ゼウスとヘラの最後の眷属がダンジョンに舞い戻るのは間違っているだろうか


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作:ヒーラー
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4 協議


 フレイヤとイシュタルの抗争はその日の内に終結。歓楽街から見付かった闇派閥の情報から緊急で開かれた神会によりイシュタルは送還。関わりのあるファミリアも一斉に検挙され、いくつかのファミリアが潰れた。ロキとガネーシャ・ファミリアを中心に闇派閥の残党狩りも行われ、オラリオの平穏が一歩近付いた。

 フレイヤがどうやってイシュタルの暴挙を把握できたのかという点はヘルメスに全てをぶん投げた。フレイヤとしては歓楽街はオマケ。本命は人工迷宮にいた穢れた精霊だ。その討伐が上手くいったとフィリオから聞いているので地上でのあれこれなんてフレイヤにとってただの雑音だ。

 暇潰しとして潰したファミリアの中に面白そうな眷属がいないかと確認して、たまたま目に着いた二人をファミリアに加えていた。レベルブーストという希少な魔法を覚えている狐人と、魂の輝きが環境によってくすんでいたサポーターの小人族へ魅了をかけずにひとまず引き取ることにした。

 サポーターなどというもったいない使い方はしない。彼女達は戦力になる。そのためベルと一緒に何人かのパーティーを組ませて上層階へのアタックをさせていた。

 そんな現況の確認を、フィリオが飛ばしてきた微精霊を通して行なっていた。

 

「それで、穢れた精霊を倒したらあなたの力はまた強くなったのかしら?」

「ああ。私は個となれない精霊の集合体だ。彼らを回収したことでランクアップも見えてきた。オッタル達も期待して良いだろう」

「それは楽しみね。そうそう、ベルに新しいスキルが出たわ。歓楽街でレベルの違いを認識したのかしらね?成長促進スキルよ。これって前例はある?」

「……聞いたことがないな。ゼウス・ヘラ・ファミリアでもおそらく出たことのないレアスキルだ。デメリットは?」

「英雄になるまでしか効果が持続しないわ。あの子はもう黒龍を知っている。お望みの英雄の誕生よ?」

「そう導いてくれ。……人殺しを悔やんでいないか?あの子はまだ十二歳。ただの村の子供だったんだ」

 

 フレイヤはベルのことならなんでもお見通しなフィリオにため息をつく。彼とてベルとの関わりは短いはずなのに離れたベルの状態を完全に把握していたのは嫉妬してしまう。

 フィリオが精霊の集合体とはいえ、色々と規格外がすぎる。

 

「最初は人を斬ったと消沈してたけど、私が慰めたし助けた人達の声を聞いて立ち直ったわ。相手が悪いというのもあって今回は大丈夫ね。でもこれ以降は悪い人もほとんど出てこないでしょう。出てきたとしてももうウチに手は出してこないわよ。オッタル達がランクアップするならもう都市で喧嘩売ってくる人はいないでしょう」

「レベル8という指標は大きい。これで喧嘩を売ってきたらただの馬鹿だろう」

「それで今は50階層なのよね?一週間くらいかしら?」

「ああ。それくらいで帰る。帰ったらオッタル達の更新を頼む」

「ええ。楽しみに待っているわ」

 

 フレイヤの元から小さい光が消える。フィリオの元に微精霊が帰った証拠だ。

 これからフレイヤはギルドに行ってランクアップの報告と主力達が何故ダンジョンに行ったのかを説明しなければならなかった。

 歓楽街でたくさんの格上を倒したからか、レベル2と3の大多数がランクアップ。その他にもステータスが大きく上がり、特にフリュネの討伐に関わった冒険者はかなりステータスを伸ばすことができた。

 ベルもレベル5を足止めしたことが偉業にカウントされたのか、ランクアップは可能になっていた。だが魔力のステータスなどまだまだ伸ばせそうだったので今は上層階でステータスを上げている最中だ。新しく入団した二人の育成もあるのでもうしばらくステータス上げをさせてからベルのランクアップは行われる。

 フレイヤがギルドの大会議室に辿り着くと、ロキとガネーシャ、それにギルド長のロイマンが既に席に座っていた。各々の護衛もいる中、フレイヤは一番遅くに来たことを謝りもせずに優雅に座る。

 その態度が気に食わなかったのか、ロキが舌打ちをしてから突っかかった。

 

「フレイヤ、話してもらうで。主力達は本当に遠征に行ったんか?」

「そうね。もうネタバラシをして良いかしら。あの子達には闇派閥を潰してもらっていたわ。人工迷宮のダンジョン側。そこを潰してもらった」

「……神フレイヤ。それはファミリア同士で協力したり、ギルドへ報告できなかったのだろうか?」

 

 中立の立場としてギルドからロイマンがそう尋ねる。

 だがフレイヤはそれに取り合わない。

 

「大人数を動かしたら相手に察知されてしまうでしょう?それに同じファミリアならまだしも、一度も手を組んだことのないロキやガネーシャと合わせられると思う?それなら少人数で挑む方がマシよ。それと60階層に用事があったのも事実。そこまで着いてこられる団員をこっちに無償で貸してくれるのかしら?準備もままならないのなら足手纏いでしかないわ」

「ガネーシャもそう思う!そもそもそんな大人数を地上から連れて行ったらこちら側に残っている闇派閥が動いたかもしれんしな!」

「ガネーシャのところは残して、ウチとだけでも組めなかったんかいな?遠征の話だってしてくれれば……」

「無理よ。私も知ったのは二週間ちょっと前のこと。それにこういうのは短期決戦であるべきよ。あなた達と調整している間に時間はなくなるわ。調整している間に相手に知られたら終わり。だから歓楽街っていう陽動をしつつ少人数を注ぎ込むしかなかったのよ」

 

 ヘルメスと関わったことでロキには知られてしまったが、それは言い訳の通り魔導具の提供を受けていたと言えば終わりだ。それとヘルメスにはフィリオのことについて口止めをしなければならなかったので話す理由もあった。

 ヘルメスとしてもレベル8の眷属がいたことをギルドに黙っていたのでこれは利害の一致であるのと同時にギルドにだけは知られてはいけないことだった。

 

「情報源はフィリオ、ですか」

「察しが良いわね、ロイマン。そうよ、外で活動していたフィリオが知った情報。それを元に歓楽街の調査と人工迷宮の存在を知ったけど、これを話してあなた達はどれだけ理解して動いてくれるかしら?外に逃げられたら黒龍退治の時にも邪魔をしてくるかもしれない。潰すなら情報アドバンテージがある内に速やかに行わなければならなかったのよ」

 

 ゼウス・ファミリアというのは末端までおかしい連中だった。その実感があったためにロイマンはこうまでフレイヤが動いたのはフィリオのせいだと察していた。

 当時十三歳ながらオラリオ最高の治癒術師とまで称された少年だ。それが大人になって、どんな影響があるか。レベルが3のままだろうが治癒術師として彼に敵う者はいないとロイマンは思っていたのに、レベル8になったと知れば卒倒するだろう。

 彼はスキルのおかげでヘルメスと契約した瞬間レベル6になった。そこからオラリオの外の脅威をアルテミスやアフロディーテと協力して沈めていった結果レベル8となったのだ。ザルドとアルフィアが死んだことで加算されたステータスも大きい。

 だがそんなデメリットのあるスキルの存在を知らなければ外でレベル8になったなどと信じられないだろう。だからフレイヤもフィリオもレベルを詐称する。

 

「フレイヤ。俺の眷属が人工迷宮で人が暴れたとは思えないほどの破壊痕を見たという。死体もたくさんあった。闇派閥を倒していたとして、どれだけの規模だったんだ?一応神を何柱か捕まえてはいるが」

「私が知る限りは三つのファミリアよ。それ以上は知らないわ。ウチの子達は全てを蹴散らして人工迷宮を全部攻略して、その後闇派閥が60階層に残してきた怪物を倒しに行ったはずよ。それ以上はあの子達が帰ってこないとわからないわね」

「60⁉︎そんなところに闇派閥が潜れるわけあらんやろ!」

「それはあなたの見解だと、という話でしかないわ。ゼウス・ヘラに抑えられていた闇派閥はいくらでもいるってフィリオが話してくれた。それも深層で戦ったこともあるそうよ。その残党の残り滓、とも言っていた。だからひとまず60階層に行ってもらってそれ以降はあの子達の調査結果を聞いて次第よ。もっと潜る必要があるのなら改めて遠征をするわ。構わないわね?ロイマン」

「その時も、申請を頼む。ダンジョン攻略は我々ギルドも望むところだ。できればロキ・ファミリアとも協力して欲しいが……」

「そこはロキ次第よ。組む理由があるのなら組むわ」

 

 その発言に眉を顰めたのはロキとガネーシャだ。

 今のオラリオで二大派閥と呼ばれているのはフレイヤとロキ。この二つで組まなければどこが組めるのか。

 フレイヤ以外にレベル6を有しているのはロキだけだ。それも三人もいる。レベル5も多く、質ならオラリオでも間違いなくトップに位置する。

 だというのにフレイヤはまるで今のロキとは組む価値がないと言ってのけたのだ。

 

「喧嘩売っとんのか?」

「いいえ?二大派閥と纏めて言われていようとも、私達とあなた達は水と油でしょう?ゼウスとヘラが仲良しでやっていけたのはあの二柱が夫婦だったからよ。そんな神の関係を超えるメリットが欲しいと言ってるの。そもそもウチは個人主義だから連携なんて特に難しいわよ?」

 

 フレイヤ・ファミリアはずっと個人主義だ。そしてロキ・ファミリアは連携を何よりも重視する。フィンという団長を頭にして戦う組織と、とにかく個人の力で戦うフレイヤ・ファミリアでは戦い方が異なる。

 そんな二ファミリアが協力して戦うのは難しいだろう。

 フレイヤ・ファミリアからすれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と憤ることだろう。

 ゼウス・ファミリアに所属していたフィリオでさえも同じ考えをしている。協力するつもりのない団体を無理に引き合わせても良い結果を産まない。フレイヤ・ファミリアが歩み寄るとしたらそれだけ強くならなければ無理だ。

 その強さも、フィリオが加わったことでダンジョンのより奥まで攻略できるようになったことで更に引き剥がされる。フィリオなしで彼らが這い上がるには何かしらの大きなきっかけが必要だろう。

 フィリオからすればそれこそが大抗争だと言うだろう。その結果が今だからこそ、彼はフレイヤに身を寄せた。まだ上を目指せそうなら他のファミリアにも入った可能性はある。アストレア・ファミリアとか。

 だがロキ・ファミリアと決定的に合わないところがフィリオにはある。救世についてどこまで本気かということだ。

 フレイヤ・ファミリアなら女神のためにと、女神が命じればダンジョンだろうが黒龍だろうが倒してくれる。

 しかしロキ・ファミリアを調査した段階ではフィリオはそこまで魅力的に思えなかった。団長が掲げるのは小人族の復興。ハイエルフが所属しているもののエルフの取り巻きを増やしているだけで有望そうなエルフは他二名だけ。しかも主神が顔の好みで入団者を決めているという。

 

 ロキ本神からしてもオラリオで頂点に立つことを目的にしているように見受けられる。バベルの頂点を所有し、都市最強の冒険者を擁するフレイヤを蹴落とそうと考えていると聞いて、そちら側が協力する気がないのなら一強に力を注ぐ方が賢いと判断したのだ。

 ロキ・ファミリアにも有望株はいる。だがフィリオは人を導くなんて真似は無理だ。【英雄達の船】でも【小人族の栄光】でもないのだ。ただの残光、過去から連綿と受け継いだ精霊達の後悔が合わさったフィリオという存在はディムと言う英雄を知るからこそフィンを認められない。

 ディムという英雄が立ち上がるにはフィオナとアルゴノォトという二人の英雄が必要だった。その二人がいれば目覚めるかもしれないが、そこまで悠長に動くつもりもない。

 たまたま【英雄の船】の輝きを見付けたからこそ、彼を強くするだけ。ジュピターと同じことをしているだけだ。

 そしてフィリオの中にはフィネガスという精霊の残滓も残っている。共に英雄時代を駆け、ダンジョンまでの道筋を切り拓いて人類の道標となった、あの輝かしき英雄時代の面影はどこに行ってしまったのかと、それも失望の要因だ。

 

「フレイヤ!たまにはウチの団員も遠征に連れていってくれると助かる!ファミリア全員というわけにはいかないが、強さを求めている団員もいる。俺達だけの遠征やギルドからの強制遠征だけでは物足りない団員もいるらしくてなあ。無理か?」

「少人数でしょう?別にそっちの子を守ったりはしないけど、それでも良いのなら別に構わないわ」

「助かる!」

「おおい!ウチとは協力できないって言ったその口でガネーシャとは協力するんかい⁉︎二枚舌じゃ効かへんぞ!」

「これがファミリア合同の遠征だったら断っていたわ。ウチとも確執のない子を数人程度なら受け入れるわよ。けどロキの子とは確執も多いし、色々と戦い方も違うでしょう?それに指揮を執るとしたらそっちの【勇者】になるんでしょうけど、ウチの子達がそれを許すと思う?大抗争みたいな全ファミリアが協力、なんて事態じゃなければウチの子達は誰かの下になんて入らないわよ。せめて【勇者】がオッタルと同格ならねえ」

 

 最強がどうして他派閥の長の下に入らなければいけないのか、という話だ。同じファミリアのヘディンの指揮で戦うのならオッタルも従うだろうが、格下のフィンの下でオッタルが戦うはずがない。

 それにフィリオの件もある。彼の力を隠しておきたい上に、彼の目を信じるのなら今回遠征に出た全員がランクアップする。となるとレベル8が一人にレベル7が三人、レベル6も四人とこれだけでロキを引き離せる。

 フィリオは神の分身たる精霊の集合体であるためにその目もかなり特殊だ。ランクアップを見極めるくらいなんてことのない。そもそも今回は推定レベル7以上の相手を六体も倒している。それも立ったの九人という少人数で。その他にも闇派閥を倒しているのでステータスの上がり方も期待できる。

 特に60階層の穢れた精霊は別格だったのでそれを倒せたのなら偉業としては十分だった。

 

「……その心境の変化は何や?やっぱりフィリオが入ったからか?」

「それはきっかけの、最初の縁結びよ。行動が変わったと思うのならそれは私が伴侶(オーズ)を見付けたからだわ」

「ウチはてっきりオッタルがそうなんかと思ってたのに、違うんか」

「オッタルも可愛いのだけれど。あの子は別格だわ」

「へっ。結局男のためかいな。しょうもな。フィリオでもなく新入りってわけわからんで」

「フィリオも悪くはないんだけどね。彼、つれないのよ。私も床に呼ぶ気はないのだけれど」

「節操無しがそう言うなんて、明日は槍が降るんか?」

「やめなさいよ。雷霆(ケラウノス)が降ってきたらどうするつもり?」

 

 ゼウスの著名な武器の名前を出されて全員が冗談でもなく嫌だと思って無言になる。実際に夫婦喧嘩で数十年前はよくオラリオに降っていた雷だ。それはよく槍と同一視される。

 それが降ってきたら大混乱が起こるだろうと予想がついたために冗談を言うのはやめる。

 それからは建設的にこれからのオラリオの復興について語り合った。歓楽街はぐちゃぐちゃで再建の予定無し。人工迷宮があったことでダイダロス通りも家屋の倒壊が目立つ。

 解体されたファミリアも多く、神の送還も多数。そんな中で闇派閥やそれに準ずるファミリアに所属していた人間への取り扱いや処罰をどうするかの総まとめ。

 鎮圧活動に積極的だったからこそ、問題にも取り掛からなければならなかった。

 

 

 ベルは現在三人でダンジョンに潜っていた。階層は12。ここに冒険者になって三週間の人間がいると言ったらホラ吹き扱いをされるだろう。

 だがベルは実力でここに来ていた。パーティーの中では主力であり、彼が主にモンスターを倒すが、きちんと他の二人にも倒させていた。

 その二人は最近フレイヤ・ファミリアに入団した小人族のリリルカ・アーデと狐人のサンジョウノ・春姫だ。どちらも女性でリリルカはソーマ・ファミリアから。春姫はイシュタル・ファミリアからの移籍だ。

 リリルカは団員として上納金を納めなければステータスの更新もできないような劣悪環境であり、そこでサポーターとして働いていたと言う。そこをフレイヤによって見出されて今では自分の身長よりも大きな馬上槍を持ってモンスターを倒している。

 これは彼女のスキルである【縁の下の力持ち】によって重量のある武器も振り回せることからファミリアにあった中古品を借り受けている形だ。

 春姫は希少な魔法があるためにイシュタルに飼い馴らされていたなんちゃって娼婦だ。その魔法はレベルブーストという一時的に対象をレベルアップさせるという破格の魔法。これをフレイヤは見逃さず遠征にもついていけるように後方支援役としてではあるが戦闘をさせていた。

 その二人の援護をしつつベルもできるだけモンスターを倒していた。彼は歓楽街でのフリュネへの足止めが神の試練を突破したと見做されてランクアップ可能になっていたが魔法は覚えたばかりということもあって魔力を上げるためにランクアップを保留している。

 まだまだ伸びしろがあるために、他のステータスも上げられるだけ上げてからランクアップしようということになった。ランクアップ可能になったからとすぐにランクアップしてしまったらレベル二になってから苦労する。そんな話をフレイヤにされたために今は黙々とステータスを稼いでいる。

 

「うん。リリもだいぶ戦えるようになってきたね。春姫さんも援護が様になってきたよ。って、僕が上から目線で言うのは烏滸がましいか」

「いえ、ベル。あなたがこのパーティーで一番ステータスが高いのですから謙遜しないでください。事実リリも春姫も戦い始めたのは最近なのですから。こんな階層で戦えていることが驚きです」

「そ、そうです。私は魔法を使うくらいしかダンジョンでしていなかったので。弓矢なんて故郷にいた時以来使ってなかったので今でもおっかなびっくりです……」

 

 二人とも恩恵を貰って冒険者歴だけならベルよりも全然先輩だが、戦闘経験という意味では既にベルの方が先輩だ。サポーターをやっていただけあって知識ならリリルカの方が上だが、戦闘経験値では確実にベルの方が優っている。

 そのベルにアドバイスを貰ったりするのは二人からして不満を覚えることはない。むしろ助けてもらっているので意見があるなら積極的に聞きたいくらいだ。

 主神命令でリリルカも春姫も確実に最前線を経験する。その時足手纏いにならないように二人は急いで力をつけなくてはならない。拾ってもらったという認識があり、しかも相手は都市最大ファミリアだ。ここで役立たずとして認識されたら行く宛がなくなる。

 生きていくために二人は必死に戦わなければならない。ファミリアの方針がそうなっているからだ。

 一時休憩をしていると三人の近くを冒険者の集団が通ろうとする。なので三人は道を譲ろうとしたが、その先頭を歩いていた人物がフィリオだったためにベルが声をかける。

 

「フィリオさん!皆さんも遠征お疲れ様です!」

「ああ、ベルか。そっちの君達は新しい入団者かな?私はフィリオ。幹部ではないがベルの師匠的な存在だ。これからよろしく」

「リリルカ・アーデと申します。先日フレイヤ・ファミリアに入団しました。よろしくお願い致します」

「サンジョウノ・春姫です。私も最近入団しました。よ、よろしくお願い致します」

 

 二人の紹介にフィリオは頷く。闇派閥を一掃した最近の出来事に関する入団者だろうとわかっているために入団した理由などには触れなかった。

 理由なんてどうでもいい。必要なことは救世に役立つかどうか。主神の役に立つかどうかという話であればオッタル達の考えともそう乖離していない。

 リリルカは冒険者歴が長いのでフィリオの後ろにいるオラリオでもトップの冒険者に挨拶をしようと思ったが、フィリオが止めた。

 

「彼らは興味がないから。彼らが認識するくらいに成長するといい。その時に改めて挨拶すべきだ」

「……わかりました」

「ベル。適当なところで切り上げるように。張り切りすぎて命を失うよりは仲間の命を優先しろ。私がいる時以外に無茶をされてはジュピター様に合わせる顔がなくなる」

「はい。あと二時間ほどで帰る予定です」

 

 その予定を聞いてフィリオは頷いて地上へ向かった。全員超特急で60階層まで潜って闇派閥を壊滅させたために疲れているのだ。

 フィリオはギルドでオッタル達と別れて『豊穣の女主人』へ向かった。アーニャから歓楽街でのベルの出来事を聞くためだ。もう夕方になっていたのでオラリオも活気付く。歓楽街が潰れたこともあってお酒を提供している店は行き場を失った男性達が鬱憤を晴らすために通っていたためにどこも大盛況だった。

 それは『豊穣の女主人』も変わらず、カウンター席に座れたのは幸運だった。

 ミアも要件がわかっていたために相席でアーニャをつけてくれた。

 

「遠征お疲れ様ニャ。しっかし面倒な依頼をしてくれたもんニャ。あの白髪頭、早死にするタイプだニャア。普通レベル5に魔法を当てるなんて考えが出てこない。でもあの子はそれをしてしまった。あれが英雄の素質ってやつかニャ?」

「そんな奴じゃないと強くなれないのさ。援護助かった。ここのエルフ君も助太刀に入ってくれたと聞いている。お礼を言っておいてくれ」

「あれはリューが勝手に首を突っ込んだだけだから労いの言葉は要らないニャア。それともフィリオはリューを特別視してる?──アストレア・ファミリアだから?」

「ああ、彼女がそうなのか。それは聞いていなかった。私はアストレア・ファミリアと認識はない。ただ彼女が冒険者を辞めてしまったのなら、残念だと嘆くだけだ。事情があるのだろうから無理強いもするつもりはない」

 

 フィリオは正直に伝える。

 アルフィアの遺志を継いだ人間。だから期待した。それだけのこと。

 アストレア・ファミリアの末路は聞いている。そして何故彼女達を助けられなかったのかも。

 もし人手不足だったというのならフレイヤ・ファミリアの誰かを送り込めば良かっただけのこと。大抗争では協力できていたのだから罠とわかっている場所に味方を送り込むならそれ相応の戦力を送るべきだった。

 当時のフィンの心境なんてわからない。だからフィリオはフィンに直接文句は言わない。

 突き放すだけだ。

 それが嫌なら強くなれと、ゼウス・ファミリアとして言いたかった。

 アーニャから当時の状況を詳しく聞く。微精霊は送っていたものの、実際にその場にいた人間からの視点は大事だ。

 

「レベル1にしては身のこなしが良かったけど、基礎がなってないニャ。技術が何よりも足らない。そこを鍛えないとステータスが高いだけの木偶の坊ニャ。魔法は、詠唱の長さの割には高威力だった。範囲も十分、しかも雷なんてレアの中のレアニャ。接近戦の良い練習相手を付けるべきって総評かニャ」

「わかった。その辺りはフレイヤに相談しよう」

「今回の遠征、兄様も一緒だったって聞いてる。あの人は、また強くなるの?」

「ああ。都市最速を止められる冒険者はいなくなるな。オッタルには及ばないが、まだ追いつける。決定的な差はない」

「そっか。……凄いニャア」

 

 アーニャの憧れについては何も話さない。フィリオはただ客としてお酒を頼むだけだ。

 その数日後、フレイヤ・ファミリアの大量ランクアップの名前の中にはオッタル達幹部全員とベルの名前があった。

 

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