どこかのファミリアと関われればいいな。そんな希望的観測で行動した結果出会ったのは、まさかのオラリオ最強派閥ゼウス・ファミリア。しかも、その団長と口論するなんて今考えれば恐ろしい話だ。
まあ、悪いことばかりじゃない。というか良いことずくめで、まずはオラリオでの仮拠点ができた。次に冒険者の訓練を見せてもらっている。それだけで恵まれてるのはわかってるんだけど、どうしても気になる。それは、
遠巻きに見てる限り、早いことは早いけど速くはない気がする。団長であるマキシムさんがここにいて訓練するように指示している以上、彼らのランクはそこまで高くないというのもあるんだろうけど、それにしても技術を感じないのは母さんの話からすれば不思議だ。もしかしたら母さんも現役時代にそれで苦労して、改善したのかもしれないけど。ちなみに母さんはLV2だったらしい。
当たって砕けろ。そう思った俺は、マキシムさんに我儘を聞いてもらって模擬戦を行う事になった。
俺の対戦相手のことを、マキシムさんは
とりあえず対戦相手を観察しながら武器を選び、わざと重そうに装備する。ただでさえ
開始の合図で、対戦相手が動きだす。
一度目。
二度目。今度はまともに受けず威力を利用して下がりながら衝撃を吸収する。やっぱりこの人に技術はない。猪の突進なら全体重が乗ってるから重いけど、この人の攻撃は剣を振ってるだけで、まったく体重が乗ってないから軽いんだ。
俺の目も体もこの人の早さに対応できてるから、次で決めよう。マキシムさんの思惑もわかった気がする。きっとこの人を、なんならここにいる人達を戒めたいんだ。技術を疎かにするなってさ。
三度目。挑発に乗った対戦相手が放った一撃は、今までで一番早く強い攻撃だったとは思う。けど早さで二倍、強さで二倍と想定していれば、
「目に映すだけじゃダメ。観察して相手を知ることが観るということよ。そのうえで視界に捉えた全体を観ることができれば、相手だけじゃなく周囲全体の変化を察知できるようになるの」
それが母さん曰く、周辺視であり、観の目。盾で防御すると視界が塞がりやすいけど、周辺視が使えれば見える範囲の情報からでも相手の動きを読める。
そして、早さに劣っていても先読みできることで可能になるのが、返し技であるカウンター。後の先であり、待つことが多い盾使いにとっての必須技能を駆使して相手を倒すことに決めた。
返しの一。ロングソードを相手の内側へと盾で逸らしながら、ショートソードを捨てた手でその腕を引いて相手のバランスを崩すと、位置が低くなるように誘導したその顔面へ
追いの二。予想外の痛みで体の力が抜けた相手の腕を飛び上がって跨ぎ、そのまま腕を決めた
このままいけば、確実に折れるけど……。
「そこまでだ!」
そういって俺の体重を支えたのはオラリオ最強派閥ゼウス・ファミリアの団長、マキシムさん。彼ならランクは知らなくても必ず間に合うと思っていた。それからはマキシムさんが新人団員へ説教したり、他の団員へも発破をかけて模擬戦は無事終了。
やっぱりそういうことだったんだとマキシムさんの狙いに納得しながらも、この状況を作れるだけの力量が俺にあるかもしれないという可能性を見抜く辺り、多くの団員を抱えるファミリアの団長だけはあると感じた。
その後、年齢を聞かれて答えたんだけど、師匠としての母さんを褒められたのが今日一番嬉しかったのはいうまでもない。
◇◆◇
マキシムさんに連れられてきたのは、ガランとした空き部屋。中にあるのはベットとクローゼットに装備立てという必要最低限のもの。
「ここは新人が使う空き部屋だ。客間を使わせてもいいんだが、いつまでも客でいるつもりはないだろ?」
「はい、オラリオのことをある程度知ったら相談させてもらってもいいですか?」
「ああ、かまわねえぞ。俺に用があれば誰かに声をかければいい。とりあえず夕飯になったら迎えを寄こすから、それまで整理でもしたあと休んだらいいんじゃねえか?」
「ありがとうございます」
それだけ伝えるとマキシムさんは部屋を出て行った。とりあえず装備を外して装備立てへ。腰のナイフは枕元に置いて、私服用の小手を付けたら、ベットに横になって先程の模擬戦を振り返る。
「技術がなかったら太刀打ちできなかった」
身長・体重・力・早さで劣り、攻撃を逸らすことも、
「母さんの言う通り、これからも技術の研鑽に励むよ」
しっかりね。そういった母さんの笑顔が見えた気がした俺は、模擬戦の緊張と今日一日諸々の疲れからか寝入ってしまったのだった。
◇◆◇
案内に来てくれたのは、バベルの前でもあった人で名前はザルドさん。そんなザルドさんに起こされて食堂に向かった俺は、手招きするマキシムさんの隣に座らされた。
「よし、紹介するぞ。
マキシムさんが目配せするのに合わせて俺は立ち上がり、自己紹介を始める。
「今日オラリオに来たばかりで冒険者志望のパーシアスです。歳は9才で、ショートソードと盾を使った戦闘が得意です。外ですがゴブリンを倒した経験が何度かあります。しばらくの間、よろしくお願いします」
そういって頭を下げると、野太い歓声が湧き上がった。もしかして女の人は少ないファミリアなのかな?
「全員顔を覚えとけよ。まあ、間違いようもないか? とりあえずホームは勿論、宿舎にも出入りするから仲良くやれ。よし、食うか」
またしても野太い返事なのか歓声なのか判断しにくい声をあげる眷属達、そして自由気ままな夕食が始まり、マキシムさんもザルドさんも食い過ぎってくらいよく食べる。
「遠慮すんなよ、しっかり食わねえと育たんからな。冒険者は、体が資本なのはわかるだろ?」
「はい、遠慮なくいただきます」
「おう、食え食え」
そうはいっても俺は9才。食べれる量にも限界があるから、ゆっくり食事しながら彼らを見ていると、マキシムさんが話しかけてきた。
「今はこうだけどな、苦労してきたって奴も多い。だから、俺らは気になった」
「ええ、わかってますよ」
「ならいい。うちのファミリアに入るかはわからんが頼れる間は頼れ。ガキが遠慮すんなよ」
そういって笑うマキシムさんに、兄さんとか父さんがいたらこうなのかな、なんて思いながら返事をして夜は更けていった。
◇◆◇
元冒険者の母親はLV2からランクアップできず、技術の習得に励んだ過去があり、その経験は息子であるパーシアスに受け継がれた。すべてが鍛錬の成果であり、見聞きしただけでできるアルフィアのような天才ではないが、継続は力なりを体現し続ける限り成長は止まらない。
《戦闘技能》
【周辺視】
部位に集中して見るのではなく全体を観ることで行動の起こりを素早く察知し、そこから行動を予測する技能。観の目と呼ばれることも。
経験が増えれば増えるほど、相手を知れば知るほどに精度を増し、それはまるで未来予知のようなレベルまで磨き上げることも可能。
【カウンター】
周辺視だけによらず相手の行動を察知、もしくは誘導することで、相手の攻撃威力をこちらの攻撃威力に上乗せして反撃する高等技能。
剣術においては、後の先と呼ばれる技法であり、使いこなせれば一方的に攻撃することも可能になる。