経験から思ったんだ。
「本人がやる気を見せてくれたらかまわねえよ、そんなに多くは出せないけどな!」
「ありがとうございます。では、また!」
「おう、頑張れよ!」
こうして屋台を後にした俺は、前回と同じ道を通って、あのベンチへと向かったのだった。
◇◆◇
二回目ともなれば迷わず着いて、あの古びたベンチに座り気長に待つ。戦闘の緊張から解き放たれ、リラックスしながら休んでいると、聞き覚えのある声が。
「あー、お兄ちゃんだ!」
「ほんとだー」
またしても民家の影からひょっこり顔を出した男の子二人と、その後ろから二人を見守るアイリス。
「二人とも転ばないように注意してね」
家族はとても大切でいいものだと、その姿を見てそう思いながら声をかける。
「また来たよ。みんなで食べた方が美味しいからね。だからさ、一緒にどうかな?」
「……ありがとう、パーシアスさん」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
前回同様三人に手渡し、美味しそうに食べる男の子達を見ながら、アイリスに本題を切り出した。
「アイリスは、もしも働き口があったら働きたい?」
「はい、今もギリギリで生活してるので。でも、いままで誰も雇ってくれなくて……」
だよな。俺と大差ない年齢に見えるアイリスを雇うっていうのは相当厳しい。だからこそあの屋台の店主さんにお願いしたんだから。
「このジャガ丸くんを売ってる屋台の店主さんがさ、やる気があるなら雇うっていってくれてる」
「え?」
目をパチクリしながら驚いてるアイリスが理解するのをゆっくり待つ。
「本当に雇ってくれるの?」
「ああ、俺もアルバイトしたことがあって、すごくいい人なんだ。よかったら紹介するけど……」
「お願いします!」
「うわあ!」
身を乗り出して俺の手を握ってきたアイリスに驚いた。
「あ、ごめんなさい。つい……」
「いいよ、気にしないで。それじゃあ、まずはコレ」
そういって残りのジャガ丸くんを手渡す。
「これを家族に渡してから、アルバイトの許可を取ってね。アルバイト先は、大通りの屋台でジャガ丸くんを売ってるから、すぐわかると思う。俺からの紹介だっていって、やる気を見せれば大丈夫だから。それじゃあ、またね」
「またねー!」
「ありがとうございます、パーシアスさん」
俺は立ち上がってホームへと歩き出す。手助けはここまでで十分、あとは彼女達自身で未来を勝ち取らないと先はない。だから、頑張れ。そう心の中で応援しながら。
◇◆◇
《戦闘技能》
【二刀二盾の型】