翌日、朝食の席でマキシムさんに外出を伝えてから、オラリオの街に出た。当然、最低限の装備を身につけてるし、
「とりあえず、ここは特徴があってかなり大きいから迷わないとして」
ゼウス・ファミリアとバベルを目印に、大通りを歩いてオラリオの街を見て回る。山暮らしだった俺からすればとんでもなく栄えていて活気があり、世界にはこんなにも人が溢れてるのかと思うほど多かった。
「まずはギルドで話を聞くことからだ」
目的があって外出した俺は、昨日場所を確認したギルドへまっすぐ向かい、問題なく着くと受付に向かう。扉を開けて中に入った途端、複数の視線が刺さり、全員怪訝な表情を浮かべていた。そうこうするうちに受付の女性が歩み寄り、少しかがみながら問いかける。
「ご家族を迎えにきたのかな?」
「いえ、冒険者について聞きにきました」
「君は幾つ?」
「9才ですが、外でゴブリンを数回倒しています」
受付の女性は目を見開いて驚き、周囲も騒つく。まあ、明らかに子供だし仕方ない。
「ファミリアには?」
「まだ所属してませんが、その辺も含めて色々教えてもらえませんか?」
それを聞いた受付の女性は顎に指を当てながら、ん~と声を漏らして考え始める。時間もあるしと様子を見ているうちに、後ろから声をかけられた。まあ、気配は察知してたけどさ。
「私が対応しよう」
その声に振り向けば、でっぷりと太ったエルフの男性がいた。服装が整っているからか不快感はないけど、とにかく太いという印象を受ける。
「ギルド長!?」
そして受付の女性の声で、その人がギルドの最高責任者であることを知ったのだった。
◇◆◇
ギルド長に案内された個室は随分と立派で、自分が場違いに思えるほどだし、そもそもこんな豪華なソファに座るのすら気が引ける。
「遠慮せず、座ってくれたまえ」
躊躇っていたけど、そういわれてしまえば座らない方が失礼だと意を決して座れば、落ち着かないほどに柔らかい。そんな俺の内心を知ってか知らずか、ギルド長は話を始めた。
「まずは名乗るとしよう。ギルド長を務めているロイマン・マルディールだ」
「はじめまして、パーシアスと申します」
差し出された手を握り、軽く頭を下げると会話が続く。
「うむ、君がマキシム君の目に適ったという噂の新人だろう?」
「ただの食客です。冒険者になろうと思っていますが、どの神様の眷属になるか、なれるかすらまだわからない一般人ですよ」
人でいえば初老の男性とでもいうべき風貌の持ち主で、長い耳がエルフだと主張している。街で見たエルフはみんな細身だったけど、この人は真逆。気になるのはその目で、何かを見極めようとしているのか、何が気になるのか、じっと俺の目を見つめている。
「いや、すまなかったね。バベルの辺りで、マキシム君達ゼウス・ファミリアの精鋭が少年と連れ立ってホームに向かったのは噂になっててね」
「それ自体は事実です。ただ何も決まっていない、まだ何者でもないというだけで」
ふっとロイマンさんの纏っていた雰囲気が柔らかくなり、会話は続く。
「なるほど。それで何を聞きたいのかな?」
「俺は迷宮探索を生業にしたいと思ってますので、まずは目的にあったファミリアを知りたいです」
「であれば探索系ファミリアになるだろう。最上位がゼウスとヘラ、次いでフレイヤとロキといったところか。そこから下も当然あるが、深く潜れる環境でいえば決まりだ」
質問に答えてくれる気になったみたいだ、それならロイマンさんの気が変わらないうちに聞いておこう。
「希望するファミリアに入る方法の心当たりはありますか?」
「ゼウスとヘラは、団長が認めれば神も認めるくらい信頼されている。ロキは気まぐれだからなんともいえないな、ただ君は実力があって幼いから好まれそうではある。フレイヤは魅了されてしまえば終わりだろう、問答無用で眷属にされかねない」
フレイヤ・ファミリアは無しかな。ゼウス・ファミリアとロキ・ファミリアは保留。
「ヘラ・ファミリアって、もしかして女性ばかりだったりしませんか?」
「ああ、そうだ。団長の【女帝】は女性に慕われやすいようでね、自然とそうなったようだが。そういう意味では、少し厳しいかもしれない」
ヘラ・ファミリアも除外。そうなると……。
「ふむ、決まったようだね」
「はい。ちなみにロイマンさんから見てどういうファミリアですか?」
「強さを求め、弱さを許さない。少々粗暴だが、それも強さとそこからくる安心感ゆえに許されているし、認められてもいる。それが都市最強派閥ゼウス・ファミリアだ」
その後もファミリアや冒険者についていくつか質問する。これでギルドから見た有力ファミリアとその印象、冒険者の実情といった情報は聞けた。あとは街の人達から情報を集めようかな。
「よくわかりました、ご協力感謝します」
「なに、未来の冒険者への投資だ。気にすることはない。何かあればまた訪ねてくるといい。君が登録する日を楽しみにしている」
「ありがとうございます」
立ち上がってロイマンさんに礼をしてから部屋を出る。その後、受付の女性にさっきのお礼と手を煩わせたことを謝罪してからギルドを後にした。
◇◆◇
大通りに戻り、噂が聞けそうな場所を求めてふらふらしていると、嗅ぎ慣れない匂いに足を止める。匂いの出所を探れば、一軒の屋台があった。
「気になるかい?」
「はい、これは?」
「これはな、
なにかを油で揚げたらしきジャガ丸くんなるおそらくは食べ物。山暮らしだと油は貴重だから高級品に見えるのに、屋台で売ってるというのが結びつかない。
「???」
「食ってみな」
「いいんですか?」
「おうよ!」
差し出されたジャガ丸くんはやはり食べ物であっていたらしい。とりあえず一口齧ってみた。
「熱っつ!」
揚げたてだったらしく、思わず声が出た。アツアツのジャガ丸くんを恐る恐る食べ進める。
「旨い。……吹かした芋と挽肉を捏ねて、油で揚げた感じですか?」
「いい舌してるな、坊主! その通りだ! 香辛料も使ってるのに値段は一個たったの30ヴァリス!」
「それは安いですね」
「だろ?」
得意げに笑う店主のおじさんに笑顔で頷く。それにしてもこんなに美味しい物をタダっていうのは気が引けるな、そうだ!
「ジャガ丸くんのお礼に少し売り子してもいいですか?」
「気にしなくてもいいんだが」
「いえ、俺がやってみたいんです。山じゃ経験できませんから」
「そうかい? じゃあ頼もうかな」
それから約二時間、結構な稼ぎ時だったらしく、次から次へと売れまくるジャガ丸くん。店主のおじさんはひたすら揚げ続け、俺が売りまくる。何が原因かわからないけど人が途切れず、想像よりは大変な目にあった。でも、これはこれで山ではできない貴重な経験だし、とても楽しかったな。
「坊主が旨そうに食べて、そのまま客引きになったからか、とんでもない売り上げになったな!」
「そうなんですか?」
「おうよ! いつもはこの三分の一ってところだ。お陰様で売り切れごめん。一度戻って稼ぎどきに店を開けるのはいつものことだが、それに向けてもう一度仕込みがいるなんて嬉しい誤算さ!」
いい笑顔でそういわれれば、俺としても嬉しい。それに店主のおじさんや買いに来た冒険者、立ち寄って購入するお客さんにさりげなくファミリアについて質問したら、結構な情報が手に入ったしね。曰く。
オラリオ最強ファミリアは、ゼウス・ファミリアかヘラ・ファミリアだけど、最高ランクはヘラ・ファミリアの団長こと【女帝】。
ゼウス・ファミリアもヘラ・ファミリアも我が物顔で闊歩してるけど、何かあった時に一番頼りになるし、身を削ってくれるから仕方ない。
ヘラ・ファミリアの【女帝】は、ヘラの娘っていわれても信じられるほどに強く美しく、そして傍若無人だ。
ロキ・ファミリアは、発展途上だけど家族のような雰囲気がある。
フレイヤ・ファミリアは、一言でいってヤバい。
などなど聞けて、目的は一応達成したかな。もうそろそろお昼だし、どこで食べようか。そんなことを考えながら片付けを手伝っていると、店主のおじさんの威勢の良い声が聞こえてきた。
「坊主、バイト代だ!」
「え? 貰えませんよ、先払いでジャガ丸くんいただきましたし」
「いいから取っておけって! 気になるなら宣伝してくれりゃいいさ!」
そういいながらサムズアップする店主のおじさん。ここまでいわれて断る方が失礼かと思った俺は笑顔で返事をする。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「おう! ついでにコレもな!」
そういって渡されたのは、わざと残していたらしい湯気のたったジャガ丸くん一抱え。うん、好意には好意で返したいな。そう思った俺は聞いてみる。
「店主さんは、いつもこの辺り商売してるんですか?」
「そうだぜ!」
「じゃあ、今度は買いにきますね」
「おう!」
そういった店主のおじさんに笑顔で手を振りながら別れ、その場を離れたのだった。
◇◆◇
《装備》
【私服用小手】
中層で取れる耐久力の高い素材で作られた小手。強度上昇効果あり。
ナイフを使用する時、最悪の場合は盾がわりを務める。母親のお下がり。
【贈り物の指輪】
物心ついた頃に母親から贈られた指輪。サイズを自動で調整してくれる特注品らしいが詳細は不明。