作:ヒーラー
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オラリオの中でも外でも事件があったためにベルが派遣されて解決したこともあった。沼の王を倒し、外で活発に働いていた闇派閥を壊滅させ。ダンジョン攻略も進めていき順調にステータスを伸ばしていった。
そんな中でとうとうアイズの決闘から逃げられず、オッタルに許可を貰ってダンジョンで戦うことになった。今までは何とか逃げられたのだが今回は逃げられなかったのでダンジョン9階層で戦うことになる。
観客としてリリルカと春姫。ロキ・ファミリアからはベートだ。レベル6ということもあってベートが審判をすることとなる。
ベルは最近のスタイルである双剣を持ち、アイズはいつも通りデスペラートを構えていた。
「はじめ!」
合図と共に二人とも駆ける。
純粋なステータスではアイズは敵わない。ベルのレベルが7ということもあるが、彼はランクアップ前の段階で毎回ステータスがS999を超えてからランクアップをするようにしていた。そのためステータス貯金が山ほどあり、ただのレベル7よりもよっぽど強い。
速度だけなら都市最速と呼ばれるアレンに匹敵するほどだ。その速度をレベル6上位とはいえアイズではベルの速度に対応できなかった。そのため、彼女はすぐに魔法を使う。
「【
付与魔法。これによって速度も攻撃力も増す支援魔法だ。これによってステータス以上の能力で戦うことができる。これで速度はなんとか拮抗するようになる。だが力は確実にベルの方が上だ。
冒険者歴が長いアイズとしては、二年前に冒険者になったベルがここまで強くなった理由が知りたかった。アイズは小さい頃からずっとダンジョンに潜っている。だというのに今ではレベルを抜かされてしまった。
遠征を一緒に行ったこともあるのでベルの実力は疑っていない。強くなっているのは事実だ。その成長過程までは知らないが、最初の頃に見た頃は本当にただの下級冒険者だったのは事実だ。リヴィラにいたのでその時が初対面だったがその頃はリヴィラに来られるだけの実力にしか感じなかった。
だというのに時間が経つに連れてランクアップ報告が何度もギルドに掲げられる。その回数に、速さに。誰もが疑問を抱いた。おかしいと、速すぎると。何かを偽っていると。
レベル1が2にランクアップするまでの最短期間が一年だ。そのレコードホルダーだったアイズもファミリアの意向を破ってダンジョンに入り続けてモンスターを倒し続けて、かなりの無茶をして一年だ。
それが一ヶ月で壁を超え。その二ヶ月後には巨人殺しを為し。更にその四ヶ月後には遠征で大成果を挙げて帰還した。
この時に流石にギルドと神々が動いた。レベル2程度なら冒険者の中でも半数より上程度に当たる実力者なのでまだいい。だがレベル4となればオラリオ全体で見ても上位冒険者だ。ここまで早くランクアップできるのであればフレイヤが何かしたのではないかということでギルドと神々がフレイヤに問い質した。
フレイヤとしてはベルの恩恵に何も手を加えていない。だが成長スキルのことは隠したかった。そのためウラノスとガネーシャ、そしてヘルメスにだけベルの恩恵を開示し、フレイヤが何も恩恵を弄っていないことを証明してみせた。その三柱の言葉もあり溜飲を下げた神々だった。
ガネーシャとヘルメスは最悪魅了されていた可能性もあったが、ウラノスにその心配はない。ギルドを取り仕切っているウラノスが是としたので他の神々は引き下がるしかなかった。
そもそもギリシャの神であるウラノスとヘルメスからすればベルのスキルにあった『ヘラクレス』という単語だけで色々と察してしまったところがある。さすがゼウスの孫だと納得してしまったほどでもある。
神々が
フレイヤ・ファミリアの躍進もあってこの二年でランクアップした冒険者も多い。アイズもその一人で、ロキ・ファミリアの上位者ほとんどがランクアップしている。
フレイヤ・ファミリアに、
何故自分達はああなれないのかと。憎悪の向け先は人それぞれであれ、強い感情に支配された。
だからこそアイズはベルのことを知りたかった。何か特別な鍛錬方法があるのか、自分以上の無茶をしているのではないか。
黒龍を倒すために、誰もあのモンスターから奪われないように、力が必要だった。目指す目標があっても強くなるには時間がかかる。追い付けない。
自分の後ろを走っていた有望株は自分に追い付いてきた。そして先日、とうとう追い抜かれた。それはアイズにとって今までの自分の在り方を否定するような結果だった。
数多くのモンスターを屠ってきた。ファミリアを家族のように愛するようになれた。ファミリアの方針をなぞって連携を重視するようになった。一人だった時とは違う、仲間がたくさんできた。
だというのに上に立つファミリアの主義主張はまるで真逆で。遠征に行った際も連携ではなくあくまで効率的に殺すために利用するようなやり方ばかりで。隙さえあれば自分が成果を上げるために自分本位な行動をする者ばかりで困惑した。
だがそれが結果を出し、その我が功を奏して仲間を助けて速やかに脅威を排除していた。同じファミリアのはずなのに、同じ冒険者のはずなのに何もかもが違っていた。
わからないことだらけだ。わからないからこそ、知ろうとする。その結果がベルへの執着だった。
魔法の力を重ねがけし、速度も力も拮抗できるようにブーストをかける。魔法の重ねがけによって強くなったアイズに対抗するためにベルも魔法を使った。
「【ファイアボルト】!」
詠唱もないこの速攻魔法、これは様々な使いようがある。別に手から出す必要もなく、ベルの認識した場所からならどこからでも出せる。そして唱えたからといって即座に射出されることもなくキープもできて、剣や拳に纏わせることもできた。
剣先から射出するもよし、ベルの足から出しても良いし、目から出しても良い。言葉だけで留めておいて相手がガードしようとして結局出てこず困惑している内に放っても良いという応用性の多い魔法だった。
今回はベルがアイズの剣を受け止めたのと同時にアイズの真横から射出したためにアイズが吹っ飛ばされる。この速攻魔法は習得した直後はあまり威力のない魔法だったが、魔力のステータスを貯金しまくり、レベル7となったベルから放たれるこの魔法はそんじょそこらの大魔法と遜色ない威力が出る。
その証拠に体に纏っていた風ごと吹き飛ばされてアイズは全身が燃えており、その上で風がなければ大ダメージを負っていたとわかるほどに大きな炎だった。
吹き飛んだ隙をベルは見逃さない。足から放ったファイヤボルトで加速し、アイズの目の前に現れたベルは彼女を上段に蹴り飛ばす。蹴り飛ばされて宙に浮いた彼女の上を取り、双剣をクロスさせたベルはそのまま振り落としてアイズを地面に叩きつけた。
剣先をアイズの端正な顔へ向ける。これは模擬戦だ。ここまでで十分だとベルは判断した。審判のベートもここまでだと手を上げる。
「勝者、ベル・クラネル」
「ありがとうございました。アイズさん、立てますか?無理そうだったらフィリオさんのハイポーションをお渡ししますが……」
「……ううん、大丈夫」
「バカ、貰っておけ。オレがババアに怒られるだろうが」
リリルカからポーションを受け取ったベートがアイズへ手渡す。こんな模擬戦で怪我をして帰ってきたとなったらファミリアの幹部に総出で締められる。それだけアイズはファミリアで愛されているのだ。無駄に怪我を負ったままアイズを連れ帰るつもりはなかった。
アイズはポーションを飲み干した後、何故ここまでベルに執着したのか。模擬戦とはいえ本気で戦って負けたのに清々しいのか。
その理由に納得できたのか、父親の言葉を思い出して納得していた。
(お父さん、お母さん。みつけたよ、わたしだけの英雄)
「ベル、すき。あなたがわたしの英雄だったんだね」
「はい?」
「は?」
至近距離で聞いていたベルとベートは模擬戦終わりの言葉としては場違いすぎるその言葉の意味が受け入れられなかった。特にアイズに家族愛以上の感情を抱いているベートとしてはそれを理性が受け止められなかった。
少し離れていた場所で聞いていた春姫は告白の場面を見てしまったと頬を染めて恥ずかしがり、リリルカはこんな場所で何を言っているんだと呆れていた。
そもそもフレイヤ・ファミリアに所属する者は男女問わず心に決めた者がいるのだ。それは魅了を使われていないリリルカも春姫も例外ではない。
誰も言葉を発しない微妙な空気になったので仕方がなく、リリルカがコホンと咳払いをしてベルへ返事を促す。
「ベル。この空気をさっさと終わらせてください」
「あ、えっと。ごめんなさい、アイズさん。僕は心に決めた人がいるので……」
一柱と、最近はもう一人増えてしまったがベルが愛しているのはその二人だ。だからそれ以外の女性の愛を受け入れられない。
それとベルとしてはアイズは確かに綺麗な人だが何故か淡々とよく絡まれる敵対派閥の相手ということでちょっと苦手意識がある人物でもある。だから付き合えないとはっきり告げた。
その返事にアイズの中の幼女がガーン!と効果音を立てながら口を開けている。
ベートからしても、他の女性陣からしても、それはそうだよなという感じだった。フレイヤに心を砕いていない団員などいないのだから。
この模擬戦の後、アイズは何かに目覚めたのか。超えるべき壁を再認識したのか。
ロキ・ファミリアでは四人目のレベル7へとなっていた。
・
「フィリオ。ランクアップおめでとうニャ」
「ああ。ありがとう、アーニャ」
アイズとベルが模擬戦をしている真昼間。フィリオはほぼ貸切状態の『豊穣の女主人』でアーニャを相席にしてお酒を嗜んでいた。
ギルドの公表ではレベル6になったという扱いだが、ようやくレベル9になれた。ドッペルゲンガーによるアルフィアを倒しただけでは偉業にカウントされず、オッタル含むランクアップしたばかりの人間と一部の異端児を連れて少人数による再度の75階層までのダンジョンアタックでドッペルゲンガーがザルドに変わり、それを倒したことで偉業となったわけだ。
オッタルとフィリオという二大戦力がレベル8の壁を超えたために次の遠征では更なる深みへと進出できそうだとフィリオは一安心していた。ダンジョンの階層で過去の自分達を超えるだけでは足りず、最後の信頼できる家族を倒してこそ偉業と認められるのだと改めて恩恵のわからなさを実感していた。
これで過去のゼウス・ヘラ・ファミリアくらいの総力を得られた。だがまだ追い付いただけだ。確実に黒龍を倒すのであればもう一・二段階は上を目指したい。
ただダンジョン攻略は時間がかかる。それにちょっと前のようにオラリオの外で世界の危機みたいなものが出てくるかもしれない。
だとするともっと簡単なランクアップの仕方がないものかと思っていたところにフィリオに最後の魔法が顕現した。それが戦うにはちょうどいいもので、人工迷宮で試すにはちょうど良いとファミリアの上層部と異端児をまた巻き込もうと考えていた。
「すまないな、ミア。こんな時間に来て」
「アンタは煩いのが嫌いなんだろう。ならちょっとくらいは融通する。それにアンタがいようと堂々と開店準備をさせてもらってるんだからいてもいなくても変わらないよ」
「ありがとう。君がいるから私達も気兼ねなくダンジョンに潜れる」
「はっ。一介の飲み屋には過剰な評価だ。あたしはあたしの店を守ってるだけだよ」
「それがありがたいと言っている」
シルの秘密を知っているのはこの店でもミアだけ。だからフィリオの会話を理解できる人間は誰もいない。
なんのこっちゃと思いながら首を傾げているアーニャはフロアに見えない人間のことが気になってミアに尋ねる。
「ミアかーちゃん、シルは?寝坊かニャ?」
「あの子は今日は休みだよ。だからアンタに買い物に行かせたんだろう?」
「あ、ニャるほど。シルが休みなら不味い賄いを食べなくて済むのニャ」
「彼女には散々アレンジをやめろと言っているんだがな。ミアの適量を完全に間違えているぞ」
「あたしだってアレを料理とは認めていないよ。好きな男でもできれば変わるかと思ったんだがねえ」
「それで料理が上手くなったらこの世に料理下手なんて一人残らず消えている」
シルに好きな人ができようが恋人ができようが伴侶ができようが、彼女のメシマズは不変だ。彼女がシルである限りメシマズのままだろう。
「しっかし、最近のアンタんところはどうしたんだい?ギルドの要請を受けてオラリオの外の厄介ごとを解決して、真面目にダンジョンに潜ってる。あのお転婆娘も外に行かないし、ようやく
「そうなる。彼女は安定期に入った。十五年前と比べても治安も良くなった。あとはひたすら鍛え上げるだけ。憂いもなくなったのだからこちらとしては満足だ」
「ふうん?そういうアンタはそういう相手はいないのかい?そろそろいい歳だろう」
「いい歳?誰も彼も結婚してないように思えるが?」
「そうさね。男も女も、結婚してない奴ばかりか」
オラリオの上位冒険者のほとんどは結婚をしていない。結婚よりも冒険や使命ばかりに目が眩み、身近な相手のことを蔑ろにしている。
フィリオはその認識があるのに、自分のことについては何もわかっていなかった。
ミアの微妙な援護も空振ったため、仕込みに戻る。
「フィリオはそういう欲がないのかニャ?最近は歓楽街がなくなったせいか、飲み屋でのセクハラも増えてるから男どもが厄介なのニャ」
「私にそういう欲はない。……しかし、歓楽街が潰れたことでそんな影響が出るとはな。神も人間も面倒なことだ。二年経ってそういうのが発散できる場所が再建されないために面倒なことになっているんだろうな。だがお前達なら問題なく撃退できるだろう?」
「そこは普通、心配してくれるところじゃないのかニャ?オラリオに帰って来る前はかなり心配してくれてたのに」
「小さな女の子が頑張っているかの確認くらいはするだろう。拾った責任もある。たとえ冒険者を辞めようと、生きているのならそれでいい。……最近のアーニャは楽しそうだ。ミアのお店が合っていたんだろう」
かなりの唐変木な回答に、店内にいた人間は全員呆れてしまった。アーニャが楽しそうなのはフィリオが会いに来てくれるからだ。他の客相手にはかなり雑な対応をしている。
その違いに、鈍チンなリューですら気付いているというのに。
だが、フィリオからすれば仕方がない部分がある。
彼は多種多様な精霊の残滓が形取ったものであり、一種の概念だ。人間の姿をしているが人間ではなく、そして多数の懺悔と記憶と人格が織り混ざった、多重人格精霊と言える。
多数の混ざり物であるために、明確な自我というのはゼウス・ファミリアにいた時に好きに過ごしていた時の一つの人格だけ。その後恩恵を失い、ヘルメスの眷属として世界の尻拭いをして、改めて精霊を吸収したためにフィリオという人格はかなり薄まっている。
彼の大部分を占めるのは精霊の懺悔だ。救世こそが主眼にあり、それ以外については酷く興味が薄い。
今もアーニャを気にしているのは昔拾った子供だということと、今の主神が長く存在する場所なので安全かどうかを確認しているだけだ。
人間のような性欲など浮かぶはずもない。一応男性の形をしているが、彼は無性だ。そもそも精霊に性別などなく、そこで子供を成すための行為に思い当たれという方が在り方からして残酷なことだった。
だが、この場にいる人間は誰もフィリオが精霊だと知らない。だから鈍感だと決めつけてしまう。
事情を知っているフレイヤだけは何も言わなかった。アーニャに会いに行けとも言わず、好きに過ごせと伝えてある。
彼は使命のことしか頭に残っていない。周りの言う人間性がいつまで確保されているか、それすらわからない。
外見も言動も、人間に見えてしまうからこそのすれ違い。この溝は一生埋まるわけがない。
精霊は神に遣わされる存在で。
あくまで人類を助けるための、道具で分身でしかないのだから。