あまりにも熱の入った訓練を見せられて、柄にもなく滾った日の翌日。なにかある、そういう予感があってな。だから備えてはおいたのさ。そして、それは朝食の時に始まった。
「マキシムさん。この後、時間取れますか?」
「おう、問題ないぜ」
昨日の帰ってきてから、パーシアスの雰囲気がガラッと変わったのを感じていたが、今は熱意というかなんともいえねえ雰囲気がある。
ここにきてから三日目、これまでパーシアスは一度も俺を拘束したことがなかった。用があったら飯時に伝えてはくるが、部屋に訪ねてきたことすらねえ。そんなコイツが俺の時間が欲しいというなら、覚悟が決まったってことだろうよ。
だから飯を食い終わった後、爺の部屋で話をするためにパーシアスを連れて向かった。
「入るぜ」
「きたか」
「おう」
中には、ゼウス一人。そんなやり取りを見て、爺が神だとは思わなかったらしく。
「はじめまして、パーシアスともうします」
「儂がこのファミリアの神、ゼウスじゃ」
「?」
握手をしながらも困惑を隠せない様子のパーシアス。おい、やめろ。そんな不思議そうな顔でこっちを見るな。あまりにもあんまりな表情に耐えられず、おもいっきり吹き出した。
「ブワッハッハ! 爺、神には見えねえってよ!」
「お主がそういう態度だからだろうに」
「す、すみません。神様にあったのは初めてで、ファミリアの相談役の方かなと思ったんです」
ああ、笑った。とりあえずこれで妙な緊張とかなしで本題に入れそうだな。
「まあ、ある意味では間違いじゃねえ」
「そうじゃな。さあ、座って話すとしよう」
「はい」
俺達が座ったのを確認してからパーシアスも座り、状況を理解したんだろうな、自分から話し始めた。
「改めまして、一昨日からお世話になっているパーシアスです。今日は、ゼウス・ファミリアに所属して冒険者になりたいと伝えるために時間をとってもらいました」
「少年よ、何故冒険者になりたいのかの」
爺は穏やかに語りかけてるが、かえって嘘は許さないという圧をかける結果になってやがる。まあ、わざとなんだろう。俺も気になるしな。
「物心ついた頃から、英雄譚に憧れて冒険者になるための訓練をしてきました。少し戦えるようになって家族を守りたいと強さを求めてもきたんです。けど祖母は病で、母は野盗に成り下がった冒険者に毒で殺されて……。弔ってからオラリオにきました」
なるほど。ありふれてるといえばありふれてる過去と理由だな。
「きた当初は気づいてませんでしたが、それしか目標がなかったからでした。でも、今は違います」
っく、やべえ、やべえなあ。雰囲気がまた変わりやがった。
「俺は、自分の手の届く範囲を護れる盾になりたい。母さんを護れなかった後悔、悲しみ、苦しみ。そんな思いをする人を少しでも減らしたい。不幸の連鎖なんて認めない。運命だって覆してみせる。そのためには強くなって手の届く範囲を広げる必要があるんだ」
この熱量、情熱は俺を熱くするには十分で、爺ならもっと焼かれてるだろうよ。神族には嘘が通じない。言葉に込められた想いが直接伝わっちまうんだからな。
「その手段が、うちで冒険者になることか」
パーシアスは頷き、さらに続ける。
「ダンジョンに潜って裕福になるとか、闇雲に強くなりたいとかはいいません。だって俺の命には、家族の夢も想いものってる。気にかけてくれたマキシムさんの想いも感じてますから」
そいつは随分な殺し文句じゃねえか! なら、その覚悟に応えてこそ先達だろうが。
「へっ、いいんじゃねえか、爺。こんだけの覚悟と先を見てここに来た奴を俺は知らねえ。だから教えてやろうぜ」
「そうじゃの。少年よ、これからの話を聞いてからもう一度答えを聞こう。いいかの?」
「はい、聞かせてください」
お前の夢を阻むモノを知って、それでも吼えられるか。楽しみになった俺は、随分と好戦的な顔だったと後で爺に聞かされた。
◇◆◇
「大英雄アルバートの名は知っておるか?」
そこからの話は英雄譚。ただし、脚色なしの真実ってやつがやばい。
「
「ああ、そのとおりだな。パーシアス、お前が夢を叶えるなら倒すべき敵ははっきりしてる。そいつらは三大クエストとしてずっと存在してるからな」
「三大クエスト……」
ああ、そうか、お前も
「陸の王者ベヒーモス、海の覇者リヴァイアサン、隻眼の黒竜ジズ。これらを討伐するために強者を求めるのが、ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアの目的じゃ」
「実際のところ、うちの新人は一年で大半が出ていくことになる。強さを追求しない奴は、このファミリアに居場所がないからだ」
いいな、ああ、俺の目に狂いはなかった。
「それなら余計にここのファミリアで強くなります、同じ目的をもったファミリアじゃないと
「決まり、だな」
「そうじゃの」
強い意志を示して、パーシアスは俺にも爺にも認められた。気に入っていた歪なガキが家族になる。なら、最初にすることがあるよな。
「とはいえファミリアでのお前は末っ子だからな、しっかりまわりを頼れ。お前がどう思おうと俺にとってはすでに家族だ」
「む、抜け駆けするでない、儂だって同じ気持ちじゃ。眷属とは神の子供、心配もするし、守りたいとも思う。だから、自分を許しなさい」
パーシアスは限界だったんだろう。俯いた先、零れ落ちた涙が跡をつけていく。家族を失い、護れなかった後悔を抱くには、あまりにも幼すぎたから。
◇◆◇
しばらくして落ち着いたパーシアスへ、爺は穏やかに語りかける。孫かよ、似たようなもんか?
「さて、パーシアスよ。新たなる眷属となるなら
「お願いします」
「上裸になって爺に背中を向けな、
いい身体だ。必要以上には鍛えてないあたり、母親もよくわかってる。この年であそこまで動けるのは大したもんだが、筋肉のつけすぎは論外だ。背が伸びづらくなるし、いらねえ筋肉は重しにしかならんからな。
爺は自分の血を皿に受けて、パーシアスの背中に刻んでいく。まあ、見慣れた行為だが……。
「む?」
「どうした?」
「いや、
なるほど。パーシアスをギルドに一人で行かせて、それからってことか。
「間違ってもそのままダンジョンに向かうなよ。かなりの能力差が出てるからな、まずは練武場で確かめて、俺かザルドに一声かけろ」
「わかりました。では、行ってきます」
部屋からパーシアスが出たのを確認して少し。さて、これで人払いは済んだわけだが。
「なにがあった、爺」
「スキルがあっての」
「はあ?」
渡された羊皮紙に目を通す。
ステイタス
パーシアス LV1
《基本アビリティ》
力 I0
耐久 I0
器用 I0
敏捷 I0
魔力 I0
《発展アビリティ》
《魔法》
【】
【】
【】
《スキル》
【
望まぬ外因を拒み、影響を受けない。
現在の対象:病・毒
新たな対象:即座に拒み、癒し、対象に加える。
「
「であろうな。どれだけの影響を与えた存在だったか、よくわかる。それにしても更新するスキルは初めてじゃ」
「つうか、それを抜きにしても魔法が三つとか。アイツは前衛職だろうに」
魔法について要因すらわからんが、スキルに関しては喜んでいいのか悪いのか。いや、効果についはいいこと尽くめだが、成り立ちがよ……。
「パーシアス少年の意思は強く硬い、しかしそれは諸刃の剣じゃ」
「だからこそのファミリアだ。アイツの意思は尊重するが、こっちも勝手に世話を焼かせてもらう」
そう宣言すると爺が頷き、俺達は話を終えた。
◇◆◇
ホームの入り口から入ってすぐ、エントランスには待ち合わせなんかに使う椅子やらテーブルが備えてある。俺は、念のため上層の地図やポーションを準備しつつ、パーシアスを待っていた。
「おう、うまくいったか?」
「はい、着替えてから練武場で確認しますね」
そういって一度部屋に戻ったパーシアスは完全装備で帰ってきた。
「どうしたよ、その格好は」
「
ほー、
「なるほど? で、実際どうだ?」
「武器も盾も軽くなってますね、うーん」
そういいながら訓練用装備を漁ると、奇抜な装備を始めやがった。
「これぐらいしないとダメですね。そうなると上層で使ってもいい装備なんて余ってないでしょうし……」
「そこにある奴は好きにしていいぞ、どうせ使い古しだからな。武器はギルドの支給品を使えばいい」
「ありがとうございます!」
そして、昨日と同じように盾を構えては調子を確認していくパーシアス。俺の目にも問題はないように見える。あとは対策だが……。
「問題なさそうだな」
「はい、危なくなったら持ち替えればいいので」
「そうか、ならまずは一層で遊んでこい。これは選別だ」
見た目は奇抜だが、納得のいく動きと対策に許可を出し、さっきの道具を渡す。
「ありがとうございます、行ってきますね」
「おう、まあ飯食ってからな」
こうして昼飯を食ったパーシアスはダンジョンに向かったのだった。