マキシムから報告のあった金髪の少年、名をパーシアスといったか。外のゴブリンを複数回討伐し、新入りとはいえ
長く冒険者として活動するうちに、結果として技術を会得する者など上位になれば当然の如く存在する。しかし、比較的技術を追求する者の多い極東出身者を除けば、神の恩恵《ファルナ》で容易に強さを得られる
マキシム曰く、おそらく母親を亡くしてから然程経っていないとのことだが、それにしてはあまりにも大人びておるらしい。
「歪か」
山で暮らしていたという話だが……。そういった厳しい環境の小規模集落だと、問題を起こせば村八分にされるというのもあり、母親がしっかりと教育した可能性はある。それにしても模範的すぎるとはマキシムの談。
「だからこそ見極めねば」
色々と思いはしたがの、結局のところワシも会ってみたいと思うほどに惹かれているのは事実。
「さて、どのような姿で出るか」
見ることを、聞くことを、会うことを楽しみに、儂はオラリオの街へと繰り出したのだった。
◇◆◇
少々距離を取りながら少年を追う。一度足を止めたのは、迷わぬように場所を把握したのじゃろう。その証拠に迷いなく進む少年が向かう先はギルドであった。
何をしに来たか気になる。ここはひとつ、ロイマンに頼むとしよう。当たり前のようにロイマンの私室を訪ねた儂は、ノックの後、部屋に入る。
「これは、神ゼウス。いかがしましたか?」
「久しいの、ロイマン。実はな、気になる少年がおる」
「それは噂の?」
さすがに噂になっておるか。まあ、うちの眷属と一緒に練り歩けばそうもなろうが。
「うむ、古代を髣髴する少年よ。いまだ直接話したことはないが、その前に知っておきたくての」
「では、私が対応しましょう」
「頼む」
部屋を出た後、階段の踊り場でロイマンと一緒に少年を待ち、現れた少年の対応を見る。相手を敬いつつ、自分の要求も述べるのはなかなかじゃ。しかも相手が考える時間をしっかり待てるというのも素晴らしい。こういう時、事を焦って対応を急かせば、意図せぬ結果になりかねん。それならば待つことで八割を叶える方が断然よいからな。
受付嬢が程々に考えたタイミングでロイマンが少年の後ろに立つ。声をかけども焦りはないということは察していたということか。さて、それでは儂も戻って聞かせてもらうとしよう。
◇◆◇
儂は、ロイマンと少年が入った部屋には当然おらぬ。彼らがいる部屋は、ロイマンが悪だくみする時によく使われるが、その理由は隣室で会話を聞くことができるからに尽きる。
それはさておき。うむ、ロイマンが許可するまで座らぬのは正しい行動じゃ。それが遠慮であれなんであれ、よい印象を与えるしの。名乗り合うのも普通ではあるが、年齢を考えれば出来過ぎか。
「うむ、君がマキシム君の目に適ったという噂の新人だろう?」
「ただの食客です。冒険者になろうと思っていますが、どの神様の眷属になるか、なれるかすらまだわからない一般人ですよ」
普通であればマキシムに誘われた時点で天狗になりかねんが、過剰な自意識はない。
「いや、すまなかったね。バベルの辺りで、マキシム君達ゼウス・ファミリアの精鋭が少年と連れ立ってホームに向かったのは噂になっててね」
「それ自体は事実です。ただ何も決まっていない、まだ何者でもないというだけで」
周囲からどう見られておるか聞かされても驕ることすらないか。儂等神族に嘘は通用せぬからこそ、その言葉の持つ意味が正確に伝わり、事実のみを語っているとわかるというもの。まあ、内心までは読み取れぬから永劫の経験で埋める必要はあるがの。
さて、そろそろ本題か。まずは自分の目的にあったファミリアをいくつか知り、所属する方法を尋ね、候補を絞るための情報収集に努める。その中から目星をつけたファミリアの
次は冒険者の実情か。母親を殺害したのが元とはいえ冒険者、存在に疑念を持ってもなんらおかしな話ではない。関わった冒険者が、犯人とマキシムらでは極端過ぎて客観性に欠けるしの。ギルド長という立場から見た冒険者を知ることもまた、実態を捉えるのに必要なピースとなるだろう。
「何かあればまた訪ねてくるといい。君が登録する日を楽しみにしている」
「ありがとうございます」
ふむ、その後も色々と尋ねておったが、情報を増やすことでより良い選択を行うためといった雰囲気であった。最後まで礼儀正しく、これで悪印象を持つのは難しいだろうな。
ではロイマンへの伝言を残して少年を追うとしよう。去り際に見せた受付嬢への対応も含めて最適解であったがゆえに、あまりにも大人びているという歪さが一層際立つ結果となったが。
◇◆◇
屋台に釣られるあたりまだまだ子供かと思ったが、よくよく考えれば、まごうことなき
「熱っつ!」
思いのほか大きな声が響くも、その後のやり取りは周囲を和ませるもので、性根の優しさや思慮深さが垣間見える。
そして、そんな少年が突然笑顔で売り子を始めれば、普段見慣れた屋台にも客は集まるというもの。
「アツアツホカホカの美味しいジャガ丸くんはいかがですか? 今なら一個たったの30ヴァリスですよ!」
「二つ貰おうかしら?」
「ありがとうございます! 熱いので俺みたいにならないように注意してね」
そういいながら子供に渡す少年は笑顔で、心から売り子を楽しんでいるのが伝わるようだ。
「ゆっくりたべるー」
「そうだねー」
そんなやり取りが女性客に刺さったのか客を呼ぶ。そして、その女性客に釣られて、男の冒険者がさらに寄ってくる始末。
「お兄さんは、冒険者なんですか?」
「そうだぜ」
「カッコいい! じゃあズバリ、最強ファミリアといえば!」
「そりゃ、ゼウスとヘラのファミリアだろ。うちは零細だ!」
「「「アッハッハっハ!」」」
コミニュケーション能力が異常じゃの、情報収集にも余念がない。なるほど、これも目的の一つか。そこからほぼ二時間売り子を続けた少年は、店主と短いやり取りをして別れた。
「さて、次は何をしでかすのやら」
そう口にして気づく。儂自身も笑顔になっていることに。
「ともかく追うとしよう」
この状況を楽しんでいることを自覚しつつ、視界に捉えたままの少年を追い続ける儂であった。