ゼウスとヘラの最後の眷属がダンジョンに舞い戻るのは間違っているだろうか


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作:ヒーラー
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5 交流


 フィリオがオラリオに戻ってきてから二年が経った。

 この二年でオラリオの秩序はとても良くなった。闇派閥とそれに関わるとされるグレーなファミリアの摘発が終わり、ダンジョン攻略を邪魔する存在が激減したからだ。中小ファミリアの小さな諍いはまだまだあるものの、そんな木っ端なことはガネーシャ・ファミリアやギルドに全部投げていた。

 最強のファミリアたるフレイヤ・ファミリアともなるとダンジョン攻略やオラリオ外での面倒なモンスターの排除などの依頼に忙殺されていて小さな事件に関わる余裕がなかった。

 『豊穣の女主人』では最近遠征で帰ってきたオラリオトップのファミリアであるフレイヤ・ファミリアの話題でいっぱいだった。

 

「聞いたか?とうとう奴等、75階層まで踏破したらしい。ゼウスとヘラを超えやがった」

「一つのファミリアでそれは凄いよなぁ。歓楽街が潰れる事件以降、あそこの快進撃は止まらねえ。いや、そりゃあそんな深くまで潜ってたらランクアップもしやすいんだろうけどよ」

「でもまだ()()()9()はオッタルだけらしい。ヘラに追いついただけやべえけどな?」

「レベル8も複数いるじゃねえか。ロキ・ファミリアもレベル7が三人にレベル6は増えたみたいだけど、総力では確実にフレイヤ様一強だよなぁ」

「そのせいで誰も戦争遊戯を仕掛けない。勝てっこないからな」

 

 昼間から飲んだくれている連中は噂話が好きなのかどこからか仕入れてきた話をしている。男神も店員にちょっかいをかけながら仕入れた情報を流している。

 

「シルちゃんがイチオシにしてるベルきゅんヤバくない?一月でランクアップしたのは驚いたけど、もうレベル6だよ?二年で五回もランクアップとかどうなってるの?」

「でしょう?ベルさんは凄いんです!三人パーティーでのゴライアス討伐。遠征でのバロールへのラストアタック。未知のモンスターの撃破。そして、黒いミノタウロスという推定レベル8との引き分け。偉業としては素晴らしい内容ってことですよね!」

「俺も神だからさあ。そんなことを見せられたら偉業として認定しちゃうよね。しかも最後のやつなんて異端児(ゼノス)っていうオマケ付きだ。その異端児に元人工迷宮を与えて、いざとなれば遠征に参加させる?そんで今回は本当に一緒に遠征に行ったって?モンスターとの融和を成し遂げたなんて、それだって偉業だぜ?」

 

 フレイヤ・ファミリアを語る上で外せないのが【跳躍者(ニュー・オーダー)】ベル・クラネルだ。歴代のランクアップ期間を全て最速で塗り替えて、こなした偉業は全ての神が納得してしまうもの。

 レベル1が二人、レベル2が一人のパーティーでレベル4相当のゴライアスに勝てるのか。

 レベル3が49階層の階層主であるバロールに果敢に攻め込めるだろうか。

 ダンジョンから産まれた魔法が効かない未知の骨のモンスターに左腕を欠損したとして四体も撃破できるだろうか。

 不倶戴天の敵であった喋るモンスターと、友達になろうとできるだろうか。そしてそんな異端児が認められるためにと仕掛けてきた勝負でレベル8相当の怪物と一対一で引き分けることができるだろうか。

 二年前までひよっこだった少年は、まだ少年の面影を残しているが都市でも屈指の実力と知名度を誇る勇士へと変貌していた。

 そんな彼に負けてたまるかと奮起した団員がどれだけいたことか。ファミリア総出の遠征も増えてかなりの深層に潜ることも多くなったのでフレイヤ・ファミリアの総力はかなり上がった。レベル6になっても幹部になれないと言えば質と量による暴力がひどいことになっていると察せるだろう。

 フレイヤ・ファミリアが強くなった要因はやはりダンジョン攻略が進んだこととファミリア内での殺し合いによる競争で死者が出ないように治療ができる治癒術師が増えたためだ。フィリオがいない時は自分の分身たる微精霊に団員達へ治癒魔法の指導をしていたために治癒魔法が向上。

 よっぽどの即死でなければ治癒できる軍団が出来上がったために特訓の効率も上がる。そうやって全体的に能力が向上していき、入団を考える者も強さを求めるために才能溢れる人間が多くなり、一層ファミリアは大きくなっていった。

 

「【跳躍者】のパーティーもレベル4と3だって言うじゃねえか。同時期に入団した奴がそこまで強くなるのはフレイヤ・ファミリアが凄いのか、ノウハウが出来上がったから育てやすくなったのか、才能人が集まったのか。シルちゃんはどう思う?」

「フレイヤ・ファミリアは入団条件で必ずフレイヤ様に会うようですし、フレイヤ様の心眼が素晴らしいということでは?入団を断られたって泣きに来るお客さんも多いですし」

「そうなあ。フレイヤ様の目は神の中でも一際特別だ。魂の色なんて普通見えねえよ。そういうので判断してんのかねえ」

 

 男神はジョッキに入ったエールを流し込む。

 神の中でも位というものがある。大神と呼ばれる存在から名前も知られないような末端の神まで様々だ。フレイヤは北欧神話の中でもメジャーな存在だ。だがオーディンのようなトップとは一歩劣る。それでもギリシャ神話で有名なゼウス・へラを超える成果を挙げたことは他の神々からしても驚きだ。

 それほどまでに神の位が為す結果は素晴らしいものだった。もちろん負の部分も多いので大神に分類されても趣味を優先していれば結果を残せない存在も多い。だが好き勝手に生きるのが神の在り方だ。本当に救世を考えているのは各神話のトップ層だけだろう。

 

「あ、そうだ。シルちゃんはこんな噂話を知ってる?何でも【跳躍者】は元ヘラ・ファミリアらしいってやつ」

「ベルさんが?でもそれって年齢が合わなくありませんか?ベルさんは今年十四歳。ヘラ・ファミリアがオラリオから追放されたのは十五年以上前のことですよね?」

「追放されても外でファミリアを作っちゃいけないって決めたわけでもないからなぁ。だから彼は外でヘラ・ファミリアとして過ごしてたんじゃないかって。それなら強いのも納得だ」

「外で鍛えたってことですか?でも外だとレベルが上がりにくいって聞きますよ?」

「だから最初はレベル1だったのさ。強くなる環境がなかった。でもダンジョンに潜ったおかげで加速度的に強くなった。どう?俺の推論」

「うーん。そんな噂が出るくらい、一ヶ月でのランクアップが異常だったってことですよね」

 

 所属しているファミリアによって強くなる才能が変わるのなら、強くなりたい人間は誰もがトップのファミリアにしか行かないだろう。その推論が合っているかどうかは、神々が確認すべきこと。もし神が恩恵に手を加えているのであればそれは明確なルール違反となる。

 シルは()()()()()()()()彼の突拍子もない成長速度については二つのスキルとその魂の輝き、そしてそれこそ確かな血筋と本人の才覚によるものだと知っている。彼の学習能力はズバ抜けており、教えれば教えるほど身につけていく。彼は様々な人物に師事し、使える武器が非常に多い。

 そして急激に上がるステータスへの適応も恐ろしく速い。徐々に新しい器に慣れていく人間が多い中、ランクアップ直後でも次のダンジョン攻略では十二分に動けて、その上がり続けるステータスにも即応していく。頻繁にランクアップしているのにその器に慣れる時間がとても短く一騎当千の活躍をされればランクアップを知っている者ほど驚く。

 

「後は突拍子もない話だけど、あの【静寂】の血縁者じゃないかってのもある。遊びで灰色のカツラをつけさせたら【静寂】そっくりで知ってる奴が泡吹いたらしい」

「ああ、オラリオで開かれた男女逆転祭りですね。ラキアの油断を誘うために大々的にふざけ倒したお祭りでしたっけ。私はお店で働いていたので見ていませんが、そんなにそっくりだったんですか?」

「だってよ〜。フレイヤ様が選んでたゴスロリファッションしてたんだぜ?俺達ならそんなおもしろ存在、弄るしかないだろ。彼は待機組だったし。俺は見てないけど」

「私は直接【静寂】さんを見たことないのでわかりませんが……。確か凄い人だったんですよね。その人もランクアップの速さが凄くて、レコードホルダーって誰かが言ってたような?」

「そうそう。だから母子共に成長速度が速いんじゃないかって」

 

 この推論は一部正しい。ベルとその女性は血縁関係があるが、母と子ではない。しかも面識もないのだ。

 だというのに比較をされてベルも困惑していた。

 その比較対象がオラリオでは闇派閥であった大罪人だ。フィリオからアルフィアとザルドの真実を聞いていたためにその二人に悪感情は抱いていないが、血縁関係だからといつかオラリオに牙を剥くのではないかと警戒されている。

 たとえ血縁関係があろうが考え方も生き方も別人だ。そのもう既にいない人を警戒し、今いる存在が何もしていないのに警戒する。

 これもひとえに、アルフィアもザルドもオラリオに楯突くような存在だとは思われないほどに英雄であったためだ。一度あったことは繰り返す。歴史が証明していると神々や頭の良い人間が警戒する。

 今のベルは理不尽に仲間が傷付けられたり、主神をバカにされなければオラリオを見限ることはない。少しくらい嫌な思いをしようが、黒龍討伐にダンジョンが必要だとわかっているからだ。

 

「血縁で全てが決まるのであればもう試されている神様も多いのでは?それこそ上位冒険者の方々にお相手をあてがったりとか、ギルドが率先してやりそうです」

「そうなんだよな。もう神々では結論が出てる。血縁では決まらない。恩恵は全員に残酷なまでに平等だ。才能が、生きる意志があればそれに応えてくれる。だが才能がなければ、判断を誤れば死ぬ。血だけで決まるわけがないんだ」

「スキルとか魔法のスロットとか、そこは多分才能ですもんね。才能がないとグリモアを使っても魔法が発現しないとか?」

「スロットが空いていないとそうなる。エルフでもスロットが少ない子やない子もいる。これはやっぱり本人の才覚だ。まあ、優秀な親を持つと子も優秀なのは生物学的には当然なんだが」

 

 ベルの評価は良く乱気流を起こす。

 為した偉業の偉大さ。その成長速度のおかしさ。出自の不明さ。などなどから粗探しをされて評価が一定にならない。間違いなく素晴らしい成果を上げているのに、それを認められない人間が多いのだ。

 異端児との融和策も反対する者が多い。モンスターとは相容れないという人間は多いのだ。ダンジョンで死んだほとんどの冒険者はモンスターに殺されていることが多い。そうなるといくら話せて心があるからと言ってモンスターと仲良くできる人間ばかりではない。

 今回の異端児を含めた遠征でどういう評価をされるか。

 今では異端児の中でもおとなしいタイプは地上で人間のように働いていたりする。ミュージカルに出てくる者もいれば飲食店で働いている者もいる。ギルドとガネーシャ・ファミリアが発行している腕章をつけていれば襲われない限り襲わないと制約をつけて働いているのだ。

 テイムされたモンスターよりもよっぽど賢いことと、本人達が働きたいと意欲的なためにそこらへんの人間よりもよっぽど働き者だった。彼らの夢である青空を見ることが叶う上にお給金も貰えて好きな物を買えるという人間的な生活ができるのだ。

 様々な決め事によって行動も縛られるものの、今の所は問題なく生活できている。日々の生活でそうやって浸透している異端児が本領である戦うことについてどこまで信用できるか。

 これが認められれば異端児とベルへの扱いもだいぶ改善されるだろう。

 

 

 ベルが遠征から帰ってきて、ホームに帰ろうとする前。

 ギルドで知り合いに出会った。アイズだ。ベルのランクアップが速かったために目をつけられて一緒に修行しようだのと声をかけられて話すようになった。だが他ファミリアの人間であるために一緒に修行をしたことがない。

 たまにロキ・ファミリアから数人だけ遠征に組み込まれて共闘することもあるが、フレイヤ・ファミリアとロキ・ファミリアの仲が良くなったわけではない。ロキ・ファミリアの遠征にフレイヤ・ファミリアから人員を出すこともなく、フレイヤ・ファミリアの遠征にそれなりに戦える人間が付いてくるだけだ。

 アイズが遠征に来るとベルの成長の秘密を探ろうとしてきてよく絡まれる。フィリオの回復魔法の異常さは既に知られているのでその魔法の恩恵を受けて無茶なダンジョンアタックを何度もしている成果なのだが、そこまで伝えることはない。とにかく遠征についていって頑張った結果だとしか言えなかった。

 今回の遠征でロキ・ファミリアで一緒だったのはベート一人。異端児が共闘できる存在かどうかを確認するために派遣された唯一の眷属だった。仲間外れにされたと思ったアイズはギルドでベルを待ち伏せにしていた。

 

「ベル。おかえり。ジャガ丸あげるから戦おう」

「えっと、アイズさん?僕、遠征から帰ったばかりだから今日くらいは休みたいなぁって」

「うん。だからジャガ丸くん食べて休んだら戦おう?」

 

 彼女からすれば美味しいものを、しかも世界で一番美味しい物を食べたのだからそれで疲労なんて吹っ飛ぶと考えている。彼女なりにベルの体調も慮っているのだ。まるでそう聞こえないが。

 これもいつものことになってきたのでベルの近くにいた小人族の少女が声をかける。彼女の背中には彼女よりも長くて大きい馬上槍のようなスピアーランスとしてかなり大型化された物を背にして割って入る。

 

「【剣姫】様。ベルは本人の言うように疲れています。せめて明日にしてくださいませんか?」

「【聖光(リトルライト)】……。遠征で戦えなかったから、私は我慢してる」

「ベルなら今日のうちに恩恵の更新をされるでしょうから、明日の方が強いですよ?」

「……!わかった。でもジャガ丸くんは食べるべき。明日は万全の状態であってほしい」

「あ、はい。じゃあ後で買いに行きます」

 

 買わないと言ったら強制的に屋台へ連れられることを知っているのでベルもそう言う。実際に買いに行くこともある。名物ということもあって美味しいのだ。

 アイズは納得してくれたようでベートと一緒に帰っていった。

 フレイヤ・ファミリアとしてもこのギルドで解散になる。今回の成果を換金する者、ギルドへ報告する者、ホームへ直帰する者、遊びや飲みに出かける者、様々だ。

 ベルはよくパーティーを組むリリルカと春姫と一緒にジャガ丸を買いに行く。神様がアルバイトをしている屋台だ。身長は子供並ながらその胸部は様々な女性が羨むほどのものを持っている、マスコットのように住民に愛されている神様だ。

 

「いらっしゃいませー!お、ベル君にリリルカ君に春姫君じゃないか!遠征から帰ってきてたのかい?」

「はい、ヘスティア様。今日帰ってきました。ジャガ丸のプレーンを三つください」

「はいよー!ちょっと待っててね」

 

 彼女はすぐに揚げたてを用意してくれる。一人一個ずつということで、もらってすぐに食いつく。揚げたてじゃなくても美味しいが、揚げたては別格だ。

 食べながらリリルカがふと思い出したかのようにヘスティアへ問いかける。

 

「そういえば神様。眷属探しの方はどうされたのですか?前に聞いてから一月は経ちましたが」

「ふっ。リリルカ君、それは言わない約束だぜ。……フィリオ君とベル君があの教会の修繕費を出してくれたけど、ウチには実績がないから志望者が来てくれないんだよ!」

「ああ。ベル様、フレイヤ様に怒られていましたね。他の女神様に融資なんてしないでって」

「だって、お母さん達の大事な場所だったって言うし。フィリオさんは怒られないで僕だけ怒られるのは理不尽じゃないかなあ?」

 

 三人はアイズのせいでよく来るようになったジャガ丸の屋台で神ヘスティアと交友を深めていた。善神だけあって話していて苦にならない。それに今彼女はベルの母親と叔母が大事にしていた教会に住んでいることもあってそこそこに話す仲になっていた。

 その教会を見た時にあまりにもボロボロだったためにベルとフィリオが修繕費を払ってゴブニュ・ファミリアに修繕の依頼をしたのだ。そのおかげで中も外も立派な教会になり、ヘスティアは満足のいく生活をしている。

 眷属がいないのでアルバイト三昧だが。

 ベルが修繕費を出したことがフレイヤには面白くなかったようで詰められたことを春姫が指摘するとベルは苦笑した。同じくお金を出したフィリオは怒られていないのだ。

 まあ、怒られた後にベッドに行ったら機嫌は直ったのでひとまずそれでいいはずだ。

 

「ああ、そうそう。とうとうベル君がヘラの子供だってバレたみたいだぜ?神々はそれで話題が持ちきりだ。君達の今回の遠征の成果が発表されたらどうなるかわからないけど、今はその話題ばっかり」

「うーん。それ、僕としては微妙なんですよ。恩恵をいただいたのは間違いなくフレイヤ様が初めてですし、お母さん達がヘラ・ファミリアに所属していたからって会ったことのない女神様の子供って言われても実感がなくて」

「何か聞かれたら否定すればいいさ。会ったこともありませんって。それが本当なんだからそれで神は納得する。お金はいつか返すから気長に待っててくれると助かるかな」

「融資とは言いましたけど、返さなくていいですよ。お母さんの手記とかが残っていたのでそれで十分です。フィリオさんもそう言ってませんでしたか?」

「彼はなぁ。バカ弟の眷属だったからってボクに良くしてくれるよ。ゼウスには返しきれない恩があるからって。本神に返しなよって言っても会えないからとか理由つけてさあ。金はこれ以上受け取らないって言ったら食材持って来るんだぜ?どうなってるの?」

「「「うわぁ」」」

 

 三人ともヘスティアの言葉でフィリオの過保護を思い出して嘆息する。

 フィリオは一度身内と認めた存在にだだ甘だ。彼がゼウス最後の眷属として甘やかされてきたからか、身内には本当に甘い。ベル達三人もよくしてもらっているし、ゼウスの姉ともなれば色々と手助けをしたくなるのだろう。

 

「屋台で売れ残りそうだったらジャガ丸も買い切ってくれるし。彼ってそんなにジャガ丸好きなの?」

「いえ。それはウチのホームで夕食に出されていますね。たまにあるジャガ丸の山盛りはそういうことでしたか……」

「フィリオ様はお金が余っているようで。武器などは更新しないようなのでファミリアから貰えるお金が余ってしょうがないと話していたような……?」

「ええー?冒険者って何かと要り用だって聞くぜ?ヘファイストスの武器とか高いし、ポーションとかも必要だろ?よくここに来る冒険者の子も借金があるからダンジョンに潜らないとってよく呟いてるぜ?」

「フレイヤ・ファミリアの報酬はかなり高いので、駆け出しが無理をしない限りは金欠になることはありませんね。食費と治療費が大体浮くので武器の調達と整備費、それにポーションをいくつか買うくらいなので借金をしたことはありません」

「私もそこまで困ったことは……」

「僕もですね。僕達の場合は専属契約している鍛治師がお金よりもドロップアイテムをくれって言う人なので、遠征に行って持って帰ってきたアイテムを渡せばほぼタダで整備も製作もしてくれて」

「さすがトップファミリアは裕福だねえ。それも君達がダンジョンで頑張ってるからだろうけど」

 

 フレイヤ・ファミリアはステータスによってお給金が変わる。ステータスとファミリアの貢献度や役職によって増額されるが、基本給が高いのでお金は貯まる一方だ。食事は外食をしなければファミリアでタダで食べられるし、住居もホームにある。

 グリモアや第一級兵装が欲しいとかではなければダンジョンへ稼ぎに潜るということもしない。ダンジョンに潜るのは自分を鍛えるためであり、お金はついでだ。ここまで余裕のあるファミリアはフレイヤ・ファミリアだけ。

 かつてゼウスとヘラ・ファミリアしか潜れなかったダンジョンの深層に潜れるようになったために、希少素材を売却できることから財政は安定。高レベル冒険者を多数抱えているためにギルドへ多額の税を払っているがそれでも余裕でお釣りが来るほどの収支を得ている。

 そこそこヘスティアと話した後は彼らの専属鍛治師である男の作業場へ向かった。今回得たドロップアイテムを渡すついでに磨耗した武器の整備を頼むためだ。

 

「お、ベル!リリスケに春姫も。遠征お疲れさん」

「ヴェルフ、ただいま。早速ドロップアイテムの説明をしていくね」

 

 遠征で手に入れたドロップアイテムは倒した人間が持って帰っていいことになっていた。小遣い稼ぎのようなものだ。魔石は全てファミリアとしてギルドに売却し、それらが給金になる。それ以外のドロップアイテムの扱いは個々人に委ねられていた。

 普通に売る人間もいれば、ベル達みたいに武器の強化に使う人間もいる。

 深層のどんなモンスターのどの部位かという話をして、ヴェルフからの質問に答えているとすっかり陽が落ちてしまった。ドロップアイテムの数々から今回の整備費も強化費もタダ。ギルドに売れば億を超えるドロップアイテムをタダでもらってしまっているので、ヴェルフができることは金銭を受け取らずに最高の装備を作るだけだ。

 

「でもヴェルフ、いいの?最近は顧客も増えてきたんでしょ?」

「他のはお前らが遠征に行ってる間に全部済ませてある。お前らのが一番デカイ仕事なんだからこっちを優先するだけだ。金のことも気にすんなよ。それなりに売れて金はあるんだ」

「わかったよ。じゃあその仕事が終わったらまた飲みに行こう」

「『豊穣の女主人』はやめてくれ。あの店員さんがずっといるせいでお前達と飲んでる感じがしない」

「適当に空いているお店に行くのも良いかもね。じゃあよろしく」

「おう。任せろ」

 

 これがここ最近のベルの日常。何度も繰り返されたやり取り。

 でも、これじゃあいけない。黒龍という脅威を知っている。かつての最強が届かなかった最悪のモンスター。

 それを倒すためにはまだレベル6なんて浅い場所に留まっているわけにはいかないのだ。

 その夜。

 ベルはフレイヤのベッドで更新をしてもらった後に夜更けまで愉しんだ後、更新の結果を改めて聞いていた。そのステータスになった理由を、遠征の内容をフレイヤがベルを胸で抱きながら聞き続けた。

 

「ふうん?ドッペルゲンガーが階層主、ねえ」

「はい。最初はただの黒い影だったんです。それから僕を見た途端姿が変わって。……アルフィアさんに変わったんです」

「【静寂】に?」

「はい。魔法とかもそっくりだったようで。74階層を突破したら75階層はセーフティーゾーンだったのでおそらくそのドッペルゲンガーが階層主だったみたいです。小さかったんですけど魔石は人くらい大きくて。ドロップアイテムはありませんでしたけど、どの階層主よりも大きな魔石でした」

「そう。血縁者を乗り越えた。だから偉業として認識されたのね」

 

 ベルにあるスキル『十二の栄光(ディア・ヘラクレス)』は神の試練を越えれば成長補正がかかると書いてある。だがそもそも神が認めた試練を突破したのであれば偉業を経たとしてランクアップの資格を得る。

 ベルの場合はランクアップしたばかりだったとしても、ランクアップに相応しいステータスまで一気に引き上げられる。それがこの『十二の栄光(ディア・ヘラクレス)』というスキルの正体だ。だからランクアップしたばかりだとしても偉業と呼べるような神の試練を連続で突破すれば即座にランクアップできるという破格のスキル。

 わざわざステータスを伸ばさずともそこまで体を変革させるのがこのスキルの真骨頂だ。

 今もベルのステータスはトータル3000オーバーというあり得ない上昇を見せている。どのステータスも上限たるS999を突破してしまい、急激なる変化を見せていた。

 このステータスの暴力に今ではフレイヤはされるがまま。もうしばらく二人で楽しみたかったが人数を増やそうかと考え始める始末。

 そしてランクアップ可能だからといって即座にランクアップはさせなかった。それくらいこのステータスの伸びは異常で、しかも高ランクの冒険者からすれば10そこらのステータスの上昇でも大きな変化がある。それが今回は3000オーバーともなるとベルの身体能力は飛躍どころではないほどに上昇している。

 その体に慣れていないのに次の器にするのは危険だ。だから今日は更新だけでランクアップはしない。

 

「今日武器を預けてきたんでしょう?仮の武器で潜れるところまで潜ってまた身体を慣らしてきなさい」

「はい……。でも、まだレベル7かあ」

「まだ、なんてベルは強情なのね。二年前はオラリオにもレベル7なんてオッタル一人しかいなかったのに」

「レベル7が沢山いたゼウス様とヘラ様のファミリアが勝てなかった怪物。才禍の怪物と呼ばれた叔母さんですらあり得ないと言うほどです。やっと叔母さんに追いついただけ。これじゃあ、黒龍には勝てない」

「そうね。もっともっと強くならなくちゃ。私の可愛いベル、その想いがあなたを強くするわ。でも頑張るのはまた明日。今日はゆっくり休みなさい」

「……もっと、フレイヤ様に甘えて良いですか?」

「もちろん、良いわよ。いらっしゃい」

 

 その蠱惑的な笑みに、濡れすぼったその体躯に。抱き締められて感じていた体温に、匂いに。

 ベルは自分の願望を曝け出す。結局また、ベルはフレイヤに溺れていった。

 

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